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第12話


馬車に乗ってからアランの頬の傷は魔法で治したが、服についた汚れまでは取れない。

よく見れば所々解れており、それを見るとさらに怒りが湧いてくる。


「……アラン、他に痛いところはない?」

「いや、大丈夫ですよ!他の所は自分で治療できますから!」

「そう言うってことは痛いところがあるんでしょう?大人しく見せなさい」


馬車の中で騒ぎ合っていれば、いつの間にか家に着いていた。

扉を開けてくれたメイドはアランの服を見て驚いた声を上げる。


「アランさん!?どうしたんですかその服…もしかしてお嬢様に何かあったのでは…」

「えっと…」

「変な輩に襲われたけれどアランが守ってくれたおかげで私は無傷よ」

「リ、リディア様」


アランが困ったように口ごもったたため助け舟を出す。

彼はそれを訂正しようとしたが、尻尾を掴んで止めさせた。

声が上ずったアランをメイドは不思議そうに見たが、私たちの無事が確認できたようですぐに笑顔になったのだった。











「だーかーらー、傷を見せなさいって言っているでしょう!主人の命令が聞けないの!?」

「お手を煩わせるほどではないんですって!!」


自室に戻ってからもアランとの攻防は終わらず、それは寝る直前まで続いた。

攻防を繰り返す内に、どうやら私の前で服を脱ぎたくないらしいということに気づいた。


「ねえ、アラン」

「…はい」

「私、あなたのことが好きよ」

「……」

「でもね、理性はあるの。流石に想い人が半裸だからって襲わないわよ」

「はい?」


きょとんとした顔でこちらを見るアラン。

その顔に私は首を傾げてしまう。


「私に襲われないかを危惧して服を脱ぎたくなかったのではなくて?」

「いえ、私は単にお嬢様にこの傷の多い体を見せるわけにはいかないと思ってまして…」

「あら、それなら問題ないわよ。私そう言うの気にしないから」


そう言って近づけば、私が近づいた以上の距離を取られる。


「私が気にするんですって!」

「傷はその人が精一杯生きた証なの。どんなに小さな傷跡でもそれが醜いだなんてことあり得ないのよ」

「……ですがこの傷は」


アランが何かを言いかけた時、窓が小さくノックされた。


「?」

「あら、帰って来たみたいね。窓を開けてもいいかしら」

「はい」


窓に近寄ってカーテンを開ければ、そこには昼間指示を出した鳥がいた。


「お帰りなさい。指示通り置いてきた?」


瞬きをして返事をしてくれる。

どうやら指示通り国境の森に放置してきたようだ。


「ありがとう。またお願いすることがあるかもしれないからその時はよろしくね」


手を差し出せば、頭を擦り付けてきたため撫でる。

気持ちよさそうな表情をするものだからもっと撫でていたくなるが、そうすると止まらないため名残惜しいが魔法を解く。

形を保てなくなった魔力はそのまま私の体に戻ってきた。


「…魔力を、体に戻したのですか?」


何が起きたのか理解しがたいといった様子でアランは考えながら聞いてくる。

この魔法は普通の魔法書では見かけないから知らなくて当然だ。

そもそもアランは当然のようにしているが、他人の魔力の流れを感じ取ることができるだけでもすごいのだ。


「そうよ。普通は外に出した魔力はそのまま分散してしまうけれど、外に出してからも意識しておくことで自分の元に戻すことが出来るの」

「そんなこと可能なのですか…?」

「可能も何も、あなたも今見たでしょう。これができるようになるまでは本当に時間がかかったわ」


魔力は体力と同じようなもの。

使えば減るし、休めば回復する。

だから、使い切ると気絶するように倒れてしまう。


そんな時、この技術は最高の矛となり盾となるものだ。

使いこなすことができればの話だが。


「まあ、まだ完璧に使えるわけではないのだけど」

「……すごいですね」

「まだまだ練習中よ。こればかりは独学だからね」


アランをソファに座らせて、私はその向かいに座る。

彼はすぐにお茶の用意をしようと立ち上がりかけたが、それを制止して自分で紅茶を淹れる。

怪我人に紅茶を淹れさせるほど私も悪魔ではない。

しかも彼は私を守って怪我をしたのだ。


小さく歌を歌いながらゆっくり紅茶を淹れ、それをテーブルに運ぶ。


「綺麗なお歌ですね」

「そう?ありがとう。紅茶を淹れてみたけれど、口に合うか分からないから不味かったら遠慮なく言ってちょうだい」


不安になりながら見守っていると口をつけた彼から美味しいという言葉が漏れた。

その言葉を聞いて安心し、自分もカップに手を伸ばす。



「私ね、昔誘拐されたことがあるの」



私の突然の告白に驚いた顔をしながらも、静かに耳を傾けてくれる。

真夜中に近い時間に突然開かれたお茶会にはちょうどいい話題なのかもしれない。



「私が王妃候補になって半年ぐらい経った時のことなんだけれどね。その日は王妃教育が辛くてお城を抜け出しちゃったの。1人で歩いていたら今日みたいに見知らぬ男たちに囲まれちゃって」

「……」

「怖かったなぁ」


そこで区切って紅茶を飲む。

同じ紅茶のはずなのに何となくいつもより苦く感じた。



「それで、どうなったんですか」



恐る恐るアランは話の先を促した。

そんな彼にどんな風に話そうか迷ってしまう。


「ここからは2つの話があるの」

「2つですか?」

「えぇ。書面で作られた嘘か真実か」


アランは戸惑ったように眉を下げた。

それから真剣に悩むような顔をする。

きっと、どちらも聞きたいのだろう。


「遠慮しなくていいわよ。両方聞きたいならそう言ってちょうだい」

「いいのですか?」

「えぇ」

「じゃあ…両方お願いします」

「分かったわ」


もう一度紅茶を飲んでから続きを話し始める。


「先に作られた嘘から話しましょうか。公にされたのは『リディア・ウィルソンは不審者に誘拐されたものの、隙を見て逃げ出したため無事だった』という内容だったわ。心配はされたものの、私の無事に皆安堵してくれたわ」


「それが作られた嘘なんですか?」


「そうよ。この事件の真実は……私が犯人を惨殺してしまったの」



部屋に重い沈黙が降りる。


アランは何か言おうとしているようだったが、その口からは何も出てこない。

ただ息を吸って吐いてを繰り返しているだけだ。


私はそんな彼を見ていられなくて窓の外に視線を移した。


「どうにか逃げようと体内中の魔力を外に出したの。そうしたら私を閉じ込めた馬車が森に入った時、森が魔力に反応して味方になってくれた。木の根やツタが伸びてきて馬車を森の奥に引きずりこんでね」

「……」

「馬車の扉が男たちに開けられて、いよいよ殺されると思ったら恐怖で頭が真っ白になって、気づいたらツタで潰されてぐちゃぐちゃになった肉片が目の前に転がっていたの。そこからはあまり覚えていないのだけど、気がついたら私は王宮の医務室のベッドで寝ていたわ」


顔を上げれば、アランはこちらを見つめていた。

その瞳に恐怖の色がなかったことに少し安堵した。


「これが、私に起こった事件の真相」


そう言い切れば、今度はアランが口を開いた。


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