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雑記(仮題)  作者: soo
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でも臭いっていうのは人間の都合で植物は悪くないしさ。

 私が所属する設計部は社屋の二階と三階に分かれているんだけど、定期的に席替えをする。理由はグループ編成の変更だったり、最近だと感染症対策だったりと理由は色々なんだけど、面白いなあと思うのがフロアに置かれた観葉植物の状態。パキラとか、スパティフィラムとか、あと名前は分からないんだけどトゲトゲした葉っぱがピーンと伸びたやつ(多分ユッカじゃないかなとは思っているけれど、樹影が違うような気もするから確信がもてない)とか、わりと世話が簡単で怖いくらい丈夫なやつばっかり置かれていて、ほとんどの人が全く世話をしない。でも設計部のうち片手くらいの社員は気にして水やりや枯れた葉っぱの手入れをするので、席替えは植物にとってちょっとしたガチャ。世話してくれる人がいるフロアは元気になるし、一人もいないと瀕死になる。

 自画自賛じゃないけど私は世話をする社員の一人で、昼休みが終わると水やりと葉水をする。ときどき鉢の向きを変えたり、ハイポネックスをあげたりもする。毎日世話をするような社員は私とSさんという先輩くらいで、私たちが上下に分かれていれば両フロアがいい感じになる。ちなみに現在はその状態。過去私たちが両方二階にいたときは、三階の植物が目に見えてしょぼくれていた(でも、さすがにわざわざ世話をしにいくほど暇じゃないんだな)。


 業務内容もあるんだろうけど、仕事って自分でコントロールできる部分が少ないので、植物の世話は良い気分転換になってる。ユッカっぽい奴なんて、私が世話をしているときに花を咲かせたことがあった。「え、これって花が咲くやつなの?」って色んな人がビックリしていて最初は嬉しかったんだけど、その花の匂いがものすごく臭くてすぐに微妙な気持ちになった。子どもが近所をバイクで暴走している親ってあんな気持ちかもね。元気の方向が間違っててスミマセン、みたいな。

 ちなみに最近また明らかにつぼみができていて、三年ぶりにあの臭さがよみがえる前に切ってしまうか迷っている。真面目に臭いんだよ、本当に。栗の花がもっと強烈になった感じ。見た目もトウモロコシが爆発したみたいな形でギョッとはするけど、見目は良くない。世話係としては咲かせてやりたいんだけど、前回咲いたときに色んな人に「臭い臭い」って言われたから、また言われるのがちょっと嫌だ。でも臭いっていうのは人間の都合で植物は悪くないしさ。うーん、うーん……。


 何でこんな話をしているかっていうと、今日私の好きな二次創作の作家さんの一人が「しばらくお休みします」って宣言をしちゃいまして。そのいきさつがまた、まあ酷い話だな~って思っちゃったんだよ。その作家さんはマイナー寄りのカップリング(一応説明すると、原作のキャラクターで作る妄想の恋人関係のことをカップリングとかカプと呼びます)で、ちょっとダークで歪んだ愛を描く作風だったんですよね。漫画描きさんなんだけど絵が上手い上にすごい筆が速くて、ストーリーも面白い。一方で自分の解釈や作風にこだわりもあるタイプ。しかも本当に人を選びそうなやつは製本版でしか出さず、ネットにはソフトな奴を注意書きつけて載せたりと、自分の作風をしっかりめにゾーニングしていた。本当に、徹底的に「好きな人向け」に描いていた人なわけです。

 で、その人が少し前に「次の本で描きたい奴」というアンケートを取っていて、そこにもダークな要素が並んでいて、読者が投票してたんだよね。私も「うおーこれ読みたい!」っていう奴に投票したわけです。そしたら、匿名ツールにその中から「○○に投票したんですけど、エンディングは小冊子とかでもいいから救いとかハピエンにして欲しい」って意見がとんできたらしいんですね。でも、作家さんは最初からはっきりその○○はメリバって書いてて、闇からの光エンドは好きじゃないって話も普段されていてさ。もっというなら「これが描きたい」ってエンディングまで選択肢に明記してるんだから、救いだのハピエンだの要求したら別な話になっちゃうわけです。作家さんもちょっと気を悪くされたっぽくて「エンディングを変えろっていうのはできない。無理です」ってお返事していて、私からしても「いや、この人の作品でハピエンはねーよ」だった。


 でもその匿名の人、全然諦めなくてさ。「すみません、作家さんの作風を曲げる意志はなかったんです」と前置きしつつ「ただ私はちょっとでも救いが欲しかっただけなんです。それを描いて欲しかっただけで」とか追撃するんですよ。で、作家さんも「ご自分で描いた方が以下略」とか丁寧にお返事されてたんだけど、三回くらいその攻防があったあとに「しばらく休みます」ってなっちゃった。いや、本当「何てことしてくれるんだ~」ってなったよね。ふっざけんなって感じ。「すみません」って思うならさっさと引き下がってくれ。もしくは余所にいけ!


 自分にとって心地よくない、好みじゃないっていう理由で他者が懸命に咲かせた花をカスタムしようとするなよっていう。自分たちが勝手に買ってきて、飾って、楽しんでたくせに。「私が好きな匂いの花を咲かせろ」って何よ。植物が人間を選んだわけじゃなく、人間が植物を選んでいるのにね。作家さんの呟きを読んで悲しくなっていたら、臭い臭いって言われたユッカのことを思い出しちゃったんだ。私は自分が日々お世話をしていたから、臭くても花が咲いたことはすごく嬉しかったんだよ。育てる苦労を知らない人ほど、人が咲かせた花を「好みじゃない」って理由で気軽に「臭い。もっと別なやつにしろ」って言うのかもね。

 作家さんはしばらく開かないって言っていたけれど、匿名ツールにあなたの作品がどれほど大好きかを思いっきりぶち込んできた。そしてユッカの花はやっぱり切らないことにするよ。

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