でも、その「一人」とか「二人」とか「三人」を、滅茶苦茶信じてるの。
運転の心配がない状況だと夜の粉雪を見るのが好きで、今日も運良く自宅の近くまできたところで降り始めたものだから信号待ちで束の間、楽しんだ。昼間の雪って憂鬱なんだよなあ。青空の中の風花であれば逆に気持ちがワクワクするから、空の色によるところなんだろうね。広い場所が重たい色に覆われていると、何となく気持ちまでずっしりしてくる。もっとも、それは私が比較的晴れ間の多い関東平野で生きてきたってのがあるんだろうけど。有名な話だから今さらって感じもするけど、ロンドン市民は空が晴れていると憂鬱になるっていうしさ(ガセだったらごめん)。
夜の粉雪が好きなのは、車のヘッドライトとか、街灯とか、お店の明かりとか、そういう明るい場所でサラサラと舞っているからだと思う。スノードームっぽくないですか、あれ。私、スノードームも好きだからさ。絶対ないけど、夜の温室の中で粉雪を浴びたらときめく気がする。そういえば、もう手放してしまったんだけどお気に入りだったスノードームに「マーズドーム」っていうのがあって、それは宇宙飛行士二人が閉じ込められた奴だったんだけど、雪の代わりにラメの入ったオレンジ色の細かい粉が舞う奴だった。雪が降るかわりに、赤い砂嵐が起きるの。あれはすごく素敵だったな。引っ越したらまた買い直してもいいかも……いや、管理できないな。やめとこ。
通年日記と手帳は両方「ほぼ日」を使っているんだけど、デイリーのページにちょっとした言葉や読み物がついていて、好きな奴にあたると赤ペンで印をつけておくようにしてる。最近つけたのは漫画家の松本大洋さんの言葉。「歳をとって、それまで『怒』になっていた場面に出くわすと『悲』と変換されるようになってきた気がします」から始まるやつで、それを読んだとき「すごい分かるなあ」って思わず線を引いちゃったよね。本当、最近あんまり『怒』にならなくなった。私はそれを感情が死んできたのかなって思っていたんだけど、確かに『悲』にはなってるんだよなあ。気づかなかったけど、そうだった。怒るって、若さだったんだなあ。
人間関係もそうだけど、創作に関することでも『怒』はあんまりなくなった気がする。『悲』はまだ時々あるけど、『怒』が減ったら不思議と『悲』も減って、代わりにちょっとしたことが長いこと『嬉』や『楽』として残り続けたりする。何となくだけど、心に置いておける感情も総量が決まっているのかもしれないよね。『怒』って容量を食うんだろうな。アンガ―マネジメントの本なんかでも、人間の感情でもっとも瞬発力があるのは『怒』だって言うし。ついでに残るのも『怒』なんだって。だとしたら怒るって滅茶苦茶コスパ悪いのか?
前は、何かツイッターで次に書く物とか、書いた物の宣伝とかしたとき、反応が薄かったりすると「誰の目にも止まらないんだなあ、期待されてないんだなあ」ってクヨクヨしていたんだけどさ。そしていっぱい反応されてたり、あるいは誰かが「楽しみ!」って引用RTしていたりすると怒りで倒れそうになったりしていたわけよ。羨ましいやら、惨めやらで。懐かしいな。
一人でも読んでくれる人がいれば「誰もいない」なんて言っちゃ駄目だって、私だけじゃなくても色んな人がすでに重々分かっているとは思うんだよ。でもさ、感情ってやっぱそんな簡単なもんじゃなくてさ。強い感情って、目の前の「一人」を消し飛ばしちゃうことがあるんだよね。頭では分かっていても、気持ちが追いついてこない。「どうせ」って思っちゃう気持ち、よく分かる。しかも今の世の中、人気者の人気ぶりを見せつけられる場面、エグいほどあるしね。いや~本当、数値って罪だよなあって思うよ。しゃーない。
どうしてか、最近になって前よりもずっと「一人」のことが分かるようになった気がする。反応が薄くても「どうせ」とか「誰も」って全然思わなくなった。いや、絶対いるもんなって、いっつも思ってる。いっぱいじゃないよ、その「いる」っていうのは。二人とか、三人とか、そのくらいの数で考えてる。それは前だって同じくらいか、もうちょっといたと思うんだけど、その頃はそれじゃ全然駄目だったのに、今は何で平気なんだろうって我ながら不思議。でも、その「一人」とか「二人」とか「三人」を、滅茶苦茶信じてるの。何でか、絶対に誰かが喜んでくれるって思ってる。そして、それが思い込みだったとしたって全然構わない。ゼロになったら次の「一人」をまた見つければいいやっても思ってるし。この気持ちの源泉がどこなのか、すごく知りたくて最近ずっと考えてるんだけど、まだボンヤリしか分かんない。でも、いつか答えを見つけたいな。
こんなところで告知かって感じだけど、明日から夏コミの申し込みが始まるとのことで、冬に引き続き申し込んでみようと思う。冬コミがすごく楽しかったからね! あと、知り合いが全然いなくて、本が真面目に全然売れないかもしれないっていう状況が良い刺激になったからね! いや、春庭も三年ぶりだし、交流下手くそ野郎だからすでに十分アウェイかもしれないんだけど、それでも知り合いゼロじゃないしさ。でもコミケは本気のアウェイなので、本作るにしても一番気合いが入るんだよね。逆境でしか燃えないものがあるみたいですわ。わはは。
一応、新刊は製本リクエストをいただいた「ウルティマツーレ」にする予定。ウルティマツーレっていうのはスカンディナビアの古い言葉で「最も恐れられ、最も崇拝されるもの」という意味なんだよね。もう、タイトルはこれしかないって思ったけど、時代には逆行してるよなあ……でも同人誌だからいいかな。時代に合わせたタイトルにすると「復讐目的で王子をたぶらかそうとしたら失敗して溺愛されました」かな。いや、溺愛か……? 海賊が作った海洋国家を舞台に、詐欺師の王子と人間不信の怪物(顔と胸回りと腕は人間っぽいけど、他はウミウシとクラゲと深海魚が合体したような奴で触手プレイしてくる受け)のボニー&クライド小説にするよ。もっとも、こっちの二人は最後蜂の巣になったりしないけどさ。




