(47/47)できるだけ楽しい事で満たされるように【完】
「はーっはっはっ!残念だったな」
チィを抱きかかえたリタは目標を外したまま突進し、高笑いするデトックスのすぐ右横に着地した。
と、その瞬間。
チィのGGがはためいた。
毛布がデトックスの肋骨下右部分をかする。
「はふ~ん」
甘い声を出してデトックスがへにゃへにゃと腰から落ち空を見上げ倒れた。
え?そんなんで良いの?そんなんでも利くの?鎧の上からなのに?だからこその弱点なのか?
いや。
「いけ!リタ!チィ!」
今は理由なんてどうでもいい。
「そこだ!攻め続けるんだ!」
「わかったんだよ!」
「承知したわ!」
仰向けになったデトックスに二人が襲いかかる。
「ここだわ!」
「ここなんだよ!」
リタとチィの指がデトックスの右肋骨下部分をつつきまくる。
「あふ~ん、はふ~ん」
デトックスは抵抗しているが、だんだん弱々しくなってくる。
「や、やめろぉ、やめるんだぁ」
なんだか危ういシーンにも見えけど。
けど、きっとこれはれっきとした魔人退治なんだよな……。
「リタ!チィ!いいぞそのまま続けるんだ!」
二人のツンツン攻撃が続く。
「も、もう……ダメ……」
デトックスの全身から力が抜けた。
それを見届けたリタとチィがデトックスから離れる。
「はっはー!もう終わりだな。召されたね」
いつの間にか俺の横にメッキーが立っていた。
「どういうことです?師匠」
「エウロペでは寿命が尽きると『召される』んだ」
「召される……?」
「そう。見てごらん」
言われるままに見るとデトックスの身体が薄くなってさらに光の粉のように散って舞っている。
「人も魔人も一緒。召されると散るのさ」
「召されたあとはどうなるんですか?」
「ん?生まれ変わるよ。もちろん記憶は引き継がないけど。生きている間の行いが半分あとの半分は運で、何に生まれ変わるかが決まるんだ」
「運が半分もあるんですか?」
「そりゃあね。行いがすべてだと虫はずっと虫だろ?はっはー!」
「虫……。ということは俺が退治したコトンボも……」
「前世は人かもしれないしトンボかもしれない。何かの生まれ変わりだよ。生きとし生けるもの全ては何かの生まれ変わりだからね」
俺はもう一度デトックスを見た。
「……妾としたことが人間に負けるなんて」
か細い声で最後の言葉を出している。
「お前ら二人に怪力女、そしてぽんこつ君は許さんぞ」
「甘く見てたからなんだよ?」
「あんたなんて、まさしくコトンボ未満だったわ」
笑顔のリタとチィが仁王立ちで答える。
「くぅっ。生意気なっ。……お前ら四人とも減らず口が利けないようにしてやる」
デトックスはどんどん薄くなっている。
「その腹立つ口をなまりのように重くしてやる」
そういうとファーを空へ舞いあげた。
「最後の呪いをお前ら四人に!!」
光が発せられファーが消失した。
と同時にデトックスの身体も全て散り散りになり宙へ舞ったのだった。
なんだ?呪いって。
え?っていうか、俺たち勝ったのか?
うん、勝ったんじゃないか?
「うぉーーーっ!」
俺は両握りこぶしを掲げ叫んだ。
「「「カイ!!!」」」
リタとチィ、シャーロットが駆け寄ってきた。
その周囲にデズリーの女性冒険者の輪ができあがる。
「すごいです。あこがれちゃいますカイさん!」
ジーナが俺を潤んだ目で見つめる。
「カイさん恰好いい!」
「さすがカイさん!」
黄色い声がいくつも続いた。
俺、このままモテ期到来じゃないか?
「はっはー!よくやったね、わが弟子!はっはー!はっはー!」
師匠がテンション高く笑い声を発する。
「カーッカッカッ!結局、勝者が勝つのじゃよ」
モブ爺が当たり前のことを言うと周りの興奮が一瞬ひいた。
と、リタが勢いよく横から俺に抱き着いた。
「カイ!勝ったんだにゃあ!」
リタ?にゃあ?
チィが真正面に立ち俺を見つめた。
「コトンボもびっくりするわん」
チィ?わん?
シャーロットが満面の笑みで俺の腕に巻き付いた。
「わたし、できましたでちゅ」
シャーロット?でちゅ?
俺は疑問をもちながらも三人の肩をいっぺんに抱いて叫んだ。
「うぉーーーっ!そうだよな!俺ら勝ったんでゲスな!」
え?
俺?ゲス?
「カイさん?」
ジーナが冷ややかな視線を送ってきた。
「いや、ジーナ?そんな目で見ないでくれでゲスよ」
「カイ、恰好悪い…」
「なにそれ、ちょっとキモイ」
俺を取り囲んでいた女性の輪が散り散りになる。
代わりに男性冒険者の輪が狭まってくる。
「カイ、どうして……」
髭面の男に肩をつかまれる。
んん?
「ふざけんな!俺また『ゴートゥヘブン』を期待してたのに」
「俺なんか一回も受けてないのに」
「俺らのデトックスをかえせ!」
ええ?
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれでゲス。なあシャーロット?」
「なんでちゅか?」
「シャーロット?」
「え?わたしどうしたんでちゅ?」
シャーロットの顔がみるみる間に真っ赤になる。
それを見ていたリタが笑う。
「シャーロット、可愛いんだにゃあ」
「リタ?」
「え?あれ?なんかボクもおかしいんだにゃあ」
「はっはっは。なんだリタ。リタの話し方も変でゲスよ?って、おおお?本当に俺どうしたでゲス?チィも?」
「なんだわん?」
「やっぱりチィもでゲス?」
「チィもやられたんだわん」
「デトックスのせいだにゃあ」
「恥ずかしいでちゅ」
……………………。
俺ら四人はだんだん無口になり下を向く。
そういう事か……。
デトックス……。
俺たちを訛りのようなもので口を重くしやがったな!
俺は空に向かって大声で叫ぶ。
「くっそー!勝った気がしないでゲス!!」
そんな俺を見てリタは吹き出し、チィは肩をすかし、シャーロットが大きく笑った。
ちぇっ。
でも……でも、まあいいか!
「よし!じゃあ次は!訛りの呪いを解くための冒険に行くでゲス!」
俺は拳を挙げる。
「にゃあ!」
と、元気よくリタが続くと、
「わん」
横を向いたチィが照れながら応え、
「……でちゅ」
シャーロットが恥ずかしそうに小さく手を挙げた。
四人の視線が交差すると一斉に笑顔がこぼれた。
そう……俺たちの未来は俺たちで見つけよう。
できるだけ楽しい事で満たされるように。