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(4/47)異世界だからなんじゃないかな、とか?たぶん?

「大丈夫ですか?」

 シャーロットは、心配そうに俺に寄り添って歩いてくれている。

 左手で買い物かごを持って、空いた方の右手で俺の左腕に巻き付けるようにしながら一緒に進んでくれていた。

 そのおかげで……歩幅に合わせて色っぽさがたっぷりと詰まった胸がゆさゆさと当たる。

 なかなか、なかなかなものですよ、これ。

 ……俺のゲスさも、なかなかなものだけど。

 でも仕方ないよな、この体勢だし。

 事実から基づいて、そう思うのは自然だし。

 むしろアレがああなっちゃって、歩けなくなってないだけマシだし。

 といいつつ、さっきはきっと酷い有り様だったのだろうし、本当に感謝しないと。

 どこか分からないところ。誰か自分でもわからない俺。

 まあ、多少は凹んでもいいよね。

 ……だからといって、その分どこかを凸にして良いわけじゃないことも分かってます。

 いや、その、しかし、なかなかのんびりとした町ですな。

 記憶の中のイメージはあやふやだけど、もっと人がうじゃうじゃといた感じがする。

 だけど、ここはなんていうか、ゆっくりとした時間が流れているようだ。

 晴れているおかげで、町全体がよけいに好印象だ。

 ぼやけたガラスにシャーロットが映った。

 その奥には男の姿も。

 二人を見るとまるでデートしているみたいで。

 って、うん?

 誰だこいつ。

 思わず立ち止まってしまう。

 で?

 シャーロットの隣に映るヤツ誰よ?

 腕を組まれて、そこそこ恥ずかしいイラつくニヤけ具合の男は誰だ?

 試しに空いている右腕を動かしてみる。

 ガラスのヤツも動いた。

 手のひらも動かしてみる。

 ぐー、ちょき、ぱーは、同じに、ぐー、ちょき、ぱーだ。

 そこに映っているのはライトグレーの長めのジャケットを着た髪が茶色の高校生くらいの男。

 黒の細身のパンツは茶色のブーツの中に入れている。

 身長はシャーロットよりも高く170センチ程度?中肉中背というよりどちらかというとやせ型。

 筋肉があまりない身体。黒の眼鏡が頼りない感じをより高めている。

 

 ……これ、俺か。

 

 俺はもう少し縦にも横にも大きかったような。

 髪ももっと重かった気がするし。

 まあ、確証はないけど……。

 歩みを止めて不審な動きをする俺を不思議そうに見ているシャーロットと目が合った。

「どうしました?」

「いや、なんでもない。大丈夫」

「どこか調子悪いですか?もう少しで着きますから」

「ありがとう。体調は心配ないし。そうそう、そのカゴ持つよ」

 どうにも気が利かない俺だ。

 シャーロットが買い物カゴを持って、俺まで支えて歩いてくれていることに遅まきながら気づいた。

「いえ、気にしないでください」

 微笑みながらやんわりと断りをいれられてしまった。

 ……まあ、そうかもな。

 こんな正体も不明なふわふわしているヤツにカゴなんて持たせたくはないだろうな。

 とはいえ、冷静になってみると、すれ違う人の視線が気になってきたのも事実で。

 それはメガネだけが原因ではないだろう。

 左手に大きな買い物カゴ、右手に大人の男を支えてる姿が、それなりに人の好奇心をくすぐっているようだ。

「いいって、シャーロット。俺が持つからよこしなよ」

 と、惜しいけど絡まっている左腕を擦りぬかせて、右手をシャーロットの前に送る。

「いえ、そんな本当、大丈夫ですから」

 シャーロットはまた拒む。

 顔まで少し赤らめて。

 そんな遠慮しなくてもいいのに。

「遠慮するなって」

 俺はさっとシャーロットのカゴをさらう。

 ドンっ。ぷわぁ~。音、そして砂ぼこり。

 カゴは一直線に地面に。そして膝まづく俺。

 重さに持っていかれ、あえなく膝が崩れてしまったわけで。

「ああっ。ケガしなかったですか?」

 シャーロットもしゃがみ込み俺の顔を覗き込む。

 え?

 ナニコレ。

 こんなに重いの?

「すみません、すみません、つい甘えてしまいました」

 シャーロットが頭を下げる。

「つい、もしかしたらと思ってしまって、手を緩めてしまいました」

「あの……、その……、大丈夫だから」

 俺は膝をはたきながら立ち上がる。

 シャーロットも立ち上がると軽々とカゴを持った。

「え?え?」

「いえ、あの。このカゴ、見た目よりもいっぱい入るんです。重たいですよね。欲張って買い物しすぎてしまったので。……恥ずかしいです」

 シャーロットの顔が一層赤くなった。

 いや、そっち?買いすぎってことよりもさ!

「おお、兄ちゃん、大丈夫か?」

 通りすがりのおじさんが大声で笑いながら歩いていく。

「シャーロットもかなりなお人好しだけど、それ以上に人が良いな、お前さん」

「まったく。力自慢のシャーロットの荷物を持つなんて絶対に無理よ~。ここデズリーじゃ見たことないわ」

 逆方向からきたおばさんも微笑みながら去っていく。

 シャーロットが少し顔を赤らめる。

「その、私はちょっとだけ他の人よりも重いものを持ったり……」

 伏し目がちに続ける。

「なんていうか、力持ちといいますか……」

 と、カゴを持ちつつ両手で顔を覆う。

「いえ、ちょっとというか、かなりといいますか」

 両手で顔を隠したまま、人差し指と中指の隙間から俺を見る。

「それ……が……恥ずかしいのです」

「いや、いや、いや!うん!凄いよ!」

「そ、そうですか」

 シャーロットの指の間が広がり奥に潤んだ目が見えた。

「うん!凄い!シャーロットも凄いし、さすが知らない世界の知らない町だ!」

 俺は興奮してしまう。

「え?あまりデズリー(この町)と関係ないと思うのですが……」

 顔から手をどけたもののシャーロットはまだ恥ずかしそうで。

「そんな事ないよ、シャーロット。だって、きっと、ここが!……異世界だからだよ!」

 満を持してこの言葉にシャーロットがきょとんとした表情で首をかしげた。

 あれ?あれれ?

 シャーロットの純真無垢な瞳は俺に向けられている。

 いきなり『異世界』とか何言ってるんだよ、俺。

 今度は俺がなんだか恥ずかしくなってしまう。

「うん、その、あれ?異世界だからなんじゃないかな、とか?たぶん?いや違っているかもだけど。そうだったらいいかなとか?思ったり思わなかったり。はは。そんな感じなんだけどどうかな、なんて」

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