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(19/47)おーい。みっちゃーん!

 ギルドの扉を開けた。

 中の視線が一瞬にして集まった。

「よ、よぉ!」

 まだ慣れない俺は内心ちょっとビビりながらも右手を挙げ挨拶を返す。

「お、カイじゃねえか。今日もウエイターか?」

「まーたウエイトレスをじとっと見て、嫌がられて時給もらうのか?」

 と、筋肉の塊のような男たちから声をかけられた。

 昨日一日アルバイトをしたおかげで、ギルドで飲んでいる輩とはすっかり顔なじみのようになった。

「今日はウエイターじゃないよ。何か依頼がないかと思ってさ」

 俺は掲示板の方へ近づいていく。

「何、格好つけてるんだよ?コトンボ退治を取り消して、それより簡単な仕事を探しに来たんでしょ?」

 シャーロットに言われてついてきたリタが後ろからちゃちゃを入れた。

 俺の周囲がどっと沸いた。

「なんだ、カイ?まだコトンボ上手くいかないのか?」

「コトンボ退治より簡単な依頼を見つけるって?そりゃコトンボ退治より難しいぞ!」

 聞いたリタがまたくすくすと笑うと、

「そうなんだよ?カレーパンの処理だって上手くできないんだから」

 とか、余計なことまで言いやがった。

「何言ってんだ、わざとだよわざと。ジャリジャリして美味かったぜ」

 俺の余計な一言で周囲がまたどっと沸いた。

「カレーパンがジャリジャリして美味いわけないだろう?」

「甘いのにあの歯ごたえがあったら台無しだ」

 するとリタが手を挙げ皆を静するポーズをとった。

 少しの間ギルドからざわつきが消える。

「待って待って、仕方ないじゃない。だってカイはね」

 と大きな声を出した。

 お、リタかばってくれるのか?やっぱり良いところもあるのかも。

「カイはね……カイは、()()だけに()()()と気が合うんだよ?」

 おい……。誰がそんな上手いこと言えと。

 きちんと聞こうとした俺がばかだった。

 俺は自分を戒めると、いくつかの依頼を掲示板からはがして受付のジーナにもっていった。

「ジーナ。なあ、これなんだが」

「あ、カイさん。実はコトンボ終わってたんですか?次の依頼探しですね」

「いや、そうじゃなくて。本当にコトンボが一匹もダメだったんで新しい依頼をと思ってさ」

「そうなんですか?そのメガネとやらでの大活躍を期待してたのですが」

 と、無邪気にジーナは笑った。

「ぷっ。ぷぷっ。その、ごめんなさい」

 あれ?これ、無邪気なのか?

「その、コ、コトンボ、い、一匹もですか?一匹もできなかったんですかっ。ぷっ。ぷぷっ。はっはっはっ。ごめんなさい」

 無邪気というより邪気しか無いようにお腹を抱えて笑い出した。

「だって、コトンボって、冒険者を目指すような男の子が練習でするような依頼なんですよ?」

「まじ?」

「それを、こんなカイさんのような立派な男の人ができないなんて」

 まあ俺一人だけでなく、相棒にリタもいたけどな。

「まあ、でも苦手なものは仕方ないです。はい。カイさん虫が嫌いなんですね」

「いや、嫌いというかなんというか……、まあ、その、あれだ。まあいいから、コトンボ諦めてこの依頼だとどうかな?」

 俺は話を強引に変えようと掲示板からもってきた依頼書を出した。

 薬草採集。これなら難易度は低いだろう。

「カイさん、本当にこっちにします?」

「え」

「これ、コトンボの湖の側ですから、今の季節ですとコトンボをどうにかしながら採集することになりますよ」

「……まじか」

 俺は別の依頼書を提示する。

「これは?」

「素材集めですか。あ、カイさん虫以外なら倒せるんですねっ」

「あれ?これも討伐系?」

「あの、カイさん。今あがってきている依頼ですと季節的にもコトンボが一番簡単なんですが……」

 何かを察したジーナが俺より恥ずかしそうに答えた。

 周りの視線を感じつつ、仕方なく掲示板へと戻り依頼書を元通りにした。

 ん?

 例の毛布ロリっ娘がいた。

 俺の視線に気づいたのか目が合った。

「よお、また会ったな」

 エアコに言われたからではないが、話をきいた以上もう一度会話はしてみたかったのだ。

「コトンボ以下メガネが何か用?」

 ……昨日の感じと一緒だ。

「まあ、まあ」

 俺はなだめつつ隣に腰を下ろす。

「チィの隣に座るなんてずうずうしいわ」

 と言うと、毛布を持ちあげ顔の半分を隠した。

 俺は小声でコミュニケーションをする。

「良いのか?エアコから託されたんだが」

「!」

 チィと称する毛布娘はわかりやすく表情を変えた。

「……お嬢なんだろ?こんなところにいて良いのか?」

「煩いわね。ほっといて。それくらい気が利かないなんてコトンボ以下じゃなくてコトンボ未満ね。ひっく」

 ひっく?

 見るとジョッキを片手にしている。

「飲んでいい年齢なのか?」

「チィはもう十六歳。それに何歳だって自己責任なのがここデズリーでしょ。ひっく」

「そうなのか」

「っていうか、あんた何歳?」

「じゃあ十八歳かな」

「なにそれ。ひっく。それで?素性を隠しているわたしを脅そうと来たわけ?」

「いや、お嬢さまもいろいろ大変なのかなと思ってさ。とりあえず俺も飲もうかな。みっちゃーん」

 俺は昨日名前を覚えたウエイトレスを呼んだ。

 ふわりと拡がる裾が可愛いミニスカメイドのような制服がよく似合う、ウエイトレスとしても気も利く素敵な()だ。

 同じフロア仲間としてそこそこ話も弾んで……ということもなく、受付嬢ジーナがそう呼んでいるのを聞いたので知っていただけだか。

 しかし反応がない。

 聞こえてないのかな?

「みっちゃーん。おーい。みっちゃーん!」

 あれ?ひょっとして『トーシトーシ』で覗こうとしていたのがバレていたのかな?

 うーん、でも口に出さず唱えていたし、わかるわけないよな?

 でも、態度からするとちょっと怒っているようで。

「何、怒っているんだろ?胸とかじっと見てたのバレたかな」

「あんたコトンボよりばかね。それはそれで嫌がられると思うけど違うわよ」

「じゃあなんでだよ」

「チィが呼んであげるわよ。こっちお願いしまーす!ごっちゃーん!」

「はーい」

 その『ごっちゃん』が近づいてきた。

 ごっちゃん?みっちゃんではなく?

「馬鹿ね、コトンボ未満。あれは三つ子の末っ子の『ごっちゃん』じゃない」

 そんな知らんわー!

 っていうか、末っ子って言ったよな?

 むしろ三つ子の一番下なら……普通『みっちゃん』なのでは?

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