第六十九話 保険×保険
ウルウ「万が一の保険づくりをするのが、今日の最大の目的じゃ。」
そう言われ、俺は部屋の真ん中でドヤ顔をする隊長を見た。この人を見てるとこの先の困難も夢なんじゃないかって思う。それくらい能天気な顔をしているのに、どこか頼りがいがある。不思議な人だ。
ユラ「保険って…対ゼンツ対策の?」
ウルウ「というより、失敗した時の保険じゃな。わしの能力、詳しくは伝えておらんかったろ?」
ユラ「確か…『時空』って名前でしたっけ」
対象の動きを止め、未来は少し、過去の事ならほとんどすべてを見ることができる魔警備隊隊長を名乗るのにふさわしい能力だ。それなのにまだ詳しくの段階じゃなかったとは。驚きである。
ウルウ「うむ。わしの能力は基本的に時間に干渉できるのは知っておると思う。元々は過去を見たりとかしかできなかったんじゃが、本を手に入れてできることが増えての。その中の一つに…セーブ&リセットがある。文字通り任意の時間をセーブし、リセットしてセーブした時間に戻る。という事ができるのじゃよ。」
ユラ「…強すぎませんか。何か欠点とか?」
ウルウ「大きくはないが…リセットして戻ってこれるのは一度だけ、そして戻る時間によってリセットの時間も比例し、長くなるくらいじゃな。それくらいかの。これに気付いたわしを褒めたい。コーヒーをレイのやつにこぼしたときこれを思いついたのじゃ。」
ユラ「不純すぎる天才ですね。」
ウルウ「褒めとらんじゃろそれ」
睨み顔でそう言う隊長。神崎さんもそうだがたまに本当にデメリットもなく強い能力がある。隊長はデメリットはあるがメリットの方が大きすぎる。…神崎さんの能力のデメリットなんか幼くなるだけだからな。やっぱあの人おかしい。
ユラ「例えば、今セーブしたとして。賭博して、外して、当たりを見て…また戻ってくるみたいなことも…」
ウルウ「できなくはない。じゃが未来は確率しておるわけではないからの。そう上手くはいかんよ。ユラのたとえ話は汚いの。」
ユラ「わかりやすくあるじゃないですか。」
だとしてもとんでもない能力だな…。そこで、さっき言っていた「保険」の意味が分かった気がする。
ユラ「保険って、今セーブして、エルやヒマル。ゼンツたちに負けたらこの時間に戻ってくるってことですか?」
ウルウ「うむ。そういうことじゃ。という事で、ほい。」
そう言って隊長は両手を差し出してきた。なんか手錠かけられる人みたいなポーズになっている。
ユラ「なんですか?」
ウルウ「セーブは最大一人まで、触れているものも連れてできるのじゃ。通常、セーブした後リセットするとわし以外の生物の記憶はなくなる。じゃからほれ。ユラには記憶を共有してもらうぞい。」
ユラ「俺でいいんですか?」
ウルウ「ユラ以外誰が適任なんじゃ。それにこの力はあまり人に言っておらん。悪用する者が出たら大変じゃからの。」
俺は立膝で高さを合わせて、隊長の両手を掴んだ。すると、隊長はするすると俺の指の隙間に指を入れていき、恋人つなぎみたいになる。
ユラ「こんな絡ませる必要あります?」
ウルウ「最小面積かつ複雑に、が一番安定するんじゃ。何度も母上と試したからわかる。」
ユラ「安定…ってことは失敗も…」
ウルウ「一度母上の記憶が一年すっぽりなくなった時は父上と泣き合ったの。」
ユラ「やだこわい…。」
ウルウ「大丈夫じゃよ。99%大丈夫じゃ。」
百回も試したの?ガッツあるなぁ…真。
ウルウ「それじゃセーブするぞい。」
そう隊長が言った瞬間、隊長の足元、そして繋いでいる手が光り出す。
そしてあたりが一気に真っ暗になる。
10秒ほどたち、光が帰ってきた。
目の前にはにっこりと笑った隊長が。
俺は隊長と手を放す。
ユラ「……成功ですか?」
ウルウ「うむ。…試してみるか?」
ユラ「そんな気軽にやって大丈夫なんですか?」
ウルウ「大丈夫じゃよ。ほれ、もう一度手出すんじゃ。」
そうしてまた一番安定という恋人つなぎをする。これリネに見られたら…と思ったがさすがに俺に幼女趣味がないことくらいリネもわかってくれるだろう。そう思いつつリネなら年齢関係なく殴ってきそうだと思った。
ウルウ「それじゃさっきセーブした瞬間までもどるからの。一分も経ってないしリセットにも一瞬でできるじゃろう。それじゃあ…
隊長がリセットをしようとしたその瞬間だった。
間木「隊長!お弁当忘れたので取りに…
丁度、ドアをあけ間木ちゃんが入ってきた。部屋には若干光り輝きながら恋人つなぎをする俺と隊長の姿が。間木ちゃんはぽかーんとしている。
ウルウ「あー…もうリセット始めてしまった。」
隊長の言った言葉を最後まで聞き終わる前に、もう世界は眩しくなっていた。さっきは真っ暗で、戻るときは逆なのか。
次に目を開けると、ドアの閉まった見慣れた隊長の部屋だった。隊長は俺から手を放し、ドアの横にたつ。なんかくだらないことしようとしてるな。
ユラ「これは…戻ったのか?」
ウルウ「この後間木が部屋に入ってきたら、そういうことじゃな。」
5秒くらいだろう。ドアが勢いよく開いた。
間木「た…隊長!お弁当忘れたので取りに来ました!」
ウルウ「わぁあ…ぎゃっ!?
「ぎゃ」っと聞こえたが大丈夫だろうか。
間木「え…?わぁあ!?隊長!?なんでドアに挟まれるようなところにいるんですか!?」
ウルウ「うぅぅ…いたい…間木を驚かせようと…。」
間木「別の意味で驚きましたよ…。あ、お弁当ここにある。忘れたの気づいたんだったら届けてくれてもいいのに…それじゃ行きますね。」
ウルウ「じゃあの…」
間木ちゃんは颯爽とお弁当箱をもって去っていった。セーブ前と違ってなんだか急いでいるようだった。これが隊長の言う「未来は確立しない」ということだろう。些細なことだが確実に同じことがおきるわけじゃないのか。
ウルウ「最近間木のわしへの態度軽くないかの…」
ユラ「いつもあんな感じじゃないですか?」
ウルウ「それもそうじゃな…それで、リセットちゃんとできたじゃろ。」
ユラ「そうですね。これなら万が一、全滅しても大丈夫です。」
ウルウ「その場合は訓練を厳しくしてより強くならなくてはな。まぁ杞憂に終わると思うがの。父上もいるし、能力者ランキング該当者も声をかけておる。まず負けることはなかろうて。」
ユラ「ランキングの人たち来るんですか。あのキャラ濃い人たち。」
ウルウ「忙しくないやつをの。シャンに榎島。バルには魔監獄の方を任せておる。エルやヒマルたちに加えて監獄のやつらまで出てきちゃおしまいじゃからの。」
ユラ「考えたくもない…。」
にしてもランキングの人たちが来てくれるなら心強い。正直言って俺でも勝てるか分からないような人たちだ。味方になってくれるのなら負けないだろう。
ウルウ「それと…もう一つ保険をかけておいた。」
ユラ「いくつかけるんですか…。」
ウルウ「これで最後じゃ!何せ相手は国一つ滅ぼす奴じゃぞ!?いくら準備しても足らんて。」
ユラ「それで…何を準備したんですか?」
ウルウ「何でも屋を雇った。」
ユラ「何でも屋!?そんなんあるんですか。」
ウルウ「それがあるんじゃよ奥さん。」
誰が奥さんだ。
ウルウ「世界中何でも屋みたいな能力者集団はよくいるんじゃ。魔警とは違って金さえもらえば何でもするようなやつらがの。わしら魔警も助けられたり手こずったり…まぁそんなやつらじゃ。わしが今回依頼したのはその何でも屋の中でもトップの集団。『ドゥタラ家』じゃ。」
ユラ「なんですかその言いにくい集団。」
ウルウ「でゅ…ドゥタラ家はの、」
ユラ「噛んでるじゃん。」
ウルウ「うるさい!黙ってきいとれ!ドゥタラ家はの、ありとあらゆる依頼。犯人探しや暗殺。テロ組織を潰したり宝石を盗んだりそれは多くの事をこなしておる。すべて一級品の腕前での。そんなもんじゃから素性はほとんどわかっておらん。名前と人数くらいじゃ。」
ユラ「へぇ…ドゥタラ家って言うからには家族なんですか?」
ウルウ「そうじゃな。三姉妹でやっておる。長女のミリニアム。次女のアルセルダ。三女のジルファラク。長女のミリニアムはWAPの二位じゃ。父上よりも強い。」
ユラ「ソウシさんよりも!?…ってかWAPって何。」
ウルウ「World all professionalの略じゃ。世界中の実力者集団のランキングみたいなもんじゃよ。能力者ランキングはこの国内。そして悪人は入っておらん。じゃからWAPは極悪人も入っておるぞい。まぁほとんどが中立のやつらばかりじゃがの。ドゥタラ家だってそうじゃ。」
ユラ「はへぇ…なるほど。それで…ドゥタラ家って呼ぶのにどれくらい…。」
さっきからお金について気になっていた。話を聞いていくうちにとんでもないやつを呼ぼうとしているんじゃないかとドキドキしていたのだ。
ウルウ「三女が三億、次女が二十億、長女が百億じゃな。」
ユラ「…で、誰を…?」
ウルウ「三女じゃよ…魔警もそこまでお金を持っておるわけじゃない。それに必要ない可能性もあるじゃろ。それなのに百億も使ってられんよ…。」
ユラ「それもそうじゃな…。」
ウルウ「わしのしゃべり方取るでない。…そういえば今日か明日に来るかもの…。ドゥタラ家。」
ユラ「え?」
その時だった。勢いよくドアが蹴破られ、一人の女の子が姿を現す。足元にはギャラルさんが引っ付いていた。止めようとしたのだろう。ナイス、ギャラルさん。
で、だ…。さすがにこの流れでこの女の子が誰かわからないほど俺も馬鹿じゃない。
…だがちょっと風貌が想像より威圧的なんだが。
ミリニアム「どーも。アルとジルは多忙なので暇な私、ドゥタラ・ミリニアムが参上しました。お値段そのまま高品質でーっす。」
うーん…なんか自分、書くテンポ遅くなった?




