第六十四話 運命を超える奇跡
8月19日
クロ「あっちぃ…すごい人だな…」
お祭りも終わりもう夏休みが終わったような気がしていたがまだ半分しか経っていなかったことに気付き、同時にニャムとゲームの大会を見に行くことも昨日の夜のニャムからのメールで気づいた今日この頃。
ニャムに呼び出された場所は見渡す限り人ばかりだった。ゲームのキャラのコスプレをしているような人も多く、かなり大きな大会のようだ。このゲームはよくリネとやるためある程度は知っていたがまさかここまでとは。
約束の時間より少し早くに着き、ニャムを待っていると…
ニャム「やっほー。待った?」
クロ「いや、今着いたところ。にしてもすごいな。こんなに人がいるなんて。」
ニャム「ふふん!そうでしょ!」
なぜお前が誇らしげなのだ
ニャム「まぁ人気のゲームってのもあるけど、今日はすごいスペシャルゲストが来るんだよ!」
すごいスペシャルってなんか頭悪そうな言葉。
ユラ「へぇ…どんな人なんだ?」
ニャム「えっとねー、名前も名乗らず突然『メテオポリス』の業界に現れて次々と勝利を重ね、気づけば常にランキング一位!現実で言うところの御手洗ソウシみたいな!とにかくすごいの!」
まるで子供のようにはしゃぐニャムを見て、本当にすごい人なんだということはわかった。
ちなみに『メテオポリス』というのは今日の大会のゲームの名前である。
クロ「名前もないのか」
ニャム「んや、ゲームでの名前が一応『J』だから知っている人からは通称『見えないJ』って呼ばれてるよ。かっこいーよね。」
クロ「見えないね…なるほど」
かっこいいな、名前は。実力は見たことがないからなんとも言えない。
ニャム「よし!それじゃあ大会の時間までは…あと三十分くらいだね。グッズとか展示みてこよ」
クロ「おう」
それから俺たちは広い会場内を見て回った。自分はそこまでコアなファンというわけでもないのでニャムがすっごい細かいところに興奮していたがあまりよくわからなかった。
ニャム「でさぁ!ヒロインが…って、クロ?」
クロ「……ん?あ、あぁ、すまん。聞いてなかった。」
ニャム「…楽しくない?」
クロ「い、いや。そんなことはないぞ。ゲームで見たことあるものが実物で見れるのはすごい楽しい。」
ニャムの知識が多すぎて頭がショートしていた。
ニャム「そうだよね!やっぱ最高だよ!…うん」
そう言ってニャムはさっき沢山買っていたグッズが入っている袋を握り、うつむいてしまった。
クロ「どうした?」
ニャム「…クロはさ、僕が…女の子なのにこんな男子がやるようなゲームの事こんなに知ってて変…だと思う?」
ニャムを少し不安にさせていたようだ。
クロ「…もしかして普段から女か男かわからない服装してるのってそういう理由?」
ニャム「僕が聞いてたんだけど……そうだよ。悪い?」
クロ「全く?全然?これっぽっちも思わないな。」
ニャム「そんなに!?」
クロ「あぁ。俺だって女の子が好きそうな漫画よむ。誰が何が好きかってのは事実だからな。変って思う人もいるだろうよそりゃ。でも好きなのは事実!…自分がどう思おうが、その事実は変わらないんだよ。」
ニャム「そっか…そうだよね…えへへ…」
その日、キラキラと男の子のように光らせた目で笑っていたニャムが、照れくさそうに頬を赤らめて笑った。
ニャム「実は僕、あんまり女の子として見られるの苦手でさ。もっと可愛くしなさいとか…僕は望んでいないんだけどね…。」
ニャムが初めて、本心を出してくれたことに、少し嬉しさを感じた。
クロ「でも、今日は男としてエスコートさせていただきますよ。」
そう言ってニャムの荷物を持った。
ニャム「…クロはプラマイゼロみたいなやつだな…。」
クロ「『不変はあらゆる普遍を律す』…だったか?ゲームのキャラのセリフ。」
ニャム「ん!!わかってますね~!」
そんな会話をして歩いていると、時間が過ぎるのはあっという間で…
ニャム「そろそろだね。行こう。クロ」
クロ「わかった」
女の子扱いされたくないという割にはあの後俺に大量の荷物を持たせてきたクロの後を追う。
重い…
ニャム「人が多いなぁ…」
クロ「はぐれないよう、手でもつなぐか?」
ニャム「僕汗ひどいからヤ。」
クロ「さいですか。」
そうしてなんとか人の合間をくぐり、ついにゲーム大会の行われているところについた。
ニャム「おぉ…」
クロ「すごいな…。」
魔警の最強決定戦の会場にはさすがに負けるが、それでもとても広いその空間に、俺たちは圧巻だった。
そわそわしながら待っていると、司会が現れて進行を始めた。
ニャム「始まるぞ!クロ!」
クロ「静かにしとけ」
司会「お前ら、騒ぐ用意はできてるかぁぁぁああああ!?」
そう司会が叫ぶともはや聞こえないレベルで大きな声が対応した。
ニャム「おおおお!」
クロ「すげぇ…」
若干舐めてた。
そうして最後までハイテンションのまま、大会が終わった。優勝者は知らない人だったが、ニャム含め周りの人が「やっぱそうだよね」みたいな顔してたので多分あの人が「J」って人なのか?
クロ「なぁ、ニャム、あれが…」
俺が隣のニャムに聞こうとすると、司会の大声でかき消された。
司会「さぁあああて!皆さん!正直大会の結果より今日はこっちを期待していたんじゃないですかぁ!?
『見えないJ』と呼ばれ、名前、素顔、素性を全く公開せず、ただただランキングを駆け上り頂点に居座り続けたあの存在が!今!!」
観客はその緊張で一周回って静まり返っていた。
司会「それでは!『J』さん!いえ…」
その時、ステージの真ん中が大きく開き、下から上がってくるように人が現れた。
ニャム「ついに…?!」
クロ「…ん?」
司会「J、改め!ジャクさんです!!」
その瞬間、バズーカが驚くくらいの歓声、もはやただただ叫んでいる人までいた。
大地が揺れているんじゃないかと思うほど、その場が揺れた。
ニャム「わぁあああ!!」
クロ「耳とは今日でさよならか…」
そんな観賞に浸っていたが、俺はその現れた人物から目が離せなかった。
…あ、リネのとこの。あいつか。
ジャク「どーもどーも!!皆さんとついに会えましたね!皆さんご存じ『見えないJ』こと、ジャクでーっす!これから優勝者とのエキシビションマッチを行うので皆さん応援よろ~!!!」
…一瞬なんか目が合ったような…。いや流石に気のせいだよな。自意識過剰だ。
ーーーーーーーーーー
大会が前座並みのエキシビションマッチも終わり、俺たちは大会の会場の外へと出ていた。
ニャム「く、クロ!僕、ジャクさんとツーショット撮りたい!」
ジャクと写真が撮れるかもしれないくじ引きがゲリラで行われたらしく、ニャムはそう言って俺と荷物を残し走っていった。身軽な方が早く行けるもんね。
クロ「にしてもヤバかったなぁ…」
人生初の体験だった。
まだやまない心臓を落ち着けていると遠くに見たことあるやつを見つけた。
クロ「あれは…おーい!ってこの姿じゃダメか。」
俺はユラに戻り…
ユラ「アズ!と…誰?」
安曇「ユラさん!お久しぶりっすね!こっちはクロンチームのカラスズちゃんっす!」
カラスズ「ゆ、ゆらさん!?あ、あわわわ…」
カラスズと呼ばれた少女はアズの後ろに隠れてしまった。
安曇「すいません…カラスズちゃんユラさんの大ファンで…。てかユラさんも来てたんっすね!」
ユラ「あぁ、ちょっとな。にしても驚いたぜ。さっきの大会見たか?」
安曇「見ました見ました!うちもあのゲーム大好きなんすけどまさかジャクさんが…」
カラスズ「わ、わたしはしってたよ。」
ユラ「そうなのか」
カラスズ「ひゃい!」
俺が話しかけると俺の視界から消えやがる。
安曇「カラスズちゃんとジャクさんは仲いいっすからね。ゲーム仲間で。」
ユラ「そうだったのか。」
カラスズ…クロンさんのとこのメンバーはまだ全員しらないんだよな。
てか、ニャム遅いな。探してるのか?」
ユラ「すまん、アズ。俺もう行くよ。」
安曇「はい!今度ゲーム一緒にやりましょうね!カラスズちゃんも、言わなくていいの?」
カラスズ「え、えっと…ゆ、ゆらさん。」
ユラ「はい」
カラスズ「ふ、ふれんどからよろしくおねがいします!」
それだけ言うのが精いっぱいだったのか、すぐにアズの後ろに回り込んでしまった。
安曇「いい子でしょ?」
ユラ「それは見ればわかるさ。」
そうして俺はアズとカラスズと別れ、ニャムを探しに行った。
ーーーーーーーーーー
ニャム「はぁ…だめだった…」
ジャクさんとのツーショットチャンス…まさかもう定員オーバーだったなんて…。
チャンスすらつかめないなんて…
とぼとぼと歩きクロのいる場所まで歩く。
ニャム「あれ、ここら辺じゃなかったかな…」
きょろきょろと探していると…
「いだっ!…んだよ…いってぇなぁ…」
「お、どしたん?ケっちゃん?」
ニャム「あ…」
前をしっかり見てなかったせいでなんか怖そうな人にぶつかってしまった…
「ああん?なんだおめぇ…」
「おいおい、ケっちゃん怒らせちゃったよ。」
ニャム「ご、ごめんなさい。」
「はっ、女だったのかよ。男みたいな服着て、気持ち悪いやつだな。」
「ふへへ!言いすぎ!ケっちゃんそれ言い過ぎだって!」
…最悪だ。
ニャム「…」
「おい、お前のせいで俺は今日最悪だぜ。ジャクさんとのツーショものがしたしよぉ」
まさかあんたと両思いだとは思わなかったよ…ツーショに関しても運命かんじるよ…
「お金、なんじゃないの?ケっちゃん。」
「そうだよなぁ。払えよ。ほら。」
半ば気持ち折れていた、そんな時だった。
ユラ「ちょっと、あんたら。うちの連れに何してんだ。」
ジャク「女の子に手出す奴が紛れ込んでんじゃないよ。スタッフ。ちょっと。」
ニャム「え、あ、は?」
突然だった。さっき感じた運命がゴマ粒に見えるほどの、奇跡。
「ケっちゃん、やばいよ!」
「え、あ、は?」
わかる、その気持ち。
「ケっちゃん早く早く!」
「…まじかよ」
ガラの悪い二人組は、正反対の二人組が現れてそそくさと逃げて行った。
魔警の新星ユラと、さっき見た夢の中の人。
今日は…最高の日だ。
ーーーーーーーーー
ジャク「軟弱だね…。それじゃユラ、また今度。」
さっきたまたまジャクに会ったのだ。あとでちゃんとお礼を言っておこう。
そう言ってジャクは去っていった。
もう少し人だかりができていたからだろう。
有名人はつらいな。
ユラ「大丈夫だったか?ニャム。」
ニャム「な…なんで僕の名前…」
…しまった。クロになり忘れた。
ユラ「あー…その…頼まれて。クロ君はあっちで待ってるよ。」
ニャム「く、クロに頼まれて!?ゆ、ユラさんとクロはお友達…?!」
ユラ「…い、いや。うーん…知り合い?みたいな」
ニャム「す、すごい…。あ、その、ありがとうございました!」
そう言ってニャムは俺がでたらめに指さした方向に歩いて…行ったと思ったら戻ってきた。
ニャム「あ、あの。一緒に写真…」
ユラ「…もちろん」
もうヤケクソで俺はニャムに対応し、その後すぐクロに戻りニャムの自慢話を聞いたとさ。
有名人もつらいが二面性のあるリネってすごいんだなって。
そう思った。




