第五十九話 二人目のフィールド能力者
できるだけ俺は早く足を進めた。隊長が久慈さんは治癒能力の聞きにくい状態になっているかもしれないという話だった。ヒマルの能力には一時的に能力を無効化する力がある。それをエル、ヒマルが合体した姿でも使えるということなのだろう。
ユラ「てか、あれを追い返すって久慈さんどれだけ強いんだ…」
次の試合、久慈さんの容態、エルとヒマル、そして別次元の強さを持つ別人格…
色々なことを考えながら俺は久慈さんのいる医務室へと向かった。
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ユラ「ここだな。この短時間に二回も来るとは。」
俺はノックをして入ろうとした。
ユラ「失礼しまーす、ユラで…」
久慈「あ!?ユラ!?待った待った待った!!!」
かんざき「ユラ殿、少し待ってくれ。今聖花が着替えてるから。」
聖花「いーよ別に。」
久慈「よくないから!!」
扉の先で二人が大慌てしているのが見てなくてもよくわかった。リネが着替えてたのか。というか二人とも元気だったな…。
それから少しして、ドアがあいた。
かんざき「もういいぞ。全く聖花は…」
ユラ「なんかすいません…」
俺は若干申し訳なくも中に入った。
聖花「別にユラならいいじゃん。」
久慈「私たちが困るでしょ。気まずいから。」
聖花「そ…。まぁユラにはまた今度見せる。」
ユラ「何を」
久慈「言わないで聞かないで…」
とにかく元気そう…と、俺は思っていたが、久慈さんの方を見て気づいた。
ユラ「久慈さん…腕…」
久慈「あぁ…不覚だね。これは。」
久慈さんの左腕がなかった。代わりに他に目立った外傷はないようだった。とはいえいくつか包帯はまいていたがそれ以上のケガがほかのケガをないも同然のものにしていた。
ユラ「神崎さんでも治せないんですか…?」
かんざき「あぁ。私が治せたのは腕以外だ。私の能力なら例え腕がなかろうが足がなかろうが頭さえあれば元に戻せるんだがね…。この感覚は間木を治そうとしたときによく似ているよ。」
聖花「ヒマルの仕業…だろうね。」
ユラ「そんな…」
俺は一応久慈さんの腕に回復の能力を使ったが…治ることはなかった。
久慈「いいのさ。腕の一本くらい。右腕一本あれば剣が振れるからね。」
久慈さん本人は何にもなかったような顔をしているがリネと神崎さんの顔からここに運ばれてきたときの久慈さんのひどい惨状が目に浮かぶ。
ユラ「隊長なら…」
かんざき「確かに隊長なら巻き戻せるけど、やはりこの能力無効化がね…。邪魔で仕方ない。」
…どうして気づけなかったんだ。俺なら瞬間移動で守れなくても逃げることはできたのに…。
久慈「ユラ、君はあの姿に唯一会ったことがあるんだよね?」
ユラ「え、あぁ…まぁ。とはいってもすぐ逃げてきましたけど…。久慈さんのように退けるなんて…。」
久慈「私は退けられていないよ。」
ユラ「え?」
久慈「やつを…シアを返したのは私じゃないんだ。ユラでも逃げる相手、私が敵うわけないじゃないか。」
久慈さんは笑いながら、でもどこか苦しんでいる。きっと自分が情けない、とか思っているのだろうか。そんなことはない。アレに立ち向かえるやつなんていないのだから。だからこそ、その久慈さんを救った人に興味があった。
ユラ「…シア?」
久慈「あぁ。やつの名前はシアというらしい。」
ユラ「それで…誰がシアを?」
久慈「名前は知らない。殺される寸前の私を助けてくれたんだ。死にかけだからよく覚えていないけどね。身長の低い女の子だったよ。あんな子供に助けられるなんてね…。」
覚えが…ないわけではなかった。
聖花「子供…?子供がやったんですか?」
久慈「さぁね…この世界、誰がどんな力持っていてもおかしくないでしょ。」
かんざき「現にうちの隊長がいい例だろう」
久慈「確かに。」
聖花「それもそうか。」
隊長のイメージひどいな。
久慈さんからもっと話を聞こうとした矢先、医務室のスピーカーからイメージのひどい人の声が聞こえてきた。
ウルウ「そろそろ魔警最強決定戦の決勝戦を始めようと思うぞ。選手のユラ、そしてメクルは準備のでき次第、リングの上へと来るのじゃ!そして観客の皆も集まるのじゃぞ!」
元気いっぱいの声は、久慈さんが襲われた時に出す声とかけ離れた声だった。
ユラ「まぁ…行くかな。」
聖花「わたしも」
かんざき「…歩けるのか?」
聖花「…すいませんでした。」
どうやらベッドに座ってはいるがまだ動けないらしい。
かんざき「テレビはある。これで我慢しな。」
聖花「うぅ…」
ユラ「それじゃあな。」
俺はリネの頭を撫でて、出口へと向かった。
ユラ「久慈さん、詳しい話は今度また。」
久慈「あぁ。隊長にも伝えとく。そしてメクルをふっとばせよ!」
一番くやしいだろうに、その笑顔と言ったら…。こっちまでにやけてくる。
俺は笑いながら、リングへと向かったのだった…
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ウルウ「さぁて!!少しハプニングもあったが泣いても笑ってもこれが最後!決勝じゃぁ!!!」
俺がリングに上がると今までとはけた違いに場が盛り上がっていた。決勝まで来たものにしか味わえないこの空間…。なんというか…。
メクル「ユラ、来たか。」
一足先にメクルがリングへと来ていた。
ユラ「おう。」
メクル「久慈さん大丈夫だったか?」
ユラ「…左腕が、なくなっていた。治らないらしい…。」
メクル「!!!本当か…?」
ユラ「あぁ…」
メクル「そうか…僕もあとで行こう。」
ユラ「そうしてやってくれ。腕も今は治らないというだけで、まだわからないからな。」
メクル「そうなのか。僕が行ったところで何かできるわけでもないが…」
ユラ「そういうなよ。久慈さん元気そうだったが不安そうでもあった。後輩の顔見せてきてやれ。」
メクル「あぁ…そうしよう。」
少し話してから、俺たちは戦闘の準備に入った。気持ちを切り替えよう。あんなことがあったが、今は本気で戦わなければ。なんだかんだ言って本気でメクルと戦うのは初めてかもしれない。少しわくわくしている。…オラわくわ…
クロン「選手紹介をさせてもらおう。まずはあのランキング一位、そして聖花リーダーすらも倒してしまった現状事実上の魔警最強リーダー、雪川メクル!!!!」
決勝戦。さすがのクロンさんも場に合わせた声量だ。
ウルウ「対するは皆知れた『初期』最強!ユラ!!今日、このいま!現最強と旧最強が交じり合う!それでは…魔警最強決定戦・個人戦、決勝戦!開始じゃ!」
ついに…ついに始まった決勝戦。相手はメクルだとは思わなかった。
メクル「初めてじゃない?こうして戦うのは。」
ユラ「そうだな。俺もそう思っていた。」
メクル「それじゃあ…やろうか。」
メクルはまた、リネの時のように棒立ちだった。あれで戦闘準備ができているという事なのだろう。
ユラ「…フィールド能力…だな?」
メクル「正解」
メクルのその声は俺の至近距離から聞こえてきていた。気づいたときにはもう、そこにいるのだ。
メクルは俺に向かって拳をふるう。
ユラ「…!」
だが、その手が俺に触れることはなかった。メクルの手は丸まるで押しつぶされるかのように地面へと下がっていった。
ユラ「対策はしてんだよ、もう手の内はわかってるからな。」
メクル「なんだ…これ…!?」
メクルは驚きつつも次の瞬間には俺から離れていた。
ユラ「こっちのセリフだ!」
俺は重力の壁を俺の周りに張っておいた。リネのように常にこうしておけば最初の一撃は防げる。
だが…こんな至近距離で見てもわからない。なんの能力なんだ?
ユラ「とにかく…仕掛けてみるか。」
当たるとは思っていないが俺は重力弾を作り出す。
ユラ「グラン・ゼロ」
威力を低めに、代わりに速度を上げた。
メクル「わぁ、こっちから見たらすごいね。」
確かに、メクルに向けて撃ったのだ。だが対象は俺のすぐ隣に。
ユラ「…瞬間移動は俺が持ってるはずなんだけどな。」
メクル「ふふん…その次元の力じゃないんだよ。」
メクルは手のひらを俺に向けた。その時だった。
ユラ「!?あっ…つ!!」
重力の壁を通り越して溶岩が現れたのだ。
ユラ「くそっ…」
俺はとっさに離れる。だが…
メクル「意味がないよ。」
気づけばメクルがいる。なんだこいつ。お化けか。
ユラ「なんの能力なんだよ!!」
メクル「今からの攻撃に耐えられたら教えよう。」
ユラ「おう、こ…」
いわなきゃよかった。だってこんなことになるとは思わなかったんだから。
ウルウ「これは…」
リング上、右も左も上も斜めも…全方位の全空間を溶岩が埋め尽くしたのだから。




