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【最初の魔法使い】  作者: コトワリ
第3章 最悪の魔法使い
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第三十九話 黒いウサギと白いクマ

某日某所


ヒマル「ふわぁーあ…ねみぃぜ」


エル「早く寝れば」


ヒマル「そんな暇はねぇっての」


そう言いながらヒマルは手元のゲームを巧みに操っている。暇ではないか。


ゼンツ「お昼できましたよ」


ヒマル「わーい」


エル「子供か」


私たちは各地の拠点を転々として過ごしているが実は本拠点が一つある。基本的にそこで一緒に暮らしているのだ。行く当てもない私とヒマルをゼンツは快く出迎えてくれた。まぁ正直私たちの力目当てだとは思っているがちゃんと衣食住はあるし快適である。たまに雑用を任せられるがおつかいとか洗濯とかその程度だ。


ゼンツ「最近物価が高いですよね」


ヒマル「金ならあるんだろ?」


ゼンツ「それでも節約して損はないでしょう」


そんな会話をしながら私たちはゼンツが作ってくれたお昼ご飯を食べる。結構おいしい。私が作ると基本生ごみになるので尊敬している。あんなもの人ができることじゃないはずなのによくできるなぁと。きっと長生きしてたらできるんだろう。きっと。


エル「ゼンツ」


ゼンツ「なんですか?」


エル「まだ動かないの?」


ゼンツ「はい。時を見定めていきますからね。」


ヒマル「それにエル!お前は動けるが俺はまだあまり身動きできないんだぞ。自由に動けるだけ満足しろよ!」


ゼンツ「ヒマルさんはまだあまり手の内をさらしていませんからね。うっかり一位やユラさんに出会ってしまえば目的のピースが欠けてしまいます。もう少し我慢してください。」


ゼンツ曰く今は一位がいるからあまり目立った行動ができないらしい。確かにとんでもなく強かった。私じゃ勝てない。


ヒマル「まぁいいけどよ…ごちそうさま」


不満げに皿を片付けていくヒマルを見てゼンツはさすがにかわいそうになったのか、こう言った。


ゼンツ「エルさんと一緒ならいいですよ。もし襲われてもエルさんがなんとかしてくれるなら」


ヒマル「ほ、ほんとか!?エル!行くぞ!ほら!」


エル「まだ食べてる…それに了承したわけじゃ…」


ゼンツ「お金渡すんで新しい服買ってきてもいいですよ。」


エル「…」


ゼンツは私たちに甘い


ーーーーーーーーーーーーーー


ヒマル「いやぁ久しぶりの外出だぜ!なぁ?」


エル「私は買い出しでたまに出てる」


ヒマル「ったくよぉ…お?あれってあのゲームの!?」


そう言ってヒマルはお店の横にあるガチャガチャコーナーへと行ってしまった。まだまだ子供だな…。昔ゼンツがくれた小説の中の女の子が「男子ってホントばかよね」と言っていた気持ちがわかる気がした。

ほんとに馬鹿だ。


ヒマル「くっそぉ!!なんでコイツなんだよ!」


どうやら外れたらしい。次のお金に手を伸ばそうとしている。止めねば。そんなに無駄遣いはできないのだ。


???「なんで!?またこれ!!?」


同じようなセリフが反対側から聞こえてきた。気になってみてみると…


タカナ「むぅ…欲しいやつじゃない…」


アオサ「ちょ、ちょっと、角出てますって!」


タカナ「ぐぅ…たまきぃ…あんたの運の能力で出せない?」


環「私の能力はそんな使い勝手いい物じゃないから。」


タカナ「がはぁー…」


…クラス、メイト。か


ヒマル「どうした?…あぁ。仕方ねぇよ。行こうぜ」


エル「うん…」


…彼女らの楽しそうな顔を見ていると涙が出そうだ。


ヒマル「…服見ようぜ、服!選んでやるからよ!」


ヒマルは優しい。


エル「ヒマルセンスない。」


ヒマル「んだと!?」


エル「ふふっ」


きっと今感じた楽しいと彼女たちの楽しいは同じではないのだろう。


その後、服を買ってヒマルが行きたがっていたゲームセンターへ言った。


ヒマル「久しぶりだぜぇ来るの。二回目をどれだけ待ち望んだが…」


エル「またなんにも取れないでしょ。」


ヒマル「ふっふっふ…エルさんよ」


エル「…さん」


ヒマル「エルがお使い中俺は動画を見てクレーンゲームのプロになっていたのだよ!」


エル「じゃ取ってよ、あれ」


適当に指さしたそこには真っ白いクマのぬいぐるみがあった。別に欲しかったわけではない。


ヒマル「任せとけ!」


そうしてヒマルはその台へと向き合った。

…こんなやって遊んでいられるイメージは、少し前の私たちにはなかったな。

一応ゲームセンターを見まわし魔警備員やユラ達がいないか見ておく。もし見つけられなくても未来視でわかるか。


ヒマル「お…お?マジか…?」


ヒマルが騒ぎ出したのでクレーンゲームの台を見ているとうまくクマのぬいぐるみ…ではなく隣の黒いウサギのほうが取れてしまった。どう狙ったらそうなるのだ。


ヒマル「クマは無理だったか…」


エル「なんでウサギは行けるの…」


ヒマル「知らん!ただまぁ取れないよりはマシだろ。ほら」


そうしてヒマルは私にその黒いウサギのぬいぐるみを渡してきた。…別にあの白いクマが欲しかったわけでもない。わけでもないのだが…。


エル「クマ、私がとる」


ヒマル「お、珍しい。エルさんにできるかな?」


エル「できる」


…結果、ヒマルがクレーンゲームのプロになったのは間違いじゃなかったことが分かった。


ヒマル「最初はそうだよなぁ最初は。ま、エルさん。落ち込まずに次がんばりましょうや」


エル「うー…」


名残惜しく私がクマを見ていると視界の横に人が現れた。


安曇「よければうちがとってあげましょうか?あ、お金はもらいますけど」


エル「え、いいの?」


安曇「いいっすよ!彼氏さんとお揃いにしたいんっすよね!」


ヒマル「かれ…そうだ!彼氏だ!」


エル「ちょっと…」


ヒマル「いや、この人はできる気がする。見たい。生でその神プレイを」


エル「そっちが目的じゃん」


安曇「あはは、そんなうまいもんじゃないっすよ!」


…私はその突然現れた人に百円を渡した。


安曇「いやぁこういうぬいぐるみは得意なんっすよねぇ」


そう言いながら慣れた仕草で操作していく。ヒマルの言った通り上手い。


ヒマル「神だ…」


安曇「はは、そんな大それたもんじゃないっすよぉ」


そう言いつつも本人はとてもうれしそうだ。

まるで取れることがことが当たり前のように動き、持ち上がったクマのぬいぐるみは見事手の中に。


安曇「取れましたっす!」


ヒマル「すげぇ!師匠と呼んでもいいですか!!」


安曇「照れますっすよー。はい、ぬいぐるみ」


そうして私の手の中に白いクマのぬいぐるみと黒いウサギのぬいぐるみが。


エル「はい」


私は黒いクマのぬいぐるみをヒマルに渡した。


ヒマル「おそろってやつか?いいじゃねぇか」


ぬいぐるみは手のひらサイズだ。ヒマルは丁寧に扱いながらぽっけに入れた。

別に欲しくはなかったが、今はもう手放したくない。


エル「ありがとう」


安曇「いいんっすよ!お二人が喜んでくれれば」


ヒマル「おう!師匠!またいつか!」


安曇「あ、お二人さん。ちょっとお礼として付き合ってくれないっすかね…」


ーーーーーーーーーーーーーーー


エル「美味し」


安曇「よかったっす!」


そうして私たちはクレーンゲームのプロに連れられてめちゃくちゃおいしい飲み物が沢山あるという出店に来ていた。なんでも一緒に飲む約束をしていた人が急にこれなくなってしまったらしい。一杯無料券があったらしく、もったいないのでせっかく。という事で一緒に飲むことになった。


エル「甘いの好き」


安曇「うちは苦いのも飲めるっすけどね」


エル「にしては甘そうなの頼んでたよ?」


安曇「…気分っすよ」


そう言いながらストローを加えおいしそうに飲んでいく。

ちなみにヒマルはもう飲み干して近くにいた子供と遊んでいる。ここは公園みたいな場所らしい。


エル「本当にありがとう。私たちしてもらってばっかり…」


安曇「いいんっすよ!うちもどうしようか迷ってたんで!あ、名前聞いてなかったっすね。私は安雲っす、アズって呼んでください!」


エル「私は…」


…隠す必要もないだろうか。こんなに良くしてくれた人に嘘はつきたくない…。でも、もし魔警関連の人ならばれてしまうかもしれない。


安曇「…どうしたんすか?」


エル「…ジル。ジルだよ。」


安曇「ジルさんっすか!いい名前っすね!」


嘘ではない。私の本名、ジルビル エルからだ。


エル「アズは…何をしてる人なの?」


安曇「うちは魔警でクロンチームの一員として働いてるっすよ。学生に見間違えられるんっすけどね。もう立派な大人っす」


エル「…そうなんだ。かっこいいね」


安曇「そっすよね!今日は休みなんっすよ。久しぶりに。」


エル「よかったね…」


危なかった。アズは魔警の人だったんだ…。早く帰った方がいいかな…。


エル「…帰りたくない」


安曇「え?」


エル「あ、いや…その…」


つい声に出てしまった…。


エル「なんでもない…よ」


安曇「…何か悩んでたら聞くっすよ」


エル「なんでもないって」


そう言いながら私は飲み物を飲む。甘く感じれなかった。


安曇「…甘くないんじゃないっすか?」


エル「…!なんで…」


安曇「何か忘れてしまうほどの苦しみっていうのは精神的に良くないっすよ?精神が悪いと体までダメになっちゃいますよ?」


そういうアズの言葉はとてもやさしく…まるで「天使」のようだった。


エル「…実は…私幼いころあまり自由じゃなかったの。その反動で多くの人を傷つけてしまった。」


誰にも、自分でも考えずにしようとしていたことを口に出す。


エル「でも最近やっと自由になれて…でも思ったの」


安曇「何をっすか?」


エル「私に自由になる権利なんてないんじゃないかって。今も自由になれたという気持ちを縛ってる…。」


安曇「…ジルさん。ジルさんは今どこに向かっていると思うっすか?」


エル「え?そうだな…終わりかな」


我ながら被虐的な答えである。


安曇「未来っすよ。未来。ジルさんがとらわれているのは過去。未来じゃない。」


エル「そう…だね。でも」


安曇「それなら未来に逃げちゃってもいいんじゃないっすか?うちは別に過去に縛られているわけでもないっすけど毎日毎日未来に逃げてるっすよ。」


エル「怖くないの?」


安曇「怖いよりおもしろそうが勝っちゃうっすかねぇ…」


エル「そっか…ふふっ、いいね。そう思った方が楽しそう」


安曇「そうっすよね!そう肩を落とさず生きていこう!っすよ。きっとそっちの方が楽しいっす。それにほら」


アズは私の隣に座っていたが、立ち上がって私の前に来た。

そして手を差し伸べ


安曇「一緒に行けば何十倍も楽しいっすよ。」


エル「うん」


私はその手に自分の手を重ねた。

…きもちだけでも前向きに。


ヒマル「そろそろ帰るぞ。師匠。飲み物うまかったです!」


安曇「そう言ってもらえてうれしいっすね、それじゃまたどこかで会えたら!ジルさんもそのころには元気になっててくださいね!約束っすよ!」


エル「うん…またね。アズも元気で」


安曇「はいっす!」


そうして私たちは本拠点へと帰路をたどった。


ヒマル「ジル?」


エル「名前は出せないでしょ。」


ヒマル「それもそうだな。…エル、お前やけに楽しそうだな。口がにやけてるぞ」


エル「ほんと?」


自分でも気づかぬうちに笑っていたらしい。私も随分人間らしくなったものだ。

今日は随分充実していた気がする。


ヒマル「夕飯何かな」


エル「ヒマルはすぐ食べ物の事だね。」


ヒマル「いいだろ!それくらいしか楽しみないんだから。今日みたいな日はめったにない。エルも楽しかったろ?」


エル「…うん」


別にいらなかったぬいぐるみを撫でながら、今日あったことを宝石を眺めるように思い返した。


服屋で…


エル「どう、これ」


ヒマル「パーカーばっかりじゃねぇか。たまにはほら、ワンピースとかどうだ?エルは顔は可愛いんだし着てみたらどうだ?」


エル「顔『は』?」


ヒマル「…性格も、とても可愛らしいと、思われます。はい」

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