第三十八話 思い出のあの頃
かんざき「ソウシが自己回復できないまでやられるなんて…そこまでなのかい?ユラ殿の力というのは」
あの戦いから一時間後。
俺は全力を出したおかげでノックアウト。ソウシさんは俺の全力を受けてノックアウト。そのため李地さんが神崎さんを呼んできてくれたのだ。お互いが倒れてしまえば回復能力は使えないし李地さんも回復能力は持っていない。神崎さんも暇だったらしく案外すぐきてくれたらしい。
ソウシ「いやはや、まいったね。ランキング一位というのに…負けてしまった。」
ユラ「ごり押しみたいなもんで勝っちゃいましたけどね。」
李地「それで勝ててしまうのもおかしいですけどね」
今俺達四人は李地さんの研究所の一角で休んでいる。十分回復はしてきはした。
ソウシ「それで…僕は君の全力を出せたのかな?」
ユラ「そりゃもう…あんな能力どうしようもなかったからな。もう一か八かでやったよ。今の俺の最高地点をな。」
あれ、というのは四つの能力を同時に使った技の事である。俺が80年かけたすべてが詰まっている。ステージ5、複数能力使用、そして三十秒間の暴走化。これが俺の全部だ。暴走まで使わなくてよかった…。まぁ正直使う気はなかったのだが。なんか使ったら負けな気がした。
ソウシ「あの技について聞きたいんだけどいいかな」
ユラ「あぁ、いいよ。あれはな…」
李地「能力の複数使用、ですね?それも四つの。」
さすが李地さん。気づいたんだな。以前一般能力も混ぜて使ったことがあった。そこから気づいたのだろう。
かんざき「なんだって!?」
ソウシ「ばかな…」
思ったよりリアクションが大きくて驚いている俺に李地さんが説明してくれた。
李地「複数能力保持者、というのはまぁまぁいます。現に私、そしてソウシさんもです。ただ同時に使用することはほぼ不可能と言われてきました。膨大な体力、そして精神力を使うためです。発動前にほとんどの人が倒れてしまっていました。ソウシさんは唯一、ほんの少しだけ同時使用ができましたが…」
ソウシ「それでも、ほとんど持たなかった。なのに四つも同時に使用するなんて…。」
ユラ「それは…」
俺は能力の特典について話した。能力数に応じて特典がもらえることだ。本にはこう書いてあった。
『能力5個入手特典:インフィニティソード』
『能力10個入手特典:永久化』
『能力15個入手特典:同時使用負荷なし』
この三つに助けられ、その一つに苦しまされてきた…。今ではありがたいと思っているが。
李地「そんなことが…」
李地さんはそう言って紙にメモしだした。あんまり自分の事言ってなかったし…聞かれなかったからなぁ。多分一番自分について伝えたのはメクルだろう。少しの間どこに行っていたかまだ聞いていない。今度聞いてこよう。
かんざき「はは…嘘みたいな話だな…。永久化か…。だから…ユラ殿は…」
ユラ「ソウシさんは能力いくつ持ってるんだ?」
ソウシ「私は四つだ…ということはもう一つ手に入れば」
ユラ「特典の何かしらの武器が手に入ると思う。あの武器について知っていることは二つある。」
本が少しだけ教えてくれたのだ。
一つが名称。あれの名は「神器」という事。
そしてもう一つは人によって違うという事。厳密に言えば本によって、だが。
ソウシ「そうか。まさかこの歳になってまだ能力の真髄が知れるとは…」
かんざき「夢があるね。ソウシ、誰かから能力をもらったらどうだい?永久化でもしてみればいいじゃないか。」
ソウシ「それは…ごめんだね。ユラ君の前で言うのはあれなのだが。」
ユラ「まぁ…能力一つくらいなら渡してもいいぞ?」
その時、頭痛が俺を襲った。なんだ?まだ疲れていたのだろうか。
かんざき「大丈夫か?もう一回回復しておこうか」
ユラ「いえ、大丈夫です…。それで、能力一つくらいなら渡すが…いるか?」
ソウシ「そうすると今度戦った時僕はもっと強くなっているよ?」
ユラ「そこんとこは大丈夫。強い味方ができると思えば良い。それにさらに上を俺は目指すからな。」
ソウシ「はっはっは。それじゃあ、頼もうかな。ただこれじゃあ公平じゃないね。せっかくユラ君は勝てたのに損をしてしまう」
ユラ「別に気にしなくて良い。どうせ勝っても負けてもエルとヒマルの能力については教えるつもりだったからな。」
ソウシ「いや、それでも何かさせてくれ。そうだな…何か…」
かんざき「マキのとこにでも招待してやったらどうだ。強くなりたいらしいし。」
ソウシ「マキ、久しい名だ。確かにマキに合わせるのはいい報酬になるかもしれない。そうしようか。」
そうしてソウシさんはどこかに連絡をした。話している途中にソウシさんの表情が変わった。どこか悩んでいるような顔だった。
ソウシ「ふむ…まぁそこは私が何とかしよう。」
ユラ「なんだ?」
ソウシ「まぁこのことについてはまた今度連絡しよう。その時詳しく話すよ。」
何かすごい人に合わせてくれるのだろうか?俺を今まで以上に強くしてくれる誰かに。
ユラ「とにかく、能力渡すよ。」
ソウシ「なんの能力をくれるか楽しみだよ。」
俺はあの能力をソウシさんに渡す。絶対に使いたくない能力だったが…強くはあった。ソウシさんになら渡してもいいだろう。本気でソウシさんが最強になってしまうが…。
ソウシ「これは…またとんでもないものをくれたね。」
かんざき「ユラ殿、何渡したんだい?」
ユラ「『光』の能力です」
かんざき「…は?」
李地「…え?」
ソウシ「お、これが特典か。どれどれ…」
さっそく、ソウシさんの神器を見ようとしたのだがその前に李地さんと神崎さんに止められた。
かんざき「『光』って…本気かい?『光』って言ったらあの…昔話の悪者の能力じゃなかったか?」
李地「はい…でもあれは本当の話で実際、ユラさんの仲間達を一瞬で倒してしまった能力者の能力と伝わっています。そんな能力をソウシさんに渡したらもうほんとに最強じゃないですか…。」
まぁ大丈夫だろう。きっと俺がゼンツにやられてもソウシさんが倒してくれる。その保険があるだけでも渡してよかったと言える。
ソウシ「ユラ君、特典はギャラクシーライジング、というものらしいよ」
ユラ「なんだろ…それ。聞いただけじゃよくわからないが…」
ソウシ「そうだね…。まぁそれと光の能力も含めて試してみるよ。ありがとう。本当に」
ユラ「いや、こっちこそ戦えてよかった。ありがとうございます。」
ソウシ「うん。それじゃあ、ライ君が呼んでいたからもう動けるようなら行くといいよ。魔警のメクルチームにいるらしいから。」
ユラ「了解」
ちゃんと評価してくれているだろうか、あの先生は。
かんざき「李地、ソウシが謀反を起こしたらどうするよ」
李地「そりゃ責任もってユラさんに止めてもらいますよ。」
ソウシ「なんで僕が謀反起こすような人物みたいになっているんだい?」
かんざき「うわっ、光野郎だ。」
李地「うわっ」
ソウシ「まだ使えないから。」
仲いいなぁと思ったがよくよく考えたらこの三人って魔警備隊設立メンバーなのか。そりゃ仲がいいわけだ。
ユラ「はははっ…楽しそうで何よりです」
ソウシ「この二人は特にね…。じゃあ、ユラ君。またどこかで」
ユラ「はい。それじゃ。エル達の話は今度伝えます。」
そうして俺は研究室を抜けてライのとこへと向かった。
ユラ「懐かしいな…俺たちもよく博士の研究室ではしゃいでたっけ…」
あの三人を見るとそんな思い出が思い返された。
昔は過去を振り向くしか、俺に居場所はなかった。
でも、今は帰る場所がある。俺を知っている人がいる。俺を好きでいてくれている人がいる。
だから、決して寂しくはなかった。
なんならむしろ鬱陶しい。そう思える幸せに口が曲がる。




