第二十一話 野放しにしちゃいけないやつ
ユラ「まさか…来るんですか?」
間木ちゃんの傷が回復しない原因を潰す為、能力で移動しようとした時だった。能力者ランキング三位のシャンに声をかけられたのだ。
シャン「うん。じゃ、いこうか」
ユラ「ちょちょ…どこに行くかわかってます?最悪死ぬ可能性がありますよ?」
俺の予想通りなら黒幕はかなり強い。きっと俺と同じく「80年間」能力を鍛え続けたやつだ。俺でも奥の手を使って勝てるかわからない。
シャン「死ぬ…かぁ。私一応アルパさんよりも強いよ?」
ユラ「そう…かもしれませんが。これは俺が任されている問題です。余計な部外者はいらな…
シャン「あのさぁ!」
俺が何とか説得させようとすると大きな声がそれを遮った。
ユラ「…!」
シャン「言ってなかったのもあるけど私は元魔警なの。あんなに苦しそうな姿見せられといて…さぁ帰るかなとはならないわけ。わかる?ほら、早く連れて行きなさいよ。」
なぜか突然立場が変わったがその目は確かに「助けたい」。その言葉が宿っていた。
ユラ「…わかりました。じゃあ、つかんでください」
シャン「つかまる?」
疑いの顔で俺の服を少しつかんだ。
ユラ「行きますよ」
俺は瞬間移動で間木を襲った化け物の元へと向かった。
ーーーーーーーーーー
「某所」
エル「帰ってきた」
バシャバシャと異形の化け物が少女を通り過ぎ主人の元へと帰ってくる。
???「生きて帰れたんですか…まぁ報告してもらいますよ」
化け物は主人に跪く。…膝はないが
???「おうおう!?帰ってきたか!」
ぼさぼさの黒い髪をした男がゆっくりと歩き近づいてくる。
エル「ヒマル、起きた?」
ヒマルと呼ばれた男は大きなあくびと共に答える
ヒマル「おう。そろそろ『あれ』も起きるだろうよ」
エル「明日だからね」
ヒマル「わかってるよ」
兄弟、友、恋人。そのどれにも当てはまらないその二人の関係は黒くもどこか輝きがあった。
???「ほう。魔警の一人にけがを負わせましたか。ヒマル。能力が発動している感覚は?」
ヒマル「ちょっと待て……おう、かなり遠くだが感じるな。俺の能力を無効化する力…さぞ苦しんでいるだろうよ」
エル「性格わるい」
ヒマル「んだよ…やれって言われたんだよ。」
???「あぁ、私がやれと言ったんですよ。エルさん。」
エル「あ、そう」
元より興味のなさそうな顔がほんの少し険しくなる。
エル「…来る」
ヒマル「誰が?」
エル「三位と…ユラ」
???「未来予測ですか。助かりました。まだ私はその人と会う気はないので…。ヒマルかエル。どちらか時間稼ぎお願いします。私は拠点を移すので」
ヒマル「じゃあ今回は俺が…!」
エル「だめ。手の内ばれちゃうでしょ。だよね?」
???「はい。エルさんが適任ですね。…二人来るんですよね…。じゃあ」
そう言ってその女性はさっきの化け物を変化させていく。。形は人そのものだがどうやら中身は全く違うようだ。
???「これを置いていきます。」
エル「…!ピースだ。」
???「一番弱いやつですけどね。十分でしょう」
そう言って生み出された生き物は頭が丸い球体になった。その球体に顔はおろか、輪郭も感じない。人の体に真っ白なボールが乗っているだけだ。
エル「もう来る」
???「わかりました。それじゃヒマルさん」
ヒマル「はぁ…俺もやりたかった…」
エル「無事でね」
ヒマル「俺のセリフだ」
ーーーーーーーーーー
シャン「うわぁぁぁ!」
ユラ「う、うるさい・・・!」
まさか瞬間移動するとは思ってなかったからかシャンは大声を出した。
俺は慌てているシャンを置き去りに周りを確認するとそこには…
ユラ「…!!エル…!」
エル「…」
そこにはかつて戦い、今俺が追い続けている少女の姿があった。隣には人間の体の形をしている何かがいる。あいつが間木ちゃんを?
シャン「あの子がエルか…」
ユラ「知っているんですか?」
シャン「榎島って知ってる?私あいつと結構仲いいんだけどさ。あいつから聞いたの」
ユラ「榎島さん…」
一応機密情報なんだけどなぁ…
エル「…やらないの?」
相変わらず何も考えていなさそうな顔をして煽ってくる。意外と戦闘好きだったりするんだろうか。
シャン「どっちがあの子を苦しめたほう?」
ユラ「多分…あっちの人の形をしたなにかだと。」
あいつから間木ちゃんの傷と同じ気配を感じる。だが…エルの力…なんだろうか?そういわれると違和感がある。
シャン「じゃ私はあっち。君はエルの方ね」
ユラ「…はい」
特に異論はなかったがなんか決められるのは癪だった。
シャン「じゃ、死なないでね」
ユラ「お互い様ですよ」
俺たちはそれぞれ自分の獲物に攻撃を仕掛ける。俺の相手はエルだ。前はなんとか押し切ったが今回も前と同じようにうまく押し切れる気がしない。
ユラ「ステージ3!」
最初から飛ばしていく気で俺は攻撃する。
エル「《カマエル》」
エルがそういった瞬間、エルの拳が白く光る。
その拳で俺を殴り攻撃をしてきた。その手は見た目よりもはるかに重かった。
ユラ「ぐっ…!?あ、アルパさんくらいある…!?」
あの巨漢の男くらいの力を出している。前は強かったとはいえこんな力ではなかったはずだ。なんの能力なんだ?今のところ光線と盾、そして肉体強化…か?複数の能力持ちなんだろうか…。
エル「《ラジエル》」
エルは手から光線を放ってくる。
ユラ「くっ…!」
上手く避けて俺はなんとか懐に潜ったが…
エル「…」
俺がそこに来ることがわかっていたかのように拳を振ってきた。
俺はいったん大きく離れる。そこで俺は一つ気づいた。威力がそこまでないのだ。
ユラ「…一つの力を使っていたらほかの力は使えない…のか?」
俺が言った言葉が図星だったのかエルは少し不機嫌そうな顔をした。
エル「…《ミカエル》」
エルがそういうとその手に光り輝く神々しい剣が現れた。
エル「ほら、剣」
ユラ「は…あ、あぁ…」
俺は突然しゃべりかけたことに少し驚きつつも炎の剣を作りだす。どうやら思ったよりご立腹のようだ。
エルは無言で剣を振ってくる。その太刀筋は割と雑だった。これは…行ける?
ユラ「炎流四閃 亞炎鬼華!!!」
足元へと滑り込むような炎の斬撃がエルを襲う。
エル「…!ステージ4…」
避けれなかったのかエルは白い龍を作りだしてその上に乗りよけた。
ユラ「マジか…いや、ここで手を止めたらやられる!」
その龍のでかさ故少し圧倒されたがここで落とさなければあっちの独壇場だ。龍同士の対戦なんてしたくない。
ユラ「炎流二閃 大炎斬!!!」
大きく、ただただ大きく炎の斬撃を飛ばす。
その炎はエルと龍を覆いつくすように襲った。
ユラ「やったか…?」
だが逆にその炎をうまく使われてしまった。炎がなくなった先に龍とエルの姿はなかった。
そしてそのエルは俺の目の前に。
エル「《トリニティ》!」
ユラ「しまっ…!」
エルが放ったそのすさまじい剣技をもろに受けてしまった。
ユラ「が…はっ…」
や…やばい…これは…!!俺は不老不死だがこの攻撃は死ぬ気配を感じる。能力の質がもうそういう本の補助能力を超えているのだ。
エル「終わり」
そういってエルはその剣を振りかざしてきた。
ユラ「ぐっ…『液化』…!」
俺は液体となりその攻撃を避けた
エル「…まだやるの?」
ユラ「いや、もう終わりさ」
俺は奥の手を出すことにした。これは勝てない。
ユラ「ステージ4」
エル「なんだ…またりゅ…う?」
エルは珍しく驚いた顔をした。そりゃそうだろう。目の前にいきなり鎌を持った骸骨が現れるのだから。
…果たしてこれは魔獣なんだろうか。まさか『重力』の能力の魔獣が死神だとは思わなかった。
魔獣ではないだろこれ。闇、水はちゃんと魔獣だったのに…
エル「なにこれ」
ユラ「死神。よし、いけ!」
俺がそういうと死神はその手の鎌を大きくエルに振った。その威圧はとてもじゃないが感じたくない。
エル「さ…《サリエル》!」
エルの前に大きな壁が現れた。その壁に鎌はぶち当たる。こんなに大きな死神でもどうやらエルの作りだす壁には敵わないようだ。だが、俺は動く
ユラ「そりゃ気を取られるよな」
俺は一気にエルに近づき、攻撃する。
ユラ「プロミネンス」
高火力の炎がエルを襲った…ように見えたが…
ヒマル「うちのエルはやらせねぇぜ」
ユラ「お前は…!?」
この男は誰だ…?まさかこいつが…?
ヒマル「俺はヒマル!やっと対面だな!ユラ!」
ユラ「お前が…お前らが国を消滅させた二人組か!?」
ヒマル「あぁ!そうさ。俺達だ!」
見つけた、こいつらが国を一つ消す力を持っている俺達魔警が探していた二人組!
ヒマル「今日は残念ながら挨拶だけだ。」
すると次の瞬間、ヒマルが大きくのけぞった。
シャン「くそっ!外した!」
ヒマル「はは、お前が三位か。危なかったぜ」
言葉の割には随分余裕のある言い方だった。
エル「ヒマル、しゃべりすぎ」
ヒマル「助けに来てやったのに…まぁいい。それじゃあな。お前ら。また今度会ったとき本気で戦おうじゃないか」
ユラ「逃がすかよ!!」
俺は一気に死神を武器に変える。
ユラ「ステージ5!」
ヒマル「んな!?往生際のわりぃやつだな!?エル!先行け!」
エル「うん」
俺は大きな鎌を構えて、一気にヒマルに仕掛ける。
ユラ「《ログラブル・ガロン》!!!」
鎌に重力をかけて相手をひきつけ、さらにその重力の内側に反発の力を加える。このめちゃくちゃな重力波、もちろん矛盾している。からこそ、起こるバグ。その鎌の周りには超巨大重力弾が二つ生成されていた。
ヒマル「はぁ!!???こんなん…!あぁもう!」
ヒマルは覚悟した顔で手のひらを鎌に向ける
ヒマル「《サタン》!」
ヒマルの手に魔法陣が作られる、そして…
ヒマル「《アサルタン》!!」
その魔法陣からとんでもない高密度のエネルギー波がうち出されたが…向かうは桁違いの『初期』の能力の現段階最高地点。たとえ国を消せる力だろうがその時空そのものを消す力の前には無力だった。
全く話にならないその威力のぶつけ合いの末…
ユラ「いな…い、か」
その場には大きな穴、空中に浮く地面、なぜか湧き出した水。あふれだした泥などまるでバグがおこったような空間ができていた。
ユラ「また逃がしたか…あんなやつ野放しにしてられない。早く捕まえなきゃ…」
シャン「…君も相当野放しにしちゃいけないやつだと思うけどね…」
来る前は意気揚々としていたシャンの顔は帰る時にはもうおびえるような顔になっていた。
その後
エル「あ、ヒマルお帰り」
ヒマル「し…死んだ」
???「…生きてるじゃないですか」
ヒマル「あんなに全速力で走ったのいつ以来だ…」
エル「さっき私助けに来た時。」
ヒマル「…まぁ…そうだが…」
???「まだまだ若いですね…」




