95階 ダンジョンの代弁者
「良かったよ・・・呼ばれてないから出るに出れなかったが、呼んでくれるつもりだったんだな」
「このっ・・・ふざけやがって・・・」
「おお・・・さすがに怒ると目が開くのか。普段から開けといた方がいいぞ?寝てると勘違いしてしまう」
「・・・」
血管が切れそうなくらい怒り心頭のシークスを無視して僕はケンとスカットの傍まで歩く
良かった・・・怪我の程度は軽いみたいだ
「・・・兄さん・・・」
「誰が兄さんだ。無事で何より・・・さあ、帰るぞ」
「おいおいおいおい待て待て待て待て・・・ここに来てすんなり帰れるとでも?舐めてんのか?おい」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「ふざけんな!てめえコラ・・・ふざけんな!」
「・・・やっぱり目を閉じておいた方がいいな・・・まさか目を開けると言葉が通じなくなるとは・・・」
「~~~~!!・・・死んだぞてめぇ」
キレてるな・・・うん
後ろの3人も臨戦態勢だし・・・こっちは僕とサラさん・・・それにケンとスカットか・・・
「ふむ・・・4対4か・・・」
「へ?俺らも?」
「ちょっ・・・ローグさん?」
数としてはピッタリなんだけど・・・さすがにケンとスカットじゃ後ろの2人を相手するのは難しいか・・・僕もまだシークスに勝てないだろうし・・・
ダンコの戦力分析じゃサラさんもまだシークスには及ばないらしいしな
でもビックリしたよ・・・まさか今日渡した通信道具がいきなり大活躍するなんて・・・まあ用途は思ってたのと違かったけど──────
魔物訓練所で魔物創りに勤しんでいる最中にサラさんから連絡が・・・出ると焦った様子で状況を話してくれた
歓楽街の路地裏でケンとスカットがシークスに襲われている
聞いた時は思わずご冥福をお祈りしてしまったけど、どうやらシークスは僕とサラさんを誘き寄せる為の人質にしようとしているらしい
人質なら無事かもしれない・・・と思ったけどどうやら危うい状況だとか
〘どちらか1人を殺すって・・・どうすれば・・・〙
人質は1人で良いってか・・・まずいな
「歓楽街・・・だったな。すぐに向かおう・・・入口で待ち合わせでいいか?」
〘来て下さるのですか!?〙
「当たり前だろ?組合員を守るのも組合長の務めだ」
〘ローグが来て下さるなら百人力です!早速着替えて・・・〙
「いや、着替える必要はない」
〘え?・・・しかしこの格好では・・・〙
「風牙龍扇だけでいい。下手に刺激しない方が逃げやすい」
〘逃げる・・・そうですね。あくまでも2人を助ける為に行くのにわざわざ戦う必要も・・・けど簡単に逃がしてくれますかね?相手はあのシークス・・・〙
「あのシークス達だからこそやりようがある・・・逃げる算段は私に任せて急いで歓楽街に向かってくれ」
〘はい!〙
多分僕とサラさんが協力してもシークス達には勝てない。ダンジョン内ならともかく外での僕はただマナが多い冒険者に過ぎないからね
だから戦わず逃げるしかない
《どうするの?簡単に逃げるって言ってたけど相手はあの人間でしょ?》
「ああ・・・大丈夫・・・僕に考えがある──────」
その後サラさんと歓楽街の入口で合流してケンが言っていたという奥へと向かう
サラさんは何かシークスと話していたみたいだ・・・それで2人の無事も確認出来たみたいだしシークスの意識もサラさんに向かっているとか
そしてケンの言っていた路地に入ると2人の姿とシークス達の姿が見えた。少しシークスとケンの距離が近いのでサラさんに頼んで風牙龍扇で2人の距離を離させ僕がケンとスカットの近くに行ければほぼ目的は達成だ
目の前には怒り狂うシークス・・・少し冷静になってもらうか
「シークス」
「なんだ!!」
「これはなんだか知っているか?」
「・・・簡易ゲートか・・・」
良かった。知らなかったら説明面倒だと思ったけど知ってたか
「ご存知の通りこれは簡易ゲート・・・ダンジョンの入口へと繋がるゲートを出す道具・・・これが便利なのはどこに居てもエモーンズダンジョンの入口に繋がるってところだ」
「・・・なるほど・・・それを使って逃げるつもりかい?」
「その通り・・・ただ問題は君達が素直に逃がしてくれるかだが・・・」
「逃がす訳ないよね?」
「だろうな・・・私は君の事が嫌いではない」
「・・・は?今更媚びを売るつもり?好きだから逃がしてくれぇみたいな?」
「いや・・・死に方くらい選ばせてやりたい程度の好意だ」
「・・・さっきから何を言ってるかさっぱり分からないだけど」
「分からないか?この簡易ゲートを使って私達が通るとしよう。そしたら君達も追ってくるのではと心配しているのだよ」
「・・・悪いけどもっと分かりやすく言ってくれるかい?心配って・・・」
「心配になるさ・・・君達はこのゲートを潜った時点で死ぬのだから」
「・・・もっとマシな嘘はつけないのか?なんで君達が通れてボク達が通れないって事になるんだ?」
「いや、通れるさ。ただ通った後が問題だ・・・君達はダンジョンに入れない・・・そこで問題だ・・・ダンジョンに入れるけど出れると思うか?」
「!!・・・まさか・・・そういう事か・・・」
「そう・・・君達がゲートを通った時点でダンジョンから一生出れなくなる。まあ仲のいい冒険者がいて水や食料を調達してくれるというなら少しは長生き出来るかもしれないが・・・それとも魔物の血や肉で飢えを凌ぐか?食べれるかは知らないがな」
「・・・そのゲートを使う前に・・・」
「出来るか?私とサラがいるのに?簡易ゲートを使う間すら与えずに勝てると?ちなみに私は・・・これだけの簡易ゲートを持って来た。サラにも渡している・・・この広間を埋め尽くせるくらい訳はないぞ?」
マントの内側の小道具入れにビッシリと入れて来た簡易ゲートをシークスに見せると表情が変わる
シークスの実力があればゲートを発生させる前に僕を倒す事も可能かも・・・でもそれはかなりの危険が伴う。なぜなら・・・
「ちなみに簡易ゲートの使い方を知っているか?床に叩き付けるとゲートが発生するんだが・・・例えば人に当たったら?」
「・・・まさか・・・」
「試しにやってみよう」
「え?ちょっと・・・ローグさん??わぁ!」
そう言って僕はスカットに向けて簡易ゲートを投げつけた
するとスカットに当たりゲートが発生し、そのままスカットを飲み込んでしまった
「・・・くそっ!」
「さて・・・私とサラを相手に全ての簡易ゲートを躱し発生したゲートを避ける事が果たして出来るだろうか・・・私なら難しい・・・君ならどうかな?シークス」
「・・・」
「私達はこのまま引き下がる・・・今日得た情報も誰かに話す事はないだろう・・・ただゲートを通る邪魔をするなら・・・」
「・・・嫌な野郎だね・・・ダンジョンナイト・・・ローグだったか?・・・今日のところは引いてあげるよ・・・だけどボクは君を諦めない・・・決してね」
「それはまた情熱的だな。私はダンジョンに居るからいつでも来い」
「くっ!・・・だったら通れるようにしてくれるかい?」
「改心すれば、な。なんで通れないか分かるか?ダンジョンに嫌われているんだよ・・・君は」
「嫌われている?笑わせるな・・・まるで君がダンジョンの代弁者のような・・・・・・」
シークスは途中で言葉を切り、僕と見つめ合う
何かに気付いたのか?
これ以上話をするのは危険そうだな
「私達はこれで失礼する・・・また」
「ああ・・・またね」
僕とサラに復讐するまでエモーンズから離れるつもりはない
そう感じた僕は思わず『また』と言っていた
シークスはそれを聞きほくそ笑み『またね』と返す
強くならないと・・・
いずれ来る決着をつけるその時までに
「すんませんしたっ!!」「したっ!!」
ゲート部屋に全員が無事到着するとケンとスカットはすかさず僕達2人に土下座する
それを見て僕とサラさんは目を合わせ苦笑し、2人に立つように言った
「謝る必要はないぞ?謝罪すべきなのは私の方だ・・・奴らの目的は私とローグ・・・ケン達は巻き込まれただけで・・・」
「違うッス!俺達が歓楽街になんて行かなければ・・・」
「遅かれ早かれ奴らは動いていたはずだ。ダンジョンに入れないのにこの街に残っているくらいだからな。それに・・・まあ歓楽街に行きたくなるのも分からなくもない」
「え!?サラ姐さんも?」
「そんなわけないだろ!・・・それなりに話を聞いた事があるってだけだ・・・」
うん、僕も興味はある
でも行く勇気はないけど
「そうッスか・・・あっ!この件はマホとヒーラには・・・」
「言うつもりはない。もし帰りが遅くなった理由を聞かれたら私達と訓練をしていたと言えばいい・・・ヒーラの件もあるしな」
そっか・・・ヒーラは・・・ってサラさんもだけど、シークスに対してトラウマみたいのがあったよな。サラさんは克服したみたいだけどヒーラはどうか分からないし・・・言わないのが正解だな
「そうッスね・・・でも軽率でした・・・まさかシークスが残っているなんて・・・」
「この街を出たという情報がなかった時点で警戒するべきだった・・・まさか歓楽街の用心棒をしているとはね」
「やっぱりまた・・・仕掛けて来ますかね?」
「ダンジョンならともかく街中では大っぴらには仕掛けて来ないだろう・・・だが歓楽街は別だ・・・あそこはこの街の兵士でさえ全容が掴めていないらしいからな。行方不明になっても捜索の手が届かず死亡したか街を人知れず去ったと判断されかねない・・・それでも行くのなら止めはしないが・・・」
今回の件で懲りたのかケンとスカットは同時に激しく首を振った
歓楽街か・・・手前はただの飲み屋で奥に行くにつれて怪しげな店になると聞いたけど・・・怪しげってなんだろう?
「・・・ローグももしかして歓楽街に興味が?」
考え事をしていたらいつの間にかサラさんが僕を下から覗いていた。なんだか少し心を読まれた気分
「そうだな・・・興味がない訳でもない。進んで行こうとは思わないが、な」
「もしかして・・・どのようなお店があるかご存知・・・」
「ない。サラは知っているのか?」
「えっ!・・・まあその・・・他の街にも歓楽街はありまして・・・前に聞いた事があるのです・・・どのようなお店があるかを・・・」
「ほう・・・で?どのような店が?」
「・・・スカット」
「ええ!?俺ですか!?」
何故かサラさんはスカットに丸投げした
実はサラさんも知らなかったりして
「あー、えっとですね・・・真ん中くらいの場所までは楽しく女の子と酒を飲む店でして・・・奥の方に行くと・・・えー、金を払えば女の子とヤレる店がちらほらと・・・」
ああ、なるほど・・・サラさんが説明を丸投げする訳だ・・・・・・マジで!?
何それいいの?そんな事して・・・だってそういうのって好きあった人同士が・・・お金!?マジか・・・・・・・・・マジか・・・
「ローグ?」
「あ、いや・・・そういう世界もあるのだな。まだまだ世界は広い・・・」
《エロウ》
黙れダンコ
何とか誤魔化したがこのままだとボロが出そうなので早々に解散させた
だって仕方ないじゃないか・・・そういうことに興味が湧く年頃なんだから──────
「・・・シークス・・・」
「よせ、ヤット・・・今は話し掛けるな」
4人がゲートに入った後、しばらくしてゲートが閉じた
その閉じた場所をいつまでも見つめているシークスにヤットが話し掛けようとするがそれをサムスが止める
全員がAランクノパーティーではあるが、その中でシークスは別格・・・パーティー内ではシークスを怒らせない事が不文律となっている
今、シークスに話し掛けるのはその不文律を破る事になる
「ハア・・・参ったな・・・で?君は何の用?くだらない内容だったら殺すよ?」
「へ?俺何も・・・」
「ヤット!お前じゃない!・・・路地だ!」
サムスが叫ぶとシークスを除く3人が一斉に路地を見る
すると暗闇からこの場に似つかわしくない服装の男が現れる
「失礼した・・・声を掛けようかと迷っていてな」
「僧?・・・坊さんが何の用だ!」
「・・・お主には話しておらぬ。拙僧は『ダンジョンキラー』ことシークス・ヤグナー殿に話し掛けておる・・・木っ端は黙っておれ」
「なっ!?てめえ・・・」
作務衣のような服装をした男はシークス以外興味ないと一瞥もせず言い放つ
その言葉を聞き殺気立つ3人
だがシークスだけは静かに男を見つめ冷静にその実力を測る
「へえ・・・ボクに?さっき言ったの聞いてた?」
「無論・・・シークス殿にとってくだらない内容などではないかと・・・拙僧の名はブル・エーガイス・・・組合『ブラックパンサー』のメンバー・・・」
「『ブラックパンサー』?ああ、新しく出来た組合か・・・なに?もしかして勧誘?それがくだらなくないとどうして思ったの?」
「聞いて下されば必ずやご納得頂けるかと・・・このような場所で燻っているよりは遥かにくだらなくはないか・・・っと!」
ブルが言い終わる前にシークスが動く
先程ケンに食らわせた神速の上段蹴り・・・シークスは倒すつもりで放った蹴りだったがブルは難なくその蹴りを受け止める
「これはこれは・・・聞きしに勝るやんちゃぶり」
「やんちゃって・・・まあいいや、少し気晴らしに体動かすの手伝ってよ・・・生臭坊主──────」




