94階 路地裏の決闘
店を出てすぐ近くの路地に入るとそれなりに広い空き地があった
そこにはシークスの仲間であるヤット、サムス、レジーが待ち構えていた
「ここはボク達の運動場として使わせてもらっててね・・・ほら、運動しないと体が鈍っちゃうでしょ?」
「・・・」
暗に未だダンジョンに入れない事を言ってくるシークスにケンは何も返せずにいた
「そんなに警戒しないでくれよ。君達を責めているんじゃない・・・ただね・・・ダンジョンナイト・・・アイツは許してはおけない」
「さ、逆恨みじゃないか・・・ローグさんはっ!?」
「ケン!」
ケンは一瞬何が起きたのか理解出来なかった
突然視界が揺れ、気付いた時には倒れていた
駆け寄るスカットがケンを起こそうとするのを背後から見ていたシークスが呟く
「ローグ・・・ローグか。まあ名前なんてどうでもいい・・・君達が知っている事を話してくれないか?」
「くっ・・・一体何をした・・・」
「何をってお前・・・蹴られたんだよ!ダメだ・・・俺達じゃ・・・太刀打ち出来ねえ・・・・・・ケン?お前・・・」
スカットに言われて初めて蹴られた事を知りショックを受けるケン・・・だがすぐにスカットを見つめボソッと一言伝えるとゆっくりと立ち上がる
「・・・こんな・・・歓楽街の一番奥の路地に連れ込んで・・・何を聞きたいと思ったらローグさんの事か・・・素直に俺達が言うとでも?」
「うーん、まあ君達がどれくらいローグの事を知っているか分からないけど大した情報は持ってないと思ってる。だからちょっとした憂さ晴らし?ダンジョンに入れないとさ・・・ストレスが溜まるんだよね」
「それで・・・俺達のどちらかを殺すって事か・・・」
「そうそう・・・1人生き残ってれば十分・・・人質にしておびき寄せるも良し、調教して寝首をかくのでもいいかな・・・まっ君達じゃいくら調教しても無理か・・・」
「もしかして俺達を捕まえようと店で張ってた?」
「・・・偶然だよ偶然・・・ボクがたまたまあの店で用心棒しててね・・・暴れる客を押さえようとしたら君達だっただけ・・・さて、サービスタイムは終了・・・どっちが答えてどっちが死ぬか決めてくれるかな?」
「2人とも生き残る道は?」
「サービスタイム終了って言ったよね?次質問したら指もぎ取るよ?」
「・・・!」
「ケ、ケン・・・」
この男シークスはやる・・・それを知っているケンはすぐさま口を噤んだ
そして頭の中でどうやったら2人共生き残れるか考えるが・・・何も思い付かない
玉砕覚悟で戦うなんてありえない・・・瞬殺されて終わりなのは目に見えている
逃げる・・・隙などない
なら取るべき行動は・・・
「俺達の知っている事は全て話す・・・します。だからどうか生かしてくれ・・・下さい」
質問になりそうな言い方は避けて慈悲を乞う
だが・・・シークスには通じなかった
「まだ分からない?ボクは決めてくれと言ったんだけど・・・もういいや、ボクが選んで・・・」
「俺を殺してくれ!」
「ス、スカット?」
「ほう・・・潔いいな・・・じゃあ君を殺すとしよう」
「ただし!痛くしないでもらいたい!・・・本当は死にたくない・・・死にたくないけど・・・ああなんでこんな店に来ちまったんだ・・・超絶可愛い子が相手してくれたら後悔しなかったのに・・・クソッタレ!」
「ハハッ、それは残念だったね」
「・・・・・・おかしい」
「あ?」
スカットが自ら進み出て死を覚悟する中、ケンは違和感に気付き顎に手を当てる
「何がおかしいって?」
「・・・店に入る前にスカットが言ってた・・・この店は沼だって・・・一度入ったらまた来たくなってしまう・・・けど俺達に宛てがわれた女性はとてもまた来たくなる人ではなかった。1人だけならまだしも2人とも・・・偶然じゃなくてワザと・・・そうなるとシークス・・・お前と店はグルって事になる」
「たまたま偶然君達がハズレを引いただけ・・・てか、グルだったとしたらどうだっていうんだい?」
「もしグルだったとしたら・・・店が犯罪に加担した事になる」
「・・・犯罪だって?」
「確かにたまたまハズレだったかもしれない・・・返金を求めたのもダメだったかも・・・でも暴力を振るわれるような事じゃない。つまりお前は犯罪を犯した・・・もし店がそれに加担していたとしたら・・・組織ぐるみの犯行って事に・・・」
「ハア・・・今から殺される奴が何をとち狂ってんだか・・・いいか?一言言ってやる・・・『それで?』」
「・・・認めるのか?」
「そんなに死にたいなら教えてやるよ。ボクが店長に依頼してお前達の誰かが店にやって来たら教えろと言っといた。歓楽街全ての店にだ。でもなかなかお前達は来なかったが間抜けな2人がとうとう来たって訳だ・・・これで満足か?」
「なぜ俺達を・・・」
「決まってるよね?ダンジョンナイトとサラ・セームン・・・2人を殺すため。ただダンジョンには入れないし君の言う通り街中で殺してしまえば国に追われる事になる・・・ただこの歓楽街は色々と便利でね・・・人が1人や2人消えたところで誰も気にしない・・・操作の手が及んだところでその時には深い土の中か燃やされて炭になってるって訳だ・・・どっちがいいか教えといてくれよ。最後の希望くらいは叶えてやるからさ」
「・・・1人は生かしてくれるんじゃなかったのか?」
「だから言ったろ?死にたいなら教えてやるって・・・まあどっちにしろ生かしておくつもりはなかったけど・・・お前達をエサに残りの2人・・・マホとヒーラだっけ?そいつらを誘き寄せてお前達にしようとしていた事をする事にしたよ・・・女の方がこいつらも喜ぶしな」
「へへ・・・この前やり損ねたしな」「2人とも殺さないでいいんじゃない?店も助かるし」「お、俺が一番だからな!」
「下衆共め・・・」
「言ってろ。せっかく生きるチャンスだったのに自ら不意にしたバカが・・・」
「・・・お前らみたいな下衆共を道連れに出来るんだ・・・本望だよ」
「なに?」
ケンは懐から何かを取り出すとシークスに見せた
淡く光る石・・・照明などで使われる魔光石のように見えた
「なんだその・・・」
〘久しぶりだな・・・シークス〙
「その声!サラか!?」
〘間抜けは貴様だったな。色々と聞かせてもらったぞ〙
「っ!・・・いつからだ!」
シークスは光る石・・・通信道具から目を離しケンを睨みつける。シークスはこの通信道具がどういう物か知っていた。普段はただの石に見えるがマナを流す事で対になる通信道具と会話が出来る物・・・つまりケンがシークスの気付かないところで通信道具にマナを流したことになる
「蹴られて倒れた後・・・ちょうどスカットで死角になったんでその時に、ね」
「あの時か・・・」
シークスはその場面も思い出し更に次にケンが放ったセリフも思い出していた
『・・・こんな・・・歓楽街の一番奥の路地に連れ込んで・・・』
つまりケンは通信道具の向こうで聞いているであろうサラに今の居場所を伝えていたって事になる。更にシークスが店とグルになりケン達を罠にはめた事も・・・
「サラ・・・君はもしかしてこちらに向かっているのかな?」
〘私がそこまで間抜けだと?同じ過ちは繰り返さない・・・まだ勝てるとは思えないからな〙
「まだ?いずれ勝てるとでも言いたげだね。ダメじゃないかサラ・・・目の前に居ないからと言って強がったら・・・」
〘ダンジョンは単なるお金稼ぎの場所ならそうでしょうね。けど実際は違う・・・ダンジョンに入れる者と入れない者の差・・・『ダンジョンキラー』とまで呼ばれた貴方なら分かるのでは?〙
「チッ・・・その様子だと調教の効果も切れてるか・・・分かったよ・・・今回はこいつらの命を取るだけで済ましてやろう」
〘へえ・・・国を敵に回し更に商会すらも敵に回して生きていけると?〙
「どういう意味だ?」
〘もう少し頭が切れると思ったけど、私の勘違いだったか。私はそちらには向かってはいないが部屋で1人で聞いているとでも?〙
「・・・どこにいる?」
〘さあ?でもケンとスカットにこれ以上何かすれば確実に破滅を迎える事になるのは確かだな。そう言えばギルド長の所にも来ていたぞ?歓楽街を仕切っている商会・・・確かクリット商会だったか?何かあれば教えて欲しいと、な〙
「誰からだ?」
〘自分で考えれば?まあ『街を守りたい』と思っている人だろう?歓楽街はあまりいい噂は聞かないしな〙
「街の兵士か・・・国の犬共が・・・」
〘聞く限りまだケンを蹴ったくらいだろう?そのくらいであれば今ならなかったことにしてやる。けどそれ以上危害を加えるならこちらも手段を選ばない〙
「はっ、脅しのつもりか?今はまだ兵士の所に着いてないのだろう?君の証言で兵士が動いたとしてもここに何も無ければ証拠はない・・・こいつら2人をばらすのなんて1分もかからないぞ?」
〘ふむ・・・善良な国民の私の声を信用するか目をつけられている貴方の言葉を信じるか・・・赤子でも分かると思うがな〙
「賭けてみるか?ボク達が負ければ全てを失うけど・・・賭けが始まった時点で君達は確実に仲間を2人失う事になるけどね」
〘・・・そんなに2人の命を奪いたいのか?何も無かった事にすると言っているのだぞ?〙
「プライドの問題だよ・・・一度してやられてズルズルと落ちぶれて後悔してるんだよ・・・なんであの時とことんやらなかったのかってね」
〘その割には元気そうな声だが?〙
「虚勢だよ・・・本当のところは悔しくて夜も寝られない・・・ダンジョンナイトとサラ・・・お前を殺るまでは、な」
〘ならば直接私に来い・・・相手になってやる〙
「なら来いよ。そうしたら2人を解放してやるよ」
〘・・・〙
「来れないか?そうだよな・・・まだボクに勝てないから来れないのよな。2人の命より自分の命が大事だもんな。あー、恥じることはないぞ?所詮そんなもんだ。お前は部屋でボクに怯えながら震えているといい・・・それか兵士に縋るといい『助けて下さい!怖い人に仲間が連れて行かれて!』ってな。そしたらボク達も君の事を諦めるよ・・・犬に尻尾振る奴になんて興味ないからね」
〘・・・〙
「どうした?早く兵士の所に駆け込めよ!みんなの憧れの的の『風鳴り』さんよぉ!」
風が鳴る
一陣の風がシークスとケンの間を通り抜け2人の距離を開けさせる
シークスは危険を察知し飛び退くと風が吹いた方に振り向いた
「どうやら道に迷ってしまったようだ」
「・・・この嘘つきが・・・」
路地に立っていたのはシークスが破壊したはずの鉄扇を持つサラだった。来ないと言いつつ来てしかも迷ったと白々しい嘘をつくサラを睨み、絞り出すように呟いた
「そう睨むな・・・それで?わたしが来れば2人を解放してくれるのだろう?」
「・・・ああ。もう用済みだ・・・そして君をエサにダンジョンナイトを誘い出せれば・・・」
「その必要はない」
シークスの言葉を遮りサラは後ろを向いた
誰かが歩いて来る
そして姿を現したのは・・・
「なに?・・・ま、まさか・・・ダンジョンナイトォ!!」
夜の闇に仮面とマントをつけた男、ダンジョンナイトことローグが現れた──────




