91階 マナの使い方
マナの使い方を勘違いしている?
また勘違いという言葉に反応してしまったが・・・何を勘違いしていると言うのだろう
「それぞれ自分の適性能力を言ってくれないか?」
「えっ?あ・・・俺から?・・・えっとスカウトで身体能力強化です」
「私は剣士・・・近接アタッカーで武器強化です」
「魔法」
「タンカーで防御力強化でピチピチの16歳!」
エリン・・・要らん情報を・・・
「じゃあ次は俺ッスね!剣士兼タンカー!けど適性能力は武器強化ッス!」
「魔法使いで魔法よ」
「ヒーラーで治癒です」
「スカウトで・・・あれ?なんだっけ?・・・・・・あ、そうそう身体能力強化だ!」
スカット・・・
「私は・・・ここにいる者なら問題ないか・・・スカウトと魔法使いでレンジャーと名乗っていましたが実際はスカウトと近接アタッカーで武道家です。適性で言うと身体能力強化になります」
まあここに居る者は知っているか・・・そう言えばローグには伝えてなかったかな?
「・・・ではここで質問だ。エリン、防御力強化とは具体的にどんな能力だ?」
「えっ、私!?・・・読んで字のごとく防御力強化です」
「ふむ・・・ではジケット・・・身体能力強化は?」
「そりゃあ・・・身体能力強化です」
お前ら・・・
「サラ・・・頼む」
「はい・・・タンカーの防御力強化はマナを使いあらゆるものの防御力を上げる能力です。例えば手や足・・・身に着けている武器や防具の防御力を上げることが出来ます。スカウトの身体能力強化はタンカーや近接アタッカーと違って己の肉体にのみ作用しマナを使って一時的に速度を上げたり力を上げたり出来ます」
「正解だ・・・それが学校などで習う一般的な考え方だ。マホ、魔法は?」
「えっと・・・マナで火や水を作り攻撃するもの?」
「ヒーラ、回復魔法は?」
「マナを使い人を癒す・・・でしょうか?」
「まあ、そうだな。最後にケン・・・近接アタッカーは?」
「武器にマナを纏うッス!」
「そうだな・・・それぞれ得意なマナの使い方がそのまま職業となる。稀に二つの適性を持った者やもっと・・・複数の適性を持った者もいるが基本は一つ・・・」
「そうですね。私も二つ適性があるように思われますが実際は一つ・・・身体能力強化だけです。武道家として戦う時は何とか鍛えた武器強化に身体能力強化を合わせて使う事によってようやく・・・」
やはり適性でないと伸びが全然違う・・・やはり強くなるには武器強化を伸ばすしかないだろうな
「・・・そうだな。適性がないと成長が遅い・・・もし全てを使うとしたらかなりの年月を浪費するだろう・・・今の考え方ならな」
「え?」
今の考え方?でも今言ったのは当たり前の事だし普通なのでは?
「そもそもその考え方は間違っている。それを証明しよう・・・ケン、このダンジョンの20階のボスは?」
「忘れもしない・・・スモークフロッグッス!」
「ではマグ・・・君はスモークフロッグが出すという視界を奪う煙を人間が出せると思うか?」
「いえ」
「なぜ?」
「なぜってローグさん・・・あれって魔物の特殊能力でしょ?出せる訳・・・!?」
エリンがマグの代わりに答えているとローグの周囲から煙が発生する
魔道具!?・・・いやでもこの話の流れから言うと・・・ローグが出してるってこと??
「煙い!なんだこれ!?」
「うわぁスモークフロッグと同じじゃん!」
「見えませんね・・・スカット・・・今私のお尻を・・・」
「ち、違う!慌てて逃げようとしたら・・・」
スモークフロッグと戦った事のあるケン達が少し慌てていた。なるほど・・・確かにスモークフロッグと同じ煙のような気がするな
「もういいだろう。サラ、少し抑えて風を出せるか?」
「はい」
風牙龍扇を全て開きマナを少量流すと煙を散らすべく扇いだ
すると煙は晴れようやく全員が・・・ってスカット・・・お前は・・・
「ち、違う!決して目新しいケツを求めた訳じゃ・・・」
ヒーラから離れハーニアとエリンを目指して歩いていたスカット。とりあえず男連中にボコボコにされる
「・・・気を取り直して・・・ケン、どうだった?」
「いやぁまんまスモークフロッグの煙ッス!一体どうやって出したんッスか?」
「君達の言う『魔法』を使っただけだ」
「『魔法』?そんな魔法は聞いた事が・・・火魔法です?それとも水?風と土は違うような・・・」
「マホ・・・魔法はマナで火や水を作るのではない。マナを『変化』させているんだ」
「変化?」
「そうだ。魔法使いは四属性の火、水、風、土をマナで作り出すとされているがそれは間違い・・・イメージしやすいように考えられた簡単に魔法を出す方法が概念として残りそれが当然となってしまったのだ」
「えっと待って下さい・・・つまり本来なら魔法使いはみんな今みたいな煙を出せるのですか?得意な属性なんて関係なく・・・」
「その通り・・・イメージ出来れば得意不得意など関係ない。必要なマナの量、明確なイメージが必要になるが修練すれば誰でも出せるだろう。煙だけではなく魔物が出せる特殊な能力は・・・魔法使いのみならず全ての人間が出せる可能性を持つ」
それはさすがに・・・でもローグが言うんだし・・・
「魔法使いは『変化』と言ったが他の職もそれぞれ違う。回復魔法は治癒ではなく『再生』近接アタッカーは『操作』スカウトは『強化』タンカーは『強度』・・・そして適性という言葉は本来正しくない・・・単純に得意不得意なだけだ」
「得意不得意・・・全て使えるけど不得意だから伸びにくいってことッスか?」
「不適性ではなく不得意・・・だから成長の度合いに差はない。要はスタート地点が違うだけ・・・ただ勘違いするな?1から始めるのと10から始めるのでは差を埋めるにはかなり時間がかかる・・・それに自分に合ったスタイルでなければ使い勝手も違ってくるだろう。だから私がおすすめするのは今の得意な能力に合った力を更に伸ばす能力を鍛える事だ。サラがスカウトから伸ばして武道家になったようにな」
私の考え方は間違ってはいなかったんだ・・・スカウトとして利用されるだけが悔しくて・・・風牙扇を手に入れても慢心することなく鍛えようと思った時、私はスカウトの能力をどうやったら伸ばせるか考えた
身体能力強化・・・それを活かすには魔物にダメージを通す事が出来る武器強化が良いと思ったから・・・でもそれが強化と操作だったなんて・・・
「あ、あの・・・近接アタッカーのやつ間違ってないッスか?『操作』って言われてもピンと来ないんッスけど・・・」
「マナを操作し武器に纏わせる・・・マナを操作し相手にぶつける・・・直接マナを操るのに長けていると思わないか?」
「う、うん?・・・そうなの・・・かな?」
「今まで武器強化と思っていたのだ・・・受け入れ難いのは仕方ない。だが武器強化と思っていると成長は止まるぞ?かの剣聖は大地を斬り遠くの山を砕いたらしい・・・武器を強化してそんな事が出来ると思うか?」
「いや・・・大地はともかく遠くの山は・・・そうか・・・剣気と並ぶ技の聖光・・・それってマナを放つ技だったのか・・・」
ケンは1人でブツブツと言いながら考え始めた。確かに言われてみれば剣士の中で最高峰と言われていた剣聖は剣気を飛ばしていた・・・それが何なのか分からなかったが・・・剣気・・・つまりマナを飛ばす・・・
「あの・・・組合長が言ってた『シールドバッシュ』を会得するには強化をって言ってたのは・・・」
「そうだ。『シールドバッシュ』は盾の強度を高め自らの肉体を強化し行う技・・・盾の強度が上がっても本人の力が強化されてなければ硬い盾をただ当てるだけになってしまうからな」
「ほっほーなるほど・・・確かに普通より力が強いと言っても所詮は乙女・・・魔物のぶっとい足を倒すに至らなかったのはその為か・・・」
「組合長!俺が囮するのに鍛えた方がいい能力ってありますか?」
「この前のような戦いをするなら・・・そうだな・・・・・・変化だな。武器の扱いを覚える方が楽かも知れないが変化を覚えれば色々と臨機応変に動けるだろう」
「変化・・・やってみるか・・・」
「先生!」
「先生!?・・・なんだハーニア」
「私はやっぱり剣士として強くなりたいんですけど他に覚えた方がいい能力ってあります?」
「いや・・・剣士として強くなりたいのなら操作を極めた方がいいだろう。他の能力を鍛えるのはあくまで戦術的幅を広げるだけ・・・例えば剣聖が操作の能力を100まで鍛えていたとしよう・・・もしハーニアが操作の能力を80まで鍛えて他を20鍛えたとしても剣聖には・・・敵わない」
「なぜです?」
「極めたものの強み・・・とでも言うのかな。『何でも斬れる剣』と『ほぼ完璧に斬れる剣と普通の盾』を持った者が戦ったらどうなると思う?」
「・・・えっと何でも斬れる剣は・・・ほぼ完璧に斬れる剣も普通の盾も斬れちゃうから・・・『何でも斬れる剣』を持つ人・・・そっか・・・それが極めたものの強み・・・」
「今のは極端な例だけどな。学校での教えが間違っているとは言えない・・・適性を極めれば剣聖のような者が生まれることがある・・・かの有名な『至高の騎士』のように・・・ただ残念ながら生まれ持った限界はそれぞれ違う。得意であっても誰しも極められるものではないのだ。だから限界を感じたら別の能力を鍛えるとまた別の道が見えてくるはずだ」
「そっか・・・学校では在学中に限界を迎える人なんてほとんどいないから教えようがない・・・教えられるかもしれないけどせっかく極められる才能を持ってた人に寄り道させちゃうかもしれない・・・うん!私も学校の時に今の話を聞いてたらタンカーやってないかも」
「そうね・・・エリンの言う通りかも。私は剣士が好きだけどもし剣を覚える前に選択肢があったら悩んじゃってたかもしれないし・・・でも今なら選択出来る・・・極めるか他も伸ばすか・・・そうすれば更に強く・・・なれる!」
これは凄いことを聞いたな・・・いや、もしかしたら上に行けば自然と気付くのかもしれない・・・私が理解せずとも何となくで操作を鍛えたように・・・
スカウトに限界を感じそれでも強くなりたいと思ってすがる思いで鍛えた事が間違ってなかった・・・なんだか救われたような気がする・・・
「自分に足りないものは他の能力で補える・・・それを知っているだけでも今後の考え方は変わってくるだろう。行き詰まったら色々と試してみるのも手かもな。だが得意なものを伸ばすのももちろん大事だ・・・考え慎重に鍛えるといい」
「はい!」
すっかり先生と生徒だ・・・この8人はどれだけ強くなるのだろう・・・気付きを得た者の成長は早い・・・私もうかうかしてられないな
「あのぉ・・・ローグさん・・・つかぬ事をお聞きしますが透明になる方法ってあります?」
男達にボコボコにされたスカットが地べたに倒れながらもローグに質問する・・・しかしそれは・・・
「あるぞ」
「本当ですか!?もし良ければ御教授を!」
「透明になると言うよりは周囲の景色に溶け込むと言った方がいいかな?カメレオンという動物を知っているか?そのカメレオンのように・・・」
「ローグさん・・・それ以上の説明は結構です!どうせ使い道はくだらない事に決まってますから!」
地面に這いつくばるさながらカメレオンのようなスカットの前に女達が全員立ちはだかる
スカット危うし
「いや、違う・・・ほら・・・魔物に襲われたら・・・」
「アンタがそんな能力得たら自分の部屋でくつろげないのよ・・・分かる?」
「・・・な、なんでかな?」
「アンタが部屋の中で堂々と覗くからじゃろがい!絶対に覚えさせないからね!」
「そ、そんな・・・女湯・・・あっ」
「これはこれは・・・先輩冒険者だからと遠慮していましたがまさか風呂屋侵入を企てていらっしゃるとは・・・」
「いやちが・・・まだ・・・」
「まだ?いずれはって事ですよね・・・殺処分でいいのでは?」
「ちょっ、殺処分って・・・ヒーラ助けて!」
「え?今誰か私を呼びました?何も見えないのですが・・・」
「まだ覚えてないから!・・・あっ」
「まだね・・・覚える気満々じゃない!殺処分決定ね!」
「やめろぉ!まだ野郎共にやられて動けないんだ!!ローグさん助けてぇ!!」
さようならスカット・・・愉快な奴だったぞ
こうしてローグの授業?は終わった
身のある話を聞けて満足だが・・・結局服の感想は聞けなかった・・・それだけが残念だ──────




