89階 お買い物
・・・ハア・・・
何度目のため息だろうか
今日は全てが空回り
ローグに始まって最後はジェファーに怒られて終わる・・・唯一の憩いの場である風呂屋に来てもこのモヤモヤした気持ちは晴れなかった
このまま湯船に沈んでしまおうか・・・そんな気持ちにすらなる
ローグに上げて落とされ、勧誘も上手くいかず、そのせいでジェファーに怒られ・・・ん?待てよ・・・そもそもジェファーが持って来た服のせいではないのか?あんなハレンチな服を着ればそれはローグも呆れるというもの・・・あんな格好で勧誘などしてみろ『それこそ風俗街から来たの?』と言われるに決まってる。ローグの言ってたように勘違いを・・・・・・やはりローグはそういう目で私を見てたのだろうか?いや、ローグはそうは言ってなかった・・・でも・・・あー、モヤモヤする!
いっそうのことローグに聞いてみようか・・・勧誘とか抜きにして今日の私の格好はどうだったか
どう答えてくれるかな?
もしかしたら・・・『超似合ってる』なんて・・・いやいや、ローグが『超』とか言うはずないし
『似合ってるよサラ』・・・なーんて言われたらどうしよう・・・結婚?それとも奴隷契約?・・・・・・ハア・・・何考えてんだろう私・・・
聞く勇気なんてないのに妄想だけ膨らませて・・・きっとこんな私を見たらローグも呆れて・・・・・・あれ?・・・・・・光ってる?・・・光ってる!!
いつでも確認出来るように置いていた通信道具が光ってる
これは紛れもなくローグ
えっ?えっ?通じ合ってる?
と、とにかく出ないと・・・
「は、はい」
〘・・・もしかして風呂か?〙
しまった!慌てて出たので水の音が聞こえたのかな?あー、えっと・・・
「今入ったばかりなので大丈夫です!何か御用が?」
何が大丈夫なの!?
よく分からないけどこのまま続けて!
〘そうか・・・少し相談がある。そんなに長くはならないが・・・〙
「はい、どうぞ!」
〘・・・能力についてだ〙
「・・・は?」
〘ああ、すまん。少し省略し過ぎたな。今日ジケット達とダンジョンに向かったのは知っているだろ?〙
「はい。確か失敗したとか・・・」
〘ああ。そこで本来タンカーであるエリンが盾で攻撃をしていた。そもそもタンカーは攻撃には不向きな職・・・だが攻撃手段がないわけではないのは知っているな?〙
「はい。前に組んだことのあるタンカーが魔物を攻撃しているのを見かけたことが・・・」
〘そうだ。タンカーも攻撃する事が出来る。だが、タンカーの能力だけでは魔物にダメージを与えるのは難しい〙
「そうですね。防御力強化がタンカーの能力・・・下級の魔物には武器を持てば何とか通じるとは思いますが・・・」
〘そこだ〙
「そこ・・・と申しますと?」
〘能力についていささか勘違いしているところがある。一般的に広まっている事だから仕方のないかもしれないが・・・〙
か、勘違い・・・勘違い・・・
〘そこでだ・・・私の知る能力について話しておこうと思う・・・これは今まで教わってきた事とは少々異なるから混乱を招く為に少人数・・・ケン達とジケット達・・・それにサラだけに伝えようと思うのだが・・・サラ?〙
「は、はい!聞いてます!・・・えっと・・・異なるとはどのような?」
〘その辺も含めて話す。それでケン達と連絡を取って欲しい・・・今は難しい時期だとは思うが出来るか?〙
「出来ます!ちょうど定時報告が明日の夜訓練所で・・・」
〘ならば私もその場に行こう。ジケット達にもその旨伝えておいてくれ。明日の朝にギルドに行くはずだ〙
「分かりました。それではその旨ジケット達に伝えておきます」
〘あまり長湯するなよ?〙
「は、はい・・・あ、あの・・・」
〘ん?なんだ?〙
「今朝の事なんですが・・・」
〘・・・・・・・・・〙
「あの・・・あの時はジケット達もいて・・・その・・・聞けなかったのですが・・・正直に仰って下さい!あの服はどうでしたか!?」
き、聞いてしまった
しかも最後の方声裏返ってたし・・・
どうなの?どうだったの?お願い・・・聞かせてローグ!
〘・・・そうだな・・・あまり・・・〙
あ、あまり!?
終わった・・・目の前真っ暗・・・
ああーこのまま私はお湯に溶けてお風呂になりたい・・・お湯になってずっと湯船に揺られて・・・
〘あの格好で歩くのはおすすめ出来ないな。好奇な目で見られるような気がするし・・・それは私的にも面白くはない〙
ですよね・・・好奇な目で・・・え!?
「そ、その!どうしてローグは面白くないと!?」
〘・・・またのぼせるぞ?また明日な〙
ああ!?光が消えて・・・えっ!?どういうこと!?
面白くない面白くない・・・私が好奇な目で見られることが面白くない・・・つまりどういうことかと言うと・・・
ローグは私に何かしらの何かがある
?
違う・・・何かを思ってる?
・・・分からない・・・何となく分かったような・・・でも分からない・・・
どうしよう・・・モヤモヤがモンモンに進化したような感じだ・・・
このままでは本当にのぼせてしまう
一旦出よう・・・そして頭を冷やしてから考えよう
ローグが私に何かしらの何と思っているのかを──────
コンコンとドアがノックされる
窓から外を見るともう朝・・・朝!?
昨日は風呂屋から帰って来て冷静になって考えてみた・・・考えてみたけど何も分からなかった
なぜローグは面白くないのか・・・謎のまま気付いたら朝という・・・
コンコン
再びドアが鳴る
私はフラフラとドアに近付きおもむろに開けるとそこにはジェファーが立っていた
「あ、寝てました?昨日ちょっと言い過ぎちゃったと・・・!?何その顔・・・もしかして寝てない?もしかしてもしかして・・・大量組合員ゲット作戦が失敗したから寝れなかったとか・・・」
なによその作戦は・・・ていうかひと目で分かるほど酷い顔してるってこと?
「そうじゃないの・・・気にしないで」
「『そうじゃないの』?『気にしないで』??・・・サラさん・・・本当に大丈夫ですか?」
何かおかしかったかしら・・・
「大丈夫よ。それより何の用?」
「大丈夫『よ』???・・・あ、えっとだから昨日の事で言い過ぎたと・・・」
「それだけ?なら・・・あ、そうそうジェファーに聞きたい事があるの」
「・・・は、はい・・・なんでしょう?」
「『面白くない』ってどういう意味?」
「は?・・・『面白くない』・・・ですか?」
ジェファーも聞かれて困惑顔・・・やっぱり分からないのね・・・
「そう・・・ジェファーでも分からないのね・・・」
「いやいやいやいや・・・分かりますけど質問の意図がいまいち・・・」
「分かるの!?」
「え?面白くないって楽しくないとか不満とか不快とか・・・そういう意味じゃないんですか?」
楽しくない不満不快・・・つまり私が好奇な目で見られるとローグは楽しくなく不満で不快・・・えっそれって・・・
「結婚!?」
「はあ?・・・っと失礼しました・・・でも・・・急に何言ってるんです?」
そう・・・そうよ!ローグはあの格好を通じて他人に見られるのが面白くない・・・つまり楽しくなく不満で不快なの・・・じゃあなんでそんな気持ちになるか・・・それはいわゆるアレよアレ・・・えっと・・・嫉妬?妬み?・・・よく分からないけどその辺よ!私が倒せなかった魔物を他の人が倒したのを見た時に感じるような・・・
って言うことはつまり・・・えっと・・・そう!他人に見られたくないってこと?そうよね・・・多分そう・・・で、昨日の格好はありえないほどハレンチだった・・・その格好を他人に見られたくない・・・自分以外には見せたくない・・・結婚・・・
「えっとサラさん?本当に大丈夫です?」
「ねえ!昨日の服を買った店・・・本当に流行っているの?」
「え、ええ・・・友達が王都で大流行してるって聞いたと・・・でもあの服がかは分からないですよ?あの服は『ブラックパンサー』の組合長が着てたってだけで・・・聞いてます?」
私は今まで服なんて動きやすければって思ってたけど・・・そう・・・そうよね・・・中身が大事とはいえ外見も大事よね・・・でもあの格好はローグの前でしか出来ないし・・・かと言って私が持ってる服といえば動きやすさ重視だし・・・
「服を買いに行くわ」
「・・・もうちょっとよく分からないです・・・とりあえずその話し方・・・やめてもらえます?」
どうやら私は変な話し方をしていたみたいだ
自分でもよく分からない・・・ただこれだけは分かる・・・私には服が必要だ
ジェファーにあの服を買った店を聞き出し、街を歩くこと数分・・・王都でも流行しているという服を扱う店『エモーンルージュ』にやって来た
・・・何とも入り難い店構え・・・希少なガラスを一面に張り、透けて見える店の中には木人形に様々な服を着せて飾っている。中にはあの服も・・・しかし木人形が着るとあまり卑猥ではないな・・・どうしてだろうか?
とにかく私は服を買わねばならない・・・意を決して店内に入ると早速店員が私に目を付けた
「いらっしゃいませ!どのような服をお探しでしょうか?お目当ての服がおありでしたら案内致しますが?それとも服ではなくアクセサリーなどお探しで?」
いきなりの質問攻め・・・そう来るか
「アクセサリーではなく服を・・・そうだな・・・耐火性に優れており頑丈で動きやすい服はあるか?」
「耐火性・・・ですか?失礼ですがどのような時に着られる服をお探しでしょうか?」
しまった!ついいつもの癖で・・・
「いや、普段着を探してる。先程の条件は忘れてくれ」
ホッとした表情の店員・・・そりゃあそうだな。ないものを求められても困るだろう・・・ここはそういう店ではない・・・見た目を着飾る事を主とした服屋だ
「そうだな・・・人目を引く服などあるか?」
見てもらいたいのはローグにだけだが彼の趣味趣向が分からないので一般的に人目を引く服を選ぶ他あるまい
「人目を引く・・・ですか?」
「ああ・・・ないか?」
ん?普通に尋ねたつもりだったがどうやら店員のプライドを刺激してしまったらしい。彼女の背後に闘争本能剥き出しのバウンドキャットが見える
「畏まりました・・・必ずや人目を引く服を選んで差し上げます」
どうやら私は・・・虎の尾ならぬ猫の尾を踏んでしまったらしい──────