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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
91/856

88階 ジケットパーティーVSトロール

逃げるようにサラさんの部屋を出てジケット達とはダンジョンの入口で待ち合わせることにした


なんでも少しだけ準備に時間がかかるらしい


まあ僕はローグとしてはギルドカード持ってないからそっちの方が都合がいいんだけどね


ギルド長の計らいで僕とサラさんは入場料免除になってるけど一応手続きはして欲しいと言われていた。でもギルドカード持ってないからどうするんだろ・・・後でサラさんに・・・いや、やめとこう・・・しばらくはそっとしておいた方が良さそうな気がする



兎にも角にもジケット達とダンジョン入口で合流し、いざダンジョンへ


ジケット達は既に10階に行ったことがあるらしくゲートで瞬時に10階へと辿り着く


道中の魔物を難なく倒して進み、あっという間に安全地帯である待機部屋に到着した


僕はその際一切手を出してない・・・ぶっちゃけ4人でいけるんじゃないか?


「うわぁ緊張して来た!」


「だね・・・組合長がいるって言ってもやっぱり・・・」


「う、む」


「まっ、緊張しないで突っ込んで死んでいくパーティーよりマシって事で。ジケット・・・作戦は前に話した通りでいい?」


「ああ・・・任せておけ・・・んじゃ行くぜ!初ボス戦だ!!」


・・・そっか・・・ジケット達にとってはこれが初めてのボス戦なんだ・・・不安になるのも緊張になるのも当然だ


僕が特殊なだけで普通はこうなるよな・・・あれこれ考えて緊張して・・・それでも勇気を振り絞って挑んで行く・・・


僕はいつの間にか『失敗しても何とかなる』そんな感じで挑んでた


ダメなら逃げればいい・・・でも普通はボス部屋に入る時、生きるか死ぬかだ・・・緊張して当たり前・・・事前に作戦を立てて何度もシュミレートして・・・


「・・・って、行っていいですよね?組合長」


「あ、ああ・・・私はギリギリまで手を出さないから好きなようにやってくれ」


「おっす!・・・寝てるかと思ったら起きてた・・・うっしゃ気合い入れて行くぞ!!」


「ハイハイ、突っ込み過ぎないようにね」


「おう!」


「倒れてくれればいいけどね・・・ぺちゃんこは勘弁!」


ジケットが扉を開ける


すると部屋の中央で待ち構えるトロールがジケット達の存在に気付き地面に立てていた棍棒を握りしめた


「うっはぁ、でっかい棍棒・・・やめとくか!」


「ひよってないで行くよ!作戦通りジケット死んで来な!」


どんな作戦だよ


けど本当にジケットは死にに行くかのようにトロールの前に躍り出てスーッと息を吸い込むと・・・


「オラ!このウスノロ!悔しかったら攻撃してみろ!」


まさかの挑発


いくらジケットがスカウトで素早いからと言ってアレは自殺行為だぞ!?


「あらよっと・・・うぁ・・・地面割れてんじゃん・・・」


トロールがジケット目掛けて棍棒を振り下ろすと彼はひらりと躱し事なきを得る。が、棍棒が地面を叩き割った瞬間、その表情に余裕がなくなった


「ほら!動かないと本当に死ぬよ!」


「わ、分かってるって!」


ハーニアの激でようやく我に返るジケット


すると今度はトロールの周りをぐるぐると回り始めた


そこでようやくジケット達がやろうとしている事に気付く


ジケットは囮・・・本命は・・・


「エリン!今よ!」


「はーい!・・・どっこいしょ!」


ジケットに気を取られているトロールの背後からハーニアとエリンが同時に襲いかかる


ハーニアは右足を斬りつけ、エリンは盾を持ち左足にタックルをぶちかます


これで倒れてくれれば・・・だが、トロールは少しよろけた程度で倒れはしなかった


「マグ!」


「風刃!」


振り返り足元にいるエリンを睨みつけるトロール


ジケットはすぐにマグへと合図を送ると準備していたマグがトロール目掛けて風魔法を放つ


「グアアアア!!」


顔面に風の刃をくらい仰け反るトロール


再び好機が訪れ2人は同時に攻撃を加えた


今度は倒れる──────と思ったが、トロールは何とか踏ん張りその場に残るエリンを見下ろす


「・・・か、壁のシミ・・・」


んな事言ってる場合じゃないって!


どうする・・・助けるか?・・・いや!


「グ?」


「痛えかウスノロ・・・てめえの相手は俺だボケェ!」


背後から忍び寄りトロールの足に短剣を突き立てる


当然トロールは傷付けた者をターゲットに


「ジケット!逃げて!!」


「当たりま・・・え?」


短剣を引き抜き逃げようとしたジケットだったが、短剣の刃はトロールの筋肉に阻まれ抜けない


抜きながら逃げようとしたジケットの手から短剣がすり抜けその勢いでジケットはバランスを崩し倒れてしまった


「あ・・・え?・・・マジかよ・・・」


ゆっくりと近付くトロール


慌てて立ち上がろうとするが足に力が入らないのかなかなか立ち上がれない


エリンがその状況を見てすぐに向かうが・・・恐らく間に合わないな・・・


トロールは既に棍棒を振り上げ倒れているジケットを見下ろしていた


「いやあああ!!ジケット!!」


「むう!!」


「まだ・・・間に合う!!」


高く持ち上げられた棍棒はジケット目掛け振り下ろされた


すんでのところでエリンが間に合い盾を構えるが・・・今のエリンの盾の強度ではあの棍棒の威力は耐えられないだろう


残念だけど・・・実力不足だ


「よせ!エリン!!」


「このパーティーの・・・タンカーは私だ!!」




「・・・あれ?」


「残念だが失敗だ。後はこのまま立て直して続けるかもう少し実力をつけてから挑むか・・・どうする?」


いつまで経っても衝撃が来ない事に違和感を感じたエリンが顔を上げる


目の前には棍棒・・・だけどその棍棒は完全に停止していた


その様子を見てへたり込んだエリンはようやく僕が後ろに立っている事に気付き、顔を上げて棍棒を指さした


「これって・・・空魔陣?」


「のようなものだ。さて、どうする?」


空魔陣だけど空魔陣じゃないと言わないと・・・


空魔陣は空中にマナを展開し強度を上げるタンカーの魔技・・・ローグは一応回復魔法も使える魔法使いみたいな設定だからタンカーが使える魔技を使えるのはおかしいんだよな


それか『魔道具技師』で通すか・・・この空魔陣も魔道具の能力ですみたいな・・・


「すげぇ・・・棍棒を止めちまった・・・」


「凄いけど・・・目の前にあると怖いのだけど・・・早く決めてくんない?リーダー・・・」


「あ、悪ぃ・・・えっと・・・撤退しよう!ここはまだ俺達にゃ早い!」


決断が早いな。僕だったらもう少し悩んでしまうだろう


「ではコイツは私が・・・」


空魔陣を何とか壊そうと棍棒に力を注ぐトロール


僕はエリン達をトロールから遠ざけると仕切り直すようにトロールの目の前に立ち空魔陣を解いた


力が入ったままだったトロールは急に抵抗がなくなり前のめりに倒れそうになったがぐっと堪え、新たな敵である僕を見つめると唸り声を上げる


ジケット達の作戦は悪くないと思う。なぜ成功しなかったのか・・・単純に力不足だろうな


トロールは目の前に立つ僕を睨みつけ、棍棒を振り上げながら動き出す


僕はわざとトロールに近付き攻撃を誘発するとギリギリでそれを躱した


地面が揺れる程の一撃・・・でも当たらなければ怖くない


そして、足元に潜り込むと剣の柄を握り纏わせる


剣気抜剣


右足を膝の下くらいから切断しよろけて倒れたトロールの前に立ち剣を振り上げる


顔を上げたトロールと目が合った


まだまだやれると両手で地面を掴み立ち上がろうとするが・・・


「剣気一閃」


首を刎ね勝負を終わらせた──────



「強え・・・一体いくつ魔技を・・・」


「とりあえず話は後だ。どうする?」


「どうする?って・・・何が・・・」


「トロールの魔核を取った後・・・下に降りるか戻るか、だ」


ボスは倒した。これで11階への階段を降りる事は可能・・・もし降りれば今度から11階のゲートを使ってダンジョンを進む事が出来る。けど、戻ってしまった場合、またトロールと対戦しなくてはならない・・・でもジケット達が選んだのは迷わず『戻る』だった



トロールの死体から魔核を取り出し袋にしまうとジケット達は来た道を戻った


そして待機部屋に全員戻ると再び扉は閉まり次の冒険者を待つ


今頃スラミが予め創っておいたトロールを配置している事だろう


「あークソ!ダメだったか!」


「命があっただけ儲けものね・・・私が一撃で足を斬り落とせれば・・・」


「それを言ったら私もだよ・・・盾で倒せると思ったんだけどなぁ・・・力が全然足りなかった・・・」


「風刃では目眩しにすらならなかった。もう少し気を引ければ結果も変わったはずなのに。しかも次どうすれば良いか迷ってしまい何も出来ずにいた。事前の打ち合わせ通りに進まなかった時の次の行動が今後の課題だな」


マグが喋った・・・って、当たり前か


普段はものぐさでなのかほとんど喋らないからビックリしてしまったよ


みんなが反省点を述べているが僕にも反省点がある


それはトロール戦の事ではなくダンジョンの事


10階で戦うジケット達を見る限りだと全く危なげなかった・・・なのにトロールに通用しなかったのは僕の調整不足だ


段階を踏んで強くなった冒険者がボスに挑む・・・それが理想なのに10階の強さとボスの強さがあまりに掛け離れている・・・道中に出る魔物を少し調整する必要があるな


「あの・・・組合長?どうでした?俺達の戦い方は?」


考え事をしているとジケット達が僕の事を見て尋ねてきた


戦い方って聞かれてもパーティーでの戦いなんて経験ないし何とも言えない


サラさんならこんな時ズバッと指摘したりアドバイス出来たりするのだろうけど・・・ああ、みんなの目が痛い・・・そんな期待を込めた目で僕を見ないでくれ


《考え方は悪くないけど準備不足は否めないわね。スカウトを囮にするなら短剣では話にならないわ。大型の魔物と対するって分かってたんだから囮なら囮らしく長物や投擲用の武具を用意すべき・・・もう少し知能のある魔物相手なら言葉でも引き付けられる可能性はあるけどトロールじゃバカにしても攻撃された者を優先してやり返すしね》


ありがとうダンコ・・・よし、それを僕の言葉に変えて・・・


「作戦自体は問題は無い。だが、囮となる者が囮として機能していなかったな。最初から囮になるつもりなら槍や弓など魔物に近付かなくともダメージを与えられる武器を用意すべきだった。トロールのように知能の低い魔物は攻撃して来た者を狙う・・・短剣では近付かねば攻撃を与えられず囮として機能しないだろう」


「そっか・・・だからトロールはハーニアやエリンに・・・」


「そりゃあそうよね・・・普段通りに動かないなら普段通りの武器は使えない・・・スカウトがタンカー役をやるなら武器もそれなりにしないと・・・」


「うむ」


「だね。そうなると私も武器を持った方が良いかも・・・タンカーの防御力強化で硬くしたと言っても所詮は盾・・・打撃には向いてないし・・・」


「適正ではなくとも強化を鍛えて『シールドバッシュ』を使えるようになると楽かも知れないな」


「・・・強化?」


全員の視線が再び僕に注がれる


そっか・・・強化だけだと伝わらないのか・・・


「・・・少し待っててくれ」


そう言うと僕は部屋の隅に移動し小声でダンコに話し掛ける


「ねえダンコの言ってた話をみんなにしていい?」


《話って?》


「ほら・・・色とか能力の言い方も独特な感じで僕に話してくれた・・・」


《ああ・・・別にいいわよ。人間が勝手に勘違いしてるだけだし秘匿な情報って訳でもないし》


「ありがと・・・でも、それなら・・・」


知り合い全員に伝えておいた方が良いかも・・・今後話をする時に混乱しなくなるし。サラさんに伝えれば僕・・・ロウニールにも教えてくれるだろうから口が滑っても平気になるし・・・


「待たせた。少し長い話となりそうだ・・・それに他の者にも聞かせたい・・・時間と場所を指定するからその時に話そう」


「??・・・はい・・・」


何の話だ?みたいな顔をしながらも頷くジケット達


いきなりそんな事言われてもそりゃあそうなるわな


さて、みんなに話すとなると僕が完璧に理解しておかないと・・・今日は徹夜でダンコ先生の授業になりそうだ──────

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