表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
89/856

86階 同期会

「え?満席?」


「ごめんなさい!またお願いします」


今日は月一度の『同期会』


いつものようにギルドで集まり隣の『ダンジョン亭』に向かうと満席となっており断られてしまった


確かに人がいつもより多い・・・まあ多い原因は分かっているのだけど・・・



「冒険者が大勢来た?」


ジケットは一瞬驚き、その後納得したような表情をした


店の中は見た事のない冒険者で溢れていたからだ。それにダンジョン亭はギルドのすぐ隣・・・街に不慣れな冒険者が寄りやすいっていうのもあり冒険者の増減に一番影響を受ける店だろう


「うん。今日は特に・・・」


門番の仕事に就いていると昼頃に冒険者が大勢やって来た。その数なんと100人以上!通常なら多くても2パーティーから3パーティーくらいなのに20パーティー以上来た事になる


「なんでそんな急に・・・もしかしてどこかのダンジョンが閉鎖した?」


「来た人全員に聞けた訳じゃないけど、どうやら違うみたい。なんでも噂が流れているらしいんだ・・・『エモーンズのダンジョンは冒険者にとってランクが上がりやすく稼ぎやすい』って」


他のダンジョンをひとつしか知らないから比べようがないけど、カルオスの人喰いダンジョンよりはそうかも・・・あそこは常に食われるかもって恐怖心が付きまとうから精神的に疲れて連続で入りづらいし・・・


ランクはDランクまでは魔核の売った量で決まるらしいから連続で入れた方が当然魔核の量も多くなる。それに各階にゲートがあるから無駄な時間も掛からないし


そう考えると確かに他のダンジョンより上がりやすいかも・・・それともしかしたらふたつの組合の組合長がほぼ同時くらいにランクを上げたのもいい宣伝になったかも


サラさんはAランクとなりニーニャさんはBランクになった・・・なかなかなれないAランクと熟練者と言われるBランクの誕生は当然人の目を引く・・・それに加えて良い噂が流れれば来てみたいと思う冒険者が増えるのも必然だろう・・・


「確かになぁ・・・ここのダンジョンは何かと便利で稼ぎやすい。出来たばかりだから他のダンジョンよりも新規が入りやすいってのもあるしな」


「私達が行った所なんて最悪よ最悪・・・ギルドじゃジロジロ見られるし組合からはGランクはお断りとか言われるし・・・やっとこさFランクに上がって組合に入っても誰も助けてくれないし・・・その点エモーンズは天国よ、マジで!」


「うむ」


「魔物もやたらと過疎ってたしね。入場料と宿代、それにその日の食事代を稼ぐだけで精一杯・・・休みなんて取れないもんね。ここならもし実家がなくても余裕で2、3日休んでもいいくらい1日で稼げるからそりゃあ人気出るはずだわ・・・けどどうやって知ったんだろうね」


「うーん、誘致はしてるけどあくまでも定住者向けだし冒険者ギルドでも冒険者は募集してなかったわ。この街を去った冒険者が広めてくれたのかしら?」


ペギーちゃんの言う通り領主は定住者を通じて求めて誘致しているが冒険者は求めていなかった。僕も募集なんてしてないし・・・となると冒険者が自発的に広めてくれた事になるが少し引っかかるんだよな・・・そんな良い条件のダンジョンから離れた冒険者がわざわざ別の冒険者に薦めるか?


理由があってこの街を離れる事になったとしても宣伝みたいな事をするか甚だ疑問だ・・・僕なら冒険者が殺到しないように黙っておく。また戻って来た時に冒険者が溢れてたら嫌だからな


それに急に大勢で来るのもおかしい・・・噂って少しずつ広まるものなのに100人もの冒険者が『よしエモーンズに行くか』ってなる?ならないだろ普通



空いてる店を探し歩きながら色々と考えを巡らせているとジケットが比較的空いている店を見つけてその店になだれ込む


ようやくひと息つけて今月の同期会が始まった



「1ヶ月お疲れさーん!」


「お疲れー」


「おつ」


「今月も稼がせてもらいました!ダンジョンには感謝!」


「結構頑張ってたもんね。羽振りが良くて羨ましい」


「僕とペギーちゃんはいくら忙しくても固定だしね・・・まあ安定はしてるけど・・・」


たまに仕事中にジケット達を見てるけど結構な頻度でダンジョンに潜ってたな・・・ジケット達ってイケイケに見えて堅実な進み方をしている印象・・・やっぱりパーティーにヒーラーが居ないから慎重になってるのかな?


「そろそろ10階のボス・・・トロールに挑もうと思うんだけど・・・やっぱ不安だな」


「そうよね・・・トロールの皮膚って硬いんでしょ?私の剣技が通用しなかったらマグの魔法に頼るしかないし・・・」


「うーむ」


「多分私防げないよ?吹っ飛ばされて壁のシミになる自信しかない!」


「組合で助っ人を頼んだ方が良いんじゃない?受付してるとやっぱり10階が多いから・・・その・・・帰らない人が・・・」


10階ボスのトロールは動きが遅いとはいえ攻撃力はかなり高いからな・・・ジケットは短剣を手に持ち魔物の背後に回り込み急所をつくタイプ・・・でもトロールの急所って頭だからそこを狙うとしたら相手を転ばせないといけない。転ばせようとしてもハーニアの剣技だけじゃ厳しいかもな


マグの魔法で・・・って手もあるけどマクガーの得意な魔法は風魔法・・・サラさんの持つ風牙龍扇並とは言わないまでもそこそこの威力の魔法を出せないとビクともしないだろうし・・・


「助っ人か・・・出来ればこのパーティーでやりたかったけどな・・・それか加えるとしても知り合い・・・1人トロールを簡単にぶっ飛ばせるような知り合いは居るんだけど・・・」


ん?ジケット達の視線が僕に集中している・・・もしかしてその知り合いって・・・僕?


「む、無理だよ・・・その・・・門番の仕事もあるし魔物と戦った経験も・・・少ないし・・・足手まといにしかならないよ・・・僕なんて」


手伝ってあげたいのは山々だけどここのダンジョンでは()は冒険者になれない。だって僕は・・・ダンジョンマスターだから・・・


「そうよジケット。いきなり10階を手伝ってなんて厳し過ぎる」


ハーニア・・・実は上級魔物と戦ってますって聞いたらびっくりするかな?


「だな」


マグ・・・君の魔法よりも強い魔法をマナを流すだけで使える道具を作れるって知ったら欲しがるかな?


「でも惜しいね・・・あの破壊力があればトロールが壁のシミになること受け合いなのにね」


エリン・・・多分本気を出せば壁のシミになるどころか跡形もなく消しされると思うよ


「ここのダンジョンには頑なに入らないもんね。ロウニール君」


ペギーちゃん・・・しょっちゅう・・・と言うか毎日入ってます


「そっか・・・どうすっかなぁ・・・『ダンジョンナイト』に知り合いなんてそんな居ないしサラさんにお願いするような階層でもないし・・・全く知らない奴だと連携がなぁ・・・」


「ヒーラーを入れるなら連携考えなくて良くない?傷付いたら治してもらうだけだし」


「うむ」


「でもよ?そいつがとんでもないクソ野郎で『治して欲しけりゃ乳揉ませろや』なんて言ってきたらどうする?」


「エリン・・・どんだけ想像力豊かなのよ・・・」


サラさんなら手伝ってくれって言えば低層階でも手伝ってくれると思うけどなぁ。ローグが頼めばそれこそ二つ返事で・・・ん?


「ねえジケット・・・いつ10階に挑むつもりなの?」


「そりゃあ・・・準備が整ったら?まだ助っ人を頼むかどうかも決まってないし・・・」


「それならさ・・・サラさんに相談してみれば?」


「いや、だからサラさんには頼みづらいって言うか・・・」


「サラさんに助っ人を頼むんじゃなくてサラさんに紹介してもらうんだよ・・・助っ人を」


「・・・そうか・・・サラさんの紹介なら下手な事はしないはず・・・」


「そうね。もし変なことしたらサラさんに何されるか分からないし・・・」


「うむ」


「それいいね。やるじゃんロウニール!」


「サラさんが実質組合長みたいなものだし組合員の事を考えた人を選んでくれるはず・・・うん、それなら安心ね」


実質組合長・・・ははっ・・・その通りです



同期会はその後も続き、色々な事を話した


定例化して近況報告会みたいになってるけど僕だけ変化がないのが寂しい・・・言えないだけでかなり変化しているのだけどね


解散した後、僕はその足である準備を開始する


ヘクト爺さんの家を訪ね急遽明日休みをもらうと司令室に戻り通信道具を取り出す


そしてマナを流し返信が来るのを待った



〘ローグ?〙


「夜分遅くすまない。今大丈夫か?」


〘え、ええ・・・〙


寝ていたのかな?少し動揺しているような・・・


「明日の朝そちらに行っても構わないか?少し話がしたいのだが・・・」


話をしたいっていうのはサラさんの所にいる口実・・・実際はジケット達がサラさんに相談に来た時に僕が居る為だ


僕がジケット達の助っ人になる事は出来ない・・・けど、ローグなら助っ人になれる・・・相談に来たジケット達に『私が共に行こう』と言えば万事解決・・・ボス部屋では途中参加しないと決めてるし万が一を考えるとそれが一番安心出来る


〘え!?明日の朝ですか!!??〙


あれ?もしかして用事があったかな?


「都合が悪いか?」


〘い、いえ!・・・その・・・そうですね・・・組合の事なので話そうと思ってたのですがなかなか・・・〙


「何か問題が?」


〘問題というか・・・会計士のジェファーから先程聞いたのですが・・・今日の日中に大勢の冒険者がこの街に来たそうです。ジェファーの母親がその日の来訪者の統計を取っているようでその母親から聞いたそうなんですが・・・〙


ああ、ジェファーさんのやってた事をお母さんが引き継いだのか


「それで?」


〘えっとですね・・・ジェファー曰く『ここで組合員を獲得しなければ未来はない』と・・・それでその為に・・・『脱げ』と・・・〙


「脱げ?・・・脱げ?」


意味が分からず2回言ってしまった


ジェファーさん何考えてんだ?


〘そのですね・・・ジェファーは必死に考えたらしいのです。どうやったら『ブラックパンサー』に勝てるのか・・・そこで思い付いたのがソレらしいのです〙


ソレってなんだ?


そう思ってた僕にサラさんはジェファーさんの作戦をこと細かく教えてくれた


『ダンジョンナイト』と『ブラックパンサー』の組合の条件はほぼ一緒


差がある部分はサポート面と()()であると


サポート面はすぐにどうにか出来るものではない・・・なら色気を増やす他ないとの結論に至った


〘それで・・・その・・・明日から私の露出を増やしてくれと・・・私もイヤなのですが組合を増やす為なら・・・〙


「そ、そこまでする必要があるか?普通に勧誘すれば良いと思うのだが・・・」


〘ええ・・・私もそう言ったのですがジェファーがどうしてもと・・・それで服まで持参して来て・・・〙


「まさか今・・・着ているのか?」


〘はい・・・何でも今流行りのお店らしく『ブラックパンサー』のニーニャも着てるとか・・・〙


「組合長の・・・そ、それでどのような服なのだ?」


〘それが・・・ありえないほどハレンチな服でして・・・とてもローグにお見せできるような姿では・・・〙


ありえないほどハレンチ!?


なんて耳障りの良い言葉だ・・・ありえないほどハレンチ・・・


「・・・そ、そうか・・・まあ私はそこまでして組合員を増やさなくても良いと思う・・・だがサラは何を着ても似合うと思うから問題がないのなら別に・・・流行りの店と言っていたし・・・着てみるのも悪くないかもな」


何を言ってるんだ僕は!


でも見たい・・・ありえないほどハレンチな服を見てみたい!


〘・・・〙


あっ・・・さすがに怒ったかな?


そうだよな・・・色仕掛けで勧誘しなくても良いって言ってんのに着てみても悪くないって矛盾してるもんな・・・残念だけど諦めよう・・・ありえないほどハレンチは・・・


〘あ、あの・・・この格好で人前に出ていいか・・・ローグが判断してくれませんか?・・・その・・・色々と出ていないか自分ではよく分からないので・・・〙


色々と出ていないか!?


何が!?


何が出ると言うのだ何が!


「・・・分かった。では明日の朝そちらに行くとしよう」


〘・・・はい・・・〙



どうして僕は・・・


通信を終えた後、司令室の椅子に深くもたれかかり天井を見上げた


なんだかとてもいけない事をしようとしているような・・・そんな気がして・・・


《エロウ》


やめて・・・エロと名前を重ねないで・・・


「エロマスター、今日はどうしますか?」


スラミまで!?てかエロマスターってエロのマスターみたいじゃないか!


「そ、そうだな・・・今日は魔物を補充・・・しようかな」


明日を楽しみにしている事を悟られないよう必死に平静を装い、僕は粛々と魔物創りに勤しんだ



一体・・・何が出そうになっているのだろうか──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ