84階 上級魔物
「・・・また飽きずに来たのか人間よ」
「本当流暢に喋るよね・・・倒すまでは何度でも来るさ」
と言うか僕以外来れないけどね
目の前のドラゴニュートにとってはいつも同じ人間で飽き飽きって感じだけど
ドラゴニュートの部屋を作り、一応普通のダンジョンっぽく作ってみた。一応この場所は設定上ダンジョン50階のボス部屋となっている
ただボス部屋の設定はしっかりと考えて作った
『出入り出来るボス部屋』
これは部屋にいるドラゴニュートも承知していた
つまり逃げる事が可能だし、助けが途中から来る事も可能・・・ダンジョンによってはそういう設定にしている所もあるらしい
で、僕は負けそうになると脇目も振らず逃走・・・だって齧られたくないしね
「ならば二度と来れぬようにしてやろう・・・我の糧にしてな」
食べる気満々だ・・・いや、ここでビビったら相手の思うツボだ
「ふぅ・・・手加減してくれると嬉しいんだけど・・・」
「我が手加減してここを通ったとして何になる?弱い者は死ぬべきだ・・・ここを通る資格がないのだからな」
資格があって通ってもお前の背後の扉の先は行き止まりだよ・・・ってそんなこと口が裂けても言えないけどね
ドラゴニュートは強い
上級下位って事だけど中級とは一線を画す
皮膚が硬くダメージがほとんど通らないし、中級魔物みたいに本能で行動するのではなく考えて行動する。前に戦った時なんて足払いしてきて倒された・・・中級魔物では考えられないような『崩し』をしてくる。まるでサラさんと戦ってると錯覚するほどに技術を使ってくるんだ
それに多彩な能力・・・火を吐いたり尻尾を使ったり・・・ダンコの話だと最終的にはドラゴンに変身するらしい
ちなみにドラゴニュートの魔核に刻まれた能力はその変身・・・ケンにあげた剣から盾に『変形』する能力ではなく全く別物に『変身』する能力らしい。うーん、使い道あるかな?
「どうした?かかって来ないのか?」
「行くさ・・・今日こそ勝ってやる!アーステンタクル!!」
先ずは地面から土の触手を生やして拘束・・・と思ったけど土の触手がドラゴニュートに届く前に突っ込んで来やがった
「空魔陣!」
咄嗟に空気中にシールドを作り出しドラゴニュートの突進を止めるが、そのシールドをいとも簡単に破るとドラゴニュートは手を伸ばし僕の喉を鷲掴む
「成長しないな・・・人間」
「ガッ・・・そ、そうでもない・・・ぞ!」
圧倒的なパワーにスピード・・・それに高い防御力を突破するには僕の遠距離攻撃は弱過ぎる
ならばと、わざと近付けさせて渾身の一撃をお見舞いしてなる!
「け、剣気抜剣!!」
既に決着はついたと油断している腹にマナを纏わせた剣を居合斬り・・・これで少しはダメージを与えてくれと願うが・・・剣は厚い皮膚の装甲を破れない
「なるほど・・・肉を切らせて骨を断つの逆・・・骨を折らせて肉を切るつもりだったか」
いや、骨を折らせるつもりは・・・グッガッ!!
喉を掴む手に力が入る
ミシミシと音が鳴り、喉が限界を迎え悲鳴をあげる
このままじゃ喉を潰され・・・くっ・・・このっ!
「グッ・・・」
マントにマナを流し、膝をドラゴニュートに思いっきりぶち込んだ
ドラゴニュートの体はくの字に曲がり緩んだ手から逃れる。危なかった・・・本当に喉を潰されるところだったよ・・・
「・・・貴様・・・その力は・・・」
「わ、悪いな・・・本当は自分の力でお前に勝ちたい・・・んだけど・・・」
マントに認識阻害効果以外で幾つか能力を付与した
サラさんにあげた身体能力を上げる能力・・・これは魔物ビックアームの魔核に刻まれた能力だ
ビックアームは28階の彷徨くもので腕が巨大なゴリラのような魔物・・・そのビックアームの能力『身体能力向上』をマントに付与した為にマナを流せば身体能力を上げられる
本当は武具に頼らず自らの力で勝たないと意味ないんだけど・・・喉が潰されたらシャレにならないしね
「なるほど・・・ならば・・・」
ドラゴニュートの気勢が上がる
もうちょっと油断してくれててもいいのだけど・・・
「知ってるか?・・・食べる前は『いただきます』って言うんだぞ?」
「?・・・なんの事だ?」
「食べる前に宣言しろって言ってんだよ!」
逃げるから!
喋りながら喉を触り回復魔法で回復し、やる気になったドラゴニュートに備える
サラさんとの訓練では味わえない生死を賭けた戦い・・・そう何度も味わえないだろう経験が僕を成長させると信じて・・・全ての力を出し尽くす!
《お疲れ様》
「死ぬ・・・もう死ぬ・・・」
全て出し尽くした・・・常にマントにマナを流し身体能力強化し状況によって必要な能力を使って・・・それでもドラゴニュートには届かなかった
負けを確信した時に煙幕を使い待機部屋に戻るとそのまま倒れ込む
食われるという恐怖心が逃げるタイミングを早めている・・・けど、これはなかなか克服出来そうにないな
《悪くはなかったわ。でもドラゴニュートもアナタと戦う度に強くなっている・・・追い付くならアナタがドラゴニュートの成長速度を超えるしかないわね》
超える前に食われなきゃいいけど・・・幸いな事にドラゴニュートは決着がつくまでは食う気はないらしい。戦いの途中で奴が食う気なら・・・僕は何度か食われているだろうな
何度か続けて分かったことがある
僕は僕の力を理解していない
だから全力を出すと言っても出し切れないんだ
マナ量は普通の人間の比ではないだろう。魔物よりも多いかもしれない
その無限とも言えるマナも使いこなせなければ意味が無い
まずは自分の出来る事を理解して、相手に最も有利な能力を使う・・・そうすれば僕は自分の創った魔物を超えられる・・・はず
また挑もう・・・全ての力を出し尽くしドラゴニュートに勝つ
そしてゆくゆくは魔法剣士として・・・ううっ1年で本当に倒せるようになるのかな・・・
《ロウ・・・いつも言ってるけど強くなるならダンジョンを育てなさい。戦い方はサラとドラゴニュートに学べばいい・・・アナタは悩むよりもダンジョンを育てる事に専念するの・・・そうすれば必ず1年後にはドラゴニュートを倒せるようになるわ》
ダンジョンを育てる強さの底を上げ、サラさんだけじゃなくドラゴニュートにも学べ、か。確かに悩むより建設的だ
「なら早速司令室に戻って・・・あ」
やる気になった時に限って邪魔が入る・・・まあ邪魔扱いしたらマズイか・・・僕が頼んだ事の報告だろうし
懐の中で光る通信道具を見てため息をつくと急いで司令室へと戻った
〘・・・出ないなぁ・・・忙しいのかなぁ・・・ちょっと遅かったかなぁ・・・〙
司令室に戻り通信道具にマナを流すと垂れ流されるサラさんの声・・・さっきからずっと光っぱなしだったから通信道具の前でひたすら待っているのだろう
「ん、んん!・・・どうした?」
〘やっぱり明日に・・・え!?はい!・・・え?ローグ!?〙
「そうだが間違い通信か?」
〘い、いえ!夜分遅くにすみません!今よろしいですか?〙
「ああ・・・勧誘の件か?」
〘はい・・・勧誘された時の事を何人かに詳しく聞いてみたのですが・・・その・・・〙
「どうした?」
〘あ、はい・・・言い難いのですが・・・強引とまではいかないのですが少々特殊な勧誘をされたようです〙
「と言うと?」
〘・・・まずは条件面では当組合と同等でして、サポート面では向こうが勝っています。お試しといい強引にパーティーに入り実力を見せつける・・・そして『ブラックパンサー』に入ればいつでも手助けしてやると触れ込み・・・その・・・後は色仕掛けで・・・〙
「色仕掛け?・・・色仕掛け専用の者でも雇っているのか?」
〘いえ・・・組合長本人が・・・〙
・・・え?『ブラックパンサー』の組合長ってニーニャだよな?まだ子供・・・僕の妹と同じくらいに見えたけど・・・色仕掛け??
「・・・私も見掛けた事がある程度なのだが『ブラックパンサー』の組合長は色仕掛けとは程遠い者に見えたが・・・」
〘・・・良かった・・・〙
良かった??何が??
〘あ、すみません!その・・・世の中にはローグと違って幼い容姿の者を好む輩がいまして・・・〙
え・・・そうなの?
〘ちなみにあの容姿で実は私と同い年らしく、それを知ったある者などは泣きながら古き友人を捨てて『ブラックパンサー』に加入したとか・・・〙
なぜ泣く!?
友人との別れが辛くて?いや、それなら移籍なんてしないはず・・・もしかして嬉し泣き??
「・・・なるほど・・・移籍した者はサポート面で『ブラックパンサー』を選んだか色仕掛けに引っかかったか・・・では強引な勧誘はしてないのだな?」
〘はい。断った者が言うには特にそのような・・・〙
「ならいい。後は向こうが何か仕掛けて来ない限りは静観しよう」
〘分かりました〙
強引な勧誘をしていれば何かしらの対処をしようと思ったけど強引じゃないならほっといても良さそうだ。けどそれならなぜエモーンズに新しい組合を立ち上げたんだ?対立する気がないなら『ダンジョンナイト』に入ってしまった方が楽なのに・・・お金目当て?
・・・考えても分かるわけないか・・・直接聞く訳にもいかないし、それが分かったところでって感じだけど
〘ローグ?あの・・・勝手な事だと思ったのですが・・・〙
おっと、まだ通信が繋がってたの忘れてた
「何の話だ?」
〘はい・・・勝手ながらケン達に頼んで『ブラックパンサー』を探るよう頼みました〙
ケン達に?そこまでする必要ないのに・・・いや、でも何かあってからじゃ遅いか・・・
「危険はないのか?」
〘何かあればと簡易ゲートはそれぞれに持たせてます。それと身内には下手な事はしないかと・・・〙
「身内?」
〘はい。ケン達の所属は現在・・・『ブラックパンサー』となっております〙
所属がブラックパンサー・・・つまり・・・
「間者・・・か」
〘そうです。ケン達には自然に振る舞い『ブラックパンサー』として得られる情報だけで良いと伝えております。なので探ると言うよりは組合員となりどう感じるかを見てもらおうと・・・〙
それならあまり危険はないか。あくまでも『ブラックパンサー』の一員としてどう感じるかを知るだけだしケン達も無茶はしないだろう
「分かった。何かあればすぐに連絡をくれ」
〘はい。ところで──────〙
その後は取り留めのない会話を繰り返し通信を終えた
その会話の中で僕の・・・ロウニールの名が出る度に申し訳ない気持ちと小っ恥ずかしい気持ちでいっぱいになった
彼女はどう思うのだろうか・・・今話しているのが弟子のロウニールだと知ったら・・・
この時の僕は呑気にそんな事を考えていた
組合『ダンジョンナイト』が窮地に追いやられているのも知らずに──────




