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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
849/856

300年後へようこそ 39

ロンはその場で叫びながら『龍の息吹』を撒き散らす


するとロウニールの放った『乱華』とぶつかり合いロンを囲っていた無数の花びらは爆発を起こした


「馬鹿野郎!自殺でもする気かよ!」


「いえ?道を切り開いただけです」


「っ!?」


すぐ近くにロンの声がする


『龍の息吹』と『乱華』が接触し起こした爆発により煙が充満して前が見えないロウニールは気配を探ろうとするがその必要がないことにすぐ気付いた


「こっ・・・」


煙を切り裂く拳が頬を掠める


すぐに構えるが続けて来た蹴りをまともに食らってよろけながら叫んだ


「ってえなこの野郎!」


「接近戦はお嫌いですか?」


「痛いのが嫌いなだけだ!」


ロウニールは体勢を整え応戦し始める


ロンも一歩も引かず激しい接近戦が行われその風圧で煙は晴れ人々の前に再び姿を現した


観客達は煙が晴れた瞬間から目の前で繰り広げられる激しい激突に心を奪われ見入ってしまう


見た目は先程までのマナを使った戦闘より地味ではあったが己の肉体のみで戦うその姿は観客を魅了するには充分であった


「体術も一流だな・・・一体どこで習ったんだ?他の武勁門の奴らとは違うような気がするけど」


「・・・武勁門は基本体術は稽古しない・・・もちろん全くしない訳じゃないけど嗜む程度です」


「なら尚更気になるな」


「・・・母に習いました」


「その母は?」


「本当に何も知らないのですね・・・いいでしょう・・・知れば貴方に少しでも罪悪感を与えられるかもしれませんし少しだけなら話してあげましょう」


そう言うとロンは動きながら語り出した


「・・・僕の母は冒険者をやっており・・・強くて優しくて・・・どこか抜けてて・・・笑顔の素敵な女性でした」


「・・・でした?」


「ええ・・・殺されたんですよ・・・ダンジョンで・・・魔物ではなく同じ冒険者に・・・パーティーメンバーでもあり夫でもあったアイツに、ね」


「夫って・・・じゃあ・・・」


「ええそうですよ。僕の父だった者です」


「妙な言い方だな・・・まあいいやで、その父がなぜ妻でありお前の母を?」


「・・・嫉妬です」


「嫉妬?」


「母に同じ冒険者として嫉妬を抱いていたのですよ・・・いえ、嫉妬を抱くようになった・・・と言った方が正しいかも知れません」


「お前の母の方が強かったから?」


「まあ端的に言えばそうですね・・・それでも以前は上手くいっていたようです。僕が産まれ育つまでは」


ロンの母ロアと父ジクルトはロンが産まれる前も同じ冒険者として他の2人とパーティーを組んでいた


だがロアの妊娠をきっかけにそのパーティーは解散・・・身重のロアを支える為にジクルトが下した決断だった


暫くの間ジクルトは仕事をせずロアを支え彼女は無事ロンを出産・・・そしてロアの容態が良くなるまで暮らした


そしてロアがロンの面倒を見ながら家事をこなせるようになると生活費を稼ぐ為にまたジクルトは冒険者を再開する・・・だが元のメンバーは既に他の冒険者とパーティーを組んでおりジクルトは新たなパーティーに加わる事に・・・


順風満帆だった・・・ロンが成長しロアが冒険者として復活するまでは



近接アタッカーとしてパーティーの主軸となっていたジクルト・・・そのパーティーにスカウトとして加入したロア。話はジクルトから聞いていた他のパーティーメンバーはロアを歓迎しすんなりと入る事が出来た・・・が


『ロアがいればジクルト要らなくない?』


パーティーメンバーの1人がジクルトが居ないと思ってそんな事を口にしたらしい・・・だがジクルトはその言葉を耳にし激しく嫉妬した


それからロアとジクルトの間にほんの小さな亀裂が入る。表立っては仲の良い夫婦・・・しかしジクルトの中で嫉妬の芽は着実に育っていた


そして・・・


数年が経ちロアは護身術としてロンに戦い方を教えていた。その頃から才能の片鱗を見せていたロンはメキメキと上達し周囲を驚かせる


ロンの上達を喜ぶ夫婦、そして褒められ喜ぶロン・・・幸せな日々が続いた


だがそんなある日、1人で稽古していたロンを見ていたジクルトは軽い気持ちでロンと手合わせをしてしまう


褒められたい一心のロンは全力で父ジクルトに立ち向かう


ジクルトはもちろん手加減するつもりだった・・・だがその考えが裏目に出る


初めから全力を出すロンに対し手加減しようとしたジクルト・・・軽く我が子をあしらうつもりが思いのほか鋭い足払いに反応出来ずジクルトは倒されてしまった


尻もちをつくジクルト・・・それを見て『かった』とはしゃぐロン・・・ジクルトは地面の土を握るように拳を作るとロンに微笑みかけ『強いなロンは』と呟いた


幼かったロンはそれを単なる褒め言葉として受け取る・・・だが実際は嫉妬の芽を咲かせただけだった



「・・・それから暫くしてですよ・・・ダンジョンに向かう為に2人で家を出たはずなのに1人で帰って来たのは・・・そして父だった者は僕まで・・・まあ返り討ちにしてやりましたけどね。あんなに優しかった父・・・だった者が恍惚の表情を浮かべて母の死に際を語るのは見るに耐えられなく・・・そして怒りを感じたので容赦なく・・・」


「・・・」


「ちなみにどうやって母を殺したか分かります?父だった者は他のパーティーメンバーにお金を払い魔物と戦っている最中の母の背中に攻撃したらしいですよ?魔物に集中していた母は攻撃を受けてそのまま魔物に・・・だから僕は父だった者を始末した後でそのままパーティーメンバーを・・・そこからは大変でした・・・騒ぎになる前に街を抜け出し1人さまよって・・・お金も尽きて空腹で動けなくなった時に会ったのが今の武勁門の当主でした」


「・・・なぜ武勁門の当主が?今の話はラズン王国での出来事じゃないだろ?ラズン王国に冒険者はいないはずだし」


「『視察』らしいですよ。とにかく僕は武勁門の当主に拾われ今に至るってわけです。だから体術はその時母に教えてもらった名残です・・・どうです?罪悪感が湧きましたか?」


「今の話のどこに罪悪感が湧く場面があったよ」


「・・・母が・・・僕が中途半端に強いから起きた悲劇だ・・・強ければ圧倒的に・・・強くなくとも普通であれば起きなかった・・・貴方の・・・血が僕達を中途半端に強くしたのです!ロウニール・ローグ・ハーベス!」


「・・・えぇ・・・言いがかりにも程があると思うけど・・・」


「・・・母は以前教えを乞う為にエモーンズに赴いたそうです」


「俺の声聞こえてる?」


「初めて訪れたエモーンズ・・・門番をしている事を知っていた母は遠くから貴方を見て・・・そのまま帰ったそうです」


「あまりにもイケメン過ぎたから?」


「あまりにも無気力に見えて教えを乞う事は出来ないと判断したかららしいです」


「・・・」


「僕が産まれる前の話らしいですしかなり昔のようですが・・・今は無気力には見えないですね・・・彼女の影響ですか?」


「・・・まあな」


「・・・母が貴方に教えを受けていれば・・・父だった者も母に嫉妬なんてしなかったでしょう・・・中途半端に強いから嫉妬される・・・手の届くか届かないところにいるから・・・勘違いするのです・・・」


「だからって・・・」


「でも・・・母はいつも貴方の話をしていました。どうやら子孫にだけ伝わる話のようで本などには記されていない細かい話まで・・・なぜ僕が貴方を邪悪と言ったか分かります?母が貴方を尊敬していたからですよ・・・会ったこともない遠くから見ただけの貴方を・・・目を輝かせて子供のように自分の子供に語る姿を僕は今でも鮮明に覚えています」


「・・・それがどう邪悪になるんだ?」


「助けてくれなかったじゃないですか」


「あん?教えなかったって事か?でもそれは・・・」


「違います・・・世界を何度も救った英雄のくせに・・・たったひとつの家族すら・・・子孫なのに・・・あれだけ貴方を尊敬していた母を・・・救ってくれなかったじゃないか!!」



母を父に殺されその父に手を掛けたロン


絶望の中救いを求めたのは自らの先祖であるロウニール・ローグ・ハーベスだった


だが救いを求めた時には既に全てが終わっており『助けて欲しい』と縋るのではなく『なぜ助けてくれなかった』と考えるようになる


次第にそれは八つ当たりから恨みとなりその恨みを糧に生き抜いていた・・・そんな時にラズン王国から視察に来ていた武勁門の当主ゼクウと出会い武勁門の門をくぐる


門下生となったロンはすぐに頭角を現し現存する武勁門の技を修めると母ロアに聞いた冒険の話や知識を元に新たな技の開発を行いそれで出来たのが『龍の息吹』だった


既にその頃にはロウニール・ローグ・ハーベスへの恨みは忘れ普通に生活をしていたが目の前に本人が現れ当時の思いが爆発してしまう


だが・・・



「で?」


「・・・え?」


「救ってくれなかったって言われても困るんだけど・・・目の前で助けてくれって言われて無視したならともかく知らない所で何かあったとしても助けられるわけないだろ?そもそも会ったこともないし」


「それは貴方がっ!知ろうとしないから!」


「ちょっと長生きの御先祖様は子孫の全てを把握しろってか?アホかこちとら全知全能じゃねえんだよ・・・自分の事で精一杯のただの・・・オ・・・お兄さんだ」


「ただのオッサンだろ!」


「こっ・・・まだ見た目は若いからお兄さんでいいだろ!」



〘激しい攻防はまだまだ続く!なんという試合・・・いや試合ではありませんでした!なんという戦い!技と技のぶつかり合いから一転、己の肉体を駆使した壮絶な殴り合いに言葉を失ってしまいました!それにしてもマクス将軍・・・よく聞き取れないのですが2人は何か会話をしながら戦っているようですがどんな会話をしているのでしょう?〙


〘・・・分かりません・・・ただ・・・〙


〘ただ?〙


〘罵り合ったりしているようには見えません・・・罵り合い憎しみ合っていると言うよりあれはむしろ・・・喧嘩・・・親子喧嘩みたいな・・・〙


〘親子喧嘩ですか?歳はそれほど離れていないように見えますが・・・どちらかと言うと兄弟喧嘩なのでは?〙


〘・・・そうですね・・・見た目は離れていないのでそうかもしれませんね〙


〘見た目・・・そう言えば実年齢は知りませんでした!意外とどちらかとは言いませんが見た目より老けているのかもしれません!おおっと!ロウニールの腹部への打撃が綺麗に決まった!これはロン選手溜まりません!しかし立ち上がる!この不屈の闘志は一体どこから来るのでしょう!しかし素人目に見ても戦いは佳境・・・いつどちらかが倒れてもおかしくありません!〙


〘・・・ええ・・・もうすぐ決まるでしょう・・・そしておそらく勝つのは・・・〙


〘ああ!!と、とうとう・・・とうとう倒れてしまった!これは起き上がれないか!?それともまた立ち上がるのか!?〙


〘・・・〙


〘ダメです!ピクリとも動きません!!この勝負!ロ・・・っ!!??マクス将軍?〙


舞台に雪崩込む兵士達


実況のデーラがそれを見てマクスの方に振り向くとマクスは立ち上がりデーラに伝える


「観客に逃げるよう伝えて下さい・・・これからは試合でも勝負でもなく・・・大捕物の場となります」


〘大捕物って・・・〙


「捕まえるのですよ・・・舞台に乱入し優勝者を倒した・・・ロウニールを、ね──────」

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― 新着の感想 ―
ロウ突然変異みたいなもので頭そこまでよくない上に妹以外家族仲がそもそも悪い育ちだもんなぁそこまで考慮するのは無理よねしかも結構遠い子孫ならなおさら……できて武術の知識を子孫に伝授して秘儀として伝えさせ…
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