300年後へようこそ 37
〘突如として現れた乱入者の名はどうやらロウニールという名前だそうです!流華門のロウニール・・・彼が舞台に乱入した事により流華門のサーラ選手は失格となりました!なので第201回御前試合の優勝者は武勁門ロン選手!・・・しかし本来ならとっくに乱入者を捕え表彰式を行っているところですがなんと乱入者であるロウニールと優勝者のロン選手が戦い始めてしまいました!これはもしや・・・マクス将軍どう思われますか?〙
〘・・・舞台の上で暫く話している様子でしたが何を話しているかは聞き取れませんでした・・・なのでおそらくではありますが捕まえようとしている可能性は高いかと・・・〙
〘なんということでしょう!ロン選手は決勝戦を終えたばかりの疲れた体を酷使し今まさに乱入者を捕まえようとしているようです!もしかしたら軍を投入しなくてはならないかもしれない相手・・・ですが勇敢にも立ち向かいます!まさにこれが武術家!!日々鍛錬を怠らずにいるのは御前試合の為ではありません!有事の際に命を賭し戦う者・・・それが武術家です!!〙
「・・・そうなのか?」
「そうみたいですね」
武術家達が案内される観客席では聞こえなかった実況の声か舞台の上からだと聞こえる・・・これまでどんな実況をしてきたか聞いてないから分からないし興味なかったが今のを聞いて興味が湧いて来た・・・特にサーラの時にどんな実況をしていたのか・・・っ!
実況席がある辺りを見ていたら殺気を感じ見ると一筋の光が・・・咄嗟に避けたが頬を掠め鋭い痛みと共に血が流れ出る
「んにゃろ・・・」
「よそ見していたのでつい・・・」
「『つい』じゃねえよ『つい』じゃ」
指先から気を出したのか・・・大きさも威力もさほどでもないけど小さく空気抵抗が少ないからか速い・・・もし気付くのが遅れていたら顔に穴が空いてたかも・・・
こりゃ離れてるとまずいな・・・何とかして近付かないと・・・いっ!?
どうにかして接近戦に持ち込もうとしていたらロンの方から近付いて来た
鋭い蹴りが迫って来る・・・何とかしゃがんで躱すと軸足を狙い体を回転させながら蹴りを放つ・・・が、ロンは器用に軽く飛び上がり蹴りを躱すと今度はその軸足を振り上げそして振り下ろす
「ぐっ!」
腕を交差し何とか受け止めるが体が地面にめり込みそうなくらい沈む・・・どんだけ重い蹴りなんだよ!
歯を食いしばり何とか押し返すとロンはその力を利用してふわりと空中で回転し着地する
すると観客席からは拍手万雷・・・華麗な流れで攻めたロンに賛辞が飛び交う
コイツ自分から見世物になるとは・・・やるな
「随分と重い蹴りを放つじゃないか・・・操作だけじゃなく強化も出来るみたいだな。器用な奴だ」
「操作?強化?・・・何の事ですか?」
「あん?だからマナの・・・じゃなくて気の・・・いやまあいいや。説明するのめんどい」
ラズン王国じゃ適性とかあんまり考えてなさそうだしな
今コイツが使ったのは間違いなく強化だ。気で足を強化し蹴りを放ってきた・・・でも武勁門の使う武術は操作・・・最低でもふたつの適性ある、か
「あまり歓迎出来ないんだけどな・・・一般人の俺にはちとキツそうだぞ・・・」
「何を今更ごちゃごちゃと・・・接近戦はそこそこやるようですがこれならどうですか?」
そう言うとロンは手のひらをこちらに向け気を放つ。しかも一発二発ではなく三発四発とその数を増やしていく
サーラにやっていたように俺の動きを先読みし躱した先に気弾を飛ばして来る。何とかギリギリそれを躱しているけどいずれこのままだと捕まってしまうな
「お前がそう来るなら!」
「なっ!?」
コイツが出来ることは俺にも出来る・・・イメージするのは丸い玉・・・それを何個も作り出すと一気にロンに向けて放った
「くっ!貴方流華門では?」
「流華門の新しい技だ!えーっと・・・『華丸』?」
「取って付けたような技名を・・・貴方何者なんです?」
「一般人で流華門の門下生・・・ロウニールだよ!」
魔力は使ってないからセーフだろ
どちらかと言うと『華丸』は魔法に近い
けどまあ武勁門の気弾も魔法に近いし同じようなもんだ
『華丸』が武勁門の気弾と違うのは放った後でも操作出来るところ
ロンのように相手の動きを先読み出来ないけど操作すれば・・・
「なっ!?気が曲がって・・・」
ロンは躱したはずの『華丸』が曲がった事に驚き動きを止めるとまともに食らった
『華丸』がロンと当たり煙を出したからどうなったか分からないけどこれで決着・・・な訳ないよな・・・
「気を操る・・・だと?」
どうやら咄嗟に気で強化した腕で防いだらしい・・・でもある程度のダメージは受けたのか道着は裂け血が滲み出ていた
「すまんな・・・真似したつもりがどうやら超えてしまったみたいだ」
「・・・一般人と言う割には・・・なかなかやりますね!」
んなっ!?
操作出来ないなら数で勝負と言わんばかりにロンは手のひらから無数の気弾を放つ
サーラならともかく俺にこの数を躱す技術は・・・ない!
『華丸』は気弾が届くまでに同じ数作るのは無理・・・だとしたら・・・
間に合え!!
「さすがにあれだけの数は躱す事も防ぐ事も出来な・・・なっ!!」
「さっきから驚いてばかりだな・・・お互い。まあ今回は驚くのも無理はない・・・ちなみに言っとくけど俺は流華門だぞ?」
「・・・なら貴方の前にいるのは何ですか?」
「『羅漢』?」
「なぜ疑問形なんですか!明らかにそれは羅漢拳の『羅漢』・・・使えるのは別にして貴方にはプライドというものがないのですか?他流派の技を使うなんて・・・」
「いやだってあれだけの数の気弾を防ぐにはこれしか思い付かなくてな・・・プライド何かより痛い方が嫌だろ?」
「・・・そうですか・・・貴方は確かに一般人ですね・・・武術家ではない貴方とこれ以上この舞台で戦うのは苦痛すら感じます・・・もう少し『試合』をしてあげたかったのですがもう終わらせましょう・・・」
試合をしてあげたかった?そう言えばコイツ決勝戦まで瞬殺で終わらせていたんだっけ・・・けどサーラや俺には一応『試合』をしていた・・・うーん・・・
「何を考えているか知りませんがそんな余裕ないと思いますよ?」
また大量に気弾を・・・しかも今度は真っ直ぐのだけじゃなく気弾を曲げて四方八方から・・・でも!
「・・・何ですかそのふざけた『羅漢』は・・・手に持っているのは・・・盾?」
ふざけたってのは同意する・・・防がなきゃと慌ててイメージしたら何故かコイツになったのは俺の長い人生の汚点の一つだ
もっと他にイメージ出来るタンカーがいただろうになぜ俺は・・・ダンをイメージしたんだ?
俺の前に立ち二つの盾を構えて気弾を受けるダン羅漢・・・まさか俺がダンに守ってもらう日が来るとは思わなかった
「あれを全て防ぎますか・・・でもそのままではいずれその頼りになる『羅漢』も萎んで見窄らしい姿に変わってしまいますよ?」
頼りになるかどうかはともかくロンの言う通りだ
『羅漢』の弱点・・・それは本体が無防備になる事じゃない・・・限界があるって事だ
『羅漢』は気でイメージした『理想の武術家』・・・相手の攻撃を受けても痛くも痒くもないし思い通りに動いてくれる・・・けど所詮は気で出来たもの・・・動いたり相手の攻撃を受けたりすれば気は減少しやがて消えてしまう。出してる本人と繋がっているから気を足してやればいいように思えるが実はそれがそうもいかない・・・バク達はほぼ全ての気を『羅漢』に注いでいるからって言うのもあるがそれだけじゃなく足してしまうとイメージが崩れてしまうのだ
イメージが崩れてしまうとおそらく形すら維持出来なくなり途端に消えてしまう・・・あくまでの其の気の量で作るのが『羅漢』であり『理想の武術家』って訳だ
今は最初のイメージを保てているが後数発でももらえばダン羅漢は消え去るだろう・・・多分ロンはそれを理解している
また同じように気弾の雨あられを受けたら確実に俺に届く・・・にゃろめ・・・それが分かっててその数かよ
「死なないで下さいね?・・・あ、試合じゃないから死んでも問題ないか・・・」
「問題大ありだ!!・・・くそっ・・・」
ダンは数発で消え去る・・・その後はマナで腕を強化して受けるか?いや無理!死ぬ!
魔族と同じになった肉体はそう簡単には壊れはしない・・・けど簡単には壊れないだけで壊れないことはない
つまり壊れる・・・うん・・・てか撃ちすぎだろコノヤロウ!
「・・・『羅漢』は5発耐えましたか・・・その後は結構食らいましたよね?って返事を出来るわけなかったですね・・・あれだけ食らえば確実に・・・死」
「ぬわけないだろ!!」
気と気がぶつかり合い発生した煙に乗じて今度はこっちから仕掛けてやる
マナの量が多いのが自慢のようだけど俺の方が上のはず・・・アイツが気弾を連射するなら俺は・・・
「行け!『羅漢』達!!」
「・・・『羅漢』・・・達?」
煙を切り裂きロンに迫る3人の『羅漢』
右から顔はないけどおそらく細目なヤツにデカイ剣みたいなものを持っているヤツ、そして少し小柄だけど一番頼りになる人・・・さあ反撃開始だ!
「『羅漢』が三体!?・・・いやそれよりも・・・どうして離れて・・・」
そう・・・『羅漢』は本体と繋がっていないとならない。だから接近戦には強いが離れている相手には何も出来ない・・・なら繋げておけばいい
「っ!そうか・・・そういう事ですか」
「そういうこと」
三体の『羅漢』をイメージする際に尻尾を追加した。長い長い尻尾・・・ロンの立っている位置まで余裕で届くくらいの尻尾だ
「『理想の武術家』に長い尻尾が生えていた・・・よくある事だよな?」
「・・・僕の知る限りでは尻尾の生えた武術家はいませんね・・・」
「本当に?なら世間知らずもいいとこだ・・・世界は広いぞ?ロン坊」
「世界中探してもいません、よっ!」
『羅漢』は操るのではなく勝手に動いてもらう・・・その方がよりイメージにあった動きをしてくれると思ったけど・・・予想より遥かに元のイメージした人物が反映されていた
細目は蹴りを主体に手数で追い詰め、デカイ剣持ちは一撃で仕留めようと大振りを繰り返す。小さい人はゆっくりと歩み寄り・・・って歩くな!ジジイ!!
てか三体・・・いや、まあ二体だが・・・の猛攻を受け切るかよ・・・ロン!
「・・・『羅漢』に『羅漢』を重ね僕の攻撃を受け切りましたか・・・しかもこれまでの『羅漢』が出来なかった遠距離攻撃まで・・・貴方やっぱり羅漢拳の人ですか?」
「流華門って言ってるだろ!てか余裕ぶるな!そいつらの攻撃をいつまでも受けられると思うなよ?」
「それはこちらのセリフです・・・短時間でそこまで気を注げていないはず・・・そして僕の攻撃を少なからず受けているのなら・・・」
そう言って細目に気弾を放つと細目は呆気なく消えてしまった
「攻撃に転じる為とはいえ同じ『羅漢』を出した方がマシだったのでは?」
「アホ言え・・・ダン・・・あの『羅漢』が増えたら気持ち悪いわ!」
「そうですか・・・でも・・・」
もう一体・・・デカイ剣持ちも消え去ってしまった
残るは一体・・・歩いていたせいでタイミングがズレてようやく到着した小さい方は手を後ろで組みロンの前で立ち止まる
「最後に残ったのは子供ですか?気の量が足りなかったみたいですね」
「・・・いや、一番使ったのがその子供みたいな爺さんだ。気を付けろよ・・・厄介な爺さんだぞ?」
「それはそれは・・・しかしこれで終わりです!」
二体に対した時と同じように気弾を放つロン・・・小さい人はそれを避けようとはせずまともに食らう・・・が、他の二体とは違い消え去ることなくゆっくりと手のひらをロンに向けた
「消えない・・・まさか!!」
「凄いだろ?・・・自分の気弾をたまには味わってみな」
その『羅漢』は受けた気弾をそのまま手のひらから吐き出した
予想外の攻撃に反応が遅れ吹き飛んで行くロン・・・数メートル飛んだ後背中を地面に打ち付けた
暫しの沈黙・・・そして押し寄せる歓声
この歓声って俺に向けられたものだよな?なんか嬉しい・・・このまま勝っても良さそうな雰囲気だ・・・けど歓声には応えられない・・・なぜなら・・・
尻尾が短くて届かない!
もっと長く作れば良かった・・・あんなに吹き飛ばされるとは思わなかったし長くし過ぎても邪魔になるだけとギリギリの長さにしたのが失敗だった
俺自身が突っ込んで行ってトドメを刺すか・・・いや・・・もう遅い・・・か
ユラリと立ち上がり無言で俺を見つめると顔を片手で隠し天井を見上げた
「あは・・・あははは!貴方には驚かされてばかりだ!まさか『羅漢』をそんな方法で飛ばすなんて・・・武術家では決して浮かばない発想・・・機能性を重視するあまり滑稽で陳腐な技など武術家は考えつかないでしょうからね」
「・・・褒め言葉として受け取っておくよ・・・その陳腐な技にぶっ飛ばされたお前からの賛辞としてね」
「ええ褒めてますよ・・・終わらせようと思ったら痛いしっぺ返しを食らった僕の方が遥かに滑稽で愚かだ」
そう言って小さい方に手のひらを向けるとロンは『龍の息吹』を放った
気弾と違い『龍の息吹』は小さい人の得意な受け返す事が出来ない・・・2箇所くらいから攻撃を食らっても体内でその攻撃を上手く制御し外に出す事は出来るだろう・・・けど『龍の息吹』は2箇所どころではない・・・全身で浴びるような衝撃を受ける為さすがの小さい人も制御出来ずに消えてしまった
確かにコイツは稀代の天才なのかもな・・・一度食らっただけですぐに対処法を思い付くなんて
「今のは羅漢拳の未来の形かも知れませんね・・・まあその形もすぐに崩れ去りましたが」
「・・・俺は流華門だし羅漢拳の未来がどうなろうと知ったこっちゃないけど・・・崩れ去ったらまた組み立てればいいだけだろ?ひとつに拘るのではなく都度進化していけば良いだけ・・・武術家ってのは違うのか?人間はそうやって進化して来たぞ?」
「・・・進化ですか・・・その進化の過程で壊されたり置き去りにされたりするのなら・・・進化なんて要らない!」
「あん?」
「まだまだ『マナ』に余裕があるみたいですが僕も同じです・・・『マナ』切れで決着なんてつまらない結末にはならなそうで安心しました」
・・・コイツ・・・
「本当に終わらせましょう・・・貴方が羅漢拳の未来を見せてくれたので僕は人の未来を見せましょう・・・強くなりたいと願った人の進化を・・・」
「変身でもしてくれるのか?」
「出来れば良いのですけどね・・・でもさすがにそこまでは・・・でも心してかかって来てください・・・僕は今から人ではない・・・生物の頂点である『龍』ですから──────」




