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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
844/856

300年後へようこそ 34

御前試合決勝戦


暫く向き合い会話をしていた2人だったが突如決勝進出者の1人である武勁門のロンが大声で宣言した


『勝った者が相手を自由に出来るという賭けをした』と


実況マーラと解説マクスが言葉を失う中、それを聞いた観客席からは悲鳴と割れんばかりの喝采が起き会場は興奮の坩堝と化した


それもそのはず『相手を自由に出来る』という言葉ほど想像力を掻き立てる言葉はない


決闘で生死を賭ける戦いなどこれまで星の数ほど存在した。しかし『自由』という言葉は生殺与奪権を握る以上の効果を発揮する


殺すもよし屈辱を与えるもよし辱めるもよし


観客達はそれぞれ自由にしたい相手を選び勝手に想像する


『自分ならばこうする』と


〘こ、これは物凄い事になって参りました!相手を自由にする権利・・・それはかつてあったとされる奴隷制度を彷彿とさせる権利であります!我が国の法律で奴隷は禁止されておりますが個人的な約束としては認められる・・・はずです!どうでしょうかマクス将軍〙


〘・・・強制ではないのなら法には触れないでしょう。だからこそ軽々しく約束してはならないのですが・・・〙


〘どちらも勝てると踏んでの賭け・・・その賭けは人生を賭けていると言っても過言ではないでしょう!生死を賭ける事など生温い!互いに賭けたのは命ではなく魂!これはもう単なる優勝者を決める戦いではありません!どちらがどちらを支配するか・・・そんな戦いであります!〙


「・・・『支配』ですか・・・良い言葉ですね」


「『謝罪』の間違いでしょ?こうなったら全員の前でアトに謝罪してもらうわ」


「・・・怖くはないのですか?もう言い逃れは出来ないのに・・・それとももしかして僕の事を舐めてます?」


「まさか・・・貴方は強い・・・これまで私が戦った中でおそらく2番目に、ね」


「・・・2番目?」


「ええ・・・ちなみに『おそらく』と言ったのは1番と僅差だからじゃなくて貴方が2番か3番かまだ分からないからよ。多分2番目に強いと思う・・・だから『おそらく』2番目」


「・・・暫定3番の人を聞いても?」


「羅漢拳バク老師」


「・・・では1番は?」


「私の愛する人よ」


「・・・なるほど・・・つまり僕が貴女に勝てば僕が貴女の『愛する人』になる・・・そう解釈しても?」


「どう解釈しようと自由よ・・・ただ・・・」


「ただ?」


「貴方には無理だと思うけどね」


「・・・いまいち理解出来ませんが貴女に勝てば済む話ですしまあいいでしょう・・・会場も盛り上がって来た事ですしそろそろ始めますか?」


「そうね・・・始めましょう」


会話を終えると自然に2人は構える


先に動いたのは・・・ロン


〘おおっと!いきなり始まった決勝戦!先ずはロン選手が先制攻撃!右手より放たれた気は対峙するサーラ選手の元へ!っと、その気を難なく躱すサーラ選手!ここでサーラ選手はロン選手に詰め寄・・・らない!素人の私から見ても今は接近すべき状況だと思いましたが・・・マクス将軍〙


〘分かりません・・・確かにロン選手は体勢を崩した訳ではないので好機とは言えない状況でしたが間合いを詰める隙はありました・・・このまま距離を取っていては不利になるのはサーラ選手のはずなのですが・・・〙


〘そうです!ロン選手が弓と剣の使い手だとすればサーラ選手は剣の使い手・・・戦うなら剣の距離が望ましいはずなのですがサーラ選手は弓の間合いで戦うようです!もしかして矢が無くなるのを待っているかもしれません!〙


〘そうだとしたら少し残念ですね。あまりにロン選手を知らな過ぎると言わざるを得ません。過去に同じように気が切れるのを待った対戦者はいましたがことごとくロン選手の前に敗退しているのですから〙


〘そうです!マクス将軍の言う通り過去に何人か距離を詰めずロン選手の気が切れるのを待つ戦法を取った人はいます。過去に遡るとその方法が一時期は武勁門攻略法と言われた時も・・・しかしロン選手が出場するようになってその戦法が通じなくなりました!その理由は多々ありますがひとつはロン選手の無尽蔵とも言える気の量!過去に『いつまで逃げられるか試してみた』と遊び半分で気を放ち続け結局相手の体力が先に底を尽いた事があります。つまりロン選手相手に気の消耗を狙うのは悪手・・・自分の首を絞める戦法となるのです!〙


〘もうひとつはロン選手の多彩な技ですね。距離を取れば躱し易いと思われがちですがそれは違います。流石に放った気を操る事は出来ませんが複数放ったり途中で分裂させたり出来ます。そして何よりその多彩な技を使うのがロン選手であること・・・それが一番相手にとって厄介な理由でしょう。気の量が多いのも多彩な技も確かに凄いのですがそれらを操る者が凡人なら大した脅威にはなりません。稀代の天才ロン選手が操るからこそ相手にとって脅威となるのです〙


将軍マクスの解説を裏付けるようにロンはサーラを追い詰めていく


飛んで来る気を躱すとその先に気が飛んで来る。更にそれを躱すとその先にも飛んで来る・・・まるで動きを読まれているような感覚に陥り思考とは逆の動きをしても飛んで来る。そのせいでサーラは常に動く事を強いられ逆にロンは開始から一歩も動かずにいた


ロンの気が尽きるのが先かサーラの体力が尽きるのが先か・・・普通に考えれば前者だが既にサーラの息は上がりロンはまだまだ余裕の表情を浮かべる


「くっ!」


次第にサーラに余裕がなくなり気は肌を掠めるようになる。それでも躱し続けるサーラだがロンは焦る様子もなく気を放ち続けた


「自信あるようでしたので何か策があると思いきや・・・それとも実は僕に自由を奪われたかったとか?」


「冗談・・・誰が貴方なんかに・・・っ!」


「油断しましたね」


単調な攻撃の連続


その単調な攻撃が続けば続くほど勝手に思い込んでしまうのは仕方の無い事だった。更に言えば先を読まれたかのように躱した先に来る気に考える余裕もなくなっていた


だからただ真っ直ぐ飛んで来る気を何も考えずに躱した・・・が、その気はちょうどサーラの横を通過する時に突然分裂したのだ


細かく分裂した気は何個はサーラの元に・・・躱す事は出来ないと判断したサーラは両手を気に向かって突き出す


「無駄な足掻き・・・を・・・まさか!」


頭の大きさ位ある気から分裂した気は拳一つにも満たない大きさであり、威力はさほど高くは無い。なので普通なら防御を固めてある程度のダメージを覚悟して受けるだろう。しかしサーラは突き出した両手を分裂して向かって来る気に添わせるとまるで踊るように身を捩りながら受け流した


両手に纏うように発生した花びらも相まって殺伐とした舞台が一瞬で幻想的な雰囲気に包まれる


〘す・・・素晴らしい!!サーラ選手!迫り来る複数の気を華麗に捌いてしまいました!ですが気は本来捌けないはず・・・そうですよね?マクス将軍〙


〘・・・おそらくですがサーラ選手の腕に舞う花びら・・・あの花びらは当然気で出来たものです・・・その花びらが関係しているかと・・・〙


〘つまりサーラ選手は捌けていた気をわざわざ躱していたと?何故そのような・・・〙


〘ロン選手も分裂出来る気を分裂させなかった・・・サーラ選手も同じですよ。試合とは試し合い・・・小出しに技を出し先に引き出しが尽きた方が負ける・・・実力が拮抗している場合は本来そうなるのです〙


〘・・・それってつまり・・・サーラ選手とロン選手は・・・互角という事でしょうか?〙


〘そうなりますね・・・今のところは〙


マクスの言葉に会場は盛り上がる


稀代の天才と言われているロンと互角であると言わしめたサーラ・・・観客達は期待せざるを得なかった


最高の決勝戦が見れる、と


「いやはや雑音が酷いですね・・・たかだか一回受け流しただけで期待値を上げ過ぎだと思いませんか?」


「そうね・・・それには同意するわ。あんな大した事ない攻撃をいなしたところで自慢にもならないしね」


「・・・盛り上げるのに貢献しようと思ってましたけどもう止めますね」


「?それってどういう・・・っ!」


サーラの頬が裂け、傷口から血が滴り落ちる


「躱すのが上手な貴女でも狙いを定めない速度重視の攻撃には対応出来ないみたいですね」


ロンはこれまで手のひらから気を放っていたが今の攻撃は指から放っていた。気は小さくすればそれだけ威力が下がる・・・だが、小さくすればするほど抵抗を受けず速度は上がる。加えて狙いを定めれば当然そこに意識が集中する為に相手に気取られるが狙いを定めなければ気取られる事は無い。事実サーラは攻撃を躱す際に相手の視線や仕草を観察しある程度何処を狙っているか予測し躱し易いよう動いていた


「油断していただけよ・・・次は躱すわ」


「僕相手に油断?・・・これだから弱小流派は・・・」


「とか言いつつウチから引き抜いたのは誰かしら?」


「だからこそ、ですよ」


「え?」


「まあ分からないですよね・・・だから弱小何ですよ」


「・・・そうね・・・今は弱小と呼ばれても仕方ないかも・・・でも貴方はその弱小流派に倒されるのよ」


「・・・それは楽しみです」


〘おおっと!遂にサーラ選手が仕掛けた!!先程の神速とも言うべき攻撃に離れていては分が悪いと判断したか!〙


〘それが正解です。が、ロン選手は武勁門の弱点とも言うべき接近戦を見事に克服しております・・・距離を詰めても弓が剣に変わるだけ・・・果たしてサーラ選手の剣は届くのかそれとも・・・〙


「離れたり近付いたり一貫性がないですね!」


「そうでもないわよ!」


間合いを詰めるサーラに対してロンは気を放つ


距離が縮まれば当然気がサーラに到達する時間は短くなる。躱す事や受け流す事が出来たのは距離があったから・・・それは武術家ではない一般の観客でも分かる簡単なこと


だからこそロンはこれで終わったと勝利の笑みを浮かべた・・・が、その笑みはすぐに凍りつく


「は・・・弾くだと!?」


サーラは至近距離で放たれた気を躱すでもなく受け流すでもなく腕に纏わせた花びらで弾いた


誰もが言葉を失うほど驚愕する


ロンも観客達も他の武術家が気を弾いたのならそこまで驚きはしなかったはずだった。そこまで驚いた理由は弾いたのがサーラだったからだ


これまでの試合、そして今日の試合でサーラは華麗に躱し優雅に相手の攻撃に対処していた


そのサーラが強引に気で気を弾く姿は誰も想像をしなかったからこその驚きだった


「っと遅くなったけど紹介するわ・・・これが昨晩私が『気づき』で得た私の奥義・・・華中拳禍よ!──────」

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