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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
839/856

300年後へようこそ 29

武勁門は強い・・・そう言わざるを得ない


魔銃の構造を理解しているし魔銃のように魔力を放つ事も出来る・・・けど武勁門は魔力ではなく気で魔銃の構造も知らないのに魔銃のような技を使う


さっき気弾を放った3人・・・そしてシクウも同じように気弾を使う。3人とは威力は高く大きさも大きいがほぼ同じ気弾だ


だが3人とシクウの違いはその多彩さ


気弾を曲げたり放った後に分裂させたりと思いのままに操っている・・・魔銃でも出来るかも知れないが一つの魔銃では到底不可能・・・1人の人間がシクウと同じ事をしようとしたらいくつもの魔銃を持ち、それを持ち替えないといけなくなる


つまりだ・・・既に魔銃を超えたと言っても過言ではないだろう・・・この技を考え身につけるのにどれだけの時間を要したか想像も出来ない。人間一人の寿命じゃ無理かも・・・何世代にも渡って完成させたのだろう


けど・・・



追い込まれているのはその武勁門だ



気弾をいくら放とうともバクの『羅漢』は軽々とそれを弾き返す。シクウは攻め手がなくなり殴られた時より苦痛に歪んだ顔をしている


シクウも分かっているんだ・・・手加減されている、と


「・・・老師はどうして・・・」


「ん?」


「いえ・・・老師は羅漢拳は『羅漢』を出してこそと考えております・・・だからあの戦い方がまるで・・・」


「自分達のように臆病者の戦い方と?」


「・・・そこまでは・・・ただ実際あの戦い方は自分の身を最優先に考えた戦い方です・・・体内にある気を全て外に出てしまっては相手の気を込めた攻撃に無防備になりますので・・・」


「へぇ・・・で?わざわざ身を危険に晒す必要があるのか?」


「え?・・・それは・・・覚悟の表れと言いますか・・・」


「その理屈でいくと盾を持ったタンカーは覚悟がないみたいだな。それに・・・」


「ロウ殿!」


「あん?」


「そろそろ終わらせてもよろしいかのう?」


シクウと対峙する爺さんが突然俺に変な事を尋ねてきた


なんで爺さんは俺にそれを聞くんだ?・・・まさか俺がサーラの為に武勁門を観察していると気付いてた?もしかしてその為にわざと・・・


「は・・・食えない爺さんだ・・・好きにしてくれ。充分見た」


「それは重畳・・・これで決勝は分からなくなったのう」


「っ!てめえらまさか・・・」


「相手の技を見れる機会は少ないからのう・・・特に御前試合前は我が羅漢拳も他流試合を禁止する。技を見た事があるのとないのとでは雲泥の差だからのう」


「き、汚ぇぞ!」


「汚い?幼い門下の子を拐かし情報を仕入れようとしたお主達と決闘にて頼んでもいないのに技を披露したお主達をたまたま見た者・・・どちらが汚いか言うまでもあるまい」


「くっ・・・」


「さて・・・では終わりにしようかのう・・・もし再戦を望むなら来年の御前試合に出て来るがいい・・・最も来年はワシは出ぬかも知れぬがな」


「・・・チッ・・・まんまと踊らされたか・・・こりゃ後で何言われるか分からねえな・・・まったく・・・めんどくせぇ・・・」


殺気?シクウの奴まさか・・・


「決闘で殺しは御法度じゃぞ?」


「誰も見てなけりゃ問題ねえ・・・ぶっ殺して地中奥深くに埋めてやる!」


「せめて浅くして!」


「お前は黙ってろ!!・・・爺を始末した後でゆっくり相手してやるよ・・・テク共々な」


冗談の通じない奴だ・・・ここら一帯をダンジョン化して地中深くに放り込んでやろうか・・・まあその必要もなさそうだけど


「死ね!!武勁門奥義・・・っ!?」


「奥義・・・ですか?シクウ師兄」


シクウの動きが止まる


そしてゆっくりと振り向くと大きく体を震わせた


「・・・ロン・・・なんで・・・」


「準々決勝の応援をサボっている方がいると聞きまして・・・終わって探していたら・・・というところですかね?一体何をされているのですか?」


「いや・・・これは・・・」


シクウの背後に現れたのは武勁門のロン


その口ぶりから準々決勝が終わった後でここに来たみたいだな


それにしても・・・へぇ・・・


「戻りましょう師兄・・・準々決勝は四試合・・・すぐに準決勝が始まってしまいますよ?」


「あ、ああ・・・」


「って事でいいですか?バク老師」


「決闘の最中じゃが?」


「では師兄の負けで構いません」


「ほう?武勁門が負けを認めるか」


「武勁門ではなくシクウ師兄の負けです・・・その辺を勘違いなさらぬように」


「ふむ・・・まあいいじゃろう・・・ワシもこれで武勁門に勝ったとは思うておらぬしな・・・ワシも言いふらさぬゆえお主達も言いふらすでないぞ?『羅漢拳バクが武勁門当主の息子を叩きのめした』などと噂が広まってしまったら恥ずかしくて表を歩けぬようになってしまうでな」


「てっ・・・」


「師兄!・・・そうしてくれると助かります。お互い恥をかく必要はないでしょうし」


「お主達は恥じらうことはないであろう?寧ろ誉れと思うべきじゃ」


「・・・そうですね」


うーん・・・一応場は収まったのか?その割には一触即発の雰囲気だけど・・・


まあ爺さんがロンと戦うことはないだろう・・・爺さんは負けたからいいとしてもロンはまだ御前試合に出場中・・・ここで戦えば勝敗はどうあれ非難されるのは羅漢拳になるし


しばらく爺さんと睨み合った後、ロンは不意に俺達の方に視線を向けた


「そちらの方々もご迷惑をおかけしました」


「迷惑?」


「ええご迷惑ではなかったですか?」


「いや迷惑だったぞ?けど突然現れて何の事情も聞いてないのになんでそっちが迷惑かけたと分かったんだ?」


「・・・シクウ師兄は血の気の多い方ですので・・・度々あるのですよ・・・他流派とのいざこざが」


「なるほど・・・それなら首輪でもつけとけ。迷惑になると分かっているのに放置するのは飼い主の責任だぞ?」


「僕は御前試合の代表ですが師兄は師兄です・・・行動を制限する権利などとても・・・」


「使いっ走りにはするのに?」


「はて?何のことでしょう?」


「・・・分からないならいいや。それより聞きたい事があるなら直接聞け」


「・・・『聞け』?何をですか?」


「心当たりがないと?」


「まったく」


「そうか・・・ということは仲間が勝手に暴走した訳だ・・・サーラの事が気になるお前を気遣って彼女と親しそうにしている俺という存在を調べようと流華門の門下生であるアトを呼び出し聞こうとしたが失敗・・・んで、ボコボコにして喉を潰し口封じをした、と。けどさすらいのヒーラーが現れアトとそのアトを助けようとして一緒にボコられたテクを治してしまったからさあ大変・・・再び口封じをする為に襲うも失敗して4人揃って地べたに這い蹲る結果となった・・・か・・・仲間思いも拗らせると大変だな」


「・・・ええ・・・たまに暴走しますが基本は良き同門に恵まれて僕は幸せです」


「マジか・・・今の話を聞いて良き同門って言えるってお前も相当アレだな?てか武勁門自体がアレなのか?」


「・・・アレとは?」


「屑・・・言わせんなよせっかく濁したのに」


「・・・」


「貴様ッ!!」


煽ってもロンは涼しい顔を崩さず代わりにシクウがキレた


「おっ?やるのか?そうだよなコイツは御前試合中だからお前が出るしかないもんな。けど俺は流華門に入門して数ヶ月・・・いや入門を認められているのかも怪しい立場・・・まだ武術のぶの字も学んでないのに名門の武勁門当主の息子に襲われたら死んでしまう・・・なので近くにいる強い人を頼ろうと思う・・・助けてラカンモーン」


「なんじゃその言い方は・・・じゃが頼られたら断る事も出来まい・・・彼に決闘を挑むと言うなら代わりにワシが受けて立とう」


「このっ・・・」


「師兄」


「くっ・・・」


「今すぐには難しいですがもし貴方が仰った内容が本当でしたら後日お詫びにお伺いします。なので我が流派を『屑』と評した事を撤回してもらえないでしょうか?そうでないと師兄はもちろん僕も引っ込みがつきません・・・御前試合よりも大事なものがあるので」


「それってつまり俺が撤回しなかったらお前が俺を襲うってことか?」


「解釈はお任せします」


「ふむ・・・それもいいかもな。そうしたらサーラは楽に優勝出来るだろうし」


「・・・御前試合の出場者と戦えばその流派も処分されますよ?つまりサーラさんも失格となるはずです」


「ならねえよ。さっき言ったろ?入門を認められているかも怪しい立場って。ほら道着も流華門のじゃないし・・・正式に契約を交わした訳でもない・・・その俺が御前試合出場者と喧嘩したからと言って流華門が失格になると思うか?」


「・・・詭弁ですね・・・流華門の観客席にいたではありませんか」


「ならテクも流華門ってことになるぞ?コイツも観客席にいたからな」


「・・・どうしても前言撤回しない、と?」


「詫びも受け取ってないのに撤回する訳ないだろ?」


「・・・分かりました・・・ではお詫びをお持ちした時に撤回して頂きます」


「ちゃんといいモノくれよ?じゃないと『屑』の前に『ケチ』が付くぞ?」


「・・・それは気をつけないといけませんね。安心してください・・・ちゃんと満足して頂けるモノをお持ちしますので」


「さすが名門・・・他から門下生を引き抜いているだけあるな。これは期待出来そうだ」


「・・・そう言えばちゃんと名乗っていませんでしたね。僕の名はロン・・・武勁門のロンです」


「へぇ」


「・・・」


「・・・」


「お名前を聞いても?」


「・・・チョッチョリーノ」


「そうですか・・・ではまた会いましょう・・・ロウさん」


そう言うとロンは踵を返し1人で会場に・・・慌ててシクウは倒れている3人を抱えその後を追って行った


てか名前知ってんなら聞くなよ・・・アイツが『チョッチョリーノさん』って言うかワクワクしちゃったじゃないか


「無謀な事をするのう・・・殺されても文句は言えぬぞ?」


「殺される?誰が誰に?」


「お主がロンに、じゃ」


爺さんの中で俺の評価ってどうなっているんだろ?テクよりは上・・・で、サーラよりは下くらいかな?実際に戦ったのを見たのは初めて会った時のテクを倒したくらいだしそんなもんか


まあでも確かにロンは強いな・・・『気づき』を得た今の爺さんよりも・・・


さすがにあそこまでの強さは想定してなかった・・・元から強かったサーラだから3ヶ月も鍛えりゃ優勝間違いなしだと思ってたのに・・・


今のままじゃ絶対に勝てない・・・かと言って棄権しようなんて言えないし・・・


「まだ不十分じゃったか?」


「・・・何が?」


「武勁門の技を少しは引き出せたが肝心の技は引き出せておらぬからな・・・ワシも幾度となく対戦してロンのは引き出せておらぬが現当主であるゼクウのは何度も見ておる」


「それってシクウが最後に放とうとした・・・」


「うむ・・・武勁門奥義『龍の息吹』」


「龍の・・・息吹?」


「じゃが・・・ふむ・・・」


「どうした?」


「いや・・・あまり他流派の技を語るのはどうかと思うてな・・・」


「そんなの今更だろ?散々俺に見せてくれたのに」


「それは・・・ふむ・・・まあ大丈夫じゃろう。試合でも使うものではあるしのう」


「そうそう・・・で?」


「そう急かすでない。なかなか説明が難しいのじゃ。龍を知っていれば話は別じゃが・・・」


「知ってるぞ」


「なぬ?」


「だから龍・・・ドラゴンの事は知ってるぞ」


「・・・絵本か何かで見たのか?」


「いや実物」


何なら創った事あるし


「そうか・・・ならば話が早い。『龍の息吹』は正にそのドラゴンのブレスの事じゃ」


「・・・口から気弾を吐くのか?」


「それが出来たらもはや人間ではないのう」


俺人間じゃないのかも・・・ああ、魔族か


「ドラゴンはお主の言うように口から吐く・・・ブレスと呼ばれる技なのじゃがその技は霧状で放射線状に広がるらしい」


霧状で放射線状に・・・うーん、まあ大体合ってる・・・かな?


「それを模した技が『龍の息吹』・・・以前はそのような技はなかったがここ最近で思い付いたとか」


「以前ってどれくらい前までなかったんだ?」


「ほんの少し前・・・10年くらい前かのう」


10年がほんの少しか・・・爺さんは俺と同じ時間感覚だな


「先程の武勁門の技を見ても分かる通りかなり魔銃を意識した技になっておる。魔銃を超える為に模倣した結果なのかもしれぬな。それはそれで完成されたものだったが10年前くらいに突如としてその技『龍の息吹』を使い始めたのじゃ・・・魔銃には出せぬであろう霧状の・・・しかも放射線状に広がるその技は回避不可能と言われておる」


回避不可能??・・・あーうん確かに


どれくらいの速度で迫ってくるか分からないけど動けるスペースが限られている場所で追い詰められてそんなもん出されたら回避は出来ないか・・・開けた場所なら後ろに全力で下がれば何とか・・・それも技の速度にもよるけど


「じゃあその技を使い始めてから武勁門は負け無しって事?」


「いや、何度かワシが勝った」


「あん?どうやって?」


「一度は耐え、二度目は出す前に倒した・・・ロンが出て来る前の話じゃがな」


なるほど・・・そう言われてみればそうだよな


回避不可能なら出される前に倒せばいい・・・耐えたってのは参考にならないけどそっちなら・・・


「考えている事は分かる・・・じゃがかなり難しいぞ?ロンではないのなら可能性はあるがロンの場合は体術も使える・・・近付けば体術で迎え撃ち離れれば回避不可能の技が来る・・・正直未だに勝ち筋が浮かばん」


まあ体術に関してはある程度予想はついた。見た試合で気弾を使ってなかったし、さっきシクウの背後を取った時も体術に優れてなければその前に気付かれてたはずだし・・・それに・・・まあそれはいっか


でもそうなるとますますサーラに勝ち目が・・・いや無理に勝つ必要はないけど負けると分かってて送り出すのもなぁ・・・どうしたもんか・・・


「そう言えば爺さんはどうやって耐えたんだ?威力がかなり弱かったとか?」


「いや・・・『羅漢』に守ってもらっただけじゃ。かなり削られたからかなりの威力があっただろうのう」


「そう言えばあの時の老師の『羅漢』・・・かなり小さくなってましたね」


小さい『羅漢』?・・・何か可愛いな・・・っとそれどころじゃない・・・『羅漢』で防いだってことは『羅漢』を出せないサーラは耐えられないって事だよな?・・・うーん・・・他に手は・・・


「実際に『龍の息吹』を見れたらまた違うかも知れぬが見ないで本番を迎えればおそらく何も出来ず終わるじゃろうな・・・まあ見ていたとしてもじゃが・・・」


「・・・見ることは可能だと思う・・・けどその通りで見てもなあ・・・」


「?・・・おそらくロンから『龍の息吹』を引き出せるとしたらワシくらいじゃぞ?もしくはサーラ殿も可能性はあるがそうなると本番でしか見れぬ・・・他の出場者は下手をすれば発勁すら引き出せぬ」


「そんなに差があるのか?」


「あやつは稀代の天才じゃ・・・あやつと比べてしまうとどうしてものう・・・」


「ふーん・・・まあでも別にロンが出さなくても見れるだろ?威力は違うかもしれないけど」


「確かにシクウは使えそうじゃったがもう出すことはないじゃろう・・・あれが最後のチャンスじゃった・・・惜しいことをしたのう」


「いやシクウでもないけど?」


「・・・なぬ?」


「まあ大体・・・こんなもんだろ?」


手のひらを上に向けてイメージする・・・霧状で放射線状に広がるマナ・・・それを放つだけ


手のひらからはイメージ通りのブレスが放たれる・・・多分こんな感じだと思うけど・・・強さは分からないな


「・・・お、お主・・・一体・・・」


「うん?そうだな・・・ロンが稀代の天才なら俺は・・・期待の新人ってところかな?」


技は再現出来ても威力までは無理だ・・・それに見せることは出来るけどこれをサーラに放つ事は出来ないし・・・


後一日か・・・鍛えるにも時間がない・・・短期間で・・・いや短時間で濃密な稽古をするとしたら・・・ん?


「な、なんじゃ?」


「・・・爺さんって俺に借りがあるよな?」


「・・・う、うむ・・・『気づき』を得られたのはお主の一言であるし借りはあるが・・・その笑顔はなんじゃ・・・気味が悪いのじゃが・・・」


「・・・その借り返してもらおうか・・・体で、な──────」

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