300年後へようこそ 22
ラズン王国御前試合
今年は例年よりも注目され各国から武術に興味を持つ人々が集まり大盛況の中で開幕した
初日は一回戦のみ
それでも全16試合もありかなりの長丁場となったが観客達の興奮は冷めることなく初日の日程を全て終えることとなった
観客達は試合を見終えると城下町郊外にある試合会場から城下町に戻り興奮冷めやらぬまま食事処や酒場へと繰り出す
もちろんそれは今日見た試合を語り合う為だ
「やっぱり強ぇな・・・武勁門は」
「あったりめえだ!天下無双・・・優勝候補筆頭の武勁門だぞ?更にその天下無双の技を使うのが天才ロン・・・負ける姿なんて想像出来ねえってもんだ」
「だな。このまま武勁門ロンの優勝は間違いねえ・・・ただ・・・」
「ああ」
御前試合を熱く語り合う男達
優勝は一回戦最後に出て来て圧倒的な強さを見せた武勁門のロンだと誰もが口にした・・・が
「サーラちゃん・・・」
「おい!ちゃん付けするな!サーラさんだろ!」
「いや・・・様だ」
「・・・だな」
最も強いという議論はロンに軍配が上がるが人々に第一試合で最も印象に残った試合は?と聞いたら誰しもが一回戦第一試合を浮かべるだろう
「流・・・なんだっけか?とにかく可憐だよなサーラ様」
「なんて言うんだろ?華があるって言うのか?実際花びらが舞ってたしな」
「俺・・・御前試合が終わったら告白してみようかな・・・」
「告白ってお前・・・結婚して子供もいるよな?」
「質に入れて結婚資金にする」
「・・・最低の野郎だなお前は」
そんな会話が至る所で飛び交う中、観客だけではなく出場者である者達もほとんどが城下町に戻り食事をしていた
今日で半数の門派は敗北しており敗北した門派の者達の表情は暗い・・・だがその中で勝利したにも関わらず顔を顰める者達がいた
「誰も彼も『サーラ』『サーラ』・・・御前試合を見世物小屋と勘違いしているのでは?」
「所詮武術を知らない者達・・・ロン師兄の凄さなど分かるまい・・・そうですよね?師兄」
同じ道着を着ている者同士で会話した後、1人フードを被る人物に話し掛ける
「・・・」
話し掛けられたフードの男は無言のまま目の前にある料理に手を出し口に運ぶと話し掛けた男ではなく周囲を見渡した
周囲の者達の中には武勁門の道着に気付き口を閉ざす者もいたが気付かず話を続ける者達も多く武勁門の門下生達の機嫌を損ね続ける
「師兄・・・黙らせて来ましょうか?」
「・・・いいえ。観客の印象に残るのも無理はありません・・・圧勝よりもギリギリの戦いの方が感動し記憶にも刻まれるものですから・・・」
「ですが・・・」
「それよりも流華門・・・あの男の存在が少々目障りです」
「あの男・・・ですか?」
「はい。僕のサーラさんにベッタリと付きまとっているあの男・・・以前流華門を訪れた時はいなかったはずです」
武勁門のロンは目立つ事を避けフード付きのコートを着てフードを深く被っていた。そして一部の取り巻きと共に食事をしていると耳に入って来るのは彼への賞賛の声ではなくサーラの話題・・・当然面白くないのだがロンにとっては些細な事・・・それよりも彼は流華門の席にいる男の方が気になっていた
「もしかしたらクルなら知っているかも知れません。アイツは元流華門ですし・・・」
「そうですね・・・では聞いておいてもらえますか?あと知らなかった時は調べて下さい・・・決勝の前までに」
「・・・どのようにして・・・」
「それはご自身で考えてもらえますか?それとも何から何まで指示しないと動けないと?」
「い、いえ!必ず調べて来ます!」
「期待しています・・・決勝で余計な雑念が入れば万が一もありますので・・・心して取り掛かって下さい」
「ハッ!必ずや──────」
「ここがフーリシア王国なんですね!ロウ兄さん!」
「ああ、正確にはフーリシア王国のエモーンズだ。アトはラズン王国を出たのは初めてか?」
「はい!と言うかケネスを出たのも今日が初めてでして・・・まさか城下町に行けた後でフーリシア王国にまで来れるなんて・・・感激です!」
可愛いなぁアトは
キラキラした目で初めて訪れた街を見回すアトと平静を装うお義父さんと相変わらずのお義母さん・・・それに勝手知ったるサーラと共に今日の全日程が終わった後でエモーンズに戻って来た
今は街を案内がてら食事をする店をどこにするか迷っている真っ最中・・・スラコに作ってもらっても良かったんだがせっかくエモーンズに来たんだ・・・街の雰囲気を味わえた方が良いと思い外で食事をする事にした
「老師!あの店なんてどうですか?凄いいい匂いがしてます!」
「・・・高そう・・・だな・・・」
「父上、ここは私が払うのでお金の事は気にしなくても・・・」
「そうはいかん!まだ一回戦とはいえ勝利に対しての祝勝会も兼ねておる・・・なのに戦った物が・・・しかも娘が払うなど・・・」
「だったら俺が払いますよ」
「よし!あの店にするぞ」
「・・・」
「・・・父上・・・」
切り替え早っ
まあいいけどね・・・
全員で店に入ると食べたことのないメニューを見て困惑していたので俺が適当に人数分頼んだ。御前試合中は食事が出来ないのでアトはかなりお腹が空いていたのか料理が来るまでソワソワし来たら料理を皿まで食べる勢いで食べ始めた
お義父さんはそれを見て何か言おうとしたがあまりの豪快な食べっぷりに口を閉ざし苦笑すると自分も食べ始める
そしてある程度腹が満たされるとお義父さんは箸を止めサーラを見つめた
「・・・なにか?」
「いや・・・ここ最近お前には驚かされてばかりだ・・・勝つと信じてはいたがまさか本当に羅漢拳のバク殿に勝つとはな」
「父上に勝てたんだし当然では?」
「儂に勝てたからと言ってバク殿に勝てるという理屈が分からん。逆ならばともかく・・・」
「私はバクさんより父上の方が強いと感じましたが?」
「異なことを・・・そんな訳は・・・・・・・・・いや、儂に勝ったのだから当然だな」
サーラは真っ直ぐにお義父さんを見つめていた。その視線に気付いたお義父さんは否定しようとしていた言葉を飲み込みサーラに乗っかった
さすがサーラ・・・分かってらっしゃる
俺がバクの爺さんに言った言葉は何も羅漢拳に限った事じゃない。他の流派にも言える事だ
自分の流派が弱いと思っていたら勝てるもんも勝てなくなってしまう・・・万年1回戦負けだったお義父さんみたいにな
流華門は弱い・・・いや、弱かった・・・他の流派が切磋琢磨して自らと流派自体を磨いている時に強くなる事をやめてたのだから当然だ
けど今は違う・・・サーラによって流華門は強くなりサーラ自身も強くなった。これからは誰も流華門をバカにしたり下に見たりはしないだろう・・・だからこそ当主であるお義父さんにも意識改革が必要だった
現当主が自分の流派が弱いなんて思っていたらまた弱小流派に逆戻りだしな・・・せっかく優勝候補に勝ったんだ・・・この勢いに乗るしかない
「んん・・・しかし油断は禁物だぞ?次からは勝ち上がって来た流派との対決となる・・・羅漢拳に勝った事で相手も油断などしないだろうからな」
「分かっています・・・けど負ける気はしません」
「・・・頼もしいな。明日もまた祝勝会が出来そうで何よりだ」
「けど・・・明後日は分かりません」
「・・・武勁門か・・・」
『明後日』と『武勁門』という言葉が出るとお義母さん以外の表情が曇る
明後日は一試合だけ・・・決勝戦があるだけだ
今日の最終戦で武勁門を見たが・・・決勝戦は間違いなくアイツが上がって来るだろうな。それほど圧倒的だった
武勁門がって言うよりロンって男が強過ぎる・・・他の奴らより頭一つ・・・二つくらい抜けている
「あなたは勝てると思う?」
「・・・」
突然話を振られて答えに窮する
ここは正直に言った方がいいのかそれとも・・・
「何を考えているのか知らないけど私が聞いたのは『あなた』が勝てるか、よ?」
「俺が?・・・秒数を聞いてるの?」
「秒数?」
「何秒で勝てるか・・・じゃなくて?まさか勝てるか負けるか聞いてる?」
「・・・ちなみに秒数は?」
「1秒」
「そうよね・・・そう言うと思ったわ」
勝つのは1秒あれば充分・・・負けるなんて天地がひっくり返ってもありえない。アイツが全盛期のレオンやキース・・・ディーン並ならいざ知らず、あの程度なら俺の前に立つ資格すらない
あ・・・そうか・・・今の俺はロウニール・ローグ・ハーベスではなくロウニール・ハーベス・・・だとしたら天地がひっくり返るかも・・・でもまあ戦う事はないだろうし・・・
「・・・ふん!今日くらいはその大言を許してやろう。ここなら聞かれる心配もないしな」
「聞かれたらどうなるんですか?」
「決闘を挑まれるだろうな。武術家同士ではよくある事だ・・・御前試合開催中でも例外ではない。国も武術家同士の決闘は認めているからな」
事実を言っただけで決闘を挑まれるのか・・・面倒な国だな
「だから他流派の事はなるべく口にしないようにしているの・・・すぐ決闘になるし思うところがあっても御前試合があるしね」
「羅漢拳と武勁門はそうじゃないみたいだったけど?」
「それは・・・」
サーラはチラッとお義父さんを見た
なるほど・・・流華門は舐められていたってことか
『流華門になら何を言っても大丈夫』『もし決闘になっても勝てる』・・・そんな思いが顔と口に出てたって訳か・・・だが一回戦のサーラを見てもう誰も軽口を叩く奴はいない・・・叩くとしたら武勁門くらいか
確かに武勁門のロンは強い・・・今までの流華門だったら手も足も出ないだろう
けど今は違う・・・今の流華門なら・・・サーラなら・・・・・・・・・勝てるとは言わないでも善戦はするはずだ・・・うん
「何を考えているか分かりやすいわね・・・ひとつ聞いていい?」
「答えなくていいなら」
「・・・『私は』ロンに勝てると思う?」
「勝てると思うよ」
「・・・意外ね・・・答えないと思っていたのに」
「答えないとは言ってない。もっと別の・・・例えば性癖なんか聞かれたら困ると思って言っただけだ」
「どんな特殊な性癖を持っているのよ・・・それで・・・どうやったら勝てる?」
「質問はひとつじゃなかったの?」
「ひとつめの質問の続きよ」
「なるほどね・・・どうやったら、か」
サーラも気付いているか・・・普通にやっても勝てないことに
3ヶ月鍛えただけじゃ届かないほど差があった・・・ただそれだけであり才能云々ではない
『時間』と言いたいところだけどそれを言ったら身も蓋もないしな・・・だとしたら・・・
「ふん!羅漢拳のバク殿に勝ったのだぞ?そのバク殿と同等のロンに負ける訳あるまい」
「ちょっと父上は黙ってて。今はロウに聞いているの」
「うぐっ・・・最近ちょくちょく言葉遣いが荒いぞ!もっとこう敬う気持ちをだな・・・」
「黙ってて」
「・・・」
お義父さんも娘にゃ弱いな
それよりもさて・・・どうしたもんか・・・『時間』以外でロンに勝つ方法はあるにはあるが・・・
「ロウ?」
「・・・羅漢拳の爺さんと戦った時と同じように戦ったらサーラは負ける」
「同じように?」
「ああ・・・爺さんとは探り合いをし最後に出した手が爺さんを上回ったから勝てた・・・まあ爺さんが勝手に下回ったとも言えるけど」
「ふん偉そうに」
「父上!・・・で?ロンとはそういう戦いにはならないってこと?」
「多分ね。今日の試合を見て圧勝してたろ?あれは相手が実力を出す前に圧倒したからそんな風に見えたんだ・・・もし相手が実力を出し切ってたらもう少しまともな試合になってたと思う」
仮にも流派の代表だ・・・そこそこの実力はあったはず・・・けど簡単にやられたのは実力差以上に・・・
「じゃあ私がやる事は最初から全力で・・・」
「違う・・・相手と同じ事をしなくちゃならない」
「え?」
「相手が実力を出す前に倒す・・・試合じゃなくて相手を殺す気でいくしかない・・・ダンジョンで魔物を相手にするみたいにね──────」




