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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
831/856

300年後へようこそ 21

「あら?迎えに来てくれたの?」


「当然・・・おめでとう」


「ありがと」


舞台から入って来た東門を出て通路を歩いていると彼が立っていた


確かこの通路は控え室から一本道になっていて出場者しか入れないはずだけど・・・まあ彼なら何でもありか・・・


「肩を貸そうか?」


「そこまで・・・と言いたいところだけどお願い。早く観客席に行かないといけないしね」


「?・・・なんで?」


「次の試合の勝者と次当たるのよ?見ておかないと・・・」


「ああ、なるほど」


羅漢拳と武勁門以外は対戦経験はある・・・まあ魔物が化けた偽物だけど。それでもかなり本人に近いらしく私は魔物が化けたその人達を全て倒した・・・でもあくまでもそれは3ヶ月前のその人達を元にした実力であり実際の今の実力は不明だ


もしかしたらとんでもなく強くなっているかもしれないし見ていて損はないはず



彼に肩を借りて通路を歩きながら今の戦いを振り返る


はっきり言って実力はバクさんの方が上だった・・・もう一度やっても勝てるかどうか・・・


「最後のアレ・・・どうやったの?」


「え?最後のアレって?」


「ほら、巨大な手に挟まれて・・・潰されたかと思ったよ」


「ああ・・・あの時は運が良かったかも」


「運?」


「ええ・・・」


あの時の私はその前から決めていた行動をしただけ・・・防御に徹してバクさんが先に動いたら奥義を叩き込もう・・・それを実践したに過ぎない


防御しているだけでは当然勝てない・・・かと言って私から攻撃を仕掛ければやられる・・・その状況の中で私が選択したのは『何が何でも躱し続ける』だ


ひとつのミスが負けに繋がる・・・そのまま躱し続けても勝てない・・・そのプレッシャーの中で躱し続けるのは至難の業だった・・・けどひとつだけ心に決めた事が支えとなっていた



『向こうが仕掛けて来たら奥義を叩き込む』



難しい事は一切考えない・・・ただ延々と続く攻防の中で先に変化を見せた方が負け・・・そう信じて躱し続けた


そしてバクさんの背後の気の塊が膨れ上がった瞬間・・・私は奥義を繰り出した


左右に迫る巨大な手を気にすることなく


もし奥義ではなく突っ込むと決めていたら私の負けだっただろう・・・巨大な手に挟まれて立ち上がることなく敗北していた・・・でも奥義・華中拳禍を放つ際に舞う両腕を包み込む花びらが偶然にも盾となり迫る巨大な手を止める事が出来た


そして力を振り絞り両手をこじ開けると出来た隙間から抜け出し諸手突きを放つ・・・本来なら両腕に巻き付くように花びらが舞うのだがその花びらは巨大な手を跳ね除けることに全て使い本当にただの諸手突きとなってしまっていた・・・反撃されたら負ける・・・乾坤一擲の一撃により私は勝利を収めた


勝てたのは運・・・状況を判断して行動したならともかく事前に決めていた行動が上手くハマったから勝てたようなものだ


「ふーん・・・それでもサーラは勝ってたと思うよ?」


「それでも?」


「奥義じゃなく突っ込む事を選択していたとしても・・・サーラは何とかして最後の一撃をバクに叩き込んでた・・・多分ね」


「・・・そう?けどバクさんは私が突っ込んで来ていたら違う選択をしたかも・・・それに対応出来たかどうか分からないわ」


「うん。でも先に動いたのはバクだ・・・だから俺はサーラが勝っていたと思う」


先に動いたのはバクさん・・・確かにその通りだ


あの時の私は『先に動いたら負ける』と思っていたけど逆を言えば『先に動かなかったら勝てる』という事になる・・・そして結果私が勝った・・・たまたまとか考えずその結果を受け入れてもいいのかもしれない


「そうね・・・そういう事にしとくわ」


反省は必要だけど結果が全てだ・・・あの時こうしておけば良かったとかああしていたら負けていたなんて考えても仕方ない・・・それが必要なのは次に戦う時・・・今はバクさんとの『次』ではなく・・・


「急ぎましょ・・・明日も勝ち残る為に」


「うん、そうだね」


試合はこれで終わりじゃない・・・明日・・・そして明後日も続く


今日は一回戦だけだけど勝ち残れば明日三試合、明後日一試合残っている


二回戦、準々決勝、準決勝・・・そして決勝戦


一回戦はくじ運だけど二回戦からは勝ち上がって来た人との対戦となる・・・バクさんより強いとは思えないけど油断は禁物だ


そして多分決勝に上がって来るのは・・・



ロウに肩を借りて観客席に辿り着くとすぐに私達の席があった


私の試合中は最前列だったけど試合が終わると一番後ろになっていて、私達の席の前には一回戦で最後に戦う流派が座っている


一回戦最後の試合に出る・・・武勁門が


「サーラ!・・・よくやった」


私に気付いた父が立ち上がり近くに来ると微笑みロウを払い除け抱きしめる


目が真っ赤だったから泣いてたのかな?まあ野暮な事は言わないけど・・・


「痛いな・・・なあサーラ聞いてよ。お義父さん超泣いてたんだぜ?鼻水と涙で顔をくしゃくしゃにしながら」


「な、泣いてなどおらん!」


・・・うーん・・・野暮ね





一回戦は淡々と進んで行った


ちなみに一回戦第2試合は『一指拳』のアクウが勝ち上がり明日私と対戦する・・・試合を見る限り偽アクウとそこまで差がないから問題ないと思うけど油断は出来ない・・・せっかく優勝候補のバクさんに勝ったんだもの・・・行ける所まで行かないと鍛えてくれた彼にも悪いしね


試合は進み私達が観客席の中ほどまで進んだ頃、背後から声を掛けられた


「あの・・・兄さん」


兄さん?


振り返るとそこには羅漢拳のテクさんがいた・・・どうやらロウの事を『兄さん』と呼んだみたい・・・なぜ??


「テクテクか・・・なんだ?恨み節でも言いに来たのか?」


「ち、違います!老師が会いたいと・・・兄さんと・・・サーラさんに」


老師・・・バクさんが私とロウに?


「サーラどうする?まだ試合中だけど」


試合中と言っても一回戦の中盤に差し掛かっている・・・今戦っている人達とは戦う事になるとしたら決勝戦・・・つまりほぼ戦う事にはならない人達だ


最後の試合は見ておきたいけどそれまでにはかなり時間がある・・・なら


「・・・行きましょう。なぜテクさんがあなたを『兄さん』と呼んでいるかも気になるしね」


「それはコイツが勝手に・・・」


まあ大体察しはつくけどね・・・それにしてもバクさんはなぜ私とロウを・・・まっ、行けば分かるか・・・




テクさんの案内で私達は会場内にある医務室へと向かった


医務室の中に入るとベッドが並んでおり一番奥のベッドに体を起こした状態のバクさんがこちらを見ていた


なんだか舞台で対峙した時よりも一回り小さく見えて心配になったがその心配をよそにバクさんは私達を見て微笑む


「すまんのう・・・本来ならこちらから出向くところを」


「い、いえ!・・・その・・・私が聞くのも何ですがお身体は・・・」


「安心せいこう見えても日頃鍛えておるから問題ない・・・何本か骨が折れた程度じゃ」


問題ありまくりのような・・・でも折れた骨が内蔵に刺さってないようで安心した・・・もし刺さってたら今頃・・・


「それで?何の用だ爺さん」


「あ、兄さん!」


「『兄さん』?」


「あ・・・いや・・・その・・・」


「フッ・・・他流派に慕う者がいるのはいい事じゃ・・・誰も責めてはおらぬ。それよりサーラ殿」


「は、はい!」


「すまんかった」


「・・・え?」


バクさんが頭を下げる


今の謝罪・・・よね?なんで・・・


「羅漢拳はその性質上女人禁制となっておってな・・・武術家イコール男という考えが根付いておった。故に無意識に女性は武術家には向いてはおらぬ・・・言葉悪く言えば弱いと決めつけていた・・・不快な思いをさせてすまなかった」


「い、いえ!それで勝たせてもらったようなものですし・・・」


「それは違うぞ?お主は実力で勝った・・・この羅漢拳バクに、な」


「バクさん・・・」


嬉しい・・・あの羅漢拳のバクさんにそんな事言われるなんて・・・


「ハッ、『この羅漢拳バクに』だって?偉そうに」


「兄さん!」


ちょ、ちょっとロウ!


「・・・確かに何様だって言い方じゃったのう・・・しかしこれでも優勝候補と言われている身・・・少しくらい偉そうにしてもよかろう?」


「よくないよくない・・・それだけ育っても謙虚さは学ばなかったか?」


「ア・ニ・キ!バク老師はこれまで武術界に多大な功績を残している御方ですよ?」


「だから?」


「『だから?』って・・・その・・・もう少し敬って・・・」


「俺はその功績とやらの恩恵を受けた事も聞いた事もない・・・かと言って目上だから敬えって言うならそれはこっちのセリフだし・・・って訳で敬う必要なんてない」


「・・・」


うーん・・・確かにロウの言う通りなんだけど・・・フーリシア王国にいた彼はバクさんが武術界に貢献していても関係ないだろうし歳で言ったら圧倒的に彼の方が上だし・・・もしテクさんの言い分を聞くならバクさんの方が彼を敬わなければならなくなるしね・・・けど傍から見ると生意気な若造が目上の方に無礼な態度をとっているようにしか見えないのよね・・・


「・・・生意気じゃのう・・・が、それぐらいの気概が弟子達にも欲しいところじゃな。『羅漢』を出せぬのもその辺が原因だからのう」


「羅漢を・・・出す?」


「先程の試合で見て実際に戦ったであろう?我が身に宿りし羅漢・・・その姿と」


ああ・・・気が人な形になって・・・つまりその気人間?が羅漢?


「テクに聞けば初見で羅漢拳の弱点を見抜いたらしいが・・・」


そう言ってバクさんはロウを見て目を細めた


羅漢拳の弱点・・・そんな誰が聞いているか分からないのに大ぴらに言って大丈夫なの?てか実際に戦った私ですら分からないのにロウは初見で?


「・・・」


「お主を弟子にするのは負けた手前しばらく諦めるとして・・・ひとつ聞きたい・・・お主なら弱点をどう克服する?」


あ・・・多分私達が呼ばれたのはこれが目的だ・・・謝罪だけなら私を呼ぶだけでいい・・・今の質問をするだけなら彼だけを呼べばいい・・・けどそれだと彼は来てくれないと思ったから私のついでで彼を呼んだ感じにして・・・


ちょっと思うところはあるけど・・・尊敬するわ。負けた後でもう次を見据えている・・・だからこそ100を超えても現役でいられるのだろう


「・・・あー・・・」


言いにくそうに彼は私を見た


その意図は『羅漢拳が強くなってしまうけど言って良いか?』だろう


羅漢拳が強くなったら私はそれ以上強くなればいい・・・だから私は彼の視線に頷き応えた


「・・・その『羅漢』はマナ・・・気で作られたもの・・・んで、体内にある気全てを使って出しているんだよな?」


「そうじゃ。実際は気が充実した日に発現させ体内に宿す・・・そしていつでも出せるようにしておくのじゃ」


「ふむ・・・で、さっきの爺さんみたいに全て出すと体の中にあった気が全て出た状態になり体は無防備になる・・・それが弱点・・・だよな?」


「うむ。弟子達はそれを嫌い体の中に宿した状態で小出しに羅漢を出しよる・・・腕や足を出し攻撃したりな。だが本来の羅漢拳は体に宿した羅漢を出す事にあるのじゃ」


そっか・・・バクさんが私の諸手突きで倒れたのは気を全て外に出してたから・・・確かにその状態だと気を込めた攻撃はもちろん普通の攻撃でもかなりのダメージを受けることになる・・・てか本当にこれ聞いて良かったのかしら・・・


「その羅漢って理想の武術家・・・だっけ?」


「そうじゃ。だから人によって羅漢の姿形は違う。試合で見せたのはワシの理想であってテクの理想ではないからのう。他の弟子もそうじゃ・・・まあワシの羅漢を見てかなり引っ張られてしまっているようじゃが・・・」


「・・・ひとつ聞いていいか?」


「なんじゃ?」


「爺さんの理想の武術家って人一人も守れないような武術家なのか?」


「・・・なに?」


「聞き返すなよ・・・今の質問に深い意味はないからさ」


「・・・」


バクさんは一点を見つめ固まってしまった


私はなぜロウがそんな質問はしたか分からない・・・でもバクさんにとっては意味のある質問だったらしい


「じゃ、俺は帰るぞ」


「え?あ、兄さん・・・」


「爺さんはしばらく放っておけ・・・邪魔すると後で怒られるぞ?」


「えぇ?・・・は、はい・・・」


そう言うと彼はそのまま医務室を出ようとするので慌ててその後について行く


バクさんは弱点を克服する方法を聞きたかったのに・・・あれでいいの?




「ねえ・・・あの質問の意図は何?」


医務室を出てしばらく歩き、やはり気になるので聞いてみると彼は私を見て微笑んだ


「羅漢って何だと思う?」


「へ?・・・だから理想の武術家でしょ?」


「それって誰の理想?」


「だから本人でしょ?」


「そうなんだよ・・・本人が理想とする武術家をイメージしたのが羅漢だ。でもそれを出すと体内の気が根こそぎ持っていかれるから相手からの攻撃に対して無力になる・・・まあ確かに弱点と言えば弱点だよな」


「・・・」


「けどさ・・・羅漢が守ってくれれば問題ないし相手を倒してくれればいいだけだろ?」


「・・・でも・・・相手に無防備な本体を狙われたら・・・」


「それ・・・それが弱点なんだ」


「へ?」


「理想の武術家がそばに居るのになぜ『狙われたら』って考える必要がある?理想の武術家なら相手なんて軽く捻り潰せるし本体を守る事だって余裕なはずだろ?」


「あ・・・」


「『羅漢』は俺の能力『創造』に近い。マナや魔力を使いイメージしたものを実際に創り出す能力とね。1回創ってしまえば独立するのが『創造』だけど『羅漢』の場合は使用者と繋がっている・・・だから使用者が弱気になれば『羅漢』は本来の力を発揮出来ない。逆に強気になれば本来の力を発揮出来るはずだ」


「そっか・・・気持ちが強さに左右する・・・そうよね・・・」


言われてみれば当たり前の事だった


弱気になり萎縮してしまえば本来の力は発揮出来ないのは当然・・・けどバクさんみたいな熟練の武術家がなぜその事に気付かなかったんだろう


もしかしたら・・・バクさんは弱気になっているんじゃなくてプレッシャーに負けてしまったのかも・・・後進が育たないみたいなこと言ってたし『自分がやらなきゃ 』みたいなプレッシャーに圧し潰されて弱気と言うより慎重になりすぎたとか・・・


バクさんの胸の内は分からない・・・けど


「先が思いやられるわね・・・来年はきっと今年よりも更に強くなっているでしょうから」


「・・・あれ?あの時頷いたのはそれを承知の上で・・・」


「こっちを見てたから多大頷いただけよ?あーあ、他流派を強くするなんて一体何を考えているやら」


「えぇ・・・」


何でも出来るし何でも知ってそうな顔が腹立つのよね・・・実際何でも出来るし知っているのだろうけど・・・そんな人にどうやって追いつけって言うのよ


「罰として今日はあなたの家に泊まらせてもらうわ。ちょうど足を伸ばせるお風呂に入りたいと思ってたの。って事で父と母・・・それにアトもあなたの家に連れて行って」


「ば、罰??・・・わ、分かった・・・準備させておくよ」


「それじゃ許してあげる・・・さ、行きましょ!まだ最後の試合には間に合うはずよ!」


「え・・・あ、うん」


正直優勝は難しいというのは分かっている


武勁門に3ヶ月程度頑張ったところで追いつけるはずもないから・・・


しかもバクさんとの試合を見ていたはず・・・だから油断はしてくれないだろうし逆に警戒してくるだろう


でも・・・私だって負けるつもりはサラサラない・・・その為に全ては見せていないのだから・・・


「勝つわよ・・・武勁門に」


「その前に3試合あるけどね」


「・・・そうだったわね・・・でも・・・その3試合は誰が来ようと負ける気がしないわ」


「だね・・・サーラなら勝てるよ・・・必ず──────」

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