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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
830/856

300年後へようこそ 20

それは激しい戦いだった


基本的にはバクが攻めサーラがその攻めを受け流す・・・3ヶ月鍛えたサーラが攻め手に欠けるのはあの・・・


「どうです?兄さん!羅漢拳は」


「・・・お前の陣営はアッチだろ?」


「まあまあ堅苦しいこと言わないで・・・で?どうですか?」


「・・・強いな・・・」


羅漢拳・・・テクと戦ってもその凄さは分からなかったがバクの使う羅漢拳はテクとは別物・・・恐ろしく・・・そして面白い武術だ


「そうでしょう?良かったら解説しますよ!」


「・・・殺されたいのか?」


「ま、またまた~・・・私はただ羅漢拳の魅力を知ってもらいたいだけでして・・・」


それが神経を逆撫でするとなぜ分からないかな・・・今その羅漢拳と戦っているのは俺達の代表のサーラなんだぞ?


「いい機会だ・・・向こうに行ってじっくり聞いてきたらどうだ?この裏切り者が」


「いやいやお義父さん・・・俺は裏切ってなんか・・・っ!」


観客席から歓声が上がる


それは長く停滞していた試合が動いたからだった


「サーラ!」


「羅漢拳『羅漢』・・・これからが老師の本気ですよ」


「羅漢?」


これまで攻撃を上手く躱したり受け流していたサーラだったが一気に舞台の端まで吹き飛ばされた


依然舞台中央にはバクが後ろ手を組み全く動いてはいない・・・だがその後ろには筋骨隆々の男?が立っていた


これまでもバクは突っ立っているだけだった。ならどんな攻撃からサーラは身を守っていたかと言うとバクの操るマナの攻撃からだ


バクでマナで腕や足を形作りそれを使ってサーラに仕掛けていた・・・が、今は人間の形そのものを作り出している・・・つまりあのマナで作られた人間が・・・羅漢


「羅漢拳の『羅漢』は人それぞれ形が違います。なぜ違うかと言うと人それぞれ理想が違うからです」


「理想?」


「はい・・・理想の身体や理想の動き・・・理想の強さを持つ人間・・・それが『羅漢』となりああやって姿を現すのです」


「理想ねぇ・・・なるほどチンチクリンで身体が細いから背が高くて筋骨隆々な『羅漢』な訳か・・・理想と言うより憧れだな」


「兄さん!・・・まあ否定はしません・・・私も強い人物を浮かべたら老師の羅漢と同じような形になるでしょう・・・今は違うかもしれませんが・・・」


「?・・・まあいいや。それでひとつ疑問なんだがあれってマナ・・・気の消耗激しくないのか?想像して気で形作るだけでも大変なのに維持してたらとんでない気を消耗しそうだけど・・・ぶっちゃけアレを出している間逃げてれば勝手に自滅してくれんじゃないかって思えるが・・・」


「確かに気の消耗は激しいですがそれは出現させる時と動かした時だけです。基本動いていない時は気を消耗しませんので」


「なに?」


「羅漢の体の一部が老師と繋がっているのが見えますか?」


・・・そう言えば半透明の羅漢の体の一部はバクと繋がっているように見えるな・・・


「それが?」


「私達は常に体内に『羅漢』を潜ませてます。もはや体の一部のように。つまり老師はただ体の外にその羅漢を出しているだけで普段と何ら変わりない状態なのです」


常に羅漢を潜ませている?つまりあの小さい爺さんの中にあの巨躯な羅漢が詰まっていたってことか?・・・ギチギチやんけ


「あそこまで姿を見せられるのはバク老師だけ・・・情けない話ですが私含め門下生は体内にある羅漢の一部を出せるくらいです。このように」


そう言ってテクは自分の腕を前に突き出すとそこからマナで作った・・・いや作ってあった腕を生えさせた。腕から腕が生える奇妙な光景・・・にしてもバクの羅漢の腕よりかなり細いな・・・これがテクの理想の腕なのか?


「その腕で攻撃するのか?」


「はい。実の腕で攻撃を仕掛け躱した相手に羅漢の腕で攻撃する・・・普通の武術家なら大概はそれで倒せます」


まぁ確かにな・・・躱したと思った腕から腕が生えてきたらびっくりするし躱した後なら体勢も崩れているかもしれないし・・・


「でも爺さんは最初から自分は動かず羅漢に攻撃させていたよな?」


「羅漢拳の本来の動きが老師の動きです。自分で動くのではなく羅漢に理想の動きをさせる・・・私達は未熟なので自ら動きその補助のように使っていましたが・・・」


ふーん・・・大体分かったぞ。弱点も


「爺さんのように羅漢を外に出してて大丈夫なのか?」


「・・・と言いますと?」


「いつも体内にいるんだろ?あの様子だと爺さんの全ての気と言っても過言ではないだろう・・・それがほとんど全て外に出てたら本体の・・・爺さんの体はどう守るんだ?」


マナを込めた攻撃に対して普通の肉体で受け止めたら大怪我をするのは当然・・・だからマナに対抗するにはマナを使わなければならない。でも体内にあるマナを全て外に出してしまったら?・・・マナの攻撃に対して無防備となり簡単にやられてしまうだろう


「・・・羅漢が守ります・・・」


「まあそうなるだろうな。けど羅漢の守りをすり抜けて攻撃されたら致命傷になりかねない・・・今の爺さんは裸で傘を差しているようなもんだ・・・雨が真っ直ぐ降ってりゃ濡れないが横降りになったり雨が地面で跳ねたら濡れてしまう・・・違うか?」


いくら大きな傘でも全く濡れないのは無理だろう・・・バクが自ら動かないのもその理由かもしれないな・・・動けば自ら隙を作ってしまうかもしれない・・・それなら動かず羅漢を操作することに集中した方が隙は生まれにくい


「・・・流石です兄さん・・・こうも短時間で羅漢拳の弱点を見抜くとは・・・でもそれを補える奥の手はあります!それに他にも・・・」


まあ弱点が分かっていればそりゃ考えるわな・・・でも


「羅漢拳は完成していない・・・だろ?」


「・・・」


俺を突然勧誘してきた時の台詞・・・『極みに』『その先』から考えるとまだ弱点を完全に克服していないはず・・・つまりサーラは弱点を突けば勝てるはずだ


舞台上でサーラは確かに攻めあぐねている・・・舞台中央で突っ立っているバクに攻めこもうにも羅漢が邪魔するからだ


でも・・・サーラは本気で攻めていない・・・受け流しの時に技は使っているが攻めでは一切使っていない・・・サーラが羅漢拳の弱点に気付き本気の攻めに転じれば・・・



「・・・その人そろそろ引っ込めてくれない?好みじゃないんだけど・・・」


「好みじゃないじゃと?理想の武術家に対してよく言えるわい・・・それでもお主武術家か?」


「あら?好きになる人が理想の武術家とは限らないんじゃない?目指す場所ではあるかも知れないけど好きになる人ではないと思うわ」


「ふむ・・・確かにそうかもしれんな・・・ワシが女なら理想の武術家に抱かれたいと思うが皆そうではないか」


「・・・だから貴方は弱いのよ」


「弱い?聞き捨てならぬな・・・攻めあぐねているお主が言う台詞か?」


「じゃあ私が勝ってから教えてあげる・・・貴方の弱い理由を」


「それは楽しみじゃのう・・・聞けると良いのだが」


「聞けるわよ・・・死ななければ、ね!」


サーラが突っ込むがバクは依然突っ立ったまま・・・代わりにバクの後ろに立つ羅漢が構える


羅漢拳の弱点なんてバクは百も承知だろう・・・なら攻撃されないよう羅漢で防ぐしかない


サーラは攻撃を仕掛けず真っ直ぐにバクに向かうと間合いに入った瞬間に羅漢がその巨大な拳を突き出した


食らえば致命傷になりかねない一撃に怯むことなく突っ込むサーラ・・・そしてギリギリでその拳を躱すとこれまでで一番バクへと接近した・・・が


「理想の武術家の体幹を舐めすぎじゃ」


全力で突きを放てば次の攻撃まで隙が出来る・・・それは俺でも同じだ


だからこそ次に備えて力を弱めたり体勢を気にしたりする・・・相手の動きを読み躱されそうなら拳を引くこともある・・・けど羅漢はマナで作られた虚像・・・全力の突きの後でも簡単に・・・


次の攻撃を繰り出せる


「そう簡単にワシの元へ辿り着けると思うたか!小娘!」


「っ!・・・だから貴方は負ける」


「なに!?」


再び放たれる全力の突き・・・サーラはそれをも躱す


更に次々に放たれる攻撃もサーラは躱し続けた


受け流しを得意とする流華門が防御に徹すれば実力差があろうが当てるのは至難の業・・・だけど一つだけこれまでと違うのは僅かながらだけど進んでいるところだ


これまでは躱しながら距離を取ってを繰り返していた・・・が、今のサーラは着実にバクとの距離を縮めている。距離が縮まれば当然攻撃の頻度は上がる・・・けどそれを躱しつつ前へ前へと進んでいた


「小癪な!」


サーラに攻撃する意思は無い・・・ただ来た攻撃に対して意識を集中させ躱しているだけだ。少しでも色気を出して攻撃しようとすればたちまち羅漢の攻撃でやられてしまうだろう・・・攻撃の意思を持たず相手の攻撃に晒されるのはかなり精神的に負担になっているはずだ・・・目的もなくイバラの道を進んでいるようなもんだからな


攻撃の意思もなく近付いて意味があるか?・・・そう聞かれたら俺はあると答える


傍から見れば意味の無い行動も実際に受けている人間には意味があるものになるからな


「くっ!」


ただ近付くサーラを見て顔を顰めるバク


多分バクもサーラに攻撃の意思がないのは気付いているはずだ。攻撃の意思があれば少なからず殺気が洩れるしな


けどサーラからは殺気を微塵も感じてないはずだ・・・けど顔を顰めるのはバクの中で『もし』があるからだ


『もし彼女が殺気を完全に隠せるとしたら』


『もし彼女が無意識に攻撃出来る者だとしたら』


そんな考えがバクの精神を蝕む



バクがビビって先に仕掛けたらサーラの勝ち、もしくはサーラが焦って先に仕掛けたらバクの勝ちだし冷静に攻撃を続けてもバクの勝ちだ


その前にバクのマナが尽きるかもしれないけど・・・そうなる前にバクはおそらくテクの言っていた『奥の手』を出してくるはずだ


どちらにしてもサーラには分が悪い勝負・・・賭けに近い


観客も2人の攻防を見て静まり返っていた


細かい事は分からなくてもひとつのミスが勝負を決することくらいは分かるらしく息をのみ戦いの行く末を見守っている



そして・・・


「認めよう!お主が優れた武術家である事を!」


「・・・もう遅いわよ」


「それはどうかのう?・・・『大羅漢』!!」



っ!?羅漢が更に大きく・・・これが奥の手か!


でも大きくなってもサーラなら攻撃を躱せるはず・・・先にカードを切ったバクの負け・・・


「ってマジか!」


突きや蹴りならいざ知らずアレは躱しようが・・・ない!


巨大化した羅漢が繰り出したのは両手を広げその両手でサーラを挟み込もうとしていた


左右から迫り来るサーラを包み込むほど大きな手のひら・・・左右はもちろん前にも後ろにも逃げる時間はない


このままじゃサーラは潰されて・・・


「サーラ!!」


パンッ!と音と共に左右の手に挟まれてしまった・・・あの手の中でサーラは・・・


「・・・流華門・・・奥義・・・」


微かに聞こえるサーラの声


見ると合わさった手のひらが徐々に開き始める


「・・・お主・・・」


「華中拳禍!!」


「くっ!」


僅かに開いた隙間からサーラが飛び出して来ると両手を突き出した


バクはそれを何とか躱そうとするが間に合わずサーラの両手はバクの胸に届いた



時が止まる



絵面的には老人の胸を美女が両手で触るというシュールなものだが実際は・・・


「・・・見事・・・だ・・・」


「どうも」


「・・・ワシの・・・敗因・・・弱いとは・・・」


「・・・武術家に女も男もないわ。『ワシが女なら』とか言っている時点で女性を舐めている証拠・・・表面上はどう繕っても根底がそれなら貴方は女相手に本気を出さない・・・追い詰められない限りね」


「・・・なる・・・ほど・・・無意識に・・・」


「ええ。初めから本気を出されていたら勝負はまた違った形になったかも・・・それでも勝つのは私だけどね」


「・・・フッ・・・完敗じゃ・・・」


羅漢が消えサーラが胸からそっと手を離すとバクはゆっくりと膝をついた


〘あ・・・こ、この勝負!流華門サーラの勝利です!!〙



フゥ・・・一時はどうなる事かと・・・そう言えば実況とか解説とか言ってたけど試合中は喋んないんだな・・・まあ今の勝負じゃ実況やら解説は邪魔になるだけか・・・


息の詰まるような熱戦・・・最後手に挟まれた時は飛び出しそうになったけど耐えて良かった


「・・・兄さん・・・失礼します」


そう言ってテクは観客席と舞台を隔てる柵を飛び越えバクの元へと行ってしまった


勝ったサーラはボロボロだが自分の足で歩いて舞台から降りれそうだけどバクは無理そうだもんな・・・てか死んで・・・ないよな?



万雷の拍手の中、サーラはテクがバクを介抱するのを見届けると手を振りながら出口へと歩き出す


俺は彼女を迎えに行くべく立ち上がるとある異変に気付いた


「・・・泣いているんですか?・・・お義父さん」


俯き肩を震わせるお義父さんに尋ねると彼は振り向きざまに叫んだ


「泣いてなどおらんわ!」


その顔が・・・涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており『うわっ汚っ』と思ったのは内緒だ──────

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