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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
827/856

300年後へようこそ 17

御前試合の会場は城下町を出て少し歩いた所にある。初めはこじんまりと・・・と言うかほぼ殿様やお偉いさん達だけしか居なかったから城の中庭でやっていたらしいけど一般客を入れるようになって徐々に人が増え始め城下町郊外に大きな会場を作ったのだとか


見たい人は誰でも入場可能で城下町から出るとズラリと並ぶ人達が列を成していた


私のような出場者とその関係者はその列とは別の入口から会場に入り受付をする必要がある


そこで箱から紙を1枚取り出し書いてある番号によって出番が決まる・・・1なら初戦だし32なら今日最後の試合となる


出来れば最後よりの方がいいのだけど・・・そう言えば父は毎回1から2を引いて初戦だったわね・・・そこで大敗して他の試合を見ずに帰るのがある意味様式美みたいになっていた・・・なんかそう考えると私も1か2を引きそうな気がしてきた


「ほう?これはこれは・・・流華門ではないか。出場せぬと聞いていたが・・・」


げっ・・・会場に向け私達が歩いているといつの間に追い付かれたのかあまり会いたくない集団がすぐ後ろにいた


「・・・これはこれは・・・お久しぶりですバク殿」


「ふむ・・・前に対戦した以来かのう?」


白髪の小さい年寄りが気持ち悪い笑みを浮かべ父を見つめる


この人は・・・齢100にして未だ現役の羅漢拳当主だ。父とも対戦した事があり当時の父は手も足も出ずボコボコにされていたのは今でも鮮明に覚えている


「にしても他の門下生は別行動か?出場者のお主を含めぬと4人・・・あまりに寂しい数だが・・・」


私達は5人、私と父と母・・・そしてアトにロウしかおらずそれに比べて羅漢拳は妖怪爺を先頭に門下生をズラリと連れていた


「・・・今いる数が全てです・・・それと私は出場しません」


「なに?」


「出場するのは・・・娘です」


父がそう言うと私に注目が集まる


ほとんどが値踏みするような不快な視線・・・その視線の中には実力とは関係のない場所を見てくる輩までいる始末・・・羅漢拳は名門と言われているけど門下生は程度が知れてるわね


「羨ましいのう・・・我が羅漢拳は後進が育たぬで苦労しておるのに次の世代が育って来たか」


「いえいえ育ったと言うほどでは・・・羅漢拳は誰が出るのですか?」


父が尋ねるとバクさんは不気味な笑みを浮かべ答えた


「ワシじゃ」


「・・・なるほど・・・未だ現役でしたか・・・」


「生涯現役じゃよ・・・まあ後進が育てばその限りではないがな。ワシも後進に譲って縁側で茶でもすすっていたいものじゃ・・・お主のようにな」


「別に私は・・・」


バクさんの物言いに少しムッとした父が何か言いかけると私の横にいたロウがプルプルと震えだしそして『ブハッ!』と吹き出した


「なんじゃ?何がおかしい」


ギロリとロウを睨むバクさん・・・その後ろにいる門下生達も同じようにロウを睨んでいた


「いやいや・・・爺さんが縁側でお茶を飲んでいる姿を想像したら・・・似合い過ぎてて・・・」


笑いを堪えながら言うロウに対して当の本人よりも門下生達が殺気立つ


「貴様っ!老師に対して『爺さん』だと!?」


「別に俺の老師じゃないし見た目からしたら爺さんだろ?自己紹介された訳でもないから名前も知らないし・・・名前を知っていればちゃんと『○○爺さん』と呼んでいたさ」


「こっ・・・この・・・」


「よさぬかお前達。・・・それにしても流華門の・・・あまり感心せぬのう・・・武術の腕はさておき礼儀がなっておらぬ。ここに連れて来るのならば最低限の礼儀を・・・」


「コラコラ・・・礼儀がなってないのはそっちだろ?」


「なに?」


「爺さんはともかく弟子達!お前らサーラの乳や服の隙間から覗く太ももを見てただろ!これは俺んだ!勝手に見んなボケカス共が!」


・・・


「こ、こらお前・・・よさぬか!」


「お義父さんもいいんですか?娘が変態に視姦されても・・・俺は我慢出来ませんね・・・何なら全員ここでぶっ飛ばしたいくらいだ」


「なにぃ!!」


このバカ何を・・・そんな事言ったらもう・・・


「お主・・・もう引っ込みがつかぬぞ?この羅漢拳に対してそのような暴言を吐き生きて帰れると思ったら大間違いじゃ」


「暴言?真実を言っただけだろ?いやらしい目で見やがって・・・本当最低な奴らだな」


「小僧っ!!」


「老師!お待ち下さい!こいつはもしかしたら老師に手を出させ失格させるつもりかも知れません!」


「だからなんじゃ!ここまで言われて・・・」


「ここは私にお任せ下さい。御前試合の出場者である老師でなければ殿も弟子同士の立ち会いなら問題にはしないかと・・・」


「・・・負けたら・・・分かっておるな?」


「はい・・・必ず叩きのめし老師に謝罪させてみせます」


「・・・よかろう」


なんだか勝手に話しが進み何故かロウと羅漢拳の門下生が戦う流れに・・・会場に入ろうと列を成している人達も注目し始めているし・・・どうしよう・・・


「羅漢拳バク老師が一番弟子テクだ!貴様名前は!」


「流華門・・・あれ?お義父さん名前何だっけ?」


「・・・ラーキだ」


「流華門ラーキお義父さんの義理の息子ロウだコノヤロウ!」


・・・


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「何だコノヤロウ!」


「こっちの台詞だ。名乗りも知らないのか?」


「知るか。てか名乗ったじゃねえか」


「・・・普通は流派、師の名、自分の名を名乗るのだ・・・何だ『義理の息子』って・・・初めて聞いたぞそんな名乗り。それに『コノヤロウ』を付けるな・・・礼儀知らずにも程がある」


「そっか・・・教えてくれてありがとう」


「感謝は人並みに出来るのだな・・・ただのならず者ではないということか」


「どこをどう見たら俺がならず者に見えるんだよ」


「見た目ではない。他流派とはいえ敬意を持って接する・・・それが当たり前であり礼儀というものだ。それを・・・」


「そうか?なら礼儀知らずはそっちだろ?他流派である俺達に敬意を持って接しているようには見えなかったぞ?」


「どこがだ?」


「だからエロい目でサーラを見てたって言ったろ?特にそいつとそいつとそいつ・・・それに爺さんの言動も鼻につく感じだったし・・・」


「・・・老師を『爺さん』と呼ぶな。バク老師と呼べ・・・それとエロ・・・不躾な視線を送ったのは謝罪する・・・それが本当だったのならな」


「本当だって」


「そうか・・・ジダ!ケテ!ホイ!お前らは流華門の方に不躾な視線を向けたのか!」


「いえ!向けていません!」


「だ、そうだ。となると貴様の勘違いの可能性が出て来たな」


「勘違いじゃない・・・下手すりゃチンチンおっ立ててたぞ?」


「・・・下品な発言はやめよ!・・・こちらは向けていないと主張しそっちは向けていたと主張する・・・となれば武術家同士白黒つけるやり方は・・・分かるな?」


「ズボンを脱いで確認するとか?」


「・・・勝負でどちらの主張が正しいか決するのみ・・・こちらが勝てば言い掛かりとなり貴様は私達に謝罪する・・・そちらが勝てば・・・3人には謝罪させよう」


「爺さんは?」


「老師だ!・・・老師の発言に対しては弟子の私がどうこう言えぬ・・・だから先ずは弟子同士の問題を解決しないか?」


「・・・まあ分かった・・・とりあえず先ずはお前に勝てばいいんだな?」


「ああ・・・勝てるならな」



どうやらこのテクって人はまともみたいだ


一番弟子と言ってたからそれなりに強いみたいだし・・・


それにしても父はなぜロウを止めないのだろうか・・・いつもならこんな揉め事なんて起こさないし止めに入るはずなのに・・・


父を見ても何を考えているか分からない・・・アトはオロオロしているだけだし母はいつも通りニコニコしているだけ・・・止めるとしたら私しかいないけど・・・


「ロウ」


「なに?」


「程々にね」


「ああ」


止める気はない


私も父への発言には少しムッと来たし・・・なんか下に見ているのが分かるのよね・・・流華門を


「・・・羅漢拳も舐められたものだ」


私の発言で火がついたのかテクは顔を顰めさせ体からは怒気を孕んだ気を放つ


「逆だ逆・・・お前らが流華門を舐めてんだよ」


「・・・貴様にひとつ言葉を送ろう」


「そりゃどうも・・・で?」


「身の程を知れ」


テクは大地を蹴り一直線にロウに向かって飛び込んで来た。そう言えばロウって羅漢拳を見た事ないような・・・とするともしかしたらマズイかも・・・


「お前が、な」


ロウは呟くと向かって来たテクに合わせて拳を振り下ろす


彼は拳をテクの顔面にめり込ませるとそのまま地面に叩きつけた


一瞬だった


勝負とは言い難い刹那の結末に私以外は目を見開き固まっていた


「し・・・師兄・・・」


門下生の誰かが呟くと一斉に殺意がロウに向けられる


このままだと羅漢拳が・・・と、他流派の心配をしているとバクさんが手を横に伸ばし門下生達の殺意を収めさせた


「・・・お主名は?」


「聞いてなかったのか?ロウだよ」


「ロウか・・・ロウよワシの元に来んか?」


え?それって・・・引き抜き?


そりゃ一番弟子を名乗るテクを瞬殺したけど今の今まで揉めていた相手を普通いきなり引き抜こうとする?しかも相手当主の目の前で・・・


「老師!!テク師兄は油断しただけで・・・」


「確かに油断じゃろう・・・だがお主らの中で油断していたとはいえテクを一撃で倒せる者がいるか?」


「・・・」


「公衆の面前で一番弟子を倒された屈辱など吹き飛ぶくらいの逸材じゃ・・・こやつなら羅漢拳の極みに達せるかも知れぬ・・・こやつなら・・・」


羅漢拳の極みとやらがどんなものか分からないけどバクさんの言う通り彼なら可能でしょうね・・・なんてったってあのロウニール・ローグ・ハーベスなんですもの


でも残念・・・彼は・・・


「俺が・・・羅漢拳の極みに・・・」


コラコラ


「そうじゃ。ワシの元へ来い。見せてやる・・・羅漢拳のその先を」


「羅漢拳のその先・・・老人!」


「・・・老師じゃ」


「ああ、間違えた・・・老師!本当に俺は羅漢拳の極みを・・・羅漢拳のその先を・・・」


「うむ・・・お主なら可能じゃ・・・歳はとっておるが今からでも遅くはない・・・ワシの元に来て数十年・・・いや数年修行すれば必ず・・・」


「・・・ひとつ聞いても?」


「なんでも聞くがよい」


「では・・・羅漢拳ってどんな武術なんだ?」


今・・・聞こえたわ・・・バクさんから『ビキッ』って音が・・・


「・・・お主・・・ワシの言葉を聞き感動に打ち震えておったのは演技か!」


「演技だ!」


「・・・」


・・・ちょっとバクさんが可哀想になってきた


「・・・いいじゃろう・・・お主に羅漢拳とはどのようなものか見せてやろう・・・死して後悔するでないぞ?『あの時老師の元に行っていれば』なぞと思うてももう遅い!」


「くっ!あの時老師の元に行っていれば!」


「っ!!遅いと言うておろうが!!」


怒りが頂点に達したバクさんの背後に現れるのは・・・


「おやおや、前哨戦ですか?」


「っ!?・・・お主ら・・・」


バクさんの背後に浮かびそうになっていたものが消え去る・・・もう少しで羅漢拳が見れたのに・・・という所で現れたのは・・・武勁門!


「これはこれは・・・我らと馴染みの深いふたつの流派が天下の往来で争うなんていやはや・・・ここはひとつ我らも混ぜてはもらえませんか?」


「馴染み深いじゃと?ワシらはともかく流華門と因縁があるなど初耳じゃのう」


「ありますよ・・・ねえ?流華門当主・・・それに・・・」


そう言って武勁門を率いている青年・・・確か名前は・・・ロン・・・そのロンが父を見た後で私を見た


話したことなんてない・・・精々顔見知り程度なのになぜ私を?


「それは知らなんだ・・・しかし若造・・・だとしてもワシの邪魔をしてよい理由にはならんのう・・・邪魔だてするなら容赦はせぬぞ!」


「容赦しない・・・ねえ・・・去年の決勝をもう忘れたんですか?何なら今から再現してもいいですけど・・・」


いつの間にか武勁門VS羅漢拳に・・・てか去年の決勝ってこの2人だったんだ・・・初めて知った


羅漢拳の生き字引であり唯一無二の存在バクさんと武勁門に突如として現れた新星ロン・・・どちらか甲乙つけ難いと聞いてたけど・・・勝ったのは武勁門ロン・・・


もちろん御前試合の結果が全てではない


それまでの対戦相手やその日の状態によって勝敗は変わるかもしれない


それに去年と今とでは確実に強くなっているはず・・・て言うかどっちかって言うとあの年齢で強くなっているバクさんの方が化け物ね


事実上の決勝戦と言われているこの2人の対戦が早くも見れる?でも止めないと不味いわよね・・・凄い見たいけど流石に・・・けどこの2人を誰が止められる?父は・・・・・・・・・無理そうね。だとしたら・・・


「やれ~やれ~頑張れ~」


・・・


何故か応援しているロウ・・・どっちを応援しているんだか・・・ハア・・・仕方ない


「ここで戦えば失格になるわよ?それでもいいならいいけど・・・私としても優勝候補の2人がいなくなるのはありがたいしね」


本当にありがたいんだけどそれで勝っても虚しいだけ・・・何の為に3ヶ月鍛えたか分からなくなるしね


私は・・・正々堂々と戦い・・・この2人に・・・勝つ


「・・・それもそうだのう・・・年甲斐もなく熱くなってしまったようだ・・・許せ武勁門の」


「ロンです。名前くらい覚えて下さい」


「もう一度ワシに勝ったら覚えてやろう・・・行くぞお前達」


そう言ってバクさん達羅漢拳は気絶しているテクを連れて先に会場へと向かって行った


残された私達も行こうとすると何故か武勁門のロンが近付いて来た


「・・・今度は私に喧嘩を売るつもり?」


「まさか・・・それに僕は争いを止めたつもりですよ?」


そう言えばあのままだったらバクさんとロウは・・・


「助けた・・・って言った方が正解ですかね?」


「誰から誰を?」


「バク殿から貴女達を・・・それとも貴女達で相手が出来ましたか?あのバク殿を」


「出来た・・・と言ったら?」


私の言葉を聞きロン以外の武勁門の門下生達が笑い始めた


そうだった・・・流華門はこういう扱いだったのをすっかり忘れてた


「やめたまえ・・・笑うのは失礼ですよ?ねえ美しいお嬢さん」


ひぇ・・・寒気が・・・


「僕が流華門を訪れた理由は知ってます?」


「・・・門下生を引き抜く為でしょ?」


「違いますよ。貴女に会いに行ったのです」


「嘘・・・他の流派からも大量に引き抜いているって聞いてるわ・・・そのひとつがうちだったんでしょ?」


「いいえ・・・引き抜きが目的ならわざわざあのような所まで行きません・・・ましてや流華門など・・・おっと失礼・・・まあ引き抜きはついでです」


「・・・」


「数年前に初めてお見掛けした時から気になっていたのです・・・貴女という存在が」


「へぇ・・・それで私に会いに来て居なかったから門下生達を来たついで引き抜いて行った・・・と?」


「ええ・・・手ぶらで帰るのも何でしたので」


「あっそ」


ムカつくわね・・・流華門を見下すにも程がある・・・本当のところはどうか知らないけど『ついで』ですって?まだ引き抜きを目的に行きましたと言われた方がマシよ


「それで?私に会ってどうするつもりだったの?」


「一目惚れなのです」


「・・・は?」


「一目見てこの人なら僕の優秀な子種を腐らせずに実らせてくれると確信しました・・・共に未来の武術界を盛り上げていきましょう」


私に手を差し伸べるロン


なにこれ・・・この手を取ったら私は彼と結婚するってこと?この意味不明な変態野郎と?


何が『優秀な子種』よ・・・何が『腐らせず』よ・・・一体私を・・・女性をなんだと思っているの?


「・・・貴女にもメリットは大きいはずですよ?落ちぶれた流派が再び脚光を浴びるきっかけとなる・・・この武勁門のロンとの子を産んだ女性の流派として、ね」


殴ってやろうか


いや、ここで私がこの変態を殴ったらせっかく収まりそうになっている場がまた荒れる・・・父も『落ちぶれた』と言われても我慢しているのだし私もここは我慢しないと・・・


「せっかくのお誘いだけど・・・お断りよ」


「・・・なぜ?」


「なぜって・・・貴方に興味がないから」


本当はロウの存在を伝えた方が早そうだけど目だ立たせると彼何するか分からないし・・・


「そうですか・・・つまり時期尚早という訳ですね」


「は?・・・いや早いとか遅いとかじゃなくて・・・」


「今年は負けても早々に帰らず最後まで見て下さい・・・僕が優勝するところを、ね。そうしたら考え方は変わるはずですよ?是非とも僕の子種が欲しい・・・そう思うようになるはずです・・・それでは」


「ちょっ・・・っ!」


私が止めようとしたが彼はそのまま行ってしまった・・・それよりも彼について行く門下生達の中にクルが・・・流華門の門下生の中で一番私に懐いてくれていたクルがいた


しかも何も言葉は発していないが私を見て何かを訴えていた・・・そうまるで『助けて』と・・・


「ク・・・」


私が彼女に声をかけようとした時、誰かが私の肩を掴みそれを止めた


「・・・何故ですか父上・・・彼女は確かに私に助けを・・・」


「クルは元流華門の門下生だが今は武勁門の門下生だ」


「・・・だからなに?それで困っている彼女を見捨てる事なんて私には・・・」


「・・・ふぅ・・・誰に似たんだか・・・誰も見捨てろとは言ってはおらん。下手に首を突っ込むとこちらが痛い目を見るだけだ・・・それにクルだけではなく他の門下生も同じように虐げられているかもしれん・・・クル一人を助けただけで済む問題ではあるまい」


虐げられている・・・父ははっきりとそう言った


おそらくそうなのだろう・・・引き抜くだけ引き抜いておいて用済みになったら虐げる・・・武勁門にとって引き抜きはあくまで他流派の弱体化・・・いわば引き抜いた時点でその価値はなくなる・・・だから・・・くっ


甘い言葉を使い引き抜き必要がなくなったら虐げる・・・助けを求めようにもアテがない・・・私はそうは思っていなくとも彼女は流華門を裏切ったと思っているだろうから頼ってくる事はないだろう


クルの顔は葛藤に満ちていた・・・助けてと言いたいが言い出せない・・・頼れるはずもない私にでさえ頼らざるを得ない状況ってこと・・・


どうする・・・父の言う通り下手に手を出せば武勁門と流華門の争いに発展する・・・しかもこちらに大義はない・・・クル達はあくまで武勁門の門下生・・・その待遇に他流派である流華門が口を出していいはずがない


一体どうすればクル達を救える?・・・何か方法が・・・


「なんでそこで俺を頼らないかな?」


「ロウ?・・・いい案でもあるの?」


「あるよ。要は引き抜かれた門下生達の待遇が気に食わないんだろ?」


「気に食わないというか・・・助ける義理はないのかもしれないけど一度は同じ道場で汗を流した仲・・・そんな彼女達のあんな顔は見たくない・・・」


出て行った事を恨んだりはしていない。何を学ぶかは自由だし自分の選んだ道だ・・・けど助けて欲しいと言うのから手を差し伸べたい・・・それが自己満足だったとしても・・・偽善だったとしても


「なら簡単だ。俺に任せておけ・・・調べるのは得意だから」


「ふん!何を言っている・・・ふたつの流派が調べられなかったと言っておってその内のひとつが武勁門だったのだろう?」


「それは出場者の武術に関して・・・流派の実態を調べるのなんて朝飯前です。木は隠せても森は隠せないのと同じです」


「?」


「よく分からないけど自信はあるみたいね・・・だったら頼める?」


「ああ、サーラは御前試合に集中してくれ・・・俺は御前試合が終わる前に武勁門を丸裸にしとくよ──────」

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