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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
82/856

79階 エモーンズの行方

領主の屋敷執務室


「アテがある・・・本当ですか!?ヴェルト殿!」


絶望の淵にいたダナスには朗報以外のなにものでもないその言葉に暗く沈んだ表情から一転、目を輝かせ縋るように顔を上げる


「ええ・・・()()()()()()申請が出されていたとは言え気付かなかったのは私の責・・・テロイド家の財で足りない分を賄いたいと考えております」


「テロイド家・・・そう言えばヴェルト殿は貴族・・・た、助かっ」


「ただし、見返りは頂きます」


「え?」


「当然ですよね?私の家は貴族とは言え貧乏貴族・・・とても裕福とは言える状態ではありません。そこから100万ゴールド・・・見返りなくして貸せる額ではありません」


「・・・そうですな・・・それでその見返りとは?」


「街の権利」


「・・・は?」


「簡単に言えば領主様・・・貴方の地位です」


「バ、バカな!それは・・・」


「よろしいのですか?国へ納付出来なければこの街はそっくりそのまま国に取られてしまいます。当然そうなれば領主様はその地位を失い国から新たな領主が送られて来るでしょう。そしてその領主または国が贔屓にしている商会がどっとこの街になだれ込み現在のエモーンズは見る影もなくなるでしょう・・・そう言えば領主様が雇った執事とメイド長は確か元雑貨屋とか・・・そのような者達が溢れる事になりますね。働き場所を失った者達は1人また1人と街を去って行き血の入れ替えが済めば完全に出来上がるのです・・・新たな街エモーンズが」


「・・・そうはさせぬ・・・何としても・・・」


「では騎士団の支払いを拒否しますか?無給で働かされたと知った騎士団はどう思うでしょう?騎士団の中には貴族もいます・・・知っていると思いますが貴族は無駄にプライドが高い・・・そのプライドの高い騎士達がこのような辺境のたかだか村長(むらおさ)に無給で働かされていたと知ったら・・・」


「・・・は、話をすれば分かって・・・」


「まだお分かりにならないのですか?この屋敷に来た騎士達の目・・・街の領主になった貴方を心の底から見下すようなあの目・・・貴族にとって出自は不変の価値・・・貴方はエモーンズがどれだけ発展しようと・・・大都市になろうと所詮『片田舎出身の村長』なのですよ!その者が『お金が無いので待ってくれ』と言って聞くと思いますか?あえりない・・・もしそんな事を言えば彼等の逆鱗に触れ貴方はもちろん家族郎党・・・それだけに留まらず友人知人全て皆殺しにされるでしょうね」


「そんな・・・」


「・・・今すぐに選択せよとは言いません・・・ですが期限は迫っております・・・賢い選択をする事を・・・私は望んでいますよ・・・ダナス領主様・・・」


「・・・」


ヴェルトはそう言い残し執務室を後にした。選択肢のない選択をダナスに迫り・・・


「エモーンズが・・・父さんが私に託してくれた・・・みんなのエモーンズが・・・なくなってしまう・・・」


1人項垂れ呟くダナス


エモーンズという街は今・・・大きな変化を迎えようとしていた──────




2日後──────


申し合わせたように国からの使者2人と騎士団代表としてケインとジェイズが領主の屋敷を訪れる


本来なら国からの使者は応接間で迎える。当然4人を応接間に案内しようとするが使者はそれを拒否した


今回の目的・・・納付金を受け取りさっさと帰りたいという意思が使者からは感じられ、執務室へと案内する


執務室に着くなり使者は国王からの書状を読み上げる


回りくどい言い方をするが要は『100万ゴールドを寄越せ。そうすればエモーンズを街と認めてやる』って事だ


「ここに」


そう言って金貨の入った袋を渡すと書状を読み上げた使者とは別の使者が金貨の数を数え、数え終わると読み上げた使者に頷いた



こうしてエモーンズは正式に街となった



本来ならここで終わるはずだが・・・


「そちらは終わったようなのでこちらの話を進めても?期限はとうに過ぎているので本来ならこちらが優先されるべきでしたが・・・まあいいでしょう。エモーンズ領主・・・貴殿からの要請により騎士団から派遣された我ら30名・・・1年後に支払うと約束した100万ゴールドを頂きに参りました」


ジェイズが前に出てそう告げると顔を歪めるダナスさん


その反応を少しの間薄ら笑いを浮かべ見ていたヴェルトが一歩前に出た


「僭越ならが申し上げます。私はダナス様の補佐をしておりますヴェルト・テロイド・アンクルと申します。実は手違いがあり現在手元にはお支払いするだけの資金がなく・・・」


「待て・・・ないだと?」


「・・・はい・・・」


ジェイズの視線が鋭くなる


少し演技っぽいがヴェルトはその視線を受けて一歩下がりダナスさんを見た


「どういう事ですかな?そちらが要請しておいて支払いを拒否すると?」


「・・・」


「っ!答えろ!ダナス・フォロー!!答え次第によっては・・・」


「控えよジェイズ」


「しかしケイン様・・・」


「控えよ」


「・・・ハッ」


これまで無言だったケインが声を荒らげるジェイズを制しダナスさん、そしてヴェルトに視線を送ると口を開いた


「手違いが何を指すか知らないがこちらは要請により騎士団から出向して来た。国を護る盾であり剣がこの1年村を護る事に従事したのだ・・・貴殿らはその騎士に対して手ぶらで帰れと?」


ジェイズの怒りとは違い静かな怒りを含み声量こそ普通に話すのと変わりないがダナスさんヴェルトはもちろんのこと同席しているだけで関係のない使者2人まで緊張させる


「そ、そのような事は決して・・・私が言いたかったのは()領主には支払い能力がないと言いたかったので御座います」


「で?」


「は、はい・・・私ヴェルト・テロイド・アンクルが現領主であるダナス・フォローの代わりにお支払い致します・・・つきましては皆様には御手数で御座いますが証人となって頂ければと・・・」


「証人?」


「はい・・・私が騎士団の方々にお支払いする代わりに・・・新たなエモーンズの領主となる証人となって頂きたいのです」


ヴェルトの言葉で部屋に静寂が訪れる


ダナスさんとヴェルト以外の4人はすぐに状況を理解出来ずにいたが、ケインがいち早くヴェルトの言わんとしている事を理解し大きなため息をついた


「・・・つまり領主の地位を()()()か」


「買ったとは少々語弊が・・・譲って頂くのです・・・我がテロイド家が」


「テロイド家・・・確か子爵と記憶しているが・・・そう言えばなぜこの地に?」


「私共も少なからず街の運営に携わって来たので村から街へと発展するであろうこの街のお手伝いを出来ればと・・・ただそれだけで御座います」


「なっ・・・ヴェルト殿・・・貴殿は国からの要請で来たと・・・」


「はて?そんな事を言いましたかな?ダナス殿の聞き間違いでは?」


これで確定か・・・いや、まだ分からないが少なくともヴェルトと騎士団は結託してる訳じゃないっぽい。使者の反応も初耳っぽいからヴェルトの単独行動・・・いや、テロイド家の、か


怒りに肩を震わせるダナスさんととぼけるヴェルト


その2人に冷めた視線を送るとケインは再び口を開く


「私としてはどちらでも構わない。約束が果たされればどちらでも、な。証人などなるつもりはないからそこの使者殿になってもらい国に報告してもらう事だな・・・エモーンズの領主はヴェルト殿になった、と」


「そんな・・・これは陰謀です!騎士様はこの街を護って下さるのではないのですか!?」


「約を違えておいて何を言う。国は100万ゴールドという対価に対して我らを派遣した・・・払えぬと言うならば護る責などない」


「私達はフーリシア王国の国民です!貴殿は国の盾であり剣であると・・・ならば」


「勘違いせぬ事だな。ヴェルト殿もその国民・・・ならば約を違える者と違えぬ者・・・どちらに味方するか赤子でも分かるというもの・・・それともダナス殿は100万ゴールド払えると?払えると言うなら味方しよう・・・それが国と貴殿が交わした契約だからな」


「・・・」


「残念ですがダナス殿・・・ケイン殿の仰る通り・・・」


「本当に味方して下さるのですな?」


勝ち誇り笑みを表に出さないよう必死に堪えダナスさんに語りかけていたヴェルト・・・だけどダナスさんは机の上に袋を置いてヴェルトを無視してケインを見つめた


「・・・その袋は?」


「約束の100万ゴールドです。ご確認を」


「バカな!ありえない!何処から・・・」


「ジェイズ」


「ハッ」


喚くヴェルトを無視してケインはジェイズに確認させる


「ケイン様・・・確かに100万ゴールドございます」


机の上に置かれた袋・・・その中には1万金貨で100枚・・・キッチリ入っているのが確認された


それもそのはず・・・何度も確認して渡したからね・・・僕が


「嘘だ!そんな金があるはずがない!一体何処で・・・何処で手に入れた!ダナス!!」


「見苦しいですぞ?ヴェルト殿・・・いや、ヴェルト。貴様の計画は失敗したのだ・・・この街を・・・エモーンズを乗っ取るという計画は」


「ふざけるな!この1年下賎の輩である貴様に貴族である私が使われているのを必死で耐えてきたというのに・・・ダンジョン都市を手に入れる為だけに・・・それだけの為に耐えたというのに!!」


「本性を現しましたな・・・さて、どうやらヴェルト殿は錯乱しているみたいです・・・どうか護って頂けませんか?ケイン殿」


「契約は1年・・・もう既に1年は経過した」


「ですが善良な国民が暴漢に襲われるのを護るのも騎士の仕事では?」


「・・・確かに。だが私の預かり知らぬ所で襲われても助ける事は出来ない・・・明日にはこの街を出発する予定だからな」


クソケインめ・・・わざわざ言う事ないのに・・・


ケインの言葉です冷静さを取り戻したヴェルトは笑みを浮かべる・・・恐らくこう考えているはず・・・ケイン達騎士団が去ればダナスなどどうとでもなる、と・・・あーヤダヤダ・・・貴族嫌いになりそう


「残念だったなダナス!ケイン殿達が去った後、貴様はどうやって身を守る?最近はこの街に色々な奴らが入り込んで物騒だぞ?例えば屋敷に侵入して来た盗賊に家族諸共皆殺しにされたり、な。黙って私に譲ればいいものを・・・私を暴漢に扱いした事を悔いるがいい!!」


「・・・それは困りましたな・・・確かに騎士団の方々に頼りきりで自衛手段など持ち合わせておりません・・・資金繰りに困り私兵もだいぶ解雇してしまいましたし・・・」


「今更焦っても遅いわ!いつ来るか分からぬ盗賊に怯え眠れぬ夜を過ごすといい!!」


「・・・なので騎士団の方の延長のお願いを国に送らせてもらいました。今度は前金で100万ゴールド・・・ですのでケイン殿・・・お帰りになられるのは少し待った方がよろしいかと・・・お帰りになられてまたすぐ戻って来るのは面倒だと思いますので」


「・・・は?」


「なに?」


そう言ってダナスさんは再び袋を机の上に置いた


あの中にも100万ゴールド間違いなく入ってる・・・こちらも何度も確認したから間違いない


「ケイン様・・・確かに100万ゴールドあります・・・」


「・・・延長か・・・その要請が通るかどうか分からないがダナス殿の言う通り行き来するのは手間だ。残り指示を待つとしよう」


「ま、待って下さい!そんな・・・デ、デタラメです!」


「何がデタラメだと?目の前に100万出されてなければそう考えるのもおかしくはないが、出された以上信じるべきだと思うがな・・・それとも我ら騎士団が残っていて都合の悪い事でもあるのか?ヴェルト殿」


「うぐっ・・・」


いやいや、さっきからヴェルトの奴は殺害予告とも取れる事を言ってたのに何を今更・・・お金?騎士団も所詮はお金なのか?


まあでも国がどういう判断するかはさておきケイン達騎士団はダナスさんを護るしかないはず・・・国の盾であり剣が国民であるダナスさんを護るのは当然だしね



これで晴れてダナスさんはエモーンズの街の領主となった


騎士団も街の兵士として残る事になるだろう


ヴェルトは当然のごとく補佐を解任・・・ただ何をするか分からないからしばらく要注意だな


でも良かった・・・これでエモーンズはエモーンズのままでいられる──────





「どうしたのかな?もしかしてアテが外れた?」


「ええ・・・どうやら引退も近いようです」


「へぇ・・・詳細を聞いても?」


「はい。領主殿は見事納付金と騎士団への支払いを致しました。更に騎士団の滞在期限延長も申請したそうです」


「へぇー・・・つい数日前に金がないと店長に泣きついて来たのに・・・不思議な事もあるもんだね。まさか店長・・・裏で手を回した?」


「まさか・・・と言いたいところですが、領主様の出方次第ではそれも辞さないつもりでした。信頼を得られないならそれ以上の対価を下さればですが」


「店長の予想だと領主は必ず店長に泣きつき金を貸す代わりに有益な条件が得られると思ってた・・・けど領主は泣きついて来なかった・・・領主の座を諦めたかと思ったが自前で金を用意したって訳ね」


「・・・シークス様はこうなる事が分かっていた・・・そのようにお見受けしますが、いかがですか?」


「いや?ボクは政治とかその辺はてんで疎くてね。でも・・・何となくそんな気がした・・・それだけだよ」


「泥船についた泥を洗い流したら船だった・・・しかもヴェルト殿よりも速い船・・・賭けをしていたら私の負けでした」


「そうだね。もっと強引に言っておけば良かったよ」


「・・・先程『そんな気がした』と仰いましたが、それには理由があるのでは?」


「詮索しても何も出て来ないよ・・・ただ・・・」


「ただ?」


「この街はダンジョンも含めて不思議な事だらけ・・・店長も気を抜くと食われるよ?」


「御忠告痛み入ります。しかと胸に刻み精進して参ります」


「はっ、何が引退近いだよ・・・やる気満々じゃんか」


歓楽街にとって開始の合図である闇が訪れる


シークスはヘインズとの会話を終えると闇に賑わう人々を見つめ呟いた


「今は浮かれてろ・・・いずれ絶望に変えてやる・・・サラ・セームン・・・それにダンジョンナイト──────」

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