300年後へようこそ 4
覚悟を決め私は少し前のめりになると後ろ足を上げ踵で銃を蹴り上げる
「っ!・・・サーラてめえ!」
バルが持っていた魔銃は放物線を描き運良くロウの手の中へ
後はバルを倒して他の3人を1人でも多く道連れに・・・
「何をしている!!」
静かな墓地に響き渡る第三者の声
動きを止め見るとバルの後方にこちらに向かう2人の衛兵が見えた
しめた・・・これでバル達は魔銃を使えない・・・
「・・・衛兵さん!助けて下さい!」
・・・は?
助けてと叫んだのはロウではなくバル
大袈裟に手を振り衛兵達にアピールし駆け寄るとロウを指差し訳の分からないことを言い放つ
「アイツが・・・アイツが俺の女を攫って・・・取り返そうとここまで来たら銃を向けて来て・・・」
「っ!・・・」
何を言って・・・くっ・・・声が・・・
見ると3人も銃を仕舞いこの場で魔銃を持っているのはロウただ1人・・・衛兵達はバルの言葉を聞き魔銃を取り出すとロウに向かって構える
「貴様っ!魔銃使用禁止の告知を見ていないのか!すぐに銃を捨てろ!」
違う!その銃はバルの・・・
「あのなぁ・・・これは」
「黙れ!すぐに捨てなければ撃つぞ!」
「・・・使用禁止って言ってなかったか?それなのに『撃つぞ』って・・・」
「お前みたいな輩がいるだろうから国に仕える者はしばらくの間まじの使用は許可されている・・・分かったらさっさと捨てろ!」
「・・・横暴だな。その命令口調を改めたらどうだ?」
「なに?」
ちょっ!頼むから衛兵に逆らわないで!冷静に説明すれば彼らも分かってくれるはず・・・だから・・・
「おやおや後輩に舐められちゃっていいんですかい?」
「・・・後輩?」
「あれ?違ったんですかい?門番って確か新人がやるって聞いた事があるような・・・」
「門番?何を言って・・・あっ!お前・・・確かこの前辞めた・・・」
辞めた?衛兵を?
「・・・なるほど・・・辞めたと聞いたが実はクビになって自暴自棄になり女性を襲おうとしたってところか・・・お前がクビになったせいで門番を当番制でやる羽目に・・・使えない奴は何やっても他人に迷惑をかける・・・」
「おいおい俺はクビじゃなくて自分から・・・」
「黙れ!とにかく銃を捨てろ!それから話はタップリと衛兵所で聞いてやる!まだ撃ってないみたいだが女性を攫おうとした件と今日この日に魔銃を使用した罪はデカイぞ!1ヵ月は牢屋にぶち込まれる覚悟をしておけ!」
ちょっと何言って・・・彼は何もしていない・・・なのに・・・ハッ!
バルが私に下卑た笑みを向ける
おそらくロウが連れて行かれた後に私を・・・
でもこのままロウが衛兵に逆らったら本当に捕まっちゃう・・・ここは衛兵に素直に従って・・・でもバル達の証言が通ったら彼は犯罪者に・・・一体どうすれば・・・
「・・・お前達名前は?」
「はあ?何を偉そうに・・・」
「いいから言え」
「チッ・・・デューン隊所属のダクトだ」
「同じくデューン隊所属ラムズ」
「相変わらずだな」
「なんだと?」
「いやこっちの話だ。名乗ってくれたからこちらも名乗ろう・・・俺の名はロウニール・・・ロウニール・ローグ・ハーベスだ」
彼が名乗った瞬間、衛兵達とバル達が突然笑い出す
それもそのはず彼が名乗った名は過去の英雄の名そのもの・・・でもなんだか・・・
「こいつはいい・・・そのロウニール・ローグ・ハーベスさんは何がしたいんだ?魔銃を捨てろという命令に従わず撃ち殺されたいのか?」
「名乗ったにも関わらず、か・・・バカが」
「なんだと!?」
不味い!これ以上刺激したら・・・
「{動くな}」
今まさにダクトと名乗った衛兵が引き金を引こうと瞬間、彼が『動くな』と呟くと完全に動きを止めた
「なっ・・・クソッ!・・・なんだ・・・」
「先ず最初に彼女が着けられている首輪に注目するべきだったな・・・着けられている首輪はマナ封じの首輪・・・しかもサイレス付きの特注品だ。それに気付き外して被害者の言葉を聞き判断すれば間違えることはなかったのに・・・」
そう言いながら彼は私に近付くと簡単に首輪を外してくれた
「・・・あ・・・衛兵さん!私は彼に・・・ロウに攫われそうになったのではありません!そいつに・・・こいつらに攫われそうになったところを彼に助けてもらって・・・」
「おい!サーラ!ふざけたこと言って・・・な、なんだ!?体が動かな・・・」
「お前はついでに{黙ってろ}・・・さてダクトとラムズ・・・次の罪だ」
「罪だと?てかこの奇妙な技を解け!貴様がやっているのだろう!」
「ああ、俺がやっている。言霊って技で言葉に魔力を込める事で相手に言う事を聞かせることが出来るんだ便利だろ?」
「・・・言霊?」
「そう・・・で、続けていいか?次の罪は俺に逆らった罪だ・・・本来ならお前の隊の責任者を罰するのが筋だが・・・いやそれとも衛兵全体の責任者か?それとも領主・・・もしくは国・・・」
「ふざけるな!何が貴様に逆らった罪だ!貴様は何様のつもりだ!」
「名乗っただろう?ロウニール・ローグ・ハーベス・・・門番の時はロウニール・ハーベスだったが必要があって一時的にこの名に戻った・・・その意味が分かるか?」
「分かるか!というか『ローグ』を騙る罪の重さが分かっているのか!この街の領主でありフーリシア王国公爵の爵位名だぞ!」
「騙るも何も本名だ・・・なんなら証言する奴を連れて来てもいいぞ?領主か?それとも国王か?どっちがいい?」
「・・・ハッ!だったらどっちでもいい!ここに連れて来てみろ!連れて来れたらそこの墓場で一晩中裸踊りしてやるよ!」
「・・・誰が好き好んで男の裸踊りを・・・さすがにそんな事されたらヴァンパイアの精神が病むわ・・・まあいい・・・とりあえず・・・ゲート」
彼はそう言うと目の前に黒いモヤ・・・これってダンジョンにあるゲート?・・・それを出して中に手を突っ込むと・・・妙齢の美女を引っ張り出した
「ちょ、ちょっと大爺様!いきなりなんですか!?・・・こっちは大爺様の提案のせいで一息つく間もないと言うのに・・・」
「お前は命令するだけで大したことしてないだろ?それと大爺様って呼ぶな」
「命令だけじゃないですって!て言うかだったらなんとお呼びすれば?御先祖様とでも呼びましょうか?」
引っ張り出された女性が彼に文句を言う・・・『大爺様』?『御先祖様』?一体彼女は・・・
「・・・ローグ公爵・・・様?」
・・・公爵様!?それってこの街の領主の・・・
「?・・・なに?貴方・・・衛兵の制服着てるし衛兵よね?ここで何をしているの?」
「ハ、ハッ!巡回中に不審な人物が居たので問い詰めましたところ女性を拐かそうとしていましたとの事ですので捕まえようと・・・」
「ふーん・・・その不審な人物って?」
「そこの・・・男です!」
ダクトが指したのはロウ・・・言わなきゃ・・・今なら声も出るし・・・
けど私が彼じゃないと声を出そうとした瞬間・・・その声は喉の奥へと戻って行った
公爵の顔を見て
顔面蒼白で目を見開いた公爵は恐る恐るといった感じでゆっくりとロウを見た
「・・・あの・・・大爺様?」
「なんだい?ローザ」
公爵とは真逆の満面の笑みのロウ・・・逆にその笑顔が怖いと思っているのは私だけではないはず
「その・・・そこの女性を攫おうと?」
「する訳がないだろ?てか攫おうとしたらどうだって言うんだ?」
「・・・えっと・・・ご自由にどうぞ?」
・・・え?
「だよな?もし俺が女性を攫おうと別に文句ないよな?・・・あるか?」
「な、ないです!ないです!文句なんてありえません!どうぞお攫い下さい!」
お攫い下さいって・・・え?え?
「そうだよな・・・でもお前の衛兵は違うらしいぞ?人の話を聞かずに更にはちゃんと名乗ったのにも関わらず銃を向けた・・・ロウニール・ハーベスにならまだしもロウニール・ローグ・ハーベスに、だ。お前はエモーンズを・・・いや、フーリシア王国を滅ぼす気か?」
「滅相も御座いません!・・・ああ・・・なんて事を・・・」
「まあいい・・・処分は任せる・・・一応今の段階ならそこの2人だけでいい」
えっと・・・なんで彼に銃を向けると街どころか国が滅びるの??
私だけではなく衛兵もバル達も意味が分からずポカーンと口を開けて聞いていた。2人の会話は要領を得ないというか・・・全く意味が分からない・・・
「あ、あの・・・公爵様?」
「・・・貴方達所属と名前は?」
「あ・・・デューン隊所属ダクトです」
「・・・同じくデューン隊所属ラムズです」
「そう・・・今から考えときなさい・・・方法を」
「ほ、方法・・・ですか?一体何の・・・」
「決まっているでしょう?死刑の方法よ。絞首刑か銃殺刑か・・・あ、でも魔銃は使用禁止なのよね?だったら一番苦しまないのは絞首刑かもしれないわね」
「・・・死刑・・・ですか?」
「当たり前でしょ?『万死に値する』って言葉知ってる?本来なら大爺様・・・ロウニール・ローグ・ハーベスに銃を向けた時点でその者の責任者も同罪で死刑になるところ・・・けど寛大にも貴方達だけの処分でいいそうよ」
「え、ちょ・・・あの・・・銃を向けただけで・・・死刑・・・ですか?」
「・・・は?貴方達衛兵よね?」
「は、はい・・・」
「勤続何年目?」
「もう10年に・・・なります・・・」
「・・・ハア・・・これは一から教育をし直さないとダメね・・・王家や貴族に対して銃を向けたら?」
「も、もちろん死刑です!国家反逆罪として即刻死刑・・・射殺も許可されます!」
「?なんだ知っているじゃない」
「え?」
「貴方達は陛下や私に銃を向けたよりも重い罪を犯したってだけ・・・だから死刑なのも理解出来るでしょ?」
「???」
「・・・大爺様・・・名乗られたのですよね?」
「名乗ったよ」
「ならなぜ理解していないのでしょうか・・・王家や貴族に銃を向ける罪は理解していてもその上・・・ロウニール・ローグ・ハーベスに銃を向ける意味を理解していない・・・なぜ・・・」
「こいつらの中では俺は死んでる事になってるからじゃないか?」
「・・・つまり大爺様が大爺様ではない・・・そう思っていると?」
「そそ・・・まあ表舞台から姿を消してたからなな・・・それともお前らが俺を死んだことにしたとか?」
「滅相も・・・もしそうだとしたら盛大に葬式を行いますよ」
「おい」
「・・・冗談です。ですが300年も経てば葬式がなくとも亡くなったと思うのが自然かも知れません・・・大々的に生きている事を知らせますか?」
「やめろやめろ・・・戻ったのは『魔銃禁止』の為だけだ。本当なら昨日でまたただのロウニール・ハーベスとして過ごす予定だったんだけどな・・・」
そう言うと彼はバル、そして衛兵達2人を見た
「そ、そんな・・・ですが・・・」
ダクトはまだ信じてないみたい・・・けど私は二人の会話を聞いて確信した・・・彼はロウニール・ローグ・ハーベスであり『魔銃使用禁止』を決めたその人であると・・・しかもそれは私のため・・・
「人は300年も生きないってか?もう一度歴史書を読み返せ・・・確か書いてあるはずだ・・・俺が如何にしてダンジョンを作れるようになったか・・・そのせいがお陰か俺の身に何が起きたか・・・疑うなら見せてやるよ」
そう言うと彼は屈んで地面に手をつけた
すると私達の周りを取り囲むように壁が地面から出現しあっという間に空まで覆ってしまう
そして・・・
「ま、魔物!?」
私達を取り囲むようにズラリと並ぶ魔物達
遠くから私達を見つめているが動く気配はなかった
ロストマジック・・・いえこれは・・・
「衛兵だからダンジョンは初めてか?死にたくなければ間違っても銃を撃つなよ?さすがに傷付けられたら容赦しない・・・とりあえず・・・俺のダンジョンへようこそ──────」




