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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
813/856

300年後へようこそ 3

一昨日の夜・・・私は不思議な人と出会った


いや、再会したと言うべきか


フーリシア王国エモーンズの街の門番、ロウニール


最初に会った時から彼に対して何かしら思うところがあった。その『何かしら』が分からないまま日にちが経ち忘れかけていた頃に再会した


ダンジョン終わりのいつも通りの流れ・・・食事をして行きつけの店に行きお酒を飲む・・・酒場ではなく少し洒落たバーなのはバルの背伸びのせいだが私はその店が気に入っていた


美味しいお酒が置いてあるし何より静かでいい・・・騒がしいバル達は店から早々にカウンターではなくテーブルで飲んでくれと言われて私だけがカウンターで飲めることになったのも気に入った理由の一つだ


彼らとはもうすぐ別れる予定・・・それから国に戻るかもう少し頑張るか決めようと思っていた矢先にバーで偶然再会する


彼を見掛け気付いた時には話しかけていた


バルが邪魔さえしなければもっと話せたのに・・・彼と話している間は悩みを忘れられたのに・・・悩みの話をしているのに忘れられるって不思議・・・悩みを打ち明けたからかな?でもその時間も凄く短い時間で終わってしまった


そう言えば彼は去り際におかしな事を言っていた・・・



『武術を習うことは無駄じゃない』



嬉しい言葉だし励みになるけど・・・なんで彼はあんな事を言ったんだろう?


うーん・・・まあ次に会った時に聞けばいっか


『また』って別れたから・・・また会えるよね?



外が妙に騒がしいのを気にしつつ武術着に着替えると髪をまとめて部屋を出た


宿屋暮らしは慣れたけどやっぱり実家の道場兼家が恋しくなる・・・寝坊した時に聞こえる朝稽古の声なんて最高なのよね・・・まあその後たっぷり怒られるけど・・・


そんな懐かしい記憶を思い出しながら1階に降りるとすぐにバル達を見つける事が出来た・・・けど


「・・・どうしてそんなに暗いの?もしかして私遅れた?」


「・・・サーラ・・・」


「な、何よ?今にも死にそうな顔して・・・」


「ああ、死にそうだよ・・・てか冒険者としての俺は死んだ・・・」


「へぇ・・・・・・・・・え?」


「魔銃が・・・マジでどうなってんだよ!そんな急に・・・」


「・・・いまいち要領を得ないわね・・・魔銃がどうしたの?」


「宿を出てみろ・・・すぐそこに看板があっから」


「看板?・・・分かった・・・ちょっと見て来る」


酷く狼狽えているバル達にこれ以上聞いても無駄だと言われた通りに宿を出て看板を探した


すると昨日まではなかったやや大きめの看板に人集りが出て来ていた


その人集りに混じり看板を見上げると目を疑うような言葉が箇条書きで書かれていた


「・・・うそ・・・でしょ?」


思わず呟いてしまう


内容は簡単に言うとこう書かれていた



『魔銃の使用を一切禁止する』と



細かく色々書かれているが要は大陸全体で魔銃は禁止されてしまったのだ


看板を見ている他の人達も信じられないといった表情・・・それもそのはず魔銃は今の生活と切っても切れない関係だからだ


冒険者はもちろんのこと、狩りをする人達や自衛で持つ人もいる・・・この国では自分は自分で守れと成人したら魔銃を渡す習慣まであるらしい


つまり国民の半数くらいは持っている事になる


それに魔銃を売る店や作る工場などで働いている人も多いだろう・・・その人達は全員失業?・・・違う・・・へぇ・・・そういうことか


最後までよく読むと突然の告知であるにも関わらず細かい所までフォローしてある


例えば今持っている魔銃は国が買い取るとか魔銃関連の仕事に就いている人は別の仕事を斡旋するとか・・・もっと細かく言えば思い入れのある魔銃に関しては使用不可にすれば持っていて良いとか仕事が決まるまで同じ給与を国が補填するとか事細かく書いてあった


冒険者に対しても同じだ


魔銃が主流になっていたからほとんどの冒険者は失業・・・かと思いきやどうやら冒険者育成学校を開校するらしい。その開校するまでの間のお金も貰えるらしいし開校した後の授業料は免除・・・冒険者を諦めた場合の仕事先の斡旋もあるし至尽くせりだ


ぶっちゃけフーリシア王国の国庫が心配になるくらい・・・そんなにお金があるの?この国


「理解した者は速やかにこの場から離れよ!買い取りを希望する者は買取ブースを何ヶ所か用意してあるから書かれている通り半年以内に持って来るように。それ以上は持っているだけで厳罰に処されるので注意せよ!」


あまりの人集りに衛兵が看板越しに大声を上げる


すると集まっていた人達が一斉に喚き始めた


「こ、こんなの横暴だ!いきなりなんで・・・」


「そうよ!事前の知らせもなく突然なんて・・・」


「書いてある以上の事は我々も聞かされていないから知らないのだ!ただこれはこの街だけのことではない・・・全ての国が承認し受け入れたものだ!分かったらさっさと行け!」


全ての国が?・・・そんなことってありえる?


暴動寸前の人達とそれを無理矢理抑え込もうとする衛兵達・・・一触即発の雰囲気の中、私は宿へと向かった


私自身も他の人達のように混乱しているが考えてみれば私にとっては朗報だ。いや、私にとってと言うよりラズン王国にとって、かな?


魔銃に依存している国にとっては動揺もあるし痛手でもあるだろうけど依存していない国・・・即ちラズン王国にとっては有利に働くことが多い


その中で私に・・・道場にとって有利に働く可能性があるのは他国から武術を学びに来る人が増えるというところだ


私が目指していた武術の普及・・・それにより門下生の増加を望んでいたが私が名声を得なくとも武術は脚光を浴びることになるだろう。もちろん武器や魔法も普及し始めるだろうけど今や武具は骨董品と呼ばれているくらいだ。作っている所は皆無ですぐには数は揃えられないだろうし魔法もロストマジックと呼ばれるほど失われた技術となっているし教える人も少ないだろうからすぐに習得できるとは思えない・・・ならば強くなる一番の近道は武術を学ぶことになるはずだ


まさか魔銃の使用禁止なんて事が現実に起こるとは思いもしなかった・・・こんな事ならわざわざエモーンズまで来なくとも良かったかも



宿に戻ると苛立った様子のバル達が目に入る


ほとんどの冒険者にとって魔銃は死活問題に直結する・・・いくら補填があったり他の仕事の斡旋があったりしても納得出来ないと一番思うのは冒険者のはずだ


「・・・見て来たか?」


「ええ・・・驚いたわ。まさか急にこんな事になるなんて・・・」


「そうなんだよ・・・急過ぎる・・・いや、急じゃなかったとしても到底納得出来ねえ・・・今更魔銃禁止なんて・・・」


「何かあったのかしら・・・魔銃に要人が殺されたとか魔銃自体に重大な欠陥があったとか・・・」


「んなの今更だろ・・・まるで悪い夢を見てるようだ・・・クソッ・・・」


「・・・バル・・・」


「・・・サーラはいいよな・・・元から魔銃を持ってねえんだからこの喪失感はねえはずだ。しかも俺らと違って冒険者を続けられるしよぉ」


「バル達だって・・・そりゃ時間はかかるかもしれないけど・・・」


「今から剣とかやれってか?ふざけんじゃねぇ!こちとら魔銃より重いもんなんて持ったことねえっつんだ!それなのに魔銃より重いもんをぶん回せってか?魔物相手に?んなもん命がいくつあっても足りねえよ!」


「おいバル!サーラに当たらなくても・・・」


「うるせぇ!コイツは俺らと違って魔銃がなくとも食って行ける!どうせ心の中で笑ってんだろ?」


「笑ってなんか・・・」


「良かったな!あの門番の言った通りになって!」


「・・・え?」


門番の言う通り?


・・・そうだ・・・彼は『武術は無駄にならない』と・・・それに『すぐに分かる』と・・・まさか・・・


「お、おいおい・・・まさかあの門番が何かしたから魔銃が禁止になったと考えてんじゃねえだろうな?それはねえ・・・あるわけがねえ・・・アイツはタダの門番だ・・・多分衛兵だから告知前に聞いてただけだろ?それをさも自分がやったように見せかける為にあんな言い方しただけだ」


歯切れが悪いなバル・・・自分も感じているのだろう?



この魔銃の使用禁止と言う大きな時代の変化を・・・彼が起こしたのではないか、と



確証はないし確信もない・・・けどあの時の彼の目は『これから何かを起こす』という目だった・・・決して『これから起こることを知っている』という目ではない・・・多分・・・うん


「チッ・・・あんな末端のゴミにこんな出来るわけねえだろ!」


ムッ


「ちょっと言い過ぎじゃない?」


「あん?ゴミをゴミって言って何が悪い?」


このっ・・・魔銃が禁止になって苛立っているのは分かるけど・・・


「・・・よく知らない人をゴミ扱いするような人とはチームを組んでいられない!私は今日で抜けさせてもらうわ!」


いずれは抜けようと考えていた。彼らと組んだのは成り行き・・・フーリシア王国に着いたばかりの時、たまたま冒険者ギルドで知り合い私がエモーンズに行くと言ったら着いて来ただけ・・・それなりに助かった面もあったからエモーンズに着いてからもすぐには抜けずこれまで共に行動していたけどもう限界だ


「・・・そうかよ・・・クソ女」


「クソ・・・っ!?」


座っていたバルはフラリと立ち上がり私に近付くと何かをお腹に押し当てた


「そういや素手で勝負したことはあるけど銃を持って勝負したことはなかったよな?」


「・・・貴様・・・」


押し当てられたのは銃口


バルは周囲に見えないよう巧みに隠しながら私に魔銃の銃口を押し当てた


「そそるねえその目・・・もっと早くこうしておけば良かったぜ。あ、ちなみに撃たねえと思ったら大間違いだぞ?少しでも変な動きしたら撃つ・・・騒いでも、な」


そう言って魔銃を持つ手と反対の手で懐から何かを取り出すと私の首に装着した


「・・・っ!・・・!!??」


『何を着けた』・・・そう叫んだつもりが声が出ない。それを見てバルはニヤリと笑う


「高いだけあって効果は抜群だな・・・今着けたのはマナ封じの首輪・・・しかも声も封じるオマケ付き。叫んで仲間を呼ぶ魔物やうるせぇ囚人に着ける為に作られたらしい。本当は身体能力を上げる魔道具を買おうとしてたんだけどな・・・今のご時世需要がねえのか希少なのか高ぇ高ぇ・・・だからよ・・・魔道具着けて素手でお前に勝つってのは諦めてダンジョンでコレをお前に着けて犯そうって考えに変わった訳よ。コレを着けさえすればお前はただの女に成り下がる・・・あとは犯しまくってダンジョンに置いてくりゃ証拠も残らねえ・・・魔物がお前を食ってくれるからな。まあ1回で終わりってのも勿体ねぇなとは思ったが背に腹はかえられねえし・・・なあ?サーラ」


コイツ・・・


「そう睨むなよ。抵抗しなきゃ優しくしてやるからよ・・・とりあえずここから出て静かな所に行こうや・・・さすがにこの状態でダンジョンは止められちまうだろうから・・・そうだな・・・ちょうどやるにゃうってつけの所がある・・・おっと下手な事すんなよ?さっきも言ったが俺は躊躇わず撃つぞ?嘘だと思うなら暴れてみな」


顔はニヤけているが目は笑っていない・・・言った通り本当に撃つ気だ・・・しかもバル以外の連中も殺気立っているところを見るとたとえバルを抑え込んだとしても・・・くっ・・・こんな奴らを信用していた私が馬鹿だった・・・



私は為す術なく銃口を押し付けられたまま外に出るとバルが言う『静かな所』へと向かった


こんな奴らにやられるならたとえ殺されようとも抵抗するつもりだ・・・その時は何人か道連れにしてやるが・・・だがここで暴れればバル達が放った魔弾が他の人に当たってしまうかもしれない・・・未だ街は混乱する人達で溢れている・・・中には小さな子供もいる・・・余計な犠牲を出す訳にはいかない・・・死ぬなら私だけでいい


バルの言う『静かな所』はおそらく人気の少ない所のはずだ・・・そこでなら・・・


案の定街の喧騒から遠ざかり人気のない所に向かっているようだった


もう人もかなり少ない・・・今やるべきか・・・


行動に移すかどうか悩んでいる内にすれ違う人は全く居なくなりそして見えてきたものは・・・墓地だった


「騒がなきゃ天国・・・騒げば地獄・・・洒落が効いてるだろ?」


暴れたら墓に直行と言うわけか・・・下衆の考えそうな事だな



・・・フゥ・・・


・・・呼吸を整えろ・・・気は使えずとも培った技がある・・・先ずは体を回転させ背中に押し当てられた銃の横面を叩き銃口をズラす・・・そして・・・


「おい止まるな!さっさと歩・・・っ!」


今だ!・・・と思った瞬間、墓地の手前にある家から人が出て来る気配を感じ一旦動きを止める


巻き添えにする訳にはいかないと目で逃げろと訴えようとしたが・・・


「・・・おいおい・・・なかなか素敵な所に住んでるじゃねえか・・・門番~」


ロウ!?なんで・・・って彼の家ってそこなの!?


「・・・人の家の前で何やってんだ?」


「ちょっとな・・・それよりお前の家か?それ」


「そう言ってるだろ?」


「クックックッ・・・外でやらなきゃならねえと思ってたがちょうどいい・・・おいお前ら!」


そう言うとバルの考えを理解したのか3人は一斉に魔銃をロウに向けた


「・・・意味が分からないな・・・外で何をするつもりだったんだ?それに俺に銃を向ける意味は?」


「察しが悪いヤツだな・・・これから楽しいことをしようとしているのに場所がなくてな・・・仕方なく外でやろうとしてたらおあつらえ向きな家があったから使ってやろうとしているって訳だ・・・邪魔者を排除してな」


「楽しいことって?」


「男と女がやる楽しいことって言ったら決まってんだろ?」


「・・・ダンジョン探索?」


「そうそう。2人でダンジョンに入って魔物を倒しまくって・・・ってバカか」


「雑なノリツッコミだな・・・もう少し腕を磨いてから出直せ」


「うるせぇ!・・・そういや最期に聞きたいことがある」


「いつの間に質問コーナーが始まってたんだ?・・・で、何を聞きたい」


「てめえが一昨日の夜に言ったこと・・・『武術は無駄にならねえ』みたいなこと言ってただろ?あれって今回の告知を事前に知ってたから言ったのか?」


「今回の告知?・・・ああ、魔銃の使用禁止か。昨日決まった事なのに知ってたわけないだろ?頭大丈夫か?お前」


「・・・銃を向けられているのに随分と余裕じゃねえか・・・まさか魔銃使用禁止だからって撃たねえとでも思ってんのか?」


「そんなわけないだろ?禁止にしたって使用する奴は使用する・・・だから厳罰に処すって謳ってる。素直に言う事を聞く人ばかりだったらそんな事わざわざ謳う必要ないしな」


「だったらなんでビビらねえ・・・まさかこの3人がこの距離で外すとでも?」


「お前達の銃の腕前なんて知るわけがないだろ?アホか」


「・・・」


ダメ・・・これ以上バルを刺激したら本当に撃つ・・・どうしよう・・・私が動けばバルや他の3人も私を狙う・・・けど私が倒れた後で彼も・・・それだけは避けないと・・・



ちょうど私の腰辺りに銃口を押し当てている・・・いくら素早く振り向いても引き金を引く速度には敵わない・・・なら・・・



一か八か


私はどうなってもいい・・・彼だけは助ける──────

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