78階 エモーンズの危機
門番復帰だー!
と言うか休む時はギルド長からケインに連絡があったからいいようなものの復帰は報告しなくていいのだろうか・・・ケインに会いたくないから良しとしよう
制服に身を包み、門に行くとまずはヘクト爺さんに平謝りし、1週間ぶりくらいに門の前に立つ
うーん、やっぱりいい・・・門番最高だ!
「どうじゃ?少しは強くなったか?・・・と言っても1週間くらいじゃ何も変わらんか」
「そうですね。でもマナの使い方や必要な筋肉など教わった事はかなり為になったのでいずれ頼りになる門番になれると思います」
「ホホッ・・・それは頼もしいのう。ちなみにロウ坊・・・お前さんが来る前にサラさんがワシを訪ねて来てな・・・暇な時間があったら柔軟と筋肉トレーニングをさせてくれと・・・」
「・・・え?」
「快く承諾しといたぞ?ワシも相棒が強い方が何かと助からのう・・・さて、まだ訪問する者もいないようじゃし早速・・・」
なんか違う・・・僕の思ってた門番ライフと・・・なんか違ーう!!──────
それから数ヶ月・・・僕は日中は筋トレと柔軟をしながら街を行き来する人の相手をし、夜はダンジョン作りに勤しんだ
たまに仕事終わりにサラさんが現れ稽古をつけてくれたり、ジケット達が現れて一緒にご飯食べたり・・・キツかったけど充実した毎日を過ごしていた
ダンジョンは順調に成長しもうすぐ40階に到達するところまで来ていたし、たまにボス部屋で冒険者が犠牲になる以外は全て順調・・・
でも、そんな日は長続きはしなかった
始まりの鐘が鳴る──────
「そろそろ国に納める期限・・・大丈夫であろうか・・・」
「領主様、既に目標は達成しました。後は何事もなく期限を迎え国よりの使者に渡せば晴れてエモーンズは街となります。何も心配する事はありません」
執務室で不安になるエモーンズ領主ダナスに対して諭すように領主補佐をしているヴェルトは語りかける
「そ、そうだな・・・ここまで何事もなく来たのだ・・・少し余裕もあることだし余程の事がなければ・・・」
「ええ。後3日・・・その期日さえ過ぎれば領主様は本当の意味で領主となります。問題があるとすれば・・・」
「問題!?」
「少し屋敷が狭いくらいでしょうか。ダンジョン都市となるこの街の領主の屋敷にしては」
「・・・驚かさないでくれヴェルト殿・・・私はてっきり・・・ん?何の用だ?」
ヴェルトの言葉にほっと胸を撫で下ろしたダナスはコンコンという音に反応する
執務室のドアがノックされた音・・・その音がダナスに思いもしなかった事実を告げるものだとは知る由もなかった──────
「ヘクト爺さん、今日もいい天気ですね」
「そうだな・・・このまま晴れてくれるといいが・・・」
雲ひとつない空・・・雨の心配なんて全く必要ないにも関わらずヘクト爺さんは目を細め遠くを見つめて険しい表情をする
「今日は雨なんて降らないですよ!ほら、雲ひとつない空を見て下さい!・・・もしかしてとうとう目に・・・」
「何が『とうとう』じゃ!人を耄碌扱いするなと何度言えば・・・・・・ダナス?」
僕に怒鳴っていたヘクト爺さんが突然街の方に視線を向けるとそこにはえらく顔色の悪いおじさんが立っていた
ダナス・・・ダナス・・・聞いた事があるような・・・あっ・・・村長?じゃなくて今は領主か・・・ん?なんで領主がここに??
「・・・父さん・・・助けてくれ・・・頼む・・・お願いだから・・・助けてくれ・・・」
何回助けてくれ言うんだ領主は・・・てか、何度か見た事あるけどこんな顔だったっけ?随分記憶の中と印象が違うな・・・んん?・・・父さん?
「ロウ坊・・・どうやら雲行きが怪しくなって来たようじゃ・・・雨どころか嵐が来おったぞ」
ダナス領主の父さん・・・父親がヘクト爺さん・・・領主は元村長・・・って事はヘクト爺さんって・・・
「ロウ坊・・・悪いが一時門番を任せても良いか?少し話さねばならんみたいじゃ」
「え、ええ」
ヘクト爺さんが休憩以外で僕に仕事を任せるのは珍しい・・・いや、初めてかもしれない
ヘクト爺さんとダナスさんはこの時間は誰も居ない見張り台の控え室に場所を移す
僕はと言うと門番をしながら極小のゲートを控え室に繋いで二人の会話を聞いていた
「ふぅ・・・それで?」
「ハアハアハア・・・父さん・・・100万ゴールド・・・貸して下さい」
「バッ、バカを言うな!そんな大金持っておらんわ!・・・一体何があったというのじゃ・・・まさか納付金が?」
「そ、それが・・・」
ダナスさんの話はこうだ
村から街に変更する際に国に納めるお金・・・100万ゴールドは何とか1年間で貯める事が出来た・・・が、ケイン達王都から来た騎士団に支払うお金・・・それも100万ゴールドらしいのだが、そのお金が不足しているのだとか
何でもダナスさんの知らないところで国に100万ゴールドで騎士団の貸与を求めたらしく、それを知らなかったダナスさんが昨日いきなり請求されたのだとか
「そんなもの契約してなければ無効じゃろ」
「それが・・・国にこの街から届いた書状には100万ゴールドで騎士団を貸与して欲しいって事が書いてあったらしくて・・・もう何が何だか・・・」
ん?僕もてっきり開発の為に国が送って来た大工達みたいに騎士団もって思ってたけど、実際はダナスさんが国に100万ゴールドで来てくれって要請したって事になってるってこと?
国としては要請があったから騎士団員を派遣した。しかも100万ゴールドと金額を指定して。で、その金額に合わせた騎士団員を派遣して指定の期日になったからお金を払えっていうのは至極真っ当な行為に見える・・・それが本当にダナスさんが要請していればの話したけど・・・
「契約ではなく一方的な要請じゃと?しかも身に覚えがない・・・か。印を誰かに渡した覚えは?」
「とんでもない!あの印がどれだけのものか教えてくれたのは父さんじゃないか!私は決して誰かに渡すなんて・・・」
印・・・ハンコの事かな?
「間違いなく要請書には印が押してあったはず・・・でなければ国もおいそれと騎士団なぞ派遣させんはずじゃ・・・となると後は・・・文書の改ざんか」
「改ざん・・・ですか?」
「書状などどうやって出していた?」
「それは・・・重要な書状に関しては書き終えた後、ヴェルト殿に確認してもらい捺印し封筒に入れ封をして・・・改ざんする事など出来ないはずです!」
「・・・ふむ・・・全てその流れで?」
「いえ・・・特に重要ではない書状に関してはヴェルト殿に一任・・・まさか・・・」
「重要ではない書状・・・なので一任したはずだったが、その重要ではない書状が重要な書状に改ざんされて出されたとしたら?手間を惜しまず全ての書状をダナス・・・お主がやるべきだったな・・・」
「・・・私以外で書状を出す事が出来るのは・・・ヴェルト殿だけ・・・という事は・・・」
「お主に身に覚えがないのなら・・・特に重要ではない捺印された書状を改ざんしその者が出した・・・と、考えるのが自然じゃろうのう」
「で、でも・・・昨日はお金を借りれるやもと知り合いの商人を紹介してくれたり・・・」
「借りれなかったのじゃろう?借りれぬと分かってた・・・もしくは裏で貸さぬよう話をつけてたやもしれん・・・それだけで潔白とは言い難いのう」
「違う・・・そんな・・・」
「ヴェルトとは補佐として送られて来た者か・・・となると財政状態も把握されておるだろう・・・信頼させ情報を掌握し確実なタイミングで仕掛ける・・・まんまとやられたようじゃな・・・」
「嘘だ!ヴェルト殿は・・・私の補佐としてずっと・・・」
「問題は国の意志かヴェルトの意志か・・・」
「父さん!」
「頭を冷やせダナス・・・誰かが嵌めようとしない限りこのような事態にはならんだろ?誰なら出来て、誰なら利があるか考えよ・・・さすれば答えは自ずと見えてくるはず・・・ただ・・・」
「ただ?」
「犯人が分かったところでもはやどうする事も適うまい・・・お主が必死に集めた100万ゴールド・・・いつまでか知らぬがもう100万ゴールドを捻り出すには足りないほど短いのだろう?ならばもはや手遅れ・・・諦めるしかあるまい」
「諦めるって・・・街を・・・エモーンズを諦めよと!?」
「なーに、なくなりゃせんさ。ただワシらのエモーンズではなくなるのは確実じゃがのう・・・」
ワシらのエモーンズ・・・国になのかそのヴェルトになのか定かじゃないけど、領主が変われば街も変わってしまう・・・そうなれば・・・
2人は話が終わるとすぐに外へと出て来た
ヘクト爺さんは何事もなかったように仕事に戻り、ダナスさんはフラフラと街の中へと消えて行く
あの姿はまるで歩く死体だな
「ロウ坊・・・すまんな、1人にさせて」
「何言ってるんですか!そんな事言ったら僕なんて・・・」
「すまんな」
「・・・」
ヘクト爺さんら1人にさせた事じゃなくて多分・・・これから街が変わってしまう事に対して謝ってるような気がする
・・・だってその表情はいつもの優しげな表情ではなく、険しく悲しげな表情だったから──────
「・・・なるほど・・・それでボクに話しておこうと?」
「はい。領主が変われば街も色々と変化するでしょう・・・その中でシークス様の計画が狂う可能性がありましたので先んじて報告させて頂きました」
「別に・・・国有化しなければ幾らでも機会があるから気にしないけど・・・少し興味本位で聞いていいかな?なんで店長は領主に金を貸さなかったの?やっぱりヴェルトって奴と・・・。店長なら100万くらいいくらでも都合つけられるでしょ?何せあのクリット商会会長なんだからさ・・・ヘインズ・クリット会長?」
「・・・理由は単純です。お金を必要となった理由・・・それに尽きます」
「へえ・・・その理由って?」
「何でも領主様は預かり知らぬところで約束をしてしまっていたそうです」
「そりゃ災難だね。で?」
「私達商人は約束を重んじます。約束を重んじ信頼を得て初めてお金を得るからです。信頼を得れば得るほど額は上がりますが、たった一度約束を破っただけで信頼はつゆと消え商人としての命は絶たれます。領主様は必死に私に訴えました・・・『そんな約束はしていない。嵌めらてた』と・・・私にとってはその言葉は『私は泥船です。乗って下さい』としか聞こえませんでした・・・それが貸さなかった理由です」
「なるほどね・・・貸さなかった理由は領主が間抜け野郎だったからってわけか。知らないところで約束させられてた・・・そんな間抜けな野郎に貸しても返って来ない・・・ってか」
「信頼を得る為ならば100万ゴールドなどの端金返って来なくても良いのですがね。それ以上の価値がある方ならば」
「損して得取れってやつ?まっ、領主と顔繋ぎ出来りゃ確かに100万なんて端金かもね・・・で、ヴェルトって奴の船は向こう岸まで辿り着けそうなの?」
「どうでしょう・・・何事も積み重ねが大事ですので・・・」
「あーね、まだ品定め中ってわけか・・・ねえ店長・・・賭けをしない?」
「賭け・・・ですか?」
「そう・・・賭け。現領主が渡り切るかこのまま沈むか」
「シークス様は泥船が沈まぬと?」
「泥船は沈むから泥船だろ?さあ、どうする?」
「常識的に考えれば沈むでしょう・・・ですが賭けは致しません」
「なんで?」
「賭け事は信頼関係を崩します。勝っても負けても互いにしこりを残すでしょう・・・私はシークス様との関係が良好である事を望みますので・・・それと賭けを持ち掛けて来たのがシークス様だったから・・・では理由になりませんか?」
「ボクを少し過大評価してない?」
「どうでしょう・・・その答えも結果が出れば分かるような気がします。恐らく3日・・・もしくは2日で決着が着くと思います・・・私の目が確かか曇っていたか・・・その時が来れば分かるでしょう・・・待ち遠しい限りです」
「どっちに転んでも損しないようなってるって顔だね・・・高みの見物か・・・いいご身分だね」
「恐れ入ります」
「なんだかボクも楽しみになって来たよ・・・ってか、楽しませてくれよ・・・エモーンズ──────」




