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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
804/856

820階 墓地にて

逃げるようにゲートを開き目的地へと足を踏み入れると独特な匂いが漂って来る


しばらく同じような場所の近くに住んでたからなんだか懐かしい


「さて・・・もう来てるかな?」


落ち着いたら来るって言ってたけど・・・


見回すとチラホラと人がいる。その中から見知った顔を探すと最初に見つけたのは・・・


「もっと前に行かないのですか?」


群がる人集りを後ろの方で木に寄りかかる人物に声を掛けた


「・・・柄じゃない・・・それに繋がりはあいつらの方が深いからな」


「でも最後にパーティーを組んでたのは貴方ですよね?・・・ヒューイさん」


後ろの方でつまらなそうに人集りを見つめるヒューイ・・・更にその先には1メートルくらいの高さの石がありそこに名が刻まれていた



『ジット・ボドガス』と



「最後に組んでいたかなんて関係ねえよ・・・って敬語じゃないと不味いか?公爵殿」


「これまで通りで。それにしても急ごしらえの割には立派な墓石ですね」


「ディーンの旦那が岩を切り取り名を刻んでくれたのさ・・・希望者全員分な。で、完成した墓石を運んで・・・あいつらだって混乱の中自分の事で手一杯のくせに手伝うって聞かなくてさ・・・あれよあれよと人が集まりあの人集りだ・・・人望があるやつはやっぱり違うよな」


「・・・ヒューイさんはあれを目指しているのですか?」


遺体のない墓石の前で泣く人達。色んな人がいるけど冒険者がほとんどだ。この数を見ればどれだけ慕われているのか分かる


「あれを?なんでだ?」


「あそこに加わる訳でもなく見ているだけでしたので・・・泣く側ではなく泣かれる側になりたいからなのかと・・・」


「・・・一時の気の迷いで思った事もある・・・が、実際に見たら違ったみたいだ」


「と言うと?」


「湿っぽいのは性に合わねえ・・・俺が死んだら墓の前で酒盛りするくらいで丁度いい」


「賑やかに送れ、と。そういう人間関係を作るって事ですか?」


「ああ・・・ジットとは違う・・・まだどうやったらそうなるか分からねえが・・・」


「言い続ければいいんじゃないですか?『俺が死んだら墓石前で酒盛りしてくれ』って」


「・・・そうだな。けど今のところ寂しい酒盛りになりそうだな・・・ジットみたいに人望があるわけじゃないし・・・」


「言わないんですか?」


「ん?何を?・・・・・・はっ、そういや一度は組んだ仲だったな・・・なあロウ・・・俺が死んだら墓石の前で酒盛りでもしてくれや」


「墓石にたっぷり美味い酒をかけながら飲んであげますよ」


「そりゃいい・・・悪くねえ・・・悪くねえな」


ヒューイは目を細めその光景を想像したのか微笑み呟いた


「・・・ヒューイさんにとってダンジョンとは何ですか?」


「なんだよ藪から棒に・・・ダンジョン?そんなもん仕事場だよ仕事場」


「仕事場・・・他には?」


「他って?」


「その・・・夢とか希望とか・・・」


「はっ、ないない・・・そりゃダンジョン踏破とか高ランクを目指したりとか夢を見るがダンジョンに求めてるかって聞かれると微妙だな・・・そんな奴もいるとは思うが冒険者の中でもほんのひと握りだろうよ・・・Sランクに上がれるような本物の実力者・・・そいつらくらいだ」


「・・・弱い者は夢を見れない、と?」


「当たり前だ。弱い奴が夢を見てダンジョンになんて行ってみろ・・・その夢への道は途中で幕を閉じるのが相場だ・・・死って形でな。だから背伸びせず地道にコツコツと稼ぐのが冒険者を長く続ける秘訣なんだよ・・・な?夢なんてないだろ?」


確かに・・・背伸びすれば待っているのは死だ・・・となると人が集まるダンジョンとは何なんだ?エモーンズとアケーナの違いは・・・


「・・・まあでもたまにちょっと背伸びして必死こいて生き延びた後に飲む酒は格別だからな・・・夢は見なくてもたまにゃ背伸びしたくもなる」


「・・・」


そうか・・・俺はダンジョンの経営者として考え過ぎだったか・・・死なないダンジョンならダンジョンはマナは溜まるし冒険者も死なずに稼げるからWinWinな関係だと思っていたけど冒険者からしたら刺激がない


かと言って高難易度にしたら刺激が強過ぎる・・・冒険者が求めているのは普通のダンジョン・・・下りて行くほど魔物が強くなる・・・そんな普通のダンジョンなんだ


行くか戻るか自ら決める・・・実力が足りなければ死ぬかもしれないという命懸けの選択・・・その選択後に生き残った時の充実感は与えられるものではなく自ら勝ち取ったものだ


『ダンジョンは常に平等』とか言っててすっかり忘れていたな・・・行くも戻るも生きるも死ぬも自分次第・・・それこそ平等だ


「ありがとうございます」


「あん?」


「エモーンズのダンジョンがつまらない理由が分かりました。ちょっと刺激が足りなかったようです」


「・・・そ、そうか。それよりここのダンジョンはどうなるんだ?フェンリルのヤツが核を喰らったって聞いたがそのフェンリルを倒しちまったら・・・」


「その辺はご安心を。フェンリルが死ぬ前にダンジョンは私のものになりましたので・・・新たな核を準備して元通り・・・とまではいかないが早急にここの冒険者が干上がらないよう努力します」


「本当に何でも出来るんだな・・・お手柔らかに頼むぜ?ロウ」


「はい」


全てを記憶している訳ではないから完全再現は難しい・・・けどある程度なら再現は可能だろう。後は足りないマナはエモーンズから魔物を連れて来てここの冒険者達に頑張ってもらうか


けどここのダンジョンの管理を俺がするのは少し遠慮したい・・・スラミが居なくなりエモーンズも大変なのにアケーナも面倒見るとなったら休暇どころの話ではなくなる・・・誰か代わりに・・・エモーンズはシアに任せるとしてアケーナは・・・そうだ!ちょうどいいヤツがいたな。事の発端とも言えるしヤツが適任だろう




ヒューイに別れを告げ次の場所へと移動する


彼は俺が何でも出来ると言っていたがとんでもない・・・確かに人より出来る事は多いが出来ないことはいっぱいある


「・・・これは・・・公爵様」


「ロウニール、来たのか」


「・・・」


アーノン、フリップ、フェリスの3人がとある墓石の前にいた


それはジットの墓石のように真新しいものではなく年季の入った墓石であり『テレサ』とだけ書かれていた


テレサとはフェリスの姉でありアーノン、フリップの元パーティーメンバーであり、アーノンの恋人だった人らしい・・・フェンリルに攫われ魔人となって現れアーノンとフリップの手で葬ったとか・・・俺が何でも出来るなら魂の抜けた魔人を元に戻したり死んだ者を生き返らせたり出来るのに・・・な


「これまでの冒険者の行方不明の件や今回の件で犠牲者が少なかったのは全て公爵様のお陰です・・・ギルドを代表し感謝の言葉を」


「いつもの事・・・って言うか貴族の義務ってやつかな?だから気にするな」


貴族の自覚はないけどね


フェリスはまだ混乱しているみたいで無言のまま頭を下げただけだ。新人冒険者が実は公爵だったと聞けば混乱もするだろう・・・俺もそんな状況なら混乱する自信がある


「そう言えば各ギルドに救援要請をしたんだっけ?」


「はい。終わってすぐに総ギルド長への報告と各ギルドへは報告したのですが如何せん時間が経っていましたので救援に来てくれている冒険者達と連絡が取れず今も向かって来ている最中かと」


「・・・途中で引き返させるのもなんだな・・・スウ・・・じゃなくて女王の名で充分な見返りを出すよう伝えておこう」


「ありがとうございます」


「何が『伝えておこう』だ偉そうに」


「実際偉いんだよ・・・フリップ君」


「お、俺を脅す気か?」


公爵は貴族の位では頂点にあり実際は王ですらぞんざいに扱う事は出来ない・・・まあ権力なんて使う気は全くないけどな


「・・・」


フリップ相手にふざけているとフェリスは伏せがちに視線を泳がせる


もしかしたら混乱しているのではなく心配しているのかな?貴族に対して下手な態度を取った事を責められるのではないかと


「あー、フェリス・・・俺は・・・」


「公爵様!お願いがあります!」


権力を振りかざすつもりはないと言おうとしたらフェリスはその言葉を遮り俺を真っ直ぐに見つめてきた


まさか愛の告白!?お、俺にはサラという人が・・・


「女王陛下に組合の復活をお願いしてはもらえないでしょうか?」


「フェリス!よさないか」


アーノンがフェリスを窘めるが別に頼み事するくらいいいのでは?それに・・・


「・・・そんな事か・・・てっきり・・・」


「てっきり?」


「いや何でもないです」


恥ずかしい・・・自惚れやさんか俺は


にしても組合の復活か・・・打診するのは構わないけどスウは首を縦には振らないだろうな。軍の縮小に貴族の縮小・・・そのふたつに逆行するような願いだし・・・


徒党を組めば力を得る。その力が無視出来ないほど膨れ上がれば国も警戒する必要が出てくる。軍を縮小し最低限の兵数で国を守ろうとしているのに脅威が増えたら軍を拡大せざるを得なくなる・・・それはスウの望むところではないだろう


てか組合を解散させたのも軍を縮小する為だし・・・俺が言えばもしかしたら考えてくれるかもしれないけどそれって俺に気遣ってだろうし・・・ん?俺に気遣って無理をするかもしれないけどそれが無理じゃなければいいのか・・・例えば軍を拡大しなくても良ければ・・・


「いいよ、組合復活しても」


「本当ですか!?・・・え?進言して下さるのではなく・・・復活しても?」


「うん。各ギルドにもそう伝えてもらって構わない・・・責任は俺が取る」


「おいおい・・・いいのかロウニール・・・結構なこと言っているの気付いているか?」


「ああ・・・逆に相談せずに進めた方がスウにとっても都合がいいはずだ」


「?・・・どういう意味だ?」


「公爵の俺が勝手に進めた・・・そうなれば自然と俺が責任を取らないといけなくなるだろ?相談したらスウは自分で組合が問題を起こした時に自分で解決しなければならないと考えて拒否するだろうけど俺が勝手に進めたら自分で解決しなくて済むからな」


俺が相談を持ちかけたからと言って俺に全責任を負わせたりはしないだろうけど勝手に話を進めたなら話は別だ・・・スウだって組合を解散させたくてさせた訳じゃないしな。軍の縮小に必要だから・・・なら軍を縮小させたままで組合を復活出来るならスウにとっても渡りに船・・・表立っては反対するかもしれないけど裏では助かったと思うはずだ


「・・・つまりお前さんが全責任を負う、と?」


「そういうこと・・・組合が何か悪さしたら俺が解決する・・・まあ各ギルドのギルド長がそんな事はさせないと思うけどね」


「プレッシャーかけるじゃねえかおい」


実際にギルド長の仕事は増えるかもしれないな・・・けど冒険者の犠牲は少なくなるだろう・・・組合に加入するのとしないのとではダンジョン攻略や安全に関しては雲泥の差だしな


事前にダンジョン内の構造や罠、それに魔物の種類を知っているのと知らないのとじゃ生存率はかなり変わってくる


でもスウが懸念しているような力を持つ事になる・・・ギルドに素直に従う内はいいが力を得ると増長しギルドの言うことを守らなくなるかもしれない・・・その時の為にギルド長はしっかりと冒険者の手綱を握らないといけなくなる


「どうしようもなくなったら俺に頼ればいい・・・しっかり躾てやる」


「おー怖・・・まっ、そうならないように気張るしかねえか・・・」


「あ、ありがとうございます!」


フェリスが勢いよく頭を下げるとアーノンはその姿を目を細めて見つめていた


アーノンだってフェリスと同じく組合復活を望んでいたからな・・・ただ国の方針に逆らえずフェリスと国の板挟みにあってたわけだ


「ありがとうございます公爵様・・・しかし本当によろしいのですか?」


「大丈夫大丈夫・・・それよりもフリップ」


「あん?」


「ここにいていいのか?エモーンズのギルド長」


「休暇だ休暇・・・墓参りくらいさせろよ」


「それはいいけど誰にギルドを任せて来たんだ?」


エモーンズギルドに副ギルド長なんて居たっけ?確か居なかったような・・・


「・・・ペギー」


「は?」


「いや別にやる事なんてそんなねえしペギーで良いかなって・・・」


「ゲート」


フリップの横にゲートを開く


当然行き先はエモーンズのギルドだ


「お、おいまだ別れの挨拶もそこそこで・・・」


「そこからギルドを覗いてみろ」


ちょうどギルドの受付が見える位置にゲートを開いている・・・さて、フリップを見てペギーがどんな反応するやら・・・


「・・・悪ぃアーノンにフェリス・・・俺戻るわ・・・まだ死にたくねえからな・・・」


そう言って肩を落とし小刻みに震えながらフリップはゲートを通りこの場を去った


何気にペギーはAランク冒険者にも引けを取らないくらい強いからな・・・下手したら今頃フリップは消し炭になっているかもしれない・・・


「・・・フリップがあそこまで恐れるとは・・・そのペギーというギルド職員は一体・・・」


「私達も行きますよギルド長!やる事は山積みです・・・姉の墓はまた来ればいいですし・・・」


「・・・そうだな。生きてると願いこれまで来れなかったが・・・これからは毎日来るとしよう」


「毎日は多過ぎです」


むくれてアーノンを睨むフェリス。それを見て慌てるアーノン・・・この2人の関係も少し変わったか?・・・フリップといいアーノンといい受付嬢には頭が上がらないらしい


「それでは公爵様、私達はこれで」


「ああ、組合復活の件は俺からスウに伝えておく。各ギルドへの連絡は任せた」


「はいお任せ下さい」


アーノンとフェリスは頭を下げギルドへと戻って行った


残った俺は『テレサ』と書かれた墓石を見て呟く


「『次』はきっといい人生を送れるさ」


心半ばにしてフェンリルに魔人にされたテレサ・・・次の人生はそんな事はないだろう・・・いや、ない世の中にしないと、な──────

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