77階 反省
「今日から身の回りの世話をさせてもらうッス!どうぞよろしくお願いしますッス!」
ケン達が一斉に頭を下げた先には困り果てた顔のヘクトが居た
ローグことロウニールがケン達に行くように言った場所は街の門、そして行ったらそこに居る門番のヘクトの手伝いをしろとの事だった
意図は不明だが自分達のしでかしてしまった事を深く反省したケン達は言われた通りに朝から門まで行きヘクトに手伝いをさせてくれと頼み込む
「困ったのう・・・特にやる事はないのじゃが・・・」
「何でもいいッス!肩揉めとか飲み物買って来いとかでも・・・」
「じゃあ帰ってくれるか?」
「それは無理ッス」
「・・・」
「あっ、私が代わりに事情を・・・」
何でもって言ったじゃないかという視線にマホがケンに任せておけず前に出てヘクトに事情を説明する
マホの話を聞いていたヘクトは困惑顔から少しずつ素の表情に戻り最後には少し呆れた感じでため息をつくと根負けしたのか渋々ケン達がここに居るのを許可した
「門番の業務は出来ん・・・じゃが手伝いくらいなら大丈夫じゃろう。4人は少し多いがまあ仕方ない・・・とりあえず全員の名を教えてくれ──────」
《・・・なんであの人間達を門に?》
「理由は・・・ヘクト爺さんが寂しいかなって思ったから」
《つまりアナタが居れば寂しくないってこと?どーだか》
「機嫌悪いな・・・二日酔いか?」
《ロウはお酒禁止!何なのよアレ・・・あんなの私じゃない・・・》
昨日の夜の乱れぷりは半端なかったな・・・まあ言葉だけだけど。何言ってるか分からないし、それなのにずっと何か言ってるし・・・
《・・・そろそろギルドに行く時間じゃないの?遅れたらサラにどやされるわよ?》
「おっと・・・なるべく訓練はキツくない方がいいもんな・・・しばらく魔物も補充出来てないし・・・」
《まあそのくらいなら私がやっとくけど・・・結局わたしが活動するとロウの体は休めてないのよね・・・》
「それ・・・意味ないね」
《睡眠不足は解消されるわよ?体の疲れは回復魔法で・・・ただ本当の意味での疲れは取れないけどね》
うーん、やっぱり意味なさそう・・・
とりあえず遅刻したら大変だと急いでギルドに向かうと既にサラさんは下に降りて来ていた
ニッコリと笑うからそれほど待たせてないのだろうと安堵して昨日渡されたお金の入った袋を渡す
「昨日は随分と飲んだみたいだな」
「え?ええ・・・お陰様で・・・」
「そうだろうな。なにせ師匠を昼過ぎまで待たせるぐらい酔って爆睡するくらいだからな」
ひ、昼過ぎ?
そう言えば街を歩いている時に朝にしては妙に人通りが多いと思ったような・・・でもダンコは朝って言ってたよな?・・・・・・もしかして時間感覚まで狂った??
ダンジョンの中にいると時間感覚がなくなる。それは日が差す事がないからなんだけど、ダンコは分かるらしくてダンコ時計を頼りに生活してた。なのに・・・よし、禁酒しよう!
「遅れたものは仕方ない・・・ただ今から一日分の訓練をするにはかなり濃縮しなければならない・・・意味は分かるな?」
分かりたくもない意味が分かってしまう
僕は明日の朝日を拝めるのだろうか・・・
──────地獄の訓練が終わり訓練所の扉がバタンと閉まる
僕は微かに動く手を伸ばし捻り出すようにこう言った
「な・・・にが・・・朝だ・・・酔っ払い・・・ダンコめ・・・」
その後僕は意識を失い朝まで訓練所で寝てしまった
起きた時間は分からない・・・けど、ダンコがいくら話し掛けても無言だと言うことは・・・
どうやら僕は地獄のループにハマってしまったようだ
3日目でようやく地獄のループは抜け出せたが、来る日も来る日も動けないまで訓練は続く
気付いてみればあっという間に1週間が過ぎていた
「うーん、このまま続けても意味はなさそうだな。筋トレと柔軟は必ずやれ!戦闘訓練は隙を見て教える・・・以上だ!1週間よく耐えた!」
あれ・・・褒められてる・・・訓練・・・終わり?
「本当ですか!?」
「ほう・・・へばったフリをしていたか・・・まだまだ余力がありそうだな」
「あっ!・・・と、とんでもない!まさかサラ師匠が出て行った後に起きようなんてそんな事・・・」
「ハア・・・間抜けなのか素直なのか・・・1週間詰め込んで何となくロウニール・・・長いな・・・ロウの性格やら何やら分かった気がする。才能もな」
ロウって言われるのダンコ以来だな・・・ダンコも同じくロウニールは長いって理由だったっけ・・・
それよりも才能か・・・ダンコにはあるって言われたけど実際どうなんだろう
「才能・・・僕は才能もありますか?」
「磨けば光る・・・ただ磨かねば光らぬし曇っていく・・・後は自分次第だ・・・分かったな?ロウ」
「はい!ありがとうございました!」
「・・・連続しての訓練が終わっただけだが・・・まあいい、また隙を見て声を掛ける・・・その時に今よりも弱くなってたら・・・分かるな?その先は」
分かりますとも・・・地獄の訓練再び・・・それだけは何としても避けなければ・・・
訓練をしてもらっててサラさんの事も何となく分かってきた。意外と心配性で面倒見のいい姉御肌・・・ローグで見てる時とは少し違う印象だ
サラさんは何度も『サボるなよ』と言いつつ先に訓練所を出て行きようやく僕は本当に解放された。隙を見てって言ってたけどどれくらいの頻度で来るのだろうか・・・技とか教えてもらってないしその時に技の伝授とかあるのかな・・・楽しみだ
《お疲れさん・・・で?明日から門番に復帰?門に向かわせた人間はどうするの?》
「・・・?」
《アナタねえ・・・》
「・・・あっ・・・思い出した・・・」
ケン達をヘクト爺さんのところに行かせてたんだった・・・明日から・・・門番に復帰しようと思ってるし・・・かと言って僕・・・じゃなくてローグが門に行くと目立つし・・・やはり困った時の──────
〘はい!〙
「今大丈夫か?」
〘はい、もちろんです!〙
「少し頼まれて欲しいのだが」
〘なんなりと!〙
「ケン達に伝えて欲しい。門番の手伝いは終わりだと・・・明日からダンジョンに行っても構わない・・・そう私が言っていたと伝えてくれ」
〘分かりました!・・・それだけでよろしいのですか?〙
「それだけとは?」
〘いえ・・・門番の手伝いをして何を掴んだか確認しなくても?もしかしたらローグの深い考えを理解してないかも知れませんよ?〙
「・・・そうだな。確認する為にも直接会った方が良さそうだ」
〘そうですよね!もし指定して下さればケン達を通じて連れて向かいますが・・・例えば訓練所とか?〙
「・・・では訓練所の真ん中の部屋で」
〘分かりました!すぐに向かいます!〙
《アナタ・・・いつか刺されるわよ?都合のいい使い方して・・・それに何よ深い考えって・・・そんなものないでしょ?ボケたの?頭空っぽなの?》
「そう責めるなよ・・・咄嗟にあるフリをしてしまって後悔してるんだから・・・」
深い考えなんて全くない・・・けどローグが何も考えずに門番の手伝いをさせるって思えない。なにせ僕じゃなくてローグなのだから・・・
《どうでもいいけどサラって人間・・・速攻来るわよ?このままでいいの?》
しまった!ついつい今自分の居る場所を待ち合わせ場所にしてしまったんだ・・・あれ?マズイぞ・・・体が思うように動かない・・・
「えっと・・・ダンコ・・・どうしよう?」
《知らないわよ!・・・あーもう!回復魔法でとりあえず動けるようにしてゲートで仮面とマントを取り出してすぐ着替える!そこの扉は開かないようにしとくから早くしなさい!》
「・・・はい・・・」
ダンコの協力を得て何とかサラさん達が来るまでに準備は完了した。扉を開けようとして開かなくてガチャガチャ鳴った時は焦った・・・そう言えばダンコが開かないようにしていたの忘れてたよ・・・
慌てて開くようにすると先頭にサラさん、その後ろに緊張した面持ちのケン達がゾロゾロと連なる
「ローグ!・・・ゴホン・・・4人を連れて来ました」
パッと明るい表情を一瞬見せたサラさんだったが、何か考えたのか急に険しい表情に変わり4人に視線を向ける
まあ一応罰を与えたみたいな状況だから笑顔はないわな
「・・・今日で門番の手伝いは終わりだが何か感じた事はあったか?率直な感想を教えてくれ」
何かあってくれ!頼む!
「・・・初めは生ぬるいって思ったッス・・・ダンジョンは命懸けなのに門番の仕事って人を街に入れたり、出て行く人を見送ったり・・・でも手伝っていく内に気付いたッス・・・冒険者はもちろん商人も旅人も・・・笑顔であってもヘラヘラしてなかったり・・・真剣に何かに取り組んでるんだなーって・・・もちろん門番のヘクトさんも誰一人手を抜かず注意深く見てたッス・・・それを見てたら自分のやった行為がどれだけ恥ずかしいかって・・・改めて思ったッス・・・」
お!
「私も何で門番なんだろうって初めは思いました。門番なんて誰でも出来ると・・・でも実際は・・・。ヘクトさんに聞いたんです・・・『他の街では顔パスとか普通にしてますけど、顔見知りでも確認するんですね』って・・・そしたらヘクトさんは『もし仮に冒険者ガ悪さしようと街に来てもワシには止められる術はない。ならワシは何が出来るのか・・・門番としての役目を全うする・・・それしか出来ないのであればそれだけはきっちりやろうと思ってのう』って・・・私の役目はケン達が暴走したりバカをした時に止めること・・・それなのに私は止めもせず結局サラさんに迷惑かけて・・・反省しています・・・」
おお!!
「ええ・・・お前らマジかよ・・・。えっと・・・俺は男と女・・・どっちが多いか数えてました・・・んで、女が通る度に点数をつけ・・・お、おい!いて!なんだよマホ・・・率直な感想って言うからさ・・・」
お、おお?
「・・・私は・・・ローグさんが言わんとしている事が結局分かりませんでした。門番の仕事の手伝いが罰なのか・・・それともダンジョンに入れない事が罰なのか・・・ずっと考えてましたが結局答えが出ず・・・」
おおー!
良かった・・・全員?に何かあったようだ。それにしても結構深く考えてくれてるなぁ・・・思い付きってバレたら怒られそうだ・・・
・・・いや・・・
「ローグ?」
「ああ、すまない・・・思った以上に深く考えてくれたみたいで驚いていた。さて、今回の罰だが・・・」
「・・・」
「特に何も無い」
「へ?」「うそ?」「ほら見ろ」「・・・」
「君達がした行いは褒められたものではない。自らの力を過信し、サラを危険な目に合わせた。だが、過信してしまったのは私が渡した装備のせいであり、サラを危険な目に合わせたのは心配してつい飛び出してしまった結果・・・なので君達に罪はなく罰するつもりもなかった」
「じゃあなんで・・・」
「サラが怒ったからだ」
「・・・へ?」
「サラが君達の今後を憂い、慢心した気持ちを引き締めようと心を鬼にして怒ったから私は君達を罰した。と言ってもダンジョンから遠ざけさせ考える時間を与えただけだがな」
サラさんは本当にケン達を心配してた。このままだといずれケン達は無謀な戦いに挑み死んでしまうのではないかと
なぜそうなったかは理由は明白・・・僕が彼らに与えた装備が少し強過ぎた・・・ダンジョンが命懸けの場所ではないと認識してしまうくらい
「私が望んだのはダンジョンから遠ざかる事によって少しでもサラが怒ったことやなぜ慢心してしまったか考えてくれること・・・その考える環境に最も適していると考えたのが街に入って来る人達を見れる門番の手伝いだったって訳だ。だからヒーラ、答えはないのだ・・・悩み考え自分を見つめ直す・・・それが今回の目的なのだから」
よし、取って付けたような理由だけど何とか納得してくれる・・・はず
「・・・良かった・・・俺、やっぱり返せって言われるものかと・・・」
「そう言えばダンジョンの事以外で色々考えたの久しぶりかも・・・ダメね・・・過去にそういう人達を見て来たのに自分がなっちゃ・・・」
「なっ?ローグさんはそんなケチな事しねえと思ってたんだよ・・・俺の言った通りだろ?」
「非常に有意義な時間でした。かなり視野が狭くなってた事を痛感します・・・もっと広い視野で物事を見なくては・・・さすがローグさんです」
良かった・・・解釈を任せて正解だった・・・これで『実はこういう意図がある!』とか言ったら答えバラバラだったし収拾つかなくなるところだったよ
「・・・ところでローグさん・・・この指輪は本当に返さずとも良いのですか?私としては決して返したくないのですが、お2人にご迷惑をお掛けしてしまいましたので返せと言われても従うしかないと思ってます・・・重ねて言いますがもうこの指輪は私の心の一部となっており決して返したくないのですが・・・」
「ん?・・・ああ、せっかくだから使ってく・・・サラ?」
返してもらうつもりないし使ってくれと言おうとした時、サラの様子がおかしい事に気付いた
殺気・・・とまでいかないけど・・・これは・・・怒気??
「ローグ・・・ひとつお願いがあります・・・」
「な、なんだ?」
「図々しい願いとは百も承知です・・・が、お願いします・・・私に指輪を下さい・・・ぶっちゃけ何の能力も付いてなくていいので」
能力なしの指輪って・・・ただの指輪じゃ・・・
「・・・ハッ!?・・・いえ、その・・・あの収納の能力は素晴らしかったので・・・えっと・・・気分だけでも・・・」
気分だけって・・・あっ、そうだ!
「どうしても指輪でないとダメか?収納の能力が欲しいなら私の付けている腕輪も同じ能力がある。これで良ければ・・・」
「欲しいです!下さい!!」
えー
そんなに収納能力が欲しかったの?凄い食い付き方だ
念の為に仮面とマントと共に付けといて良かった・・・あれから何も入れてないしゲートの先もダンジョンの小さな小部屋だし・・・渡しても大丈夫かな?
僕は付けていた腕輪を外しサラさんに手渡すとすぐに身に付けていた。何故か勝ち誇った顔でヒーラを見ていたのが気になる
何となく締りのない形でケン達の罰は終わりを迎えた
それぞれが色々考えたみたいだから、サラさんが懸念するような事にはならないだろう・・・多分
さて、僕も明日から職場復帰だ・・・門番・・・頑張るぞ!──────
「ねえヒーラ・・・また?」
「・・・どうですかね・・・もしそうならマホはどうします?」
「私は・・・やめとく・・・また同じ事になりそうだから・・・」
「そうですか?今度は大丈夫だと思いますが・・・」
「おーい!マホにヒーラ!門番の手伝い終了記念と明日から頑張ろう決起集会って感じで飯食いに行こうぜ!」
「ダンジョン亭じゃなくて攻めてみるか?」
「だな!・・・ほら、早く行こうぜ!」
「・・・さてさて、今度はどうなりますかね?」
「ハア・・・面倒事はやめてよね」
「大丈夫です・・・ダンジョンでは控えますので」
「どうだか・・・ほら、2人が呼んでるよ!行こ」
「はい──────」




