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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
798/856

814階 ウロボロス

ウロボロスが黒き巨大な蛇に近付くととぐろを巻いていた蛇はその鎌首を上げて彼女を見下ろした


《久しぶりね・・・私も中に入れてくれる?》


ウロボロスが尋ねると蛇は目を細め大きな口を開けて彼女を飲み込む


《・・・相変わらず暗いわね》


飲み込まれたウロボロスは漆黒の闇の中を迷うことなく歩き出す。しばらく歩くとあるものを見つけ足を止めた


《待たせたかしら?》


「いや・・・俺も来たところだ」


そう答えたのはロウニール


彼は真っ暗闇の中に1人立っておりウロボロスを笑顔で迎え入れる


《全て理解している・・・とか?》


「まさか・・・でもある程度予想はついている」


《へえ・・・聞かせて》


蛇の腹の中とは思えないほど穏やかに話す2人


ロウニールは長話になると判断したのか自分とウロボロスの分の椅子を創り出し2人はその椅子に腰掛ける


「そうだな・・・違和感を覚えたのはほんの少し前なんだ。インキュバスのセリフ・・・『創造は無から有を作り出すのではない』って聞いて違和感を覚えた。てっきり創造は無から有を創り出す力と思っていた・・・まあ考えてみれば確かに魔力を使っているから完全に何も無いところから出しているわけじゃないもんな」


《ふーん・・・で?》


「次に違和感を感じたのはインキュバスとアバドンの関係性だ」


《関係性?》


「そう・・・『創造』と『破壊』・・・対極にある2人・・・」


《そうね。確かに対極だわ・・・で、違和感って?》


「2人は対極・・・別にそれだけなら違和感はない・・・けど最初からいたのは3人だ・・・そうだろ?ウロボロス」


《あら?私がお邪魔だった?》


「ああ邪魔だね」


《酷い事言うわね》


「2人は対極ならもう1人のお前は何なんだ?『再生』のウロボロス・・・『創造』に近い存在だが『創造』とは異なり『破壊』と真逆と言われたらそれも違う・・・なぜこの3人だったのだろうっていう考えた・・・そこでこう考えたんだ・・・最初は3人じゃなかったんじゃないかって」


《・・・》


「ウロボロス・・・お前が最初じゃないのか?お前は『再生』のウロボロスではなく・・・『始まりの魔族』ウロボロスなんじゃないか?」


《・・・どうしてそう思うの?》


「お前だけなんだ・・・理由がないのは」


《理由?》


「インキュバスは『創造』、アバドンは『破壊、んでインキュバスが創造したもの達にもそれぞれ理由がある・・・人間が魔力を作る為だったり魔族がアバドンに対抗する為の兵士だったり・・・けどお前は特にない・・・暇を持て余すだけの魔族だ。三大魔族って言う割にはな」


《重要な役割があるじゃない・・・癒し?》


「ほざいてろ」


《・・・酷い・・・》


「酷いのはどっちだ?お前は1人この世界に生まれた・・・けど暇だったからインキュバスとアバドンという対立する為の対極の存在を創った・・・インキュバスが色々創造して複雑にはなっているけど実際のところ最初はお前の大好きな『暇潰し』だったんじゃないか?そうだとしたら酷いって言うのは暇潰しで創られた俺らのセリフだろ?」


《そのお陰で生まれて来れたとは考えられないの?》


「・・・って事は認めるのか?」


《うーん・・・まあ半分正解だし降参・・・認めるわ。私はアナタの言う『始まりの魔族』よ》


「・・・あっさり認めるんだな」


《まあ・・・ここまで来てしらばっくれても仕方ないしね》


「そっか・・・んで?半分正解ってどういう事だ?」


《この世界は私の壮大な暇潰し・・・それは当たってるけど実際は『私達の』なの》


「達?」


《そう・・・私には・・・そうね・・・姉がいるの》


「アネボロス?」


《・・・姉もウロボロスよ。何よアネボロスって・・・私達は2人で1人だったの・・・2人でウロボロスだったのよ》


「・・・だった?」


《今はいないの・・・出て行っちゃったから》


「どこに?」


《外に》


「家出か」


《そそ》


「んで、今はその家出姉の腹の中ってか」


ロウニールは確認するように辺りを見回す


何もない真っ暗闇・・・どこまでも続くように思える闇を見て目を細めた


《・・・アナタがサキュバスを飲み込んだのは偶然じゃなかったのかもね・・・》


「どうした急に」


《何でもないわ・・・それより気にならない?姉が出て行った理由》


「どうせくだらない理由だろ?」


《ええ・・・とてもくだらない理由よ──────》





くだらない理由・・・それは本当にくだらなかった


そもそも魔力がウロボロスを生み出した理由なんだがその理由は単純だった。人間が子供を作るように魔力も子を作った・・・種の存続の為に


創造したり破壊したり他にも沢山のことが出来て万能感のある魔力だが唯一出来ないこと・・・それは魔力を生み出す事だった


減る一方の魔力は考え抜いた結果、ウロボロスを生み出す。どうやら魔力自体はそこまで複雑な思考が出来ないらしく思考が出来る存在を創る必要があったからとか・・・まあだからより思考が出来るようにひとつの体にふたつの人格を入れたのだろう


だが思ったようにいかなかった・・・いくら考えても思い付かなかったんだ・・・魔力を生み出す方法が


で、ウロボロスは考える人数を増やす事にした。ただウロボロスを増やしても仕方ないと考え魔力の記憶のないまっさらな体・・・そして同じ意見だと意味がないのであらゆる意見を出せるよう工夫をする


まあそりゃそうだよな。同じ思考の奴を多く作ったところで行き詰まるのは目に見えていたし・・・んでそれぞれに違う能力を持たせ記憶をまっさらにして生み出したのが『創造』の力を持つインキュバスと『破壊』の力を持つアバドンだった訳だ


ウロボロスは全てを知りながら知らぬフリをして2人に近付き魔力をどうにかして増やすよう誘導する・・・インキュバスもアバドンも自分が生存し続ける為には魔力が必要っていうのは分かったのか真剣に考えていたらしい


だがより多くの考えが欲しくて真逆の能力を持たせたのが失敗だった・・・インキュバスとアバドンの意見は対立しやがて争いに発展する


そこであえて止めずに静観していたウロボロス・・・争いが激化しても決して手は出さなかったらしい


それが功を奏したのがインキュバスが魔力を生み出す事に成功する


これで種の存続・・・魔力は安泰のはず・・・だった


《ね?くだらないでしょ?》


「ああ・・・単なる姉妹喧嘩とはな」


2人の関係を姉妹と言うのか・・・てかそもそもウロボロスは女なのか疑問に残るがひとつの体の中で意見が対立してしまう


それは魔力が生み出せる事によって余裕が生まれたからなのかもしれない


姉であるアネボロスは人間という魔力を生み出す存在を更に進化させもっと魔力を生み出させるべきと主張し、ウロボロスはこのまま静観するべきだと主張した


そしてウロボロスの静観するべきという主張の理由が更にくだらなさに拍車をかける


《悪い?だって面白かったんだもん・・・インキュバスとアバドンの戦いが・・・もっと面白かったのが人間とインキュバスの戦い・・・今にも鮮明に思い出せるわ・・・聞く?》


「聞かん。・・・まっ、そのお陰で今があるのだから超暇な時にだったら聞いてやってもいいけどな」


《・・・何よその謎の上から目線は》


だって長くなりそうだし・・・


まあアネボロスが家出?した理由は分かった。けど分からない事がまだある・・・


「んで?輪廻もお前が考えたんだろ?その理由は?」


《・・・魂とは魔力に刻まれた記憶・・・記録とも言えるわね。輪廻の部屋がない頃は魂はその場を漂いやがて魔力に吸収されるしかなかったの。けどある魔族の魂を魔力に吸収されるのは惜しいと思った私はその魂を魔力の影響を受けないよう隔離したの》


「ある魔族?」


《アナタも知っている魔族よ・・・彼の名前は・・・サタン。インキュバスが一番初めに創った魔族よ》


「サタンか・・・なんでまたサタンなんだ?」


《色々と理由はあるけど一番の理由は私と考え方が似ているからかしらね》


・・・そう言えばサタンがインキュバスに逆らった理由は人間をどのように扱うかだったか・・・サタンは人間側につき結局インキュバスと敵対する事に・・・言われてみればウロボロスとアネボロスの関係にそっくりだな


ん?けど・・・


「輪廻って魔力とマナが衝突時に発生するエネルギーで作ったんじゃないのか?今の話はサタンが輪廻転生する前の話・・・なら・・・」


サタンが輪廻転生し勇者となりインキュバスと戦う・・・その時のエネルギーを使って輪廻の部屋を作ったって聞いたけど・・・


《そうよ。サタン1人の魂なら私1人でも出来るけど他の魂まで隔離するなら話は別・・・多くの魂を隔離するにはかなりのエネルギーが必要だった・・・で、サタンの魂が輪廻転生して今で言う勇者になりインキュバスと戦った時に出たエネルギーを見て『これだ!』って思ったのよ・・・それが始まり》


なるほど・・・あの輪廻の部屋は魂をただ留めておく部屋ではなく魔力から守る為の・・・そしてサタンだけならまだしも多くの魂を受け入れるには多くのエネルギーが必要で魔力とマナの衝突時のエネルギーを利用した、と


《他に質問はある?今なら何でも答えちゃうわよ?》


「聞きたい事は山ほどあるけど・・・一番聞きたかった事は聞けたし・・・いや、最後にひとつ聞きたい 」


《なーに?》


「このアネボロスを倒したらどうなる?」


《また言ってる・・・もうアネボロスでいいわ。答えは・・・無理、よ》


「答えになってないような・・・」


《倒した先の事を聞いたって言いたいんでしょ?けどその前提がおかしいの・・・アネボロスは倒す事は出来ない・・・アナタがどれだけ強くなってもね》


「なぜ?」


《ここのアネボロスを倒しても意味がないからよ。アネボロスは私から出て魔力に溶け込んだ・・・倒すって意味なら魔力を無くさないと倒した事にはならないの》


「・・・マジか」


《マジよ。魔力が無くなれば当然マナも無くなる・・・現存する魔族もいきなり死んだりはしないけど体内にある魔力が尽きれば死ぬ事になるでしょうね。まあそれが人間で言う寿命みたいなものかしら》


「魔族の体内にある魔力にはアネボロスはいないのか?」


《いないわ。体内に入ると思考が流れて来るから入らないようにしているの・・・でもさっきのフェンリルのように支配出来そうなら入って来るけどね》


「怖っ!・・・じゃあ魔人は・・・」


《魔人の体内はアネボロスでいっぱいよ。だから魔力が無くなるイコール魔人もいなくなるでしょうね》


何となく分かってきた・・・でもまあ分かったところで無くす術がないのなら仕方ないけど・・・


《・・・ひとつだけ》


「うん?」


《ひとつだけ魔力を全て消し去る方法があるの》


「へぇ・・・それは?」


《私の中に全ての魔力を収める・・・つまり元に戻るのよ・・・元のウロボロスに、ね》


「・・・そんな事が出来るのか?・・・ん?元のウロボロス・・・2人で1人になったら魔力は消えるのか?」


《いいえ・・・それだけじゃ消えないわ》


「なら・・・」


《魔力を全て消し去るには一箇所にまとめて消せばいい・・・つまり消せばいいのよ・・・私ごと、ね──────》

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