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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
791/856

807階 絶望

絶望を知らぬだと?何をバカなことを・・・ワシは絶望の中で生きてきた・・・インキュバスに創造されてから今の今まで絶望そのものの中で生きてきたのだ!其のワシに向かって・・・『絶望を知れ』だと?



ロウニールから魔力が立ち上る


確かに大した魔力だ・・・言うだけはある


だがその程度の魔力でワシに楯突こうなど片腹痛いわ!


彼奴を上回る魔力を放出しその魔力を一点に集中させる


これで彼奴が何をしようが防ぐ術はない・・・ワシを上回る魔力を出さない限りはな


《『絶望を知れ』などと大言を吐く貴様に教えてやろう・・・力が全てを支配する・・・人間も魔族も・・・絶望さえも、な》


そうだ力だ


力さえあれば全て思いのまま・・・力があったからこそインキュバスは魔の王であり、力があったからこそアバドンは絶望であった


ならばその2人を超えた存在であるワシは魔の王であり絶望であるべき存在・・・そう全てを超えた存在『魔帝』であるべきなのだ!


一点に集めた魔力をロウニールに向けて解き放つ


もはや骨も残らぬだろう・・・もう少し遊んでやりたかったが仕方ない・・・残った人間共で遊んでやる


《『魔砲』》


彼奴も同じく魔力を放つ


しかし魔力量はワシの半分位か・・・それで防げると思っているのなら大間違いだ


《バカめ!魔力の量すら分からぬのか!》


《よく言うだろ?量より質って》


量より質?同じ魔力なのに何を言っているんだ?


魔力に違いなどあるはずは・・・


《っ!?・・・くっ!》


ワシの放った魔力が彼奴の放った魔力に押し負ける


どう見てもワシの方が魔力は上・・・それなのに・・・


魔力同士のぶつかり合いは何故か彼奴に軍配が上がる。そして彼奴の魔力は尚も止まらずワシの元へ


何とかそれを躱すが取り戻した冷静さが失われ怒りが再び湧き出てくる


《何故だ!》


意味が分からぬ・・・何故ワシの魔力が押し負ける!?


《教える気はないし知る必要もない・・・お前はただただ絶望しておけ》


《くっ!》


また彼奴が魔力を放つ


さっきはギリギリで躱せたが今回も躱せるとは限らない・・・ならば


《ん?消え・・・》


《魔力のぶつかり合いでワシを上回ったとてワシの速度にはついていけないようだな!》


地面を蹴り背後に回ると爪に魔力を纏わせる


彼奴は背後にいる事に気付いたがもう遅い・・・この爪で顔をズタズタにして・・・


《痛いじゃないか・・・フェンリル》


《っ!?》


完璧だった


魔力を帯びた爪が彼奴の顔面にくい込み、少し力を入れれば皮を剥ぎ肉を切り裂き骨を砕く・・・はずだった


しかし実際は皮一枚切り刻んで爪は止まる


《何故!?》


《さあ、な!》


ロウニールは振り向くと拳をワシの腹に突き立てた。体はくの字に曲がり激痛が背中に突き抜ける


《ぐはっ・・・よ、くも・・・》


《んで、こうだっけ?》


そう言って彼奴はワシの頬に手を添えると思いっきり力を込めた


まるで首から先を置いて吹っ飛んだかのような感覚・・・実際は体ごと吹っ飛ばされ着地すらままならず地面に叩きつけられた



有り得ぬ・・・ワシがここまで一方的にやられるなど有り得ぬ!魔力量はワシの方が断然上・・・そもそも彼奴がワシより優れているところなど皆無なはず・・・それなのに・・・


《さて、そろそろ絶望を知ってくれたか?それともまだ『何故ワシがこんな奴にぃ』とか考えているのか?》


《・・・》


ヤツが来る・・・このままではワシは・・・


《『どうする?どうしよう?』とか悩んでいるか?もしそうならいい兆候だ・・・何やっても敵わない・・・そう思った時こそ『絶望』がやって来る》


《・・・》


《お?まだやる気か?つまりまだ希望があるって事だな?いいぞ全部吐き出せ・・・全てを吐き出して絶望を抱いて死ね》


《・・・人間ごときが・・・・・・・・・》



・・・侮っていないつもりがどこかで侮っていたようだ


『人間ごとき』という言葉が出るのはその証拠・・・


もう侮らぬ・・・決して・・・


目の前にいるのはワシの行く手を阻む最大の障壁にして最強の相手・・・ならばワシもそれ相応の姿で相手せねばなるまい


《・・・へぇ・・・それがお前の希望か・・・フェンリル》


《希望?・・・そうだな・・・貴様にとっての絶望かもしれぬが、な──────》





犬・・・じゃなくて狼か・・・


白い大きな狼に変貌を遂げたフェンリルは大きな口の端を上げてニヤリと笑う


魔族の真の姿ってやつかな?だいぶ人間離れした姿の魔族もいたが獣になるヤツは初めてだ


〘いいぞ・・・全ての希望を摘んでこそその先の絶望に辿り着く・・・あとは我に任せて〙


いや任せんよ


〘・・・〙


ちょくちょく出て来ようとすんな記憶・・・片隅で正座して待ってろ


〘我がいなければ貴様は死んでいた。フェンリルごときに噛み砕かれてな〙


ごときって・・・俺と同じようにサキュバスと同化したフェンリルだぞ?・・・まあ同化とは少し違うけど・・・


〘そうだ、ヤツのは同化とは違う。だからこそ貴様はヤツを圧倒しなければならなかった・・・違うか?〙


そうだけど・・・仕方ないだろ?まだ慣れてないんだ・・・魔力に意志を乗せるってのに



魔力量が劣っていたとしても勝てる方法がある・・・それが『魔力に意志を乗せる』方法だ


以前、記憶野郎ことアバドンに教わったばかりなのにすっかり忘れて負けるところだった・・・俺より魔力が多いヤツなんて早々いないし使う機会があるとは思わなかったからアバドンの記憶と共に忘れていた


〘使う機会がないだと?普段から使っているだろうが〙


俺の思考に入ってくんな


けどそうなんだよな・・・ゲートも念話も結界も魔力を使う能力は全て『魔力に意志を乗せている』事になる


ただ戦闘に使うとなると話は別だ


元々気性の荒い?魔力に対して相手を倒そうとする意志を乗せるのは脚の速い暴れ馬に乗りムチを打つようなものだ


〘どういう意味だ?〙


だから・・・元々速い馬に余計なことしたら速くなるどころか手が付けられなくなって結局ムチを入れずにいれば良かったとなるのがオチって話だよ。魔力は元々攻撃性に富んでいる。そこにあえて攻撃性を加えて相乗効果が得られればいいけど得られなかった場合下手すりゃ使ったこっちがお陀仏だ・・・それくらい分かるだろ?


〘?〙


分かれよ!


なんで俺はこんなもん創造してしまったんだ・・・自分の創造力が今はただただ恨めしい・・・


〘我は感謝しているが、な・・・その創造力に〙


へいへいそうでしょうねそうでしょうね・・・てかんなもんはどうでもいい・・・話を戻すと危険なんだよ!魔力に意志を乗せるのは!


戦闘以外なら意志を乗せても問題ない。むしろ意志を乗せないと駄目なくらいだ


けど戦闘に使う時に乗せると引っ張られる感覚があるんだ・・・制御出来ない程の暴力性・・・いや凶暴性に


〘それを操れてこそであろう?〙


簡単に言うけど・・・怖いんだよ・・・引っ張られたその先に何があるのか・・・もしかしたら本当にお前になっちまうんじゃないかって考えちまうんだ・・・まさかお前それを狙っているのか?


〘それはない・・・だが興味はあるな・・・貴様が身を委ねた時、どんな破壊が待っているかと考えると〙


おい


〘だが望んではいない。制御せよ・・・さすればサキュバスを取り込んだフェンリルとて下すのは造作もない事となろう〙


だから簡単に言うなって


まあ・・・言っていることは分かるけどな



フェンリルは強い


あのベルフェゴールですら圧倒する力を持っている


魔族と魔族が同化ではないにしても一つになったんだ・・・強いはずだ


現に俺は負ける寸前だった


けど・・・



《絶望ごと喰らってやる!ロウニール!!》


《お前にゃ無理だ犬っころ》


《ギャン!》


大きな口を開けて襲い来るフェンリルの頭を掴み地面に勢い良く押し付けた。これが魔力に意志を乗せた力・・・そしてこれが・・・


《『破壊』の力だ》


くっ・・・やはりこの力は危険だ


魔力に意志を乗せると『破壊』の魅力に引っ張られる


けどフェンリルはこの力なしでは倒せない・・・もう少し・・・もう少しだけ保ってくれ・・・


《破壊だと?・・・貴様アバドンにでもなったつもりか!》


《なりたくねえよ、んなもん・・・早く絶望してくれ・・・お前は絶対に俺に勝てない》


《ぐっ!》


地面に押し付けられながら俺を睨みつけるフェンリル


そんな気概はいいから早く諦めろ・・・絶望しろ!


《貴様・・・貴様・・・》


唸るな


もっと痛めつけないとダメか?


ならコイツがベルにやったみたいに四肢をもぎ取って・・・


そうすりゃコイツも・・・


「ロウニール君!」「バカ兄貴!」


ん?ディーンにシーリス?


なんでそんな目で俺を見てんだ?


てかみんなおかしくないか?何をそんなに恐れているんだ?もう脅威となるフェンリルはどこにもいない・・・いるのはただ地面に這い蹲る犬っころだけなのに・・・



あれ?俺なんで・・・コイツを絶望させたかったんだっけ?


別に勝てばいいはずなのに・・・


「ロウニール君!もういい!早くトドメを!」


「バカ兄貴!やっている事はそいつと変わんないだろ!」


トドメ?まだ始まったばかりなのに?


シーリスも何言ってんだよ・・・俺がコイツと変わんないなんて・・・


「それ以上追い詰めるな!早く倒せ!」


「遊ぶなロウ!勝つ時に勝つのがセオリーだろ!」


レースト?ヒューイ?・・・追い詰めたからって何があるって言うんだ?セオリー?そんなもん知らねえよ・・・俺はただ・・・ただ・・・



〘愉しみたいか?ロウニール〙



違う!愉しみたくなんて・・・



〘ならばそのまま頭を押し潰せ・・・それで全てが終わる〙



終わり?もう?



〘なりたいか?我に〙



だからなりたくないって・・・・・・あれ?


俺・・・



〘歓迎するぞロウニール・ローグ・ハーベス・・・共に破壊の限りを尽くそうではないか〙



だから・・・



「ならねえって言ってんだろ!!」



フッと魔力が抜けたような感覚がした


そして周りを見渡すと冷たい視線の数々・・・ああ、やっちまった・・・


「・・・えへ」


「『えへ』じゃねえ!てめえは恐怖の大王か!」


「怖いワン!アレ怖いワン!」


「大丈夫だナル・・・ワンも怖い・・・少しチビった」


ガートンにナルにウェル・・・俺ってそんなにヤバそうな感じに見えてたのか?


気を付けてたはずなのに・・・くそっ・・・


それにしても・・・


「レオン達は何をしようとしているのかな?」


「まさか君を害するなんて考えてないよ」


と、笑いながら慌てて剣を引っ込めるレオン。『タートル』の面々も俺を殺る気マンマンだったみたいで殺気を引っ込め素知らぬ振りをする


「『破壊』のアバドン再来かと思うたぞロウニールよ・・・あまり我らを驚かせるな」


うん、俺も驚いた


まさかこんなに簡単にアバドンしそうになるなんて・・・結果的に創造アバドンが話し掛けてくれなかったら危なかったかも・・・まさかあえて?


《有り得ぬ・・・有り得ぬ・・・有り得ぬ・・・》


俺の下でブツブツと言うフェンリルを見て更に冷静さが戻ってくる


フェンリルは今、俺と同じ状態だ・・・魔力に侵食されかかっている


人間が魔人になるように・・・魔族が魔力に侵食・・・いや、侵蝕されたら・・・



《クッカッカッ・・・これだ・・・これがワシの求めていた力だ・・・》


そんなもん求めるなよ・・・魔帝──────


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