76階 同期会
「サラ・・・サラ?・・・」
おかしい・・・サラさんの反応がない。ケン達はとっくに28階から立ち去り、サラさんは今もその場に立っている・・・けど、声を掛けても応答してくれない・・・なぜ?
今日は午前中の予定が終わったら訓練はないと言われたから夜に集まる『同期会』の準備をしていた
するとサラさんが28階に挑んでいる姿を見かけたので見学していたらあのような事態に・・・ぶっちゃけ僕もケン達の事言えないよな・・・姿を現さないだけ余計タチが悪いかも
いや!僕には何かあったら助けるという大義名分があるし興味本位に覗いてた訳じゃないからセーフ・・・だと思う
それにしてもなんでサラさんは反応しないのだろう・・・聞こえてないのかな?
「サラ?」
〘・・・ハッ!?すみません!少し考え事をしていまして・・・〙
どうやら聞こえてはいたみたいだ。通信道具の不具合かと焦ったよ
「罰はあれで良かったかな?」
〘十分だと思います・・・はい、多分〙
随分と適当だな・・・まあ僕に任せるって言ったからか
〘それであの・・・つかぬ事をお聞きしますが・・・〙
「ん?なんだ?」
〘この通信道具って・・・そちらから見えているのですか?〙
「何が?」
〘その・・・私の姿が・・・〙
「いや?声だけだが?」
まあ実際は通信道具ではなく水晶で見てるけどね。それと目を閉じれば普通に見れるし・・・
〘良かった・・・〙
「見えてると何か問題でも?」
〘いえ!何でもありません!・・・それであの・・・今回の通信は装備の調子を知りたかったのですか?あ、いえ!もちろん特に何もなくてもこうやってお話が出来ればと思うのですが・・・〙
あ、そうだった・・・ジケット達と会っていたら通信出来ないから事前に終わらせようとしてたんだった
多分サラさんは今日の夜にジェファーさんの事を報告するだろうからと思って・・・さすがに僕からその件について切り出したらおかしいし、つい装備の調子を聞いてしまったんだった
「あー、そうだな・・・他に変わりは?」
〘あ、はい!組合で働いてくれる人が見つかりました。現在他の職に就いている為、その引き継ぎが終わり次第働いてくれる事に・・・勝手に決めてしまって宜しかったですか?〙
「もちろんだ。私はあまり表立って動けないから会う事も難しいし・・・サラがいいと思うなら平気だろう」
よし、これで夜は通信来ないだろう。ローグは出れない時もあるって事前に伝えてるけどやっぱり無視するのは気が引けるしね
〘あ・・・もうひとつ聞いてもよろしいですか?〙
「構わない・・・答えられるかは別としてな」
〘はい・・・ローグは・・・魔道具技師なのですか?〙
魔道具・・・技師?
なんだそれ・・・言葉のまま受け取るなら『魔道具を作る人』みたいな?・・・どっかで聞いた事あるような気がするけど・・・
《魔道具技師・・・確か国に数人しかいない能力者ね。学校でも数が少ないからさらっと流しただけだけど・・・何でも道具に能力を付与する人間の事をそう呼ぶらしいわ》
ナイスダンコ!
なるほど・・・つまり渡した物の出処が気になって僕が・・・ローグが作ったのでは?って思ってんだな
さて、どう答えよう・・・事前に特徴を聞いてそれに沿った物を持って来たからそりゃあ作ったと疑われるよな・・・けど作ったって言うと一晩で!?みたいになりそうだし・・・その辺考えてなかったな・・・
〘ローグ?・・・もし答えずらかったら無理に答えなくても・・・〙
「・・・その辺の話はいずれ話す。今は・・・」
〘そ、そうですね!すみません、変なことを聞いて・・・〙
ふう・・・何とか誤魔化せた。なんか問題を先送りにしてるだけのような気もするけど・・・
でも出処不明な装備って気になるよな。魔道具技師か・・・ダンコも詳しくは知らないみたいだし渡した装備がどこから来たのか有耶無耶にしておくのも変だし・・・少し調べてみるか・・・魔道具技師
「他に聞きたいことはないか?ないなら・・・」
〘え!?あっ・・・そうですね・・・特には・・・〙
何かありそうな感じもするけど・・・本人が特にないって言うのならこれで通信を・・・
〘あのっ!・・・迷惑でなければ今夜も・・・〙
「すまないが今夜は少し予定がある。もし何かあるのなら今聞くが?」
〘・・・そうですか・・・いえ、また暇がある時にでもお話します・・・〙
いや、だから今聞くって言ってるのに・・・
通信を終えてサラさんの様子を見ると肩を落としながら28階をとぼとぼと歩いていた・・・なんだったんだ一体・・・
《きっとアナタとお話したかったんじゃないの?アナタじゃなくてローグかな?》
「そう言われても何を話せば・・・」
《何だっていいのよ。今日は何したとか好きな食べ物の話とか・・・通信で繋がってれば何でもね》
何それ新しい拷問か?話す事ないのに通信繋げるって・・・いわゆる時間の無駄ってやつじゃ・・・
《ハア・・・それよりいいの?約束してるのでしょ?》
おっとそうだった!
ジケット達とは夕方冒険者ギルドで待ち合わせ・・・見るとダンジョンに来ていた4人は早々にあがってる
『同期会』か・・・単に同期が集まって飲み食いしようってだけだけど・・・そこにはもちろんペギーちゃんもいるわけで・・・卒業した時はまさか自分がそんな会に呼ばれる身分になるとは思いもしなかったな・・・
《服はどうするの?ローグの格好で行ったらウケるわよきっと》
「アホか!ドン引きされるわ!」
それにペギーちゃんは未だにローグを目の敵にしている節が・・・ギルド長から言われてるはずなのになぜ?
《でも良かったわね。訓練が休みになって》
「うん・・・訓練所でしばらく動けなかったからね・・・誰もいなくなって回復魔法を使ってようやくって感じだったし、とてもじゃないけどその後に食事になんて行く気になれなかったよ」
当然魔物を創ったりする事も出来ず久しぶりに爆睡してしまった。これが続くとダンジョン作りが滞りそうだな
《まっ、でも訓練は続けた方がいいわね》
「ほう、珍しい。ダンジョン作りが止まるかもしれないのに?」
《まあね。あの人間・・・サラの言う事は理にかなってるわ。なるべくマナの消費を少なく戦う・・・ロウはこれから色んな敵と戦うかもしれない・・・その度に大量にマナを消費されたらたまったもんじゃないからね》
「結局それか・・・」
《それにアナタだからいいのよ》
「どういう意味?」
《他の人がサラみたいにマナを使わなくなったら困るじゃない。アナタが弟子になれば他の人間が弟子になることはないでしょ?こちらとしては無駄にマナを消費してくれた方が嬉しいんだし》
なんだか生贄にされてるような気分・・・でもダンコの言う通りかも
僕が少ない消費で戦えたら嬉しいけど、他の冒険者がそれを出来るようになったらダンジョンの稼ぎが減るって事だからね
《で?行かなくていいの?》
「あー!行く行く!・・・えっと・・・服とかどうしよう・・・」
《知らないわよ!さっき言ったようにローグで行けば?『ダンジョンナイトでーす』って自己紹介すれば爆笑間違いなしよ》
「普通に引かれるわ!」
結局どんな服を着て行くか決まらず作る時間もなくなったので普段着のまま冒険者ギルドへ
中に入ると武器などを家に置いて来たのだろう丸腰のジケット達がテーブルで談笑していた
「おう!ロウニール!コッチ来いよ!」
ジケットが大声を出すもんだから注目の的になってしまった・・・冒険者ギルドって場違い感があって居づらいんだよな・・・僕冒険者じゃないし
椅子に座ると何故か僕をまじまじと見つめる4人・・・今はペギーちゃんの仕事が終わるまで待っているみたいだけど・・・なぜ僕を見つめるんだ??
「それにしてもあのロウニールがねぇ・・・」
「実は実力を隠してたとか?・・・んな訳ないか・・・結構な事言われてたもんね」
「だな」
「いや・・・意外と隠してたかもよ?ダンとか相手にしてなかっただけで・・・ねえ?ロウニール」
隠してたって言うより出さなかった・・・が正解かな?マナを使うなって言われてたし・・・使わないで耐えられたのは騎士達みたいに明らかなイジメはなかったからな・・・ただ無視されたりバカにされたりはしてたけど・・・
「そんな事ないよ・・・マナを使えるようになったのは最近なんだ。普通の人より遅かったみたいだね」
「遅過ぎだってえの。もしかしてダブルだからってのもあるのかな?遅かったのって」
「ありえるわね。もし学校の時に使えてたらダンを抜いて村一番の冒険者になれたはずなのにね・・・それが門番って・・・」
「門番も意外と・・・って言ったらあれだけど楽しいよ?ラックとすぐに再会出来たのも門番してたお陰だし・・・」
「ラック」
「あの時はバカ共のせいで変な流れになっちゃったけど・・・ラックはもう居ないんだよね・・・」
「・・・うん・・・」
ここにラックが居れば・・・みんなはきっとそう考えているんだろうな
まだ16歳くらい・・・これからって時に・・・まだまだ色々な話もしたかった・・・
「お待たせ・・・って、何この空気?」
ペギーちゃんが仕事を終えて制服から普段着に着替えて僕達の元に来てあまりの暗い雰囲気にドン引き状態だ
「何でもねえ!行こうぜ・・・っつっても隣の店だけどな」
ジケットが暗い雰囲気を打ち消すようにわざと明るく振る舞い立ち上がる。みんなもそれに合わせて暗い顔をしまい込み、無理やり笑顔を作って立ち上がった
ラックだってしんみりしている僕達より楽しそうにしている僕達を見ている方が良いはず・・・僕も立ち上がるとみんなと一緒に隣のダンジョン亭に向かった
「ひょー、混んでんな。店は他にもあるのに」
「みんな行き慣れた場所が良いんでしょ。ほら、そこ空いてるよ」
店はいつものように大盛況。冒険者もかなり増えてきてそれと同時にダンジョン亭も客が途切れる事がないくらい繁盛していた
よく見ると冒険者以外の客がいないような・・・前はオッサンAとか居たのにな
「今日は月一開催予定の『同期会』一発目だ!気軽に飲んで食ってはしゃごうぜ!」
月一って・・・決まったんだ・・・冗談かと思ってた
サラさんに呼び出されて偶然ジケット達と会って突然ジケットが提案してきた『同期会』
最初は週一でって言ってたけどハーニアが多い!って文句を言って月一にしようかって話してたんだよな
「てかペギーが冒険者ギルドの受付やってるとはね・・・ロウニールの門番より驚いたぜ」
「まあね・・・色々あって・・・ジケット達は元のダンジョンはもういいの?ここを拠点に?」
「ああ、家もあるし稼ぎはここの方が良いくらいだ。それになんと言ってもゲート・・・ありゃあ知れば他のダンジョン行けなくなるぜ?」
うんうん、好きな階に行けるってかなり利点だよね。一度経験すると10階単位じゃ面倒って感じちゃう
「魔物の沸きも早いよね。同じ所で狩り出来るのはデカいわ」
スラミ・・・頑張ってるな・・・
「うむ」
マグは無口だ・・・ほとんど二言三言しか言わない・・・パーティーとして意思疎通ガ出来るのだろうか・・・
「噂に聞くと簡易ゲートって便利アイテムもあるらしいし・・・私はそれよりダンジョンナイトって存在が気になるけどねぇ」
うっ・・・あまり興味持たないで・・・
エリンからダンジョンナイトって言葉が出るとペギーちゃんの眉間にシワが寄る。やっぱりまだ・・・
「あーね。組合長って話だけどほとんど出て来ないんだろ?ピンチの冒険者を助けたり、組合長してたり・・・本当謎の人物だよな」
「仮面にマントだっけ?そこまで正体隠す理由って何だろうね」
「うむ」
「案外身近な人だったりするかもよ?仮面で顔を隠す理由なんてそうないしね。結構初期から居たみたいだから外から来た冒険者ってのもねぇ・・・」
エリン・・・あまりそこはほじくらないで・・・
「どうだか・・・ただの怪しい人じゃない?勝手にダンジョンに入ったりしてたし」
ナイスペギーちゃん・・・いや、ナイスなのか?
「勝手に・・・もしかしてダンジョンに住んでたり・・・」
「うぇ・・・それってもう魔物じゃん」
「魔物」
「その類の線もあるよね。あとは唯一ダンジョンナイトと連絡が取れるサラ・セームン説・・・」
「ほう・・・面白い説だな。詳しく聞かせてもらおうか」
「え・・・サラさん!?」「サ・・・師匠!」
後ろを見るとサラさんが・・・いきなりだったので思わず『サラ』って呼び捨てにしそうになった・・・ちゃんと切り替えないと・・・僕はロウニール僕はロウニール・・・
「師匠?」
「あ、言ってなかったっけ?僕・・・サラさ・・・師匠に教わってて・・・」
「マジかよ!羨ましい!」
「Bランクの・・・『風鳴り』のサラさんに??」
「ほう」
「なる・・・だからロウニールの事詳しく聞いてきたのね」
「ロウニール君が・・・サラさんの弟子?」
おお・・・さすがサラさん。ジケット達もサラさんの事知ってたみたいだな。なんか弟子として誇らしい気分
「フッ・・・ダンジョンナイト疑惑の私から弟子の同期にプレゼントだ。今日の食事代は私がもとう・・・好きなだけ飲み食いするといい」
「ヤッター!サラさん最高!」
「ありがとうございます!サラさん!」
「感謝」
「これでダンジョンナイト疑惑も晴れたわね」
「エリンなんでよ・・・でもいいのかな?」
「構わんよペギー。じゃあ楽しんでくれ。それとロウニール、明日の朝もギルドに来てくれ」
そう言ってサラさんは僕に袋を渡して来た。中を見ると100ゴールド金貨が何枚も・・・サラさん・・・渡すにしても多過ぎです・・・
その後はタダになったと喜んだジケット達は食べ切れないほど注文し、初めて飲むお酒を浴びるほど飲んだ
僕は意外とお酒が強いらしい・・・問題は・・・
《ロウ◎<*&-■ゝ$$》
お酒でダンコがバグる事だ──────




