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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
788/856

804階 希望

少し時は遡りアケーナダンジョン奥深く



ロウニールは仄暗いダンジョンの奥底を掘りながら上がっていた


魔力を放ち空いた穴を上りまた魔力を放ち上る・・・それを繰り返していたのだが一向にダンジョン外にゲートを開ける気配はなかった


「チッ・・・一体どこまで落ちたんだ?それに結界も壊せてないし・・・結界に穴が開けばゲートは使えるはず・・・使えないって事は結界まで届いてないって事だよな?・・・ウロボロスの野郎・・・何が200階だ。かれこれ500階分は上がってるぞ」


落とされてから延々と上り続けるが終わりが見えず苛立っていた


「ハア・・・せめて上がどうなっているか分かれば・・・ん?待てよ・・・」


何かに気付きおもむろに壁に触ると目を閉じる・・・だが特に何も起きることなく手を離し目を開けた


「なんでだ?そういう決まりなのか?」


ロウニールがやろうとしていたのはダンジョンの乗っ取り


フェンリルがダンジョンを操っているのを見て自分と同じようにサキュバスを呑み込みこのダンジョンを支配していると考え、その支配を上書きしてやろうと考えた。だが思うようにいかず頭を悩ませる


「既に支配されているダンジョンは奪えないのか?フェンリルの腹の中にあるサキュバスの核を手に入れないとダメとか?それとも・・・俺よりもフェンリルの支配力の方が強いとか・・・」


乗っ取りなどやった事がないだけに上手くいかないと色々考えてしまう


「国境付近をダンジョン化出来たからどこでも出来ると思ったけど・・・既に他の者がダンジョン化しているのは奪えない?・・・何となくだけど奪えそうな気はするのに・・・」


もしこのダンジョンがロウニールの支配下になればダンジョンを隅々まで見る事が出来る。そうなれば結界がどこに張られているかも分かるし今どこにいるのかも分かるかもしれない・・・そう考えて実行に移すも失敗に終わった


何かがおかしい・・・違和感を感じるロウニールだったがその違和感の正体は考えても分からず結局また同じ事を繰り返すしかないと上を見た・・・その時


「っ!?なんだ!?」


見上げた瞬間、額に冷たい感触が・・・咄嗟に腕で拭おうとするが脳裏にある光景が浮かび動きを止める


「・・・これは・・・」


〘マスター〙〘マスター〙


「スラミ?それにシャドウセンジュも・・・」


頭に響くふたつの声に反応し辺りを見回すもその姿は見えなかった


「何処にいる?それに今頭の中に浮かんだものは何だ?フェンリルとそれにお前達2人が・・・もしかして今のがフェンリルの能力『幻想』?」


〘・・・違います。全て真実であり幻ではありません〙


「だとしたらお前・・・」


〘気付いて下さい。マスターは今現実と虚構の狭間にいます。どちらが真実か・・・どちらが幻か・・・私達が出来るのはここまでです・・・あとはマスターが・・・〙


「俺が?何をすればいいんだ?てかあの浮かんだものが事実としたらお前達は・・・」


〘 ・・・マスター・・・いつまでもお傍に・・・〙


2人の声が重なる


だがやはり姿は見えないまま・・・だとしたら今のスラミ達の声が虚構?


そうだよな・・・どちらが真実でどちらが幻なのか言えないなんておかしい・・・真実なら言えばいいだけ・・・言えない理由なんて・・・でも・・・


「・・・どうしても嘘には思えない・・・スラミもシャドウセンジュも俺に嘘なんてつかない・・・それがたとえ幻であっても。なら・・・・・・・・・あの声は真実だ。そして幻は・・・・・・・・・俺自身だ」


言葉を終えた瞬間に景色が変わる


この景色は・・・落ちた時の部屋?


「・・・なるほど・・・そういう事か・・・」


フェンリルに落とされてこの部屋に来たのは事実・・・そしてこの部屋が結界に覆われているのもまた事実・・・だが上に行ってたのは幻の俺?と言うか上に行く幻を見せられていた?・・・とにかく俺は落とされてから1歩も動いてない状態だったわけだ


マジか・・・あれが幻なんてまったく・・・


そうか・・・もしスラミ達から言葉でこれは幻だって言われても信じなかっただろう・・・だからあえてどちらか言えないと・・・スラミ達は自分達を信じてくれると俺を信じた、か・・・


「そうだろ?・・・スラミ・・・シャドウセンジュ」


頬に付いた微かな粘り気・・・上を見上げると天井に染みが付いていた。おそらくスラミ達は上の方から俺に伝えるべく下りて来たんだ・・・あの光景・・・フェンリルに魔核を奪われた後に


「・・・ムカつくな・・・こんなにムカついたのは久しぶりだ・・・」


右手に魔力が溜まっていく・・・このダンジョンに溜まっていた魔力が全て、根こそぎ、余すことなく・・・


「・・・すぐにそこに送ってやる・・・お前達をそこに送り込んだフェンリルを・・・必ず・・・だから少しだけ・・・待ってろ!!」


溜めた魔力を解き放つ


今は見えない空に向けて


その魔力が結界を破った事はすぐに分かった


「チッ・・・好き勝手やってくれているみたいだな・・・」


閉ざされていた情報が一斉に流れ込んで来る。街の住民は全員外か・・・なんでだ?っ!?街中に魔物?・・・そうか・・・ダンジョンの中にいないと思ったらあの野郎ダンジョンブレイクを起こしやがったな?


それで街の住民を外に避難させたのか・・・けど街を取り囲むように外壁の外側にまた壁・・・しかもかなり高い壁・・・この壁を作ったのは多分フェンリルだな。住民達を逃がさないように


んで?街中で戦っているのは・・・レオンとニーニャ達!?なぜ敵対してんだ?


・・・・・・・・・ああ、そういう事か・・・だがまだ・・・それなら・・・



それと・・・ダンジョン前にはヒューイと・・・ジットさん?・・・クソッ・・・ジットさんまで・・・しかも・・・



・・・フェンリルは教会か・・・ベルフェゴールが相手しているが・・・うん?シーリス?・・・それにディーンに・・・なんでスウまで!?・・・よく分からないが不味いな・・・フェンリルも気になるがあの男・・・アレも魔人か・・・うーん・・・



「よし、みんなに任せよう」


各場所で俺が相手してたら犠牲が出る・・・なら俺の相手はフェンリルに絞り他の場所はそれぞれに頑張ってもらおう


だけどこのままだと危ないな・・・ふむ


「『ゲート』」


おもむろにゲートを開きその中に手を突っ込んだ


そして・・・


《ちょ、ちょっと!引っ張らないでよ!痛いじゃない!!》


「活躍の時間だ・・・ウロボロス」


《はあ!?何よ活躍の時間って・・・》


「行けば分かる・・・頼りにしてるぞ・・・女神様」


1箇所1箇所長居は出来ないがウロボロスなら普通の傷程度なら一瞬で治せるだろう・・・ジットさんの所は回復すればいけるはずだ。レオンの所は・・・微妙だがレオンに賭けるしかないな


ディーンとシーリスとスウは・・・まあ同じ場所だし危なければ手を貸せばいい・・・うん。んじゃまあ・・・行くとするか!──────





──────時は戻り現在



ウロボロスを連れて各場所を回り教会に辿り着いた時には既にゼガーとミケは息絶えており、ベルフェゴールも瀕死の状態だった


それにあの魔人・・・近くで見るとやはり似ている・・・でも誰に似ているか思い出せない・・・うーん・・・


《何を見ている?教えてくれるのではなかったのか?どうやってワシの『幻想』から抜け出したかを》


「うん?ああ・・・ちょっとあの魔人が知り合いに似ててな」


《知り合い?他人の空似だろう・・・それとも貴様は人間のくせに1000年も生きているとでも言うのか?》


「1000年?」


《あの失敗作は元勇者・・・それも1000年前のな》


「っ!」


元勇者で1000年前って言ったら・・・そうか・・・そういう事か・・・


「・・・アーク・・・」


《?それがあの失敗作の名前なのか?・・・なぜ貴様が知っている?・・・ああ、そうか・・・あの女狐に聞いたか・・・》


女狐って・・・女かどうかも怪しいから狐で充分だ。・・・って、そんな事を言っている場合じゃない


アーク・・・ヒースの兄であり勇者だった人物・・・何の為にアバドンを騙りアークを陥れたのか謎だったが魔人にする為だったのか・・・


《まあ知ってようが知るまいがどうでもいい事だ。アレが成功していたら面白い存在になっていたはずだが失敗に終わったからな。それよりも・・・》


魔人となった勇者アーク・・・果たしてあの3人で倒せるのか?・・・少し不安だがいざとなったらウロボロスを投入しよう、うん


それにしてもフェンリルのヤツだいぶ気になっているみたいだな。余程自分の能力に自信があったとみえる。・・・まあ確かにあの幻は強烈だった・・・けど


「どうやって幻から抜け出せたかだったな・・・答えは簡単だ。お前と違って俺には頼れる仲間がいる・・・ただそれだけだ」


《・・・不可能だ。入口に配置した失敗作は倒せたとしてもその後で入り組んだダンジョンを下りなくてはならない・・・181階に仕掛けていたゲートは封鎖しておいたから最下層の200階まで100階分だぞ?・・・数時間・・・いや最短で行けたとしても一日はゆうにかかるはずだ!》


「助けてくれた仲間が180階に残っていれば可能だろ?」


《・・・なに?》


「そう言えば知ってるか?スライムって『ダンジョンクリーナー』と呼ばれている程の綺麗好きなんだ」


《・・・意味の分からない事を・・・ダンジョンクリーナー?》


「ダンジョンを綺麗にしてくれる『ダンジョンクリーナー』スライム・・・どこかで会ってないか?俺の仲間のスライムと」


《・・・バカな・・・あのスライムだったとしたら核は確実に抜き去り破壊したはず・・・核無しで動ける魔物など・・・存在しない!それに少しくらい動けたとしても到底180階から貴様のいた最下層まで到達出来るとは思えん!》


「そうだな・・・多分無理だろう・・・核無しで動けたとしても数秒が限度か?普通なら」


《・・・あのスライムが普通ではなく核無しで動けたと?》


「普通のスライムだよ・・・どこにでもいる・・・けど俺が一番最初に創ったスライムだ。そしてそのスライムが二番目に創ったシャドウの力を借りて俺の元まで辿り着き俺を目覚めさせた」


《シャドウ・・・そう言えばそんなのもいたな・・・だがシャドウなどモノマネが得意なだけの下等な魔物から力を借りたとて・・・》


「モノマネが得意だからこそ出来ることがある。シャドウは最期の力を振り絞り目の前のスライムと同じ個体に変化した・・・そして合わさり二体は一体となり真っ直ぐに俺を目指した」


《なに?真っ直ぐにだと?》


「ダンジョンを掃除する際、他の階に行く時にわざわざゲートや階段を通ると思うか?」


《・・・まさか!》


「スライムはダンジョンクリーナー・・・ダンジョンの掃除を任されている。だから掃除をするのに必要な能力は与えるべきだろ?例えばダンジョンの壁や床に溶け込み下の階や上の階に自由に行き来出来る能力・・・とかな」


《・・・そうか・・・核を失った魔物二体が同化し延命・・・そしてスライムの能力を使い地面に溶け込み・・・貴様に辿り着いた・・・か》


「御明答・・・本当ギリギリだったけどな・・・スライムとシャドウは・・・スラミとシャドウセンジュは命を懸け俺を幻から解き放ってくれた・・・んでここにいるって訳だ・・・2人の仇を取る為に、な」


2人がいなければ俺はまだ延々とダンジョンを掘り続けていただろう・・・途中で不振な点はいくつかあった・・・どんなに攻撃しても結界には届かないしダンジョンを上書きする事も出来なかった・・・けどあまりにも現実と同じで幻などとは思えなかった・・・


気を付けなければ・・・もう2人はいないのだから・・・


《クッカッカッ・・・なるほどな・・・シャドウの能力で同化を早め、スライムの能力を使い最短で貴様の元に行き『幻想』を解いたか・・・ワシでさえ同化にはかなりの時間を要したのにまさか真似をして同化を早めるとは・・・》


「?・・・『ワシでさえ』?」


《分からぬか?今のワシは貴様と同じようにサキュバスを呑み込み力を手に入れた・・・サキュバスと同化したのだ!魔族であるワシが、だ!》


「・・・」


《人間であった貴様が魔族であるサキュバスと同化しインキュバスとアバドンを倒す程の力を得られたのだ・・・魔族であるワシが魔族であるサキュバスと同化したら一体どれくらいの強さになると思う?》


「・・・さあな」


《クッカッカッ・・・元が強ければ強いほど同化すれば強くなるのは道理・・・人間だった貴様が魔族であるワシより強いはずはない。故に貴様と同じようにサキュバスと同化したワシは・・・》


「俺より強い・・・か」


《そうだ!貴様など恐るに足らず!ワシはインキュバスやアバドン・・・そしてそれらを倒した貴様すら超越した存在となったのだ!》


「・・・ならなんで俺をダンジョンに封じようとしたんだ?その超越した存在ならあの場で俺を殺した方が後々楽だったしわざわざご丁寧に結界や幻を見せるトラップなんて用意せずに済んだんじゃないのか?」


《・・・ワシは多くの人間を見てきた。その中には目を疑うような人間もいた・・・格上の相手に無謀に挑み勝利する人間もいればその逆・・・格下の相手に敗北する人間もいた。不安定と言えってしまえばそれまでだが何故そのような事が起こるか興味が湧いたのだ。そして調べている内に何故そのような事が起こるか見当がついた・・・人間は感情によってその実力が上下しているのでは?とな》


「そんなの当たり前じゃないか」


《当たり前ではない。少なくとも魔族にとっては、な》


そうなのか?・・・確かに考えてみれば魔族や魔物は感情に左右されてはいないか・・・


「で?それが俺を罠に嵌める理由にはならないと思うが?」


《分からないか?実力が上下する人間を相手に計画を立てたとしても失敗する可能性がつきまとう・・・それは力を読みにくいからだ。ならどうすればいいと思う?簡単だ・・・上下するならその『上』がどれ程のものか知ればいい》


「・・・で?」


《分からないか?人間はどんな時に力を発揮する?》


んなもん人によって違うだろ・・・と言いたいが何となくフェンリルの言いたいことは分かった


「希望が残されている時・・・絶望の一歩手前か」


最大限・・・いや、実力以上の力を発揮させるには大前提で普通では勝つのが困難な相手が必要だ。普通に戦って勝ったら実力以上は引き出せないからな


んで、勝つのが困難な相手を前に実力以上を引き出させるには・・・絶望させてはダメだ。絶望させると実力以下の力しか発揮出来ないからな。つまり絶望的な状況でも希望が見いだせる状況・・・それが実力以上の力を発揮させる状況でありフェンリルが今回作り上げた状況だ


《その通りだ。貴様という人間にとっての『希望』が生きている事により人間は必死になれる・・・貴様が死ねば『絶望』してしまい実力以下しか力は出せなかっただろう。まあこれだけ見れれば充分だ・・・ここを終わらせた後でゆっくりと計画を練り大陸を統べる準備をするとしよう》


「・・・好き勝手言ってくれる・・・まあいい・・・柄じゃないけどその『希望』ってのになってやる・・・お前を倒して、な──────」

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