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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
785/856

803階 ロウニール・ローグ・ハーベス

ダンジョン前



腰が・・・抜けた


最初は黒い柱に見えたがこりゃ柱なんかじゃねえ・・・黒いマナ?・・・いや魔力?


ダンジョンから発せられるその魔力は天まで届く勢い・・・一体何が起きているのか分からねえがとにかくアレに触れたら人なんて一瞬で消し飛んじまうだろうな


その黒い柱のように見えた魔力も次第に細くなりやがて消えていく


「何だったんだ?一体・・・ん?あれ?」


どういう訳か不思議と体の痛みがいつの間にか消えていた


気持ち的なものじゃない・・・まるでジットに攻撃を食らったのが幻だったような・・・


まさかまたフェンリルに?・・・けど・・・


「これが幻って言うならそれはそれで構わねえ・・・痛みも消えて満足に動けるんだ・・・今度こそ決着をつけてやる!ジット!」


これが幻と言うのならどこからどこまでか幻なのか・・・でも関係ねえ・・・幻でも夢の中でも・・・俺はお前を超えてみせる!──────






教会への道



あの黒い柱は消えてなくなった


何だったのか不明だが黒い柱が消えた後、それが関係しているのか分からないが変化が起きる



瀕死だったニーニャ・・・そのニーニャがまるで何事もなかったようにいきなり起き上がり辺りをキョロキョロし始めたのだ


《・・・まさか・・・早過ぎる!・・・ぐっ!》


消えてしまった黒い柱の方角を見てレオン兄が叫びいきなり膝をつく


《しかも余計な事を・・・今更そんな事をしても何も変わらないと言うのに・・・》


独り言?・・・いや誰かに向けて言っている・・・一体誰に?


「隙ありぃ!」


《そんなものはないよニーニャ》


少し前まで動揺していたレオン兄は軽くニーニャの攻撃を受け流す・・・レオン兄は隙などなかったと言うけれど・・・確かに隙はあった


そうだ・・・レオン兄だって魔人になったとはいえずっと隙がないわけじゃない


「・・・ナル・・・あの3人との連携は無理だけど隙を見て攻撃する事は出来るはず・・・その隙を見落とさないよう観察するんだ・・・そして隙を見つけたら・・・」


「ワフッ!」


ナルは大丈夫だろう・・・隙を見つけたら躊躇無くレオン兄を・・・


でもワイは出来るのか?


あのレオン兄に対して



・・・


迷いは死に直結する。それはダンジョンでイヤと言うほど経験した


でもワイは生き残っている・・・つまりそういう事だ



「レオン兄・・・思い出話に花を咲かせたかったが過去は振り返らず未来を見ることにしたよ。・・・レオン兄はワイの手で・・・殺す──────」





教会前




《・・・今世は終了だと?》


《ええ、終わりです》


四肢を失いながらも余裕の表情を浮かべるベルフェゴールを見て怒りを露わにするフェンリル


しかしふとある事に気付くと冷静さを取り戻し口の端を上げニヤリと笑う


《そうか・・・あの方向・・・アレはヤツの仕業か。つまり貴様はヤツが来ると思っているのだな?まあ若干早いが来るのは想定内だ。てっきり貴様がヤツの元に向かうと思っていたからその辺は予想を外したが・・・んん?》


ベルフェゴールを見ながら呟いているとフェンリルはある事に気付く


《・・・ベルフェゴール・・・貴様なぜここにいる?》


《?痴呆症ですか?フェンリル》


《違うそういう意味ではない。インキュバスに対して一二を争う忠誠心を持つ魔族である貴様の事だ・・・ヤツに対してもそれなりの忠誠心を持っているはず・・・であるならばここにいるのはおかしい・・・この場所ではなくヤツがいる場所に我先にと行くはずだ。なのにここにいるということは・・・ヤツに命令されたかそれとも命令されていたか、だ》


《・・・》


《ヤツが貴様に命令する暇などなかった・・・となると命令されていた・・・『ワシの元へ行け』ではない・・・誰かと共に行動せよと命じられていた・・・そうか・・・そういう事か・・・》


《・・・》


《特定の誰かを『守れ』と命じられていたのだろう?忠誠心の高い貴様の事だ・・・ヤツを助けるよりもその命令に従った・・・だから貴様はここにいる・・・さて・・・特定の誰かとは誰の事だろう・・・なあ?ベルフェゴール》


《・・・》


下卑た笑いを見せるフェンリルに対し無言を貫くベルフェゴール


そのベルフェゴールの様子が自らの考えが合っていると確信させる


《クッカッカッ・・・そう言えばベルフェゴール・・・貴様常にあの人間の女と共に行動していたな?》


フェンリルの目に映るはスウ・・・それに気付いたベルフェゴールは眉間に皺を寄せる


《さてどうしてくれようか・・・ヤツを待つのも一興だが・・・ワシの提案を断った貴様の顔が歪むのを見るのもまた一興・・・》


《フェンリル!ワタクシとの勝負はまだ着いていない!狙うならワタクシを・・・》


《クッカッカッ!四肢を失い地面を這う貴様が言うに事欠いて『勝負はまだ着いていない』だと?ならば勝負の続きをしよう・・・貴様があの人間を守れるか否か・・・勝負しようじゃないか》


《フェンリル!!》


フェンリルの指の先がスウを捉える


スウは魔人に集中しておりその事に気付いてはいない



このままではスウは


主の命令は


守る事が出来ない



ベルフェゴールは己の中にある全魔力を喉の奥に集中させた


両手両足が無くとも口がある


ベルフェゴールはフェンリルに向けて口を開くと魔力を放つ



人間を探究し、人間に溶け込もうと使い始めた魔法・・・ただの真似事だったはずがいつの間にか魅入られ研究に研究を重ねてきたはずだったが追い込まれて放ったものは何の工夫もないただの魔力の塊だった


自らのポリシーをかなぐり捨て放った魔力・・・だがフェンリルはそれを嘲笑うかのように無視しスウに向けて指先から魔力を放った



「陛下!!」


ようやく不穏な空気を察したディーンが魔人の剣を掻い潜りスウに手を伸ばしながら叫ぶ


「スウ!!」


それと同時にシーリスも気付き狙われているスウの前に立とうと走り出した


「・・・やってくれる・・・」


スウ自身もこれから何が起こるか察し何をしても間に合わないと悟る



そして・・・スウは光に包まれた



「・・・陛・・・下・・・」


「そんな・・・」


爆風で巻き起こった土煙の中、2人は間に合わなかった事に絶望し膝を落とす



《クッカッカッ・・・貴様の一撃はこの程度か?ベルフェゴール》


土煙の奥からフェンリルの声が聞こえる


そして晴れて来た土煙の隙間から見えたのは無傷のフェンリルの姿だった



そして


《これは幻ではない・・・現実だ・・・しかと受け入れよ・・・貴様は守れなかったのだ!》


フェンリルは高笑い、ベルフェゴールに見せつけるように手を向ける・・・頭部を失った女性の姿に


《クッ・・・クッカッカッ!見てみろベルフェゴール!貴様が守ろうとしていた人間が・・・人間が?・・・》


何かに気付くフェンリル。その女性を見ると撃ち抜く前と撃ち抜いた後では姿が変わっていた


誰かが身代わりに?


そんな考えが過ぎるがフェンリルは記憶を遡ってもその姿の人間がいた記憶はなく混乱する


《・・・その登場の仕方は心臓に悪うございます》


混乱するフェンリルとは打って変わって冷静さを取り戻したベルフェゴールが静かに目を閉じ呟いた


それを聞いたフェンリルが一度ベルフェゴールに振り返るとすぐに女性の方に視線を戻す。そして目を細め見つめていると女性の背後から男がひょこっと体を覗かせ苦笑する



「いやぁ・・・咄嗟だったからつい・・・」


悪びれることなく男がそう言うと女性の首からメキメキと音が鳴り頭部が生えてきた


《何すんのよ!頭おかしいんじゃないの!?》


「・・・ナイスタンカー」


《誰がタンカーよ!》



まるで日常のような掛け合い


それがこの場を支配していたフェンリルの逆鱗に触れる


《貴様まで何をしに来た!・・・ウロボロス!!》


《呼び捨て?・・・まあいいけど。何しに来たって拉致られたのよ・・・見れば分かるでしょ?》


《・・・そっち側についたか・・・》


《話通じてる?拉致られたって言ったの!それに私はどっち側でもないわ・・・常に中立で楽しむのがゴブッ!》


頭が首にめり込むほどの一撃を受けウロボロスはセリフを強制的に止められた。すぐに殴られた頭頂部を押さえながら殴った張本人を睨みつける


《痛いじゃない!》


「くっちゃべってないでやるべき事をやれ・・・埋めるぞ?」


《・・・》


抗議しようとするがその言葉を飲み込みウロボロスはトボトボとその場から離れた


《何をするつもりだ?そもそも貴様はどうやって・・・》


「シーリス、スウ、ディーン・・・そっちは任せていいか?」


《・・・》


「はいはい」「助かった・・・こっちは任せよ」「・・・はい」


男はフェンリルを無視し3人に話し掛けると3人の相手である魔人を見つめて首を傾げる


「任せたものの見た事があるな・・・いや他人の空似?」


「どうやら過去の勇者のようだ。その勇者を魔人に変えたとか・・・」


男の疑問にスウが答えると男は納得がいったように頷く


「過去の勇者・・・なるほどヒースの兄か・・・」


「ヒース?」


「勇者の弟だよ・・・兄の名前はアーク・・・正真正銘魔王を倒した勇者だって話だ。けど・・・」


「けど?」


「そこに勇者アークの魂はない。ただの抜け殻が魔力で動いているだけ・・・だからいけるよな?『至高の騎士』」


「無論」


ディーンが覚悟を決めた表情で言葉少なめに答えると男は満足気に笑みを浮かべ歩き出す


そして男を睨みつけるフェンリルの横を通り過ぎると倒れ顔をだけ上げるベルフェゴールの前で膝をついた


「大丈夫・・・のようには見えないな。すまない遅くなった」


《とんでも御座いません。ワタクシの方こそ守れずに申し訳・・・》


「いや充分だ。あとは俺に任せて休んでおけ・・・ウロボロス」


《・・・ハイハイ・・・まったく・・・人を何だと思っているのよ・・・》


深いため息をつきながらもウロボロスはベルフェゴールに近付き体の一部に手を当てた。すると欠損した部位から腕が、足が生え始め一瞬にして元通りとなる


「残りも頼む・・・まだいるから」


《・・・魔力はギリギリよ?》


「大丈夫・・・もう必要ない」


男は・・・ロウニール・ローグ・ハーベスはそう言うと立ち上がりようやく無視し続けたフェンリルを見据える


「そんな髪の色だったか?」


《・・・髪の色は貴様と同じ位置に立った証拠だ・・・それよりも随分と早かったではないか・・・ダンジョンを守らせていた失敗作はそれなりの魔人だったはず・・・それに人間の足ではたとえ魔人を倒したとしてもあそこまで到達するにはそれなりの時間が掛かったはずだ・・・どうやって抜け出した?・・・ワシの幻から》


「言ってる事はよく分からないが最後の質問なら答えてやるよ。どうやって俺が幻から抜け出せたかを、な──────」

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