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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
78/856

75階 ゴリラVSゴリラ

服にマナを流すと溢れる力を感じ取れる


丸太のように太い腕のビッグアームを前にしても物怖じしないくらい強い力・・・だが実際に受け止められるかは話は別・・・最初は慎重にいくとしよう


私が臨戦態勢となってもまだ私を敵と認識していないのかコチラをチラッとは見たがすぐに歩き出す・・・私に背を向けて


「なるほど・・・徘徊するもの決定だな。それにしても背を向けるのは失礼だろう」


地面に落ちていた小石を拾いビッグアームに投げつける


コツンと音がしてビッグアームはその太い腕を上げて小石が当たった部分を擦ると先程とは違う鬼の形相で振り向いた


歯を剥き出しにしマナなのか煙なのか口から溢れ出ている・・・唸り声を上げようやく私を敵と認識したのか真っ直ぐ私を睨みつけた


「凄い迫力だ。ソロだと私でも全力で戦わねば危うい・・・それくらいの強さがあっただろう。少し前の私なら、な」


初めて戦うのだがどういう攻撃手段が?やはりあの太い腕を振り回して・・・


「!?」


何を思ったかまだ間合いでもないのに両腕を真上に上げる


威嚇のつもりかと思ったがビッグアームはそのまま腕を振り下ろし地面を叩いた


「くっ!」


地面が揺れる


そのせいでバランスを崩している間にビッグアームは叩いた地面を掴み腕の力でこちらに飛んで来る


「訂正する・・・前の私では無理だったかも知れないな」


形相もさることながらその体躯の迫力に押され一瞬体が硬直してしまった


強い・・・徘徊するものに相応しい強さ


見る者に恐怖を与えるが何もしなければ通り過ぎる恐怖の存在


見逃されるという屈辱に耐え切れず攻撃してしまった冒険者を容赦なく粉砕するもの


「ハッ!」


向かい来るビッグアームに対して蹴りを放つと宙に浮いていたビッグアームを蹴りの衝撃で元いた場所辺りまで押し戻す事に成功・・・ビッグアームは何が起きたのか理解出来ずといった顔か・・・奇遇だな・・・私もだ


宙に浮いていたとはいえかなりの重量であるはずのビッグアームが細い(決して太くはない)人の足で蹴られ吹き飛ぶ・・・私も止めるくらいのつもりだがまさかあそこまで吹き飛ぶとは・・・


「力比べでもしたかったが手の大きさが違い過ぎるのでな・・・それにリーチも違うから蹴りでないとやられてしまう・・・その辺は勘弁して欲しい」


ガップリ手を組んで力比べ・・・それが出来るほど私の手は大きくない


片手で私の胴体を掴めるほどの大きさ・・・さすがにアレとは組めないな


「グルルル・・・」


喉を鳴らしながらなぜ自分が吹き飛ばされたか考えてるって感じな。魔物は強くなれば強くなるほど知能も発達するみたいで闇雲にかかって来なくなる。ただ考える事が時にはマイナスに働くって事までは理解出来ないようだ


相手の能力が分からないから考える・・・それは普通の事かも知れないが実際は分からないなら警戒はすれど考えてはダメだ。考えて分かるならそれに越したことはないが、たった一回やり合っただけで理解出来るほど知識も経験もないなら尚更・・・だからビッグアーム・・・お前は警戒しながら攻めて来る・・・が、正解だったのに・・・


「考え過ぎだ。お前の中に答えはない」


服に身体能力を3倍に強化し尚且つ私が武闘家である事など知る由もないだろう。それなのに考えても答えなど出るはずもない


考え悩む事により隙が生まれる・・・私はその隙を利用して・・・


「ガッ!?」


「お前の背後をつく・・・魔技『流波』」


一瞬の隙をつき、『瞬歩』でビッグアームの背後に回ると手のひらを背中に当てて溜めたマナを流し込む


私が拳に溜めたマナは私にとってはエネルギーとなるマナも魔物にとっては劇薬に近い・・・それを流し込まれたビッグアームは悲鳴に近い叫びを上げ両手を地面についた


「これでも死なないとは・・・頑丈だな」


「サラ姐さん!大丈夫ッスか!?」


ケン!?


私が一瞬ビッグアームから目を逸らしケンに向けたのが悪かった


ビッグアームはその気配を背後から察知し、残りの力を振り絞り腰を捻り腕を振り回す


この距離では躱す事は不可能・・・ならば・・・


右腕と両足にマナを・・・右腕と右足で振り回す腕を受け止め、左足で踏ん張る


「ぐっ!・・・」


「あっ!・・・え?受け止めた?」


衝撃はあるが痛みはない・・・ケンのせいでえらい目にあったがそのお陰で服の性能は確かめる事が出来たな・・・それにケンのせいでと言ったが気を取られたのは私のミス・・・まだまだか


「色々と試せた・・・感謝する・・・風牙」


最後は一つ開きの状態で風牙龍扇を振り、巨大な風の牙がビッグアームを真っ二つにして狩りは完了・・・少し危なかったが思う存分装備の性能を確かめられたのは幸いだった


それにしても・・・





「ケン・・・君はそろそろ自覚したらどうだ?ひとつの安易な行為が人を死に致しめるかもしれないと・・・前回は自分、今回は私だ」


ビッグアームの魔核を拾った後、ケンをジロリと睨みつける


前回の時は本気で殺意が湧いた。あのままケンが入って来なければ私とローグはきっと・・・今回は私が気を取られたのがまずかったが実際この服でなければ死んでいたかもしれない・・・つまりまたまたローグに守られたって事か・・・


「す、すみません!大きな雄叫びみたいな声が聞こえて・・・もしかしてサラさんが危ないのかもって・・・」


「だから待ってって言ったのに・・・急に飛び出すから・・・」


「にしてもビッグアームだっけ?独り身で倒すってやっぱサラさんすげぇな」


「スカット・・・独り身では意味が違ってきますよ?」


スカット覚えておけ・・・誰が独り身だ・・・ソロと呼べソロと


「・・・それでどうしてケン達はここに?」


「あー・・・サラ姐さんが午後から28階に来るって聞いてたんで見学に・・・」


「あっ、バカ!!」


ケンが素直に答えるとマホが慌ててケンの口を塞ぐ


なるほど・・・ケンは分かっておらずマホは分かってて来たのか・・・他の2人は・・・スカットはケンと同じく分かってないな・・・ヒーラは冷や汗をかいているからマホと同じく分かってたか


「そうか・・・。さて、ここで問題だ・・・ここはどこだ?」


「へ?・・・えっと28階ッスけど・・・」


「そうだな・・・()()()()()の28階・・・ここのダンジョンでいう最奥にあたる・・・それで?いつからケン達はダンジョンで見学なんて出来る身分になったんだ?」


「え!?いや・・・」


「しかも私を見学だと?・・・一時はパーティーを組んだ仲・・・たまに食事を共にする冒険者仲間だとは思っていた・・・が、見学されるほど見下されてるとは思わなかったぞ?」


「え!見下すなんてそんな・・・」


「自分達のやろうとしていた事を思い返してみろ・・・命懸けで戦っている者に対して高みの見物をする・・・()()はそう言ったのだぞ!ケン!!」


そんな意図がないのは重々承知だ。ケン達も軽い気持ちだったのだろう。私なら28階は楽勝だ・・・だからその様子を見てみよう・・・そんなノリだろうな。装備が充実し魔物を倒すのも容易いと感じ心の中に隙が出来ている・・・つまり慢心している


「ち、違うッス!俺達はただ・・・」


「『ただ』なんだ?私はさっきケンが声を出し私の注意を散漫させたのはケン達が偶然ここに訪れたまたま見かけた私に声をかけたからだと思っていたから許した・・・が、命懸けで戦う私を見学に来て、しかも邪魔をしたというのであれば・・・それはとてもじゃないが許されない行為だ」


「あ・・・」


ようやく気付いたか・・・バカタレめ


差程怒ってはないが、もしここで有耶無耶にしてはケン達の今後に関わる・・・分かってなかったケンとスカット・・・分かってたのに止めなかったマホとヒーラ・・・全員同罪だ


「す、すみません!姐さん・・・その・・・好奇心で・・・」


「私の命懸けの戦いを見てお前の好奇心は満たされたか?」


「あぐっ・・・えっと・・・」


「ケンに付いて来た3人はどうだ?楽しかったか?」


「・・・ごめんなさい・・・」


3人は話を振られすぐに頭を下げるが・・・さて、どうしたものか


恐らく私が怒っている・・・フリだが・・・意味は理解したはず。同じ事は二度と繰り返さないだろう。しかしこのままではいずれ取り返しのつかない事になりそうだ・・・それが怪我程度で済めばいいのだが・・・


「あ、あの・・・サラさんなんか光って・・・」


「ん?ああああ!?・・・ちょっとそこで待っていろ!いいな?」


「は、はい!」


いつもは夜に来る通信がなぜ・・・いや、私はいつでもウェルカムなのだが・・・


ケン達と少し離れた場所に移動すると通信道具にマナを流す。すると通信道具からあの声が聞こえてきた


〘忙しいところすまんな〙


「全然全く忙しくありません!どうしました?」


〘ふと気になってな・・・渡した装備はどうだ?〙


「はい!これ以上ない能力で大変満足しております!・・・若干それが心配の種にはなってますが・・・」


な、何を言っているの私は・・・まるでローグの作った(と思われる)装備に不満があるような言い方なんかして・・・


〘ほう・・・と言うと?〙


「えっと・・・それがですね・・・」


つい私は愚痴を零すように今あった出来事を全てローグに話してしまった。ローグは最後まで黙って聞いてくれて話が終わると静かに口を開く


〘慢心・・・そうか・・・ケン達には少し早かったか〙


「・・・かも知れません。道具に溺れず自分を律するには少し・・・」


私も覚えがある


風牙扇を手に入れた時の万能感・・・もしそれに溺れていたら今の私はないだろう。幸い私は武器に見合う実力を付けようと努力出来たけど・・・


〘サラはどうすればいいと思う?〙


「私は・・・彼らと深く関わった身です・・・怒れはしますけど・・・」


罰する事は出来ないかな?私が彼らと共に居たいと思っているのか・・・嫌われたくないと思っているのか・・・


恐らく後者ね・・・彼らの為になると思っても離れていって欲しくないから罰する事も出来ないなんて・・・


〘ならば私が・・・。今は彼らと離れているのか?〙


「はい・・・って、ローグが彼らを罰するのですか?」


〘いや、罰するとは違うな。私も彼らが慢心してしまった要因の一つだ。分相応の装備を渡してしまったみたいだからな〙


「まさか取り上げて・・・」


〘いや、そうはしない。サラ・・・彼らの元へ〙


「・・・はい」


どうするつもりだろう・・・ローグの事だからそこまで厳しい罰を与えるとは思わないけど・・・


私が通信道具を持ってケン達の元に戻ると彼らは怯えた子犬のような顔をして私を迎えた


「あ、あの・・・本当にすみませんでした!」


「しー、ローグよ」


「え?」


〘装備の調子はどうかな?〙


「ローグさん!それはもう──────」


ローグの声が聞こえた途端にケン達は競うようにお礼を告げた。能力の事を話したりヒーラなんかは少し涙ぐんでる・・・うむぅ・・・


〘・・・それは良かった。今少しサラと話してな・・・事の経緯は聞いたのだが・・・〙


「すげぇ反省してるッス・・・今考えると調子に乗ってました・・・サラ姐さんに失礼だしダンジョンが危険な所って事が完全に抜けてて・・・」


〘気付かせてくれる人がいるだけ幸せだな。過信、慢心で命を落とす冒険者など星の数ほどいるが、その冒険者達も気付かせてくれる人がいたら今でも生きていたかもしれない・・・そういった意味ではケン達は幸せだと思う〙


「ええ・・・本当にそう思うッス」


〘やってしまった事は仕方ない。サラも君達が反省している事は分かっているだろう・・・が、私は組合長としてサラを危険な目に合わせた冒険者を黙って許せるほど器が大きくなくてな〙


「っ!」


最後のセリフにケン達が青ざめる。ケンなんかは剣を取り上げられるのではと心配してサッと腰に差した剣を隠した・・・まあローグからは元々見えてないのだが・・・


〘そう構えるな。何も装備を取り上げたりはしない。そうだな・・・『はい分かりました』という言葉を信じてしまうのは簡単だがもう少し深く君達には考えてもらいたい。なので罰としてダンジョンに入るのをしばらく止めてもらおう〙


そう構えるな?・・・状況を感じ取って言ったのよね?まさか見て言った訳じゃない・・・よね?もしこの通信道具が・・・見えているとしたら・・・私・・・


「え・・・あ、はい!罰は当然だと思うッス・・・ところでしばらくってどれくらいッスか?」


〘私がいいと言うまでだ〙


「はい!ローグさんがいいと言うまでダンジョンには入らないッス!・・・みんなもいいよな?」


「うん!」「まあ、しゃあないわな」「ローグさんに従います」


〘食事代や宿代が足りなければサラに言えば私からサラに渡そう。ただし借金としてな〙


「・・・大丈夫ッス・・・それなりに蓄えはあるので・・・1ヶ月とかは無理ッスけど・・・」


〘そんなに長い期間ではないから安心しろ。それとダンジョンに行けないとなると暇だろう?だから行って欲しい場所がある〙


「行って欲しい場所取りッスか?」


「ああ・・・その場所は──────」

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