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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
777/856

795階 出会い

フリップとアーノンが這う這うの体で壁から抜け出すと2人と同時に出て来たガートン達と目が合った


「・・・お前らとっくにここを抜けたとばかり・・・なんだニーニャのやろう話が違うじゃねえか」


フリップがぼやくと2人に近寄って来たガートンが眉を顰める


「話って?」


「もう俺達以外壁を抜けたって・・・お前さん達も今出て来たのだろう?」


「あ、ああ・・・じゃあそういう事か・・・」


「そういう事?」


「いや、いきなり壁から突起が出て来てな・・・それが俺らを狙ってって言うより無差別で・・・辛うじて俺らは躱せたが魔人は左右の壁から出た突起に挟まれてお陀仏しちまったんだ。そんで壁が開いたから命からがら3人で脱出したって訳だ」


「なるほど・・・俺達が壁を壊しちまったから罠が発動して・・・その罠が魔人を殺して壁が開いてって事か。下手すりゃお前達が罠で死んでたかもしれねえな・・・すまねえてっきり居ねえと思ったから・・・」


「気にすんな。どうせ決め手に欠けてたからな・・・罠が魔人を始末しなけりゃ俺らが殺られてた可能性が高い。それよりギルド長達は魔人を倒さずに壁を抜けて来たのか?」


ガートンがフリップ達がいた壁の中を恐る恐る覗き込むとフリップはゆっくりと首を振った


「いや・・・きっちりケリをつけて来た・・・だがそのお陰でアーノンはマナ切れで俺は得物を失った・・・悪いが俺達はここでリタイアだ」


そう言うと2人はその場にへたり込んだ


「まっ、ロートル2人にしては頑張った方じゃねえか?上出来上出来!」


「てめぇ!・・・冒険者にどんな教育してやがんだ?アーノン」


「それはギルド長の仕事か?・・・まあそうだと言うならこれが終わったらアレを見せてやろう・・・そうすれば少しは言葉遣いも直るだろう」


「アレか・・・そうだな・・・ちったぁマシになるはずだ」


ガートンは2人の会話の中で出て来た『アレ』が理解出来ず眉を顰める


2人の言う『アレ』とは水魔法で作ったドラゴンであるがアーノンが魔法を使うところすら見たことなかったガートンが知る由もなかった


「・・・とりあえず俺らは行くぞ?まさか子守りが必要・・・なんて言わねえよな?」


「行け行け・・・行って死んで来い」


壁を背に腰を落としたフリップは手をシッシッと縦に振る


「死んで来いってギルド長が言うセリフかよ・・・それともエモーンズでは当たり前なのか?」


「気になるなら来てみるといい・・・歓迎するぞ?」


「やめとくよ・・・じゃあ大人しくここで待ってな・・・フェンリルってヤツの首を土産に持って来てやるからよ」


「ただの魔人に手こずった奴がよく言うよ・・・行って来い・・・そして必ず戻って来い」


フリップに無言で頷き応えると3人は先に行った仲間を追って歩き出した



「てかエモーンズのギルド長が言ってたように魔人に手こずっていた時点でこれ以上先は役に立たないんじゃ?」


歩きながらフリップの言葉を思い出しガートンが呟くとオードは呆れブルはため息をついた


「お前・・・バカか?」


「な、なんだよ藪から棒に」


「パーティー組んでたんだろ?ならそれぞれ役目があるのは分かるよな?俺の役目は陽動、ブルは回復だ・・・もちろん器用だから他にも出来るが基本的にはそれがメイン・・・魔人を倒せなかったのはお前の火力不足が原因だろ?それなのに役に立たないって・・・まあお前はそうだけど俺達まで一緒にするな」


「・・・」


「ハッキリ言ってお前だけここに居る理由が希薄なんだよ。ギルド長達や女王達はは街を取り戻す為、俺達はレオンを取り戻す為にここに居る。お前の仲間もそうだろ?だがお前は違う・・・ただあの2人と同じパーティーってだけでここに居る・・・こういう生死を賭けた戦いじゃ理由ってのはかなり重要になる。生き残れる可能性がダンチなんだよ・・・理由があるのと無いのじゃな。悪い事は言わねえ・・・今からでも戻れ・・・理由はそうだな・・・ギルド長達のお守りをするっていうのでもいいんじゃねえか?」


「ふざけんな!・・・俺は・・・」


「俺は、なんだ?言っとくがこれはお前の為だけじゃねえ。俺達の為でもあるんだ。お前だって経験くらいあるだろ?足でまといと居るとこっちにまで危険が及ぶんだよ!」


「っ!・・・」


「死なねえ内に・・・そして殺さねえ内にとっとと失せな。それともお前にはあるのか?死ぬ覚悟と殺せる覚悟が・・・その理由があるのか?」


オードに凄まれたじろぐガートン


その様子を見てオードは鼻を鳴らすと振り返りガートンを置いて行ってしまった


ブルは無言で動けずにいるガートンの肩にそっと手を置き頷くと背中を見せオードを追い始めた


咄嗟に2人を追おうとするガートン・・・しかし足を踏み出せず拳を握り地面を睨みつける。まるで追う理由を探すように・・・



「ああいう手合いは追って来るぞ?」


「だろうな・・・その時はその時だ」


「・・・不器用・・・そして似たもの同士か・・・」


「おい!・・・あんな奴と一緒にすんな・・・俺は変わったんだ・・・レオンと出会って、な」




──────奇術師オードが『タートル』に加入した理由は単純だった



奇術師が認められる為



魔法に適性がある者の将来は多岐に渡る。冒険者はもちろん、大工や物作りを主とした技術者など魔法が使えないと成り立たない職が多いからだ


家を建てるのも道具を作るのも魔法を使用し風呂を沸かす事すら魔法頼み・・・ロウニールが便利な魔道具を世に放つがそれでも圧倒的に魔法使いに頼る事が多かった


その為に魔法に適性がある者は引く手数多であり職に困る事はないというのが現状だ


そんな中でオード・シュラスは魔法の事を便利な手段ではなく別の事に使い始める



人を驚かせる



初めは子供のイタズラ


人が驚く姿を見て喜ぶどこにでもいるような子供だった


だがある時オードの魔法に感動する人が現れその姿を見た彼は驚かせるにも種類がある事に気付く


そこから彼はただのイタズラ好きの少年から人の心を動かす魔法使い・・・奇術師を目指すようになった


だが周りの目には魔法を遊びで使っているようにしか映らず、常に人材不足である事から遊んでないで真面目に働かない穀潰しのような扱いを受けるようになっていった


周囲からも手に職をとせっつかれ仕方なくオードは冒険者となる。そして魔法使いとしてパーティーを組むが・・・どのパーティーも長続きしなかった


それもそのはずオードは後衛アタッカーとしてではなく陽動を主にした行動を取りパーティーメンバーの思惑とは違った行動を取っていたからだった


魔法を魔物に直接当てず目眩しや足止めに使用する・・・その行動は初めの内は良くても段々とパーティーメンバーを苛立たせていた


『今のはトドメを刺せたはずだ』『ダメージを与えろ!』『マナを無駄使いするな』


散々言われてもオードは奇術師としてのスタイルを変えずクビになりパーティーを転々とするようになる


そしてとあるパーティーと組んだ時に事件が起きた


パーティーのリーダーが実力を過信してか無理をして奥に進み、魔物に囲まれてしまう。逃げようにも来た道も魔物に塞がれ絶体絶命・・・その時パーティーリーダーはオードに命令した


『逃げ道を作れ』と


人の心を動かすのが奇術師の本分・・・魔物の心を動かす事は難しいがそれくらいならとオードは奇術を駆使して退路を確保する


その出来た道にパーティーメンバーは我先にと群がり奇術を使い疲れ果てていたオードは置いて行かれてしまった


去り際パーティーリーダーは『陽動が得意なんだろ?囮も立派な陽動だ・・・精々その奇術とやらで俺達が逃げ切るまで時間稼ぎをしろ!』と言い放つ


その後、1人残ったオードは魔物達に囲まれ死を覚悟し天井を見上げ呟く


『結局人の心を動かす事は出来なかったな』


奇術が人の心を動かす事が出来るのであればパーティーメンバー達は自分の事を仲間と思っていてくれたはずだ。けど結局は仲間として受け入れられず囮に使われる始末・・・その事実に生きる気力を失い魔物達を受け入れた・・・が


『どこにでも腐った冒険者はいるみたいだね・・・ただ目的もなく仲間を見捨てるなんて』


一瞬・・・一瞬だった


両手に剣を持った少女が駆け巡り魔物達を薙ぎ倒し、先程の言葉を呟いた男が魔法で残った魔物達を一掃する


驚かせる事に慣れていたオードが逆に驚かされ呆然としていると男はそんなオードを見つめて微笑む


『私だったら意味もなく見捨てはしない』


『・・・意味があれば見捨てるのかよ・・・』


助けてもらった感謝の言葉ではなく男の言葉に対して噛み付くと男は目を細めて笑みを深める


『当然。私は目的の為なら手段を選ぶつもりは無いからね。それが自分の命であろうと他人の命であろうとね』


『そりゃまた崇高な目的がありそうだな』


『崇高?そんな大層な目的ではないよ。誰にだって譲れない部分がある・・・それが自分にとって命より重いか軽いかだけ・・・私の目的は命より重いと思っている・・・他人にとっては軽くても私にとっては何より重いと・・・君はどうだ?命より重い目的はあるか?』


『どうだろうな・・・そんな深く考えた事はねえし・・・てかなんで逃げた奴らが目的なく見捨てたなんて分かったんだ?知り合いでもなさそうだし・・・』


『目を見れば分かる・・・彼らとすれ違った時に目を見たが恐怖に濁り命惜しさに必死だった・・・ただ生き残る為に逃げた・・・くだらない人間だよ・・・』


『へえ・・・じゃあ俺は?』


『どうだろうね』


『・・・目を見れば分かるっていうのは嘘かよ』


『嘘じゃないさ。今は見れるけど未来は見れないだけ・・・このまま腐って路頭に迷うか、道を見つけ突き進むか・・・まだ決まってないみたいだからね』


『・・・ハッ、こんな薄暗いのによく見える目だ・・・このままじゃ路頭に迷いそうだ・・・どうすればいい?』


『付いて来たければ付いて来ればいい。路頭に迷うよりは遥かにマシな死を経験出来る』


『・・・もっとマシな誘い方はねえのかよ・・・まあいい・・・ちょうどパーティーをクビになったところだ・・・しばらく寄生させてもらうぜ?』


『ご自由に──────』




「・・・何度も聞いた。そして何度聴いても理解出来ぬ。レオンとの一連のやり取りで抜けている部分があるのではないか?レオンがお主を誘った理由もお主がそれに乗った理由も全く理解出来ぬのだが・・・」


「そうか?・・・そういやあの時ニーニャが『こんな奴仲間にするべきじゃありません!』って毛を逆立てて俺を威嚇してたな・・・」


「・・・それも聞いた。理解に至るのに何の役にも立たぬと何度も言ったはずだが・・・」


「そうだったか?まあいいだろ・・・昔の事なんて。 それより俺とアイツのどこが似たもの同士か問い詰めたいところだが・・・どうやらそんな暇はなさそうだな」


「感動の再会・・・ではなさそうだ」


2人が歩いているとニーニャ達の姿が見えた。立ち止まり誰かと対峙している姿が


「おーおー・・・俺らの行く道を塞いでいる奴がいるぞ?こういう時はどうすんだっけか?ブル」


「突き進むのみ」


「だな・・・たとえ相手が誰であろうと、な・・・ニーニャの奴はブレてるみたいだから急いで行ってケツでも蹴ってやろうぜ?」


「そんな事したら斬られるぞ?」


「比喩だよ!比喩!・・・急ぐぞブル・・・『タートル』がどんな集団だったか思い出させてやろうぜ・・・立ちはだかるレオンに、な──────」

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