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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
776/856

794階 水遊び

アケーナ教会への道 壁の中



テレサってだけでもやりにくいのに魔力の扱いに長けているだと?冗談じゃねえぞ


一瞬で決めたかった・・・アーノンの手前平気なフリをしていたが一度は惚れた相手・・・そしてアーノンの恋人と来たもんだ・・・平気な訳がねえだろ!


墓参りがまさか本人参りになるとはな・・・来るんじゃなかったと思う気持ちと来て良かったと思う気持ちが半々・・・いや七・三ってところか


にしてもどうしたもんか・・・幸いなのか不幸なのかテレサは自ら攻撃はして来ない。だからこそ考える時間があるんだが逆を言えば考えちまう時間があるって事だ。考える時間がなければもうとっくに終わっていたかも知れねえ・・・テレサを倒してようが俺達がやられてようが・・・どっちにしてもこの耐え難い苦痛を感じる時間は終わっていたはずだ


「フリップ・・・援護する」


出来ればアーノンが手を出すことなく終わらせたかったが・・・チッ・・・仕方ねえ


「援護するにしても俺が突っ込んだ後にしてくれ。テレサがお前に襲いかかっても助けらんねえからな」


テレサが何に反応するか分からねえし、もし魔法を唱え始めたアーノンが襲われても俺の足じゃ間に合わねえ・・・魔人になっちまったテレサの素早さと力はAランク・・・いやSランク冒険者に匹敵する・・・万が一アーノンが接近されたら恐らく・・・


「・・・分かった・・・」


・・・援護は期待しない方が良さそうだな。いざって時にアーノンはテレサに魔法を放つ事が出来ないかもしれない・・・いや、出来ないだろう


昔から変わらないな・・・いや変わっているか?優柔不断なところは前にも増して酷くなってる


だがそれでいい



お前はそれでこそアーノン・コルトバだ



戦斧の柄をギュッと握り締めテレサに向かって走り出す・・・と言っても足の古傷が痛み満足に走れはしないのだが


そういや俺は壁まで吹っ飛ばされて気絶しちまったから覚えていないが俺を吹っ飛ばしたのは黒い巨大な狼だったらしい・・・そしてヒューイの話じゃフェンリルは黒い巨大な狼の姿に変貌したという・・・つまりこの足も・・・


出来ることならフェンリルをぶっ飛ばしてやりたいところだが・・・それは他の仲間に託して今は俺がやるべき事に集中しよう


テレサを安らかな眠りにつかせる事・・・それが今の俺のやるべき事だ!


「テレサァ!!」


戦斧にマナを流すとそれまでフラフラしていたテレサはピタリとその動きを止め焦点が合っていなかった目は俺に向けられた


来る!


中途半端に避けようとすれば何も出来ずに終わる・・・だったらもう避けようなんて考えねえ・・・当たって砕けろ玉砕覚悟だ!


一瞬だけチラッと振り返るとアーノンは苦しそうな顔をして手を伸ばし震えていた。まあ予想通りだ・・・安心しろ・・・俺が終わらせてやる!



テレサは構えたりせずただ向かって来る


少しでも構えたりしてくれりゃこっちも動けるのだがそんな様子は一切見せない


間合いに入りゃ力任せに攻撃して来る・・・それだけだ


だからこそやりにくい・・・人間と対峙しているというより魔物・・・いや獣のそれに近い


しかも極上の獣だ


普通なら震え上がって小便でも漏らしちまうところだが・・・



左足を踏み込む


古傷の痛みが全身を駆け巡るが逆にそれが恐怖を和らげた


肩に背負った戦斧を持ち上げると重さを利用し勢い良く振り下ろす


当たりゃドラゴンですら真っ二つの一撃だ・・・これを食らって・・・


「安らかに眠れ・・・テレサ!!」


やはりこのままだとテレサの攻撃の方が早く当たる



臆するな



ここでブレたら俺は犬死だ


テレサの攻撃が当たってもこのままブレなきゃその後すぐに俺の振り下ろした戦斧がテレサを捉えるはずだ


大丈夫・・・届く・・・届っ!?


アレ?俺今横移動してねえか?てか冷たい・・・冷たい!?


「てめぇ!アーブナガブナッッガブハッハ」


振り向くと口の中に水が!


バカヤロウ・・・援護どころか邪魔してんじゃねえか!


またさっきみたいに吹っ飛ばされて・・・うん?まさか・・・


さっきは『ウォーターブレス』で俺とテレサ、2人とも吹っ飛ばされた。けれど今回は・・・俺だけだ!


「グエッ!」


いつの間にか壁まで飛ばされ背中をしこたま打ち付け膝をつく。息が出来なくなり意識が朦朧とする・・・ダメだ・・・このままじゃ・・・


歯を食いしばり地面に爪を立てすぐに立ち上がる


待て・・・そっちじゃねえ・・・俺に向かって来い!・・・テレサ!!



声が出ない


そりゃそうだ


背中を打って息も出来ないのだから


その間に魔人となったテレサが奇声を上げようと・・・俺以外の誰かに向かっていようと・・・声すら上げる事が出来ない


クソッタレ・・・なんでテレサじゃなく俺を吹っ飛ばしやがった!なんで・・・



答えは分かってる


テレサを攻撃出来ない・・・それでも俺を助けようと俺に魔法を当てやがったんだ


あの野郎・・・人の覚悟を無駄にしやがっ・・・て・・・てぇ!?



テレサとアーノンの間に突如として現れたドラゴン


その色は水色


それを見て昔アーノンと2人でダンジョンに潜っていた時の事を思い出す



『なあ、魔法ってのは便利っちゃ便利だが迫力に欠けるよな・・・特にお前の得意な水魔法!もっとこう火魔法みたいに派手に魔物を燃やしたり風魔法みたいにスパッと切っちまったり土魔法みたいに岩でガン!って感じとか・・・水魔法なんてほらチロチロチロ・・・みたいな?』


『・・・私だってド派手な魔法を使ってみたかったさ・・・けど仕方ないだろ?水と相性がいいみたいなんだ・・・他の魔法より威力も出るしイメージも湧きやすいし・・・』


『だからって・・・チロチロチロって・・・』


『そのチロチロ言うのやめろ・・・私だっていずれは・・・』


『ハッ、水魔法でド派手?無理だろ無理・・・まっ、ダンジョンに潜る時に水を持って来ないで済むのはかなり助かるからな・・・魔物は俺に任せてお前は飲水要員として頑張れや』


『くっ・・・いつか吠え面かかせてやる・・・今に見てろ!』


『はいはい頑張れ頑張れ』


『このっ!・・・いいか?本当にあっと驚くような・・・こうババンと・・・』


『語彙力をダンジョンに落としたか?』


『・・・ドラゴンだ』


『あん?ドラゴン?』


『水でドラゴンを作ってやる!どうだ?ド派手でカッコイイだろ?大きさもこうどデカく・・・』


『ほぉーそれは凄い・・・ダンジョンに収まりきらないけどな』


『・・・死ねっ!』


『うおい!水ビーム出すな水ビームを!それ地味に痛いんだよ!』


『派手に痛がれ!!』




ってダンジョンで喧嘩してたなそういや・・・マジでドラゴンを作っちまった・・・ハハッ・・・こりゃまたド派手な魔法だぜ


さすがのテレサも足を止めた


背後からだと分からないがたじろいでいるのかもしれない


ようやく息も出来るようになったし今の内に回り込んでアーノンと合流しておくか・・・水ドラゴンがテレサを倒してくれりゃ一番なんだがまだ何が起こるか分からねえからな


「つっ!」


古傷の痛みが増した?激痛とまではいかないが少し無理しちまったみたいだな・・・ったくイヤになるぜ


この傷が俺の冒険者人生を終わらせた・・・いや、それは言い訳だな


アイツら以外と組む気はなかったから怪我してなくても引退していた・・・それだけ俺にとってあのパーティーは・・・んん!?


水ドラゴンがテレサに向けてブレスを吐こうとしているのが見えた


えっと・・・そのブレスの射線上にいるのだが・・・大丈夫・・・だよな?・・・・・・あっこれダメだ


水ドラゴンは一度その鎌首を下げブレスを吐きながら上を向こうとしているっぽい


当然射線上にいる俺にもブレスが・・・


アイツ俺ごと始末する気か!?


痛みを堪え必死に射線上から逃れる


テレサがブレスに飲み込まれたすぐ後に石畳の地面を砕きながらブレスがこちらに向かって来るのが見えた


死ぬ・・・そう覚悟したがブレスはギリギリのところで俺の横を通り過ぎ壁を壊し天を貫いた


アレ?壁を壊して良かったのか?・・・いや、確かもう俺達だけだったはず・・・壊しても問題ないはずだ


壁の向こう側が見えたが無視して足を引き摺りアーノンの元へ


一発くらい殴っても問題ないだろう・・・うん


と、思っていたが疲弊したアーノンを見て殴る為に温めておいた拳をそっと解いた。水ドラゴンを作るのにかなり無茶したみたいだな・・・相手がテレサってのもあるかもしれない


「危ねぇじゃねえか・・・殺す気か?」


「・・・すまん・・・」


「まあ死んでねえから許してやる・・・しかしまさか本当にドラゴンを出すとはな・・・あの時の水ビームの件は許してやる」


「そりゃどうも・・・それよりひとつ頼みがある」


「なんだ?」


「確認してくれ・・・テレサはどうなった?」


「何言ってんだ?そりゃもちろん・・・・・・・・・マジか」


煙の中に人影が見えた


しかも動いている・・・あのブレスも効かないってか!?


「やはりまだ・・・初めて使う魔法だから狙いが定まらなかった・・・直撃していれば・・・」


「俺には直撃だったけどな」


「・・・もうすぐマナが切れる・・・ブレスも後1回が限度だろう・・・しかもドラゴンを出しているだけでマナは吸われているみたいで時間もない」


「無視すんな・・・って言ってる場合じゃねえなそりゃ・・・んで後どれくらい保つ?」


「数十秒」


「おい!・・・クソッ・・・」


まだ煙が晴れてねえからテレサの状況がイマイチ把握出来ねえ・・・一か八かでもう一度あのブレスを打つしか・・・


「ちなみに目標が定まらないと集中出来ず打てない・・・さっきはテレサは見ずに済んだが今は・・・」


「って、じゃあどうやって狙いを・・・まさかお前・・・」


「ああ・・・ちょうど直線上にフリップが見えたから・・・」


コイツ・・・俺を狙いやがったな!?・・・だから下から上に打ちやがったのか!水ドラゴンはタッパがあるから真っ直ぐ俺を狙えばテレサには当たらないしな・・・にしても・・・


「俺まで殺す気か!」


「躱してくれると信じてた」


「にゃろ・・・まあいい!愚痴は後だ!今は・・・もう一度俺を信じろ!」


「なに?・・・またテレサの背後に回る気か?」


「んな事しねえよ!時間もねえしな・・・これで決まらなきゃ終わり・・・お前はマナ切れ・・・俺は得物無しになる」


「得物無しってお前まさか・・・」


「タイミングを合わせろ!分かったな!」


未だにテレサを狙って魔法を打てないアーノンがテレサ目掛けて打つにはこの方法しかねえ!


戦斧を握り締め振り上げると思いっ切り煙の中の人影に向けて戦斧を放り投げた


「今だアーノン!戦斧目掛けて魔法を放て!」


「っ!いつもお前は・・・行き当たりばったり過ぎるんだよ!」


アーノンが両手を突き出すとそれに呼応するように水ドラゴンが口を開いた


そして口からブレスが放たれ一直線に投げた戦斧目掛けて伸びて行く


その先にはテレサがいる・・・これでダメなら2人して仲良く死ぬしか・・・いや、さっきのブレスで壁が崩壊して通れるようになっている・・・逃げるっていうのも手か・・・だがまあアーノンは逃げねえだろうな・・・優柔不断のくせに頑固だからな・・・面倒臭い奴だよ本当


・・・だけどお前がいたからこそパーティーは成り立ってたんだ・・・言われた通り俺は行き当たりばったりで何も考えちゃいねえ。テレサはダンジョンの聖女と言われていたが回復力が他のヒーラーよりすげえってだけで基本全てアーノンに任せっきりだった


パーティーの大黒柱


そして実力も・・・


「あの『水遊び』って二つ名はギルドの野郎共の嫉妬から生まれたもんだ・・・テレサを独占しやがって、てな・・・俺達がその名で呼ぶなって言えば別の二つ名が付いたかも知れねえがテレサが『可愛いからこのままでいいんじゃない?』って言うからほっといた・・・それに・・・『水』が付けられる水魔法使いなんてそうそう居ねえ・・・嫉妬だけじゃなくちゃんと尊敬もされてたんだぜ?アーノン」


二つ名ってのは自分から名乗るもんじゃない


他人が付けるもんだ


お前は付けられた時苦笑いしていたけど周りも・・・俺達もみんな思っていたんだぜ?


Sランクに最も近い冒険者は・・・お前だってな


「何ブツブツ言っているんだ!テレサは・・・テレサはどうなった!」


「・・・終わったよ・・・『水遊び』」


「その二つ名で呼ぶな!・・・・・・・・・そうか・・・終わったか・・・」


呆気なかった・・・あまりにも


戦斧目掛けて放たれたブレスは戦斧を押しそのまま勢いを増しテレサの首を飛ばすとブレスが綺麗さっぱり全て飲み込んじまった


終わった後に何か思うところがあると思っていたが何のことはねえ・・・ただの虚無だ


虚しさも悲しくも何もねえ・・・ただの虚無


終わったと聞いて気を抜いたか水ドラゴンはその姿を保てなくなりただの水と成り果て地面を濡らす


「なあ」


「・・・なんだ」


「今ここでドラゴンを出す意味あったか?維持するだけでもマナを消費するって効率的には悪いだろ?それなら他の魔法の方が・・・」


「見せたかったんだ」


「俺にか?」


「いや・・・お前達に、だ」


そう言ってアーノンは空を見上げた


俺もつられて見上げるとこんな時だってぇのに澄んでる空を見て不謹慎にもこんな事を思っちまった



いい墓参り日和だってな──────

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