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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
772/856

790階 覚悟

ガートン&オード&ブルVS名も無き魔人



「なあ・・・アンタらあの悪名高き『タートル』なんだろ?」


「だったらなんだ」


「どうして・・・魔人ごときに苦戦してんだよ!」


思わず愚痴をこぼしてしまう


俺の知る『タートル』は闇組合の中で最強の部類に入る・・・と言ってもほとんどの闇組合は捕まらない為に目立つ行為はしない。組合員の構成や組合名すら伏せて活動するから強さどころか実在するかどうかも分からない


ほとんどの闇組合がそんな状態の中『タートル』は堂々と名乗り活動していた


なのでいつの間にか闇組合イコール『タートル』とまで言われたほどだ


じゃあなぜ『タートル』が堂々と表舞台で生き残れたのか・・・それは個性豊かな構成員の圧倒的な強さによるものと聞いている


一人一人がAランク並の強さ・・・その噂を信じていたのに・・・


オードは魔人の周りをうろつくだけで何もせずブルは何かブツブツと呟いているだけ


苦戦と言うか戦ってすらいない状態が続いていた


「そりゃお前・・・奇術師ってのは魅せる為のもんだからな。無反応の魔人相手にゃ気が乗らねえって言うか・・・」


「はあ?」


「他に観客もいねえし・・・どうしたもんかねぇ」


なんだコイツは・・・普通に魔法を打てばいいだけだろ!


「ならばガートンに魅せるのはどうだ?」


ブルの提案を聞いてオードは俺を見つめると・・・肩を竦め盛大にため息をつく


「・・・それだとショボイのしか出せそうにねえな」


どういう意味だよ!


まったくやる気のないオードに何か『ナムナム』言ってるだけのブル・・・この2人は当てにならねえ・・・俺がやるしかない


壁に囲まれたこの状況から抜け出すには目の前の魔人を倒すか方法はない・・・コイツは・・・見た事はあるような気もするが名前までは思い出せねえけど確かそんなに高いランクじゃなかったはず・・・なら!


「ウオオオオォ!!」


大丈夫・・・俺はBランク冒険者のガートン!魔人ごとき俺一人で・・・


魔人に向かい突進するとフラフラと立っていただけの魔人が突然顔をこちらに向けギロリと睨んで来た


あまりの怖さに顔が引き攣るがもう立ち止まれない・・・相手をちょっと顔の怖い魔物と思い込み踏み込むと魔人の胸目掛けて剣を突いた


「バカが」


遠くでオードが呟く


誰に対して?まさか・・・俺?


「死ねぇ!・・・え?」


魔人に剣が届くか届かないかという距離で突然俺と魔人の間に爆発が起こる


俺は爆風をくらい後ろに飛ばされると地面に激しく背中を打ち付けた


「~~~っ!」


息が・・・出来ない・・・一体何が・・・


「魔人に正面から突っ込むバカがいるか。お陰で仕掛けがパーになったじゃねえか」


仕掛け?い、いつの間に・・・


「魅せるって言ったろ?やる気のない奇術師・・・味方も敵もそれを信じた頃にドバーンと派手な奇術が炸裂・・・味方は『い、いつの間に』とか驚いて敵は騙されたと悔やんだ時にはあの世行き・・・最高なエンターテインメントだろ?」


チッ・・・心の中を読まれたようでスゲェ恥ずかしい・・・


「・・・味方まで騙す必要ないだろ!」


「大ありだよ・・・だって・・・っ!」


オードの言葉を遮るようにさっきの魔法で舞い上がった土煙を切り裂き魔人がオードに向かって来ていた


速い・・・魔法使いのオードは接近戦に弱いはず・・・間合いを詰められたら・・・


「フン!!」


オードに突進する魔人・・・だがどこからともなく現れたブルが拳を放ち魔人を吹っ飛ばす


「ナァイスブル・・・狙い通りだ」


オードはニヤリと笑うと吹っ飛んだ魔人に向けて指を鳴らした


すると爆発が次々に起こり魔人をあっという間に飲み込んでしまう


まさか・・・ただフラフラしていただけじゃなく・・・魔法を仕込んでいたのか?・・・そう言えば俺の目の前で爆発したのも咄嗟にしてはあまりにも狙いが正確過ぎた。ちょうど俺と魔人の間で爆発したのはその時打ったんじゃない・・・元々あった魔法を起動させたんだ


「無闇に突っ込むな。アドリブはその場じゃうけても長くは続かない・・・どうしたら客の心を掴めるか綿密に計画を立て粛々と実行する・・・それがショーってもんだ」


何言ってるかさっぱり分からん


だがオードが仕掛けブルがその仕掛けに強引に押し込む事で魔人を倒せたのは事実・・・特に相談した訳でもないのに連携が取れたのは長年組んだ事による信頼関係によるものか・・・やはり凄いな・・・もしオードとブルとじゃなくてウェルとナルと共に今の魔人を倒せと言われたら果たして・・・


「オイオイ・・・幕はまだ下りてないぞ」


「へ?・・・まさか・・・」


ウェル達がいるであろう方向の壁を見つめていたらオードが爆発によって発生した煙を睨みながら呟いた


「あれくらいじゃ普通の魔人でもかすり傷程度・・・普通じゃない魔人だと・・・・・・・・・だよな」


煙が晴れて出て来たのは無傷の魔人


所々服は燃え散った感じだが火傷すらしていない


「まあ俺の奇術は魅せる前提で作ったものだからな。真似して作ったレオンと違って殺傷能力度外視なのが玉に瑕だ」


何が玉に瑕だ・・・致命傷じゃねえか!


つまり・・・殺傷能力皆無の魔法使いに肉弾戦が得意なヒーラー・・・そしてそいつらより劣る俺の3人でこの魔人を倒さなきゃならないってか


こりゃもう・・・人選ミスだろ──────





ニーニャ&ウェル&ナルVS虚ろな魔人



「足でまとい2人と魔人退治かぁ・・・ちょっぉと厳しいねぇ」


「言ってくれるな・・・実力不足は分かってるけど本人を目の前にしてよく・・・」


「ん?違うよぉ・・・足でまといはオードとブルのこと・・・あの2人って敵を倒すには向いてないの・・・元々オードは大道芸人・・・って言ったらいつも怒られるけど・・・要は人を楽しませる為に魔法を使うヤツなの。だから威力度外視な魔法が多いの・・・撹乱専用魔法使いって感じ?で、ブルは殴れるヒーラー・・・モンクっていう特殊な職業だけど最近布教活動がメインで鍛えてなかったから全盛期よりかなり衰えちゃって足でまといにしかならない・・・ちょっぉと・・・ううん・・・だいぶ厳しいかもぉ」


・・・てっきりワイらの事かと思ったら違ったか


「あの2人が足でまといって言うならもう1人追加だ。とてもじゃないが魔人を相手にするには実力不足だ」


「そうなのぉ?・・・あの人は村の出身じゃないよねぇ?」


「ああ・・・村の出身はワイとナルだけだ」


「なら何でそんな人と組んでるのぉ?」


「何でってそりゃ・・・」


この街に流れ着いて冒険者ギルドを訪れた時に最初に話し掛けて来たのがガートンだった


大きな街は初めてで不安もあったし案内役でもさせようと思っていたらズルズルと・・・


「・・・成り行き?」


「ハハッ何それ・・・じゃあ死んじゃっても特に問題なしって感じぃ?」


「死んじゃってもって・・・」


「ニーニャ達とは違うから心配していたんだ・・・けど成り行きで仲間になっただけの関係なら大丈夫だよね・・・死んじゃっても」


「何言ってる・・・そんな訳・・・」


「『タートル』のみんなは覚悟がある。死んでも成し遂げる覚悟が。だから目的の妨げになるなら自ら死を選ぶくらいにね。だからニーニャはどっちかを選択する・・・魔人を倒した後、先に進むかギルド長達のいる壁を壊すか・・・どちらかをねぇ」


「おまっ・・・そんな事したら・・・」


フェンリルは壁を壊せば誰かが死ぬと言っていた。おそらくそれは壁に何か仕掛けがありどこかの壁が無理矢理破壊された瞬間に発動する仕組みになっていると考えられる


女王陛下達三組はもう既に教会に向かっている。残りは三組・・・ワイ達とガートン達とギルド長達だけだ


ワイ達が魔人を倒せば残り二組・・・となるとワイ達がギルド長達の壁を破壊した瞬間に未だ壁の中にいるガートン達の所の仕掛けが・・・


「ガ、ガートンはともかくオードとブルは長年組んだ仲間だろ?そんなにすぐ見切りをつけなくとも少し待つくらい・・・」


「少し待って事態が悪い方に転がったら?『あの時こうしておけば良かった』という後悔をするくらいならニーニャ達は闇組合なんてやってないよ。レオンはなぜ自ら闇組合を作ったと思う?必ず成し遂げるという覚悟があるからだよ・・・その為なら何でもするという覚悟が、ね」


聞いた事がある


『タートル』は味方以外は全員敵と認識していた、と。国を相手取るのだ・・・それくらいの覚悟がないと無理だったのだろう・・・レオン兄は村のみんなの仇を取ろうとしていた・・・自分がどれだけ他人から恨まれようとも


その気持ちは分かる・・・分かるが・・・


「・・・貴女達は『タートル』じゃない・・・だから覚悟は強要しないよ。だけど成り行きで仲間になっただけの人なら・・・流石に死んでもいいよね?」


ニーニャは本気だ


本気で仲間を・・・


「・・・け、けどワイらだってあの魔人をすぐに倒せるとは限ら・・・」


「倒せるよぉ」


「・・・え?だって昨日は魔人に苦戦して・・・」


「あれは一応ギリギリまで捕獲しようとしていたから・・・流石に無理だったけど最初から殺すつもりならわけないよあんなの」


まさか全力を出していなかった?・・・そう言えばニーニャはガートンに謝っていた・・・『助けられてなくて』と


じゃあ本当に・・・


「見てて・・・すぐに終わるから」


そう言うとニーニャは笑みを見せた後、左右の腰にぶら下げた剣を同時に引き抜いた


そして振り返ると虚ろな目をして未だ動かない魔人に対して低く・・・地面スレスレまで低く構えると一気に間合いを詰め魔人の背後に回り込む


そして・・・


「はい、終わりぃ」


左右の手に持った剣が交差する


すると魔人の首は空高く舞い上がりやがて落ちて来て地面に転がった


手加減なんてレベルじゃない・・・ほとんど力を温存しギルド長に言われた通り捕まえようとしていたのか・・・どうしてそこまで・・・


「おぉ壁が開いたぁ・・・さてと・・・名残惜しいけど2人とはお別れだねぇ・・・2人も成り行きとはいえ仲間だったから最後にかける言葉でもあれば言っとけば?」


2本の剣をしまい両手を頭の後ろで組んだ状態でニーニャは壁の外へと向かって歩き出す


この壁を抜けたらニーニャはギルド長達のいる壁を壊してしまう・・・そしたらガートンは・・・


「・・・待ってくれ」


「待たない」


「ニーニャ!」


「・・・ハア・・・ニーニャの考えを押し付ける気はないよ。けどそっちも押し付けないでくれる?甘さは計画を狂わせる・・・ここでどっちも勝つと信じて待つかどちらか一方だけ助けるか・・・どっちが確実か・・・分かるよねぇ?」


火力のない3人と引退して久しいギルド長の2人・・・どちらも魔人に勝つのは厳しいかもしれない・・・でもなぜ・・・


「・・・一組だけ助ける方がもしかしたら効率的かもしれない・・・けどならなぜ仲間の方を選ばない?相手がギルド長だからか?」


仲間を優先するのが普通・・・なのにニーニャは仲間達を見捨ててギルド長を助けようとしている。それはもしかしたら情よりも権力に媚びているのかも・・・そんな風に考えていた。だが・・・


「ニーニャはレオンに『街を頼む』と言われた。ロウニール達とダンジョンに行き留守にするからその間街を頼む・・・そう言った。ニーニャ達は目的の為なら何でもする・・・だから・・・」


たったそれだけの言葉を守る為に?『街を頼む』なんて何気ない一言を守る為に仲間を?・・・まさか・・・


そうだ・・・彼女は・・・彼女達はレオン兄がダンジョンにいる事を知っていた・・・ダンジョンブレイクが起きた時・・・ダンジョンにレオン兄がいる事を知りながら街に残りギルドに協力していた・・・レオン兄が映し出された時の取り乱し方から本気で心配している様子だったし・・・多分彼女は自分一人でも敵の中に突っ込んで行きレオン兄を救いたいと思っているはず・・・なのにそれをしないのは・・・『街を頼む』という言葉を守る為・・・


ワイは突入するメンバーに加入した理由はレオン兄に会いたいからだ。同じ村で育ちSランク冒険者まで上り詰めたレオン兄に会って言いたかった・・・『覚えてないかもしれないけどウェルとナルだよ』って・・・どういう反応が返ってくるか分からないけどそれでもいい・・・ただ一言・・・ううん・・・ひと目でもワイ達を見て欲しかった。たったそれだけの理由でワイ達は・・・


けどニーニャ達は違う


長年暮らして来た街でもない・・・そこまで深い仲の知り合いもいないはず・・・それでも彼女達はレオン兄のたった一言『街を頼む』という言葉を守る為に・・・命を懸けている



・・・何が闇組合だ・・・まともに見れないくらい輝いているくせに・・・



どちらを優先するのが正しいのかワイには分からない・・・けど覚悟の度合いはワイとは比べ物にならない


もしかしたらそれが彼女の強さなのかも・・・でも・・・だとしても・・・



覚悟なんてそんな簡単に出来るもんじゃない



「頼みがある」


「・・・なに?」


険のある返事


多分彼女の覚悟はそう簡単には覆らない


だったら・・・賭けに出るしかない


「ギルド長達を助ける前に一度尋ねたい事がある」


「・・・情にでも訴えるつもり?『この壁を壊せば誰かが死にますが壊しますかぁ?』って」


「いや・・・『()()以外全部終わったけど壁を壊すか?』と尋ねる」


「っ!・・・へぇ・・・」


ギルド長達もフェンリルの言葉は聞いていたはず・・・なのでまだ終わっていない所があると知れば壁を壊してくれとは言わないはずだ


逆に他は全て終わっているすれば壁を壊すデメリットはない


でももし・・・デメリットがなくても壊さなくていいとギルド長が言うのなら・・・


「情じゃなくてプライドに訴えかける気?けどニーニャはそんなに甘くないよ・・・聞いてあげるけど聞き方はニーニャが決める」


プライドに訴えかける気はないけど・・・一体どういう聞き方をする気だろうか・・・


ひとまずガートン達が生き残れる可能性は残った・・・って言ってもギルド長達がどう返事するか分からないしもし壁を壊す事を断ったとしても魔人に勝てるかも分からないが・・・



壁の外に出てニーニャはギルド長達がいるであろう壁へと向かう


そして閉ざされた壁の前で息を大きく吸うと大声を出して中の2人に問う


「ギルド長!フリップ!他は全部終わった!女王もシーリス達も先に行った!今なら壁を壊してニーニャ達が加勢すれば女王達に追い付けるよ!」


くっ!そんな事を言えばギルド長達は・・・


そんなに・・・そんなに仲間を殺したいのかよ!ニーニャ!


「・・・悪いが先に行っててくれ・・・後で追い付く・・・」


「コラ!ニーニャ!誰を呼び捨てにしてやがんだ誰を!後で覚えとけよ!それとアーノンの言う通りだ・・・俺達の事は放っておいて先に行け!こっちはもうすぐ終わるからよ!」


ギルド長2人はニーニャの提案を拒んだ


本当に魔人を追い詰めているのかもしれないし強がりかもしれない・・・けど・・・拒んだんだ


「あっそ!じゃあ置いてくからね!」


そう言って壁の方を向いていたニーニャが振り返る


その顔は寂しげでありどこか嬉しそうな微妙な表情を浮かべていた


「・・・どっちなんだ?」


「何がぁ?」


「・・・いや、なんでもない」


そうだよな・・・仲間を見殺しにしたいはずがないじゃないか・・・けどニーニャは・・・


「闇組合『タートル』か・・・ワイも入ろうかな」


「ならワンも!」


あまり理解していないナルもワイに乗っかるとニーニャは立ち止まり呆れた様子でワイ達を見た


「お断りだよ・・・覚悟のないヤツなんて」


「そりゃお互い様だろ? 」


「・・・ふん!行くよ!」


ニーニャは鼻を鳴らし教会に向けて歩き出す


ワイとナルは顔を見合わせた


背後にはまだ仲間が戦っている・・・けどこの先にも戦っている仲間がいる


ワイ達は仲間と共にこの街を救うべく教会に向けて歩み出した──────


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