783階 食い合わせ
アケーナの街南門通用口
多くの人達の視線を背中に感じながら人が1人通れるくらいの通用口を前に突入する者達がズラリと並ぶ
「私が最初に行きます。ベルフェゴール殿・・・陛下をよろしくお願いします」
フーリシア王国将軍ディーン
「次に私が行こう」
ヘギオン元護衛隊長レースト
「もっとこうパーッと開けられねえのか?なんでコソコソ通用口から入らねえといけねえんだよ」
Aランク冒険者ヒューイ
「文句を言うなヒューイ。門の開閉は内側にあるから開けられないんだ分かるだろ?それくらい」
私ことアケーナ冒険者ギルド長アーノン
「本当に走ったりしないだろうな?置いてかれたら泣くぞ?」
エモーンズ冒険者ギルド長フリップ
「私も走るのは苦手でして・・・置いていかれたら共に行動しましょう」
聖者ゼガー
「うそぉ・・・とっとと行って終わらせようよぉ」
聖者の護衛ミケ
「うおっとまた小便に・・・ぐえっ」
Bランク冒険者ガートン
「待ちな。さっき行ったばかりだろ?逃げようとすんじゃない」
Bランク冒険者ウェル
「ワン」
Bランク冒険者ナル
「・・・レオン・・・」
元『タートル』ニーニャ
「ハッ、魔物共に奇術ってのはどういうものか教えてやるぜ」
元『タートル』オード
「・・・名無・・・」
元『タートル』ブル
「討伐数で勝負よ派手子!」
フーリシア王国宮廷魔術師シーリス
「・・・遊びと勘違いしておらんか?まあ負ける気はないがのう地味子よ」
フーリシア王国国王スウ
《・・・》
魔族ベルフェゴール
以上16名が二手に分かれて目的地を目指す
ディーン将軍とレーストそれとヒューイがダンジョンを目指し、残りは今回の首謀者であるフェンリルを目指す
ダンジョン組はヒューイがダンジョンに入った時点でフェンリル討伐組と合流する事になっている・・・が、問題はフェンリルの居場所が不明ってところだ
街には魔物が溢れ魔人と化した冒険者がいる・・・探し回るのは得策ではないがそれしか方法は・・・
「んで、この地図は誰に渡せばいい?」
「ヒューイ?地図とは?」
「決まってんだろ?フェンリルまでの地図だ。移動してなけりゃここにいるはずだぜ?それと魔物が少ないルートも書いておいたが・・・まあこのメンツなら必要ないかもな」
「お前いつの間に・・・」
「誰かさんが夜中に乳繰り合ってる間にだよ!」
「・・・誰かさんって誰の事だ?」
決戦前夜にそんな事をしている奴がいるとは・・・不謹慎な
それよりもフェンリルの居場所は・・・地図を広げると事細かく書いてあった。さすが『千里眼』・・・ここがダンジョンでここがギルド・・・となるとここは・・・
「教会?」
「正解!教会に陣取って色々改造していたみたいだぜ?」
「罰当たりな!教会を何だと思っているんですか!」
「いや俺っちじゃねえよ・・・落ち着け聖者」
「教会か・・・街の中心部分・・・南門と北門どちらから行っても距離は変わらないな」
「どっちにしても北門からはやめた方がいい・・・どうやらスタート地点は南門が良いらしく北門前には魔物がウジャウジャいやがる」
「逆に罠かも知れないな・・・南門から入らせるよう北門にわざと目立つように魔物を配置したのかも・・・」
「それはないと思うぞギルド長・・・あのフェンリルの口ぶりから罠を仕掛けるとは思えん。姑息な手を使うぐらいなら何でも出来るだろう?ここはヤツのダンジョンなのだから」
・・・陛下の言う通りだ
壁を出したり消したり自由に出来る・・・それはつまり私達が立っている場所に壁を出す事も可能ということ・・・もし地面から壁が出て来て突然消えたら・・・私達は為す術なく真っ逆さまに落下するだけ
殺すのなんて容易に出来る・・・けどしないのはあの言葉が本当だから・・・
今のこの街は大陸の縮図・・・そしてフェンリルは大陸を支配し私達は大陸の端に追いやられた生き残りの人間・・・奴が見たいのは・・・
《追い詰められた人間がどのような力を発揮するか・・・そしてどこまでその人間に対抗出来るか見たいはずです。勝ち負けは二の次・・・と言ってもフェンリルは負けるつもりはないでしょうけど》
ベルフェゴールの言葉通りだろう。自分の用意した魔物や魔人がどれだけ通じるか見たいだけ・・・負ければもっと強化し数を増やし勝てば人の数に応じて数を増やせばいい・・・フェンリルにとっては今回は予行演習みたいなもんだ
「その甘い考えが仇となる事を教えてやる。ディーン!」
「はっ!突入します!」
将軍の手によって通用口は開け放たれ将軍、そしてレーストと中へと入る。ヒューイが入った後は私の番・・・さすがに緊張して来た
「ギルド長!」
背後からフェリスの声が聞こえた
私は振り返ることなく手を上げてその声に応えるとヒューイに続き中へと突入した
「ハッ!ダンジョン1階ってところか?」
ヒューイが立ち止まり吐き捨てるように呟く
ディーン将軍とレーストは既に戦闘状態・・・だが相手はスライムやらゴブリンなどの下級魔物だ
どうやらヒューイの言う通りダンジョンで言うところの1階なのだろう。つまり先に進むと魔物も強くなっていく・・・おそらくそういう仕組みだ
目に見える範囲では下級の魔物以外いない・・・これなら私の魔法で・・・
「ダンジョン組はさっさと行って!ここら一帯は・・・アタシが片付ける!」
トンと地面を叩く音
振り返ると宮廷魔術師のシーリス様が杖で地面を叩いていた
「土魔法『串刺し』」
く、串刺し!?
シーリス様がそう唱えると地面から土の槍が突き出て来て唱えた通り魔物を串刺しにしていく・・・いや、凄いのだが・・・凄いのだが・・・
「お主・・・間違いなく兄妹だのう」
「ちょっと!それどういう意味!?」
陛下の言葉の意味は分からないが・・・まあ何と言うか微妙なワードセンスだ
しかし威力は凄まじく辺り一帯に魔物はいなくなる・・・少々街も壊れたが・・・その辺は仕方ないだろう
「もしかしたら建物の中に入ってるかも知らないしいっその事更地にしちゃう?」
「・・・もしこれが縮図ではなかったらお主はメンバーに選ばれんかもな」
「そう?いっそゼロから始めた方がスッキリしそうだけど・・・」
「お主は人の心がないのか?思い入れのある物だったりようやく建てた建物・・・それに思い出の風景が失われるのだぞ?」
「そうね・・・けどその悲しみも命あってのもの・・・ここでアタシ達が負ければ悲しむ事も出来ないわ。それに」
「それに?」
「更地にするくらいじゃないとこのイライラは収まりそうにないの・・・バカ兄貴のせいでね」
「・・・そうだのう・・・派手にやれ地味子」
「地味に命令するんじゃないわよ派手子」
なんだか嫌な予感がする
その予感はすぐに的中したと分かるほどの分かりやすい巨大な岩が頭上に浮かんでいた
「・・・あの・・・宮廷魔術師様・・・この頭の上の岩をどうされるおつもりで・・・」
「ん?ここからちょっと火を加えてパッパッとね」
んな料理みたいに!
「圧縮した火は既に岩の中にある・・・そこに勢いをつけるために更に岩の上から火を加えて・・・さあ砕け散りなさい・・・何もかも全て・・・『メテオフォール』」
シーリス様が杖を振りかざすと炎に包まれた巨大な岩が街の中心へと飛んで行き・・・落ちた
すると轟音と共に熱風がここまで・・・いやいやいやフェンリル死んだんじゃないか?だって・・・
「・・・派手過ぎだ・・・地味子よ」
「うんアタシもそう思う」
街の中心に隕石が落ちてほとんどの建物を吹き飛ばしてしまう・・・が、よく見ると遠くの方で全く無事な建物が・・・もしかして教会?それによく見るとダンジョン周りも無事だ・・・もしかして結界か何かが?
街の中心には隕石が落ちた場所なのかクレーターが・・・しかし次の瞬間一瞬でそのクレーターはなくなり平地となる。そして驚くべきはそれだけじゃない。吹き飛んだ建物までもが見る見る内に復元されていく
「・・・どういう事だ?」
《ダンジョンの自動復元機能です》
「自動・・・何だって?」
《冒険者の方は分かると思いますがダンジョンの中はかなり複雑になっています。石で作られたただの通路が基本ですが階によっては外のように木が生い茂っていたり、湖や砂地・・・それに溶岩地帯なんて場所もあります。更に罠や宝箱や隠し扉などギミックも豊富です。そのようなダンジョンに冒険者が進入し魔物を倒して行く訳ですがどうしてもダンジョン内は少しずつ破壊されてしまうのです。故意ではないと思われますがそれをいちいち見つけて修復していたら手間なのでダンジョンコアはダンジョン内に自動修復機能を付与するのです。宝箱の中身などのように手動の部分もありますがダンジョン内で大規模な破壊行為が行われようと・・・》
あっという間・・・あっという間だった
街がその風景を取り戻すのにさほど時間は掛からなかった
《このように元通りになります》
「・・・魔物は?」
《魔物はダンジョンの一部ではないので建物と違い復元しません》
「よし・・・結果オーライタッ!」
「何が『結果オーライ』だ・・・まあお陰で進みやすくなったがな。それより今この街がダンジョンだとしても元々は普通の街だったはず・・・それなのにダンジョン化しただけで復元可能となるのか?」
胸を張るシーリス様の頭を小突いた後、陛下は首を傾げる。言われてみればそうだ・・・ここはダンジョンコアが作り出した街ではない・・・人が作った街だ。それなのに・・・
《復元に必要なのは自ら創ったものかどうかではなくダンジョン内か否かです。ダンジョン内全てにダンジョンコアのマナが張り巡らされており記憶し復元する・・・言わばダンジョンコアが核とするならばダンジョンは体・・・なのでワタクシ達は腹の中という事になります》
「復元は治療みたいなものというわけか・・・それで腹の中にいる我らは何になる?」
《食料・・・ですね。ダンジョンとは元々人間からマナを集める為に創られたものですから。ダンジョンからしてみれば餌である魔物に釣られてノコノコと自らやって来る食料・・・養分です》
そうだったのか・・・知らなかった・・・
「食料か・・・良いではないか・・・だが食事には食い合わせというものがある・・・食い合わせの悪いものを食べるとどうなるか・・・教えてやるとするか──────」




