表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
765/856

780階 180階の攻防

頭が痛い


ずっとさっきからここが現実か幻か考えているせいだ


こんな現実を私は望んでいないから現実なのだろうけどそれを納得させるだけの確たる証拠がない・・・テレサと再会した後だから尚更だ


どんな形でも良いから生きて会いたいと願いそれが叶った・・・これが幻なら私はもう少し貪欲になるべきだな・・・慎ましいにも程がある・・・魔人と化したテレサとの再会を望むなんて・・・


「ギルド長・・・大丈夫か?」


「は、はい陛下・・・少し考え事をしてまして・・・」


今はこれからの対策を立てる為に情報の共有をしていた


フェリスを呼びギルドが把握している行方不明者の数を伝え、レーストからはダンジョン前で戦っていた時の状況とヘギオンが攫った冒険者の人数・・・そしてディーン将軍からは街全体の状況とベルフェゴールからは魔族フェンリルの実力と魔人についての考察


「魔物以外で街の奪還の障壁になるのは魔族フェンリルと冒険者であった魔人・・・魔人に関しては強さは元の強さに比例する・・・幸い行方不明になった冒険者の中に高ランクの者は少なかったらしいがあの時映し出されていた冒険者の中にAランク冒険者であるジットがいた。つまりAランクである冒険者の魔人が誕生したと考えて良いだろう。ギルド長、ジットの実力は?」


「陛下は一度ジットとヒューイと共にダンジョンに挑まれたとお聞きしましたが・・・」


「あの時は道中もダンジョン内でもほとんど活躍の場を見れておらん。実力を知るには至っておらぬのだよ」


「そうでしたか・・・ジットはフーリシア王国・・・いえ、大陸全土で見ても指折りのタンカーです。もし彼が魔人と化しているのであれば・・・たとえディーン将軍であれど簡単にはいかないかと」


ジット・・・何かの嘘であって欲しいが・・・おそらくダンジョン内で何が起きたか知る者・・・ヒューイが起きてくれば色々と聞けるのだが・・・


「ふむ・・・であれば魔人ではない事を祈ろう・・・今が幻なら祈りが届くかもしれんしな」


「あまり混乱するような事言わないでよ。てか、もし今が幻なら現実はもっと酷い事になっているって事じゃない?考えるだけで嫌になるわ」


「分からんぞ?今がお主の見ている幻かも知れぬ・・・実は破滅願望があった・・・とかのう」


「ある訳ないでしょ?・・・あー、そう言えば夢みたいなものって言ってたわね・・・いっその事ぺちゃんこに潰れてみる?夢なら醒めるかもしれないわよ?」


「アホぬかせ。現実だったらどうするつもりだ?」


「いいじゃない・・・どうせ元からぺちゃんこだし」


「視線の先が気になるのう・・・派手に死ぬか?地味子」


「ああ!今気付いた・・・ここは貴女の夢ではないのは確かだわ・・・貴方の夢の中ならとある場所がボインボインになってるはずだし」


「・・・風よ・・・イタッ!」「アタッ!」


言い争い?をする陛下と宮廷魔術師の背後に立ったディーン将軍が2人の頭を小突くと2人は叩かれた頭を擦りながら振り向き無言で抗議の視線を将軍に向ける


だがディーン将軍は逆に睨み返すと小さい少女達は更に小さくなり無言となった


「おふざけはそのくらいにして誰が行くか・・・そしていつ行くか決めましょう。民の事を考えるとすぐにでもとなりますが急いては事を仕損じるとも言います・・・失敗は許されないのである程度慎重に事を進めるべきだとは思いますが・・・」


「・・・王の頭を叩く奴があるか・・・全て終わったら覚えておけよ?・・・突入するメンバーは自薦他薦問わず集めてみるか?もちろんある程度の実力がないと厳しいと思うが・・・」


「そうですね・・・ここにいる方達・・・ギルド長以外は行くとして・・・」


「待てディーン・・・女王陛下も行くと言うのか?」


「・・・ええ。少々事情があってね・・・」


「事情?」


「この中で最も頼りになる方・・・ベルフェゴール殿は現在陛下の護衛をして頂いている。つまり陛下がここに残ると最強の戦力もここに残ると言う事になる」


「そんなもの別の護衛を立てれば良いだけだろう?」


「そうはいかない・・・ですよね?ベルフェゴール殿」


《ワタクシは主よりスウ・ナディア・フーリシアの護衛をせよと申しつかりました。なので別の命令がない限りは護衛を遂行します・・・たとえ何があろうとも》


情報の共有の中でハッキリとベルフェゴールは魔族であると知った。まあ薄々は気付いていた・・・と言うより『我ら魔族』と言ってたから知っていたが・・・その魔族であるベルフェゴールは対フェンリルに必要不可欠な存在だ。人に対して絶対的な能力を持つフェンリルに対抗出来るのは今のところベルフェゴールだけだからだ


しかしベルフェゴールは主とやらに命令された女王陛下の護衛をやめるつもりはないらしい・・・となるとあまり望ましくないが陛下を突入メンバーに入れるしか他ない・・・普通ならありえないがディーン将軍はベルフェゴールの説得すらせずに諦めていたところを見ると魔族とはそういうものなのだろう


だからこそフェンリルの『幻影』が効かないのかもしれない・・・迷いなど一切なく命令された事を遂行する・・・人ならば迷いは必ず生じるし良い意味で言うと臨機応変に対応するからな


「ギルド長・・・ギルドから冒険者は何人出せそうだ?無論強制はせぬが・・・」


陛下から話を振られ少し考える。冒険者の中には立候補する者もいるだろう・・・頼めば行ってくれる者も・・・ただ実力が伴っている者と考えると・・・


「そうですね・・・あまり多くはないかもしれません。10名いれば良い方・・・個々の実力は把握しておりませんのでランクで判断しますとAランクのみで考えた場合その人数になります」


実際に一緒に戦った事がある者はいない。ランク以上の実力者もいるだろうがそれを把握する時間もない・・・となるとランクを元に考えると10名程度だろう


最も頼れるヒューイとジットがあの状態なのが辛いところだな


「俺っちも行くぜ」


そんな話をしていると背後から声がする


振り返ると聖者ゼガー様に連れられて満身創痍のヒューイの姿があった


「ヒューイ!大丈夫なのか?」


「傷は、な・・・ところで跪いて挨拶した方がいいか?女王陛下」


「構わぬ。久しいなヒューイ・・・あまり変わってはおらぬようで安心した」


「どこが・・・まあいい。礼儀作法は学んでこなかったからこのままこの喋り方で通させてもらうぜ?」


「それも構わぬ。して何があった?ダンジョンで何があったのだ?」


ここにいる人達はヒューイがダンジョンの奥底にいた事を知っている。映像に映し出されたジットと共に


しかしヒューイは傷だらけでここに居てジットはおそらく・・・となるとダンジョン内で何かあったのは明白だった


「・・・話すと少し長くなる・・・その前に水を一杯くれねえか?──────」





ヒューイの話は衝撃的だった


ダンジョン内の話にではない・・・あの者の・・・ロウニール様の正体に衝撃を受けた。フリップめ・・・なんて方を寄越すんだ!


どうやらロウニール様の正体を知らなかったのは私だけのようで、陛下達・・・レーストさえ顔色一つ変えてはいなかった


私が驚いている中、ヒューイは淡々と話を進めていく・・・ダンジョン180階で起きた事を


「ロウ・・・ニール様が突然現れた罠にかかり残ったメンバーとフェンリルとの戦闘が始まった・・・が、どこからどこまでがそうなのか分からねえが俺とジット・・・それにレオ・・・は幻を見せられていたらしい。頭の中がぐちゃぐちゃになったぜ?もう少しで倒せそうだって時にいきなり場面が変わり倒れているスミとセンを見た時は、な──────」




時は少し遡りアケーナダンジョン180階


「・・・・・・なっ!?」


《どうだ?魔物に守られていた気分は。今までどんな幻を見ていた?ワシを追い詰めたか?それとももう既にトドメを刺していたか?それらは全てワシが見せた幻・・・現実はこれだ》


これが現実?・・・違う・・・今まさにヤツの弱点を見つけスミとセンがトドメを・・・アレ?違う・・・俺だけ戦闘から抜け出してロウを助け出してそれから・・・いや・・・


《どうやら混乱しているようだな。まああまり魔力を使わずに掛けたから幻がループしていたかもしれぬな。もっと魔力を注ぎ込めばワシを倒したその先が見えたかもしれぬが・・・》


何を言っているんだコイツは・・・ダメだ・・・頭が割れそうに痛い・・・フェンリルの言葉が頭に入って来ねえ・・・ただ俺の目に映るのはまるで溶けてしまったような姿で倒れているスミと両腕を失い地面に膝をつくセン・・・これが現実と言うなら・・・悪夢と言うしかねえ光景だ


「・・・スミとセンに・・・何をした・・・」


《何を?見て分からないか?ワシの邪魔をするから腕をもぎ取り元の姿を維持出来ないくらいにこねくり回した。魔核は破壊していないから生きてはいるがもはや動く事は不可能だろう》


「・・・魔核?何言って・・・」


《ん?まさか知らなかったのか?この2人は魔物だ・・・ロウニールの眷族である魔物・・・しかし分からぬな・・・スライムやシャドウ如きを眷族にするなど・・・ワシならもっと面白いものを眷族にする・・・例えば『人間』などを、な》


クソッ・・・頭が痛いってのに新しい情報をぶっ込んで来んなって言うんだ!


スライムにシャドウ?訳の分からない事を言いやがって・・・


「・・・ヒューイ・・・」


俺の耳ですら聞こえるか聞こえないかのか細い声・・・その声は隣に立っていたレオンから聞こえた


「黙って聞いてくれ・・・君の『千里眼』でこの下の様子は見れるかい?」


「無理だ・・・何もなければ下の階も見れなくもないがボス部屋の下は何故か見れねえ」


「・・・もしボスが倒されているとしたら?」


「・・・倒した後に見た事はないが・・・それなら見れるかもしれねえな・・・ボスが見れねえように妨害しているならな」


「試してみてくれ・・・ボス部屋の奥にある扉・・・その更に奥にある181階への階段を降りた先にゲートがあるかないかを」


ゲート?そうか・・・このダンジョンがセオリー通りならボス部屋の下の階にはゲートがある・・・地上に戻れるゲートが


余裕を見せるフェンリル・・・その横をすり抜けるように『千里眼』を発動させ視界を飛ばす


フェンリルは気付いているのかいないのか何もして来ない・・・ボス部屋から奥へと進み扉の前に・・・そして更にその奥へと進んだ


いつもならここで弾かれるがスルリと扉を抜け階段が見えた・・・これなら・・・


更に進み階段を降りると・・・見つけた・・・ゲートだ!


「・・・あったぞ・・・ゲート・・・まあどこに飛ぶかは分からねえが、な」


「さすが『千里眼』・・・ならやる事は分かっているね?」


「ああ・・・スミとセンを拾いゲートを使って一旦退散する・・・んで、その後は・・・」


「違う・・・君だけ戻るんだヒューイ」


「なに?」


「スミとセンの実力は知っているだろう?彼女達が戦って傷一つ付けられていない・・・つまりそれだけフェンリルは強いという訳だ。となると全員で脱出は不可能・・・でも君だけなら何とか・・・」


「ならお前が脱出しろレオン・・・Sランクのお前さんの方が・・・」


「ハッキリ言うよ・・・君は足でまといなんだよ。私とジットなら君を逃がせられる・・・けど君では私の代わりは務まらない・・・だろう?ジット」


「うむ」


「・・・てめえら・・・」


「文句なら後で聞くよ。私達も死ぬ気はない・・・隙を見て逃げ出すつもりだ・・・けど今は全員で逃げるよりも確実に1人は生きて地上に戻る事を優先したい・・・フェンリルの情報を伝えないと・・・ヤツは危険だ・・・対策を講じずに対峙すれば確実に負ける・・・誰であろうと」


ウッ・・・確かにあの戦いが本当に幻ならいつどうやって見させられたのか全く見当がつかない。そしておそらく3人同時に見させられた・・・これがもし3人どころではなく広範囲で出来るとしたら・・・戦うまでもなく敗北しちまう・・・あまりにも危険な相手だ


でもそれを知っていれば対策が練れるかもしれない・・・知っているのと知らないのとじゃ雲泥の差だ


だからこそ誰か一人は確実に生きて戻らなければ・・・で、消去法でいくと俺って訳か


ジットみたいに守れねえしレオンみたいに強くもねえ・・・情けねえな・・・クソッタレ!


「・・・分かったよ・・・俺っちが先に行く・・・必ず後から来い!」


「当たり前だよ・・・こんな所で死ぬ気はないからね」


「うむ」


2人と視線を交わし覚悟を決めた俺は合図など出さずに走り出す


視線を這わせた時と同様にフェンリルをすり抜け奥にある扉を目指して


フェンリルを通り過ぎた辺りで背後から爆発音が聞こえた・・・おそらくレオンの魔法だろう・・・そう言えばさっきの幻の時は何をやっているのか分からなかったが幻なら当然だ・・・俺はレオンがどんな風に立ち回るか知らない・・・だから幻でも再現出来なかったんだ


既にボス部屋の半分まで辿り着いた


背後からの音はしなくなり自分の呼吸音だけが聞こえる


もう少しで辿り着く・・・それでも速度を緩めず走っていると急に背筋に冷たいものが走る


《ワシから逃げれると思ったか?人間》


振り向く間もなく左腕に激痛が走る


見ると肘から下がなくなっており血が大量に噴き出していた


「ガッ!・・・野郎!!」


痛む左腕を押さえながら振り向くとそこには巨大な黒い狼が俺の手を咥えてニヤリと笑っていた


魔物・・・どこから・・・


一瞬思考が停止しどうでもいい事を考えているとその狼の体に透明な物体が絡みつく


《まだ動けるか!スライム!》


《俺もいる!》


そう言ってセンが俺と狼の間に割り込んで来た


そして・・・


《行け!ヒューイ!・・・俺達の・・・仲間の死を無駄にするな!!》


仲間・・・ほんの数日組んだ寄せ集めの仲間・・・しかも2人は人間じゃなく魔物ときたもんだ・・・けど・・・


「絶対に助けに戻る!だから死ぬんじゃねえぞ!スミ!セン!」


俺は仲間の・・・助けを無駄にしない為に再び走り出した


絶対に助けると誓って──────




「んでゲートを使ってダンジョン入口に戻って魔物の群れを突っ切ってここに辿り着いたって訳だ。普段ならどうってことねえ魔物だったが片腕じゃちぃとやりづらくてな・・・けど死に物狂いで何とかって感じだ」


あまりの内容に聞いていて頭が真っ白になった



そしてヒューイから出た言葉『黒い大きな狼』



あの魔物だ・・・テレサを連れ去った・・・あの魔物が・・・魔族フェンリル!


「・・・そうか・・・頼みの綱のロウニールは行方知れずジット達も・・・」


「何やってんだかバカ兄貴・・・」


「今の話からロウニール様は生きているかと・・・助け出せればこれ以上ない戦力となってくれるはずです」


「しかしそうなれば今の戦力を割かねばならぬぞ?余裕がない上にダンジョン奥深くに囚われていると思われるロウニールを探すとなると戦力的に厳しくなるのではないか?」


ロウニール公爵・・・あのロウが本当に公爵様なら是が非でも協力を仰ぎたいところ・・・だが陛下の言う通り今はギリギリの状態だ・・・余分な戦力など・・・


「助けには俺っちが行く」


「なに?」


「ダンジョンブレイクのお陰で魔物はダンジョンの外に出て行ってるはずだ。それに俺っちは181階までゲートで行ける・・・見ての通り戦力にはならねえがロウ・・・ロウニール様を見つけ出し助ける事くらいは出来る」


「ヒューイ・・・分かったロウニール捜索はそちに任せよう。となると作戦は大まか決まったな・・・突入するメンバーを選出し妾と何人かでフェンリルを目指す・・・そしてもう一方でヒューイと他の者でダンジョンを目指す。ヒューイはそのままダンジョンに入り他の者は我らと合流しフェンリルを討つ・・・出来ればロウニールが戻って来る前に決着をつけたいものよのう・・・あやつには頼りっぱなしだからな」


方針は決まった


2チームに分かれるが最終的には合流しフェンリルを討つ


あの憎き黒き大狼を討つのだ



さて、私はどちらのチームに入るべきかな?──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ