758階 縮図
アケーナの街、外壁と謎の壁の狭間
その場所にアケーナ全住民が隔離されていた
謎の壁は破壊してもすぐに元通りになり外壁の内部は魔物が蔓延る・・・出る事も戻る事も出来ずただ時間が過ぎる一方だった
ギルドにテレサが現れ、その後にフリップが現れ緊張状態が続いたがガートン達がギルドに戻って来て現状を教えてくれた
あのままテレサと戦っていたら魔物の大群に飲み込まれてしまっていただろう・・・私達は仕方なくテレサをギルドに残し街の外に出た
幸い街の外には魔物は出現していない・・・が、聞けば街の至る所にゲートが開き中級魔物や上級魔物がそこから出て来ているのだという・・・ダンジョンブレイクはダンジョンから弱い魔物から出て来るのが定説だがどうやら今回は普通のダンジョンブレイクではないらしい
「おお、ここにいたかギルド長」
「陛下!・・・ご無事で何よりです」
「うむ・・・今後の話をしたい・・・お主も来てくれ」
「は、はい!」
陛下が私を自ら呼びに?それだけ切羽詰まっているということか・・・
見渡す限りの人の間を通り少し開けた場所に着く。そこには女王陛下、宮廷魔術師様にディーン将軍、そしてヘギオンの護衛をしていたレーストがいた
「どうだ?お前達が見つけられなかったギルド長を妾が見つけて来たぞ」
「はいはい大活躍大活躍・・・そのままこの状況も打破して欲しいところね」
「それはお主がやらぬか・・・今なら街を破壊し尽くしても文句は言わぬぞ?」
「最終的にはそれもいいかも・・・ベルフェゴールとディーン将軍とアタシでやれば可能かも・・・ただそれで終わるとは思えないけどね」
「ふむ・・・冗談はさておき面子が揃ったので話をしよう・・・これからどうするかを」
これからどうするか・・・謎の壁はすぐに戻ってしまうし街の中は魔物だらけ・・・この場所には魔物は出現していないがこのままでは2日と保たないだろう。水も食料もないのだから
となると選択肢はひとつしかない
「魔物を討伐・・・それしかないのではないでしょうか」
「そうだのう。ギルド長の言う通りそれしかない・・・が、果たしてそれで解決するかどうかが問題だ」
「と言いますと?」
「諸悪の根源を叩かなければいずれ待っているのは死だ。魔物を根絶やしにし街を取り返したところであの壁がなくならない限りはやがて食料がなくなり餓死を待つのみ・・・根本的な解決には至らぬ」
「それでも外に出られないなら・・・っ!」
そう言いかけた時に陛下の後ろに以前陛下の護衛としてギルドに来ていた人物が空から降って来た
「・・・戻ったか。どうであった?」
《飛び越える事は可能です。魔法で階段を作り人間が越える事も可能でしょう・・・ただし相手がゲートを使えるとなるとそれを見過ごすかは分かりませんが》
越える?あの高い壁を?・・・いや、彼の言う通り魔法で階段を作れば可能か・・・確か宮廷魔術師様は土魔法が得意だったはず・・・冒険者の中にも土魔法が得意な者もいるはずだ。協力して高くそして広い階段を作り反対側にも作ればこの壁を越えられる・・・もはや街は魔物に占拠されていると考えたらわざわざリスクを冒してまで街を取り戻さずここから脱出した方が得策かもしれないな
「もし見過ごしてくれずゲートを使い襲って来たりしたら・・・民を守り切る事は可能か?」
《不可能です。相手が逃がさないようにするのであればいくらでも方法はあります。この壁は魔法ではなく創造によるもの・・・となるとここら一帯は自由に物を出したり消したり出来ると考えた方が良いでしょう》
???どういう事だ???
ベルフェゴールと呼ばれた護衛の言っている事が理解出来ないのは私だけではないようでここにいる全員が首を傾げていた。それを見て彼は顎に手を当て少し考えると言葉を続けた
《分かりやすく言いますとここら一帯はダンジョンと化しています》
ここら一帯・・・つまり私達が立っているこの場所もダンジョンだって言っているのか!?
「なぜここがダンジョンと?」
《インキュバス様でなければ創造の力は使えません。しかしサキュバス・・・人間がダンジョンコアと呼んでいる魔族ならば限定的ですが創造の力を使う事が出来るのです》
「その限定的と言うのがダンジョンという訳か」
《はい。ダンジョン外では使えませんが逆を言えばダンジョン内なら使える・・・ですので最低でもこの壁まではダンジョンであると考えた方がよろしいかと》
「ふむ・・・待てよ?そうなると今立っている地面も消したり出来るという事か?」
《それは出来ません。あくまで自らが創造したものを出したり消したり出来るのみ・・・なので地面も街の壁も消したりは出来ません》
「それを聞いて安心した・・・が、この壁はどうとでも出来ると言う訳か・・・登っている最中に消す事も更に高くする事も・・・となるとやはり待つしかない、か」
「待つ・・・ですか?」
「うむ。お主の言うように魔物を討伐する案も出ていた・・・が、先程も言うたように根本的な解決にはならん。なので壁の外に出る事も考えたのだ。が、それも難しいとなると待つしかないのだ・・・この件を企てた者の出方をな」
「・・・企てた者・・・」
「ダンジョンにて冒険者を攫い魔人化させダンジョンブレイクを引き起こし壁を作り我らを閉じ込めた者・・・我らを殺す気であればもっと他にやりようがあるがそうはせずこうやって生かしておるのは何か意図を感じる。その意図が分かれば対処も出来よう」
陛下の言う通りだ・・・もし本当にここがダンジョンなら魔物を使って襲う事も出来るはず・・・だがこの場所には魔物は出ていない・・・まるでここに人を集めるのが目的のような・・・けど集めてどうするのだ?街が欲しいだけなら人は要らないはずだし壁で閉じ込める必要は無い・・・かと言って殺すつもりもないとなると・・・
「ベルフェゴールよ、お主はどう思う?何を企んで我らを閉じ込めたか分かるか?」
《いえ・・・ただ分かるのは・・・仕掛けた者はワタクシの嫌いなタイプ・・・という事だけです》
そりゃ誰だって嫌いだろう・・・こんな事をする奴なんて
「妾も嫌いなのは同じだ。後手後手であるから意図を汲み取り先手を打ちたいところだがそれも無理か・・・最悪なのは待てど暮らせど意図が掴めぬ時だな」
それはそうだ。この人数でこの場所に留まる事が出来るとしたら2日くらい・・・いや、それまで持つかどうか・・・食事もそうだが排泄や魔物にいつ襲われるかも分からないプレッシャー・・・ストレスは溜まり続けいつ暴動が起きるやら・・・それに待つと言っても全ての人にその理由を伝えるのは難しい・・・なので待っている私達を見て何もしていないと不満に思う者達も出て来るだろう
《その辺は大丈夫かと》
「なに?どうして分かる?」
《企てた者はかなり用意周到であり慎重に事を進めるタイプかと・・・そして人間の事を熟知していると考えられます。でなければここまで簡単に人間を1箇所に集めるのは不可能です。となると集められた人間が次にどのような行動に出るか理解しているはず・・・その前に手を打ってくるはずです・・・思い通りに動かす為に》
「ほう・・・ちなみにお主は分かるのか?人が次にどのような行動に出るか」
《内紛が起こり自滅するでしょう。手を加えずとも簡単に滅ぼす事が出来る・・・が、それは企てた者の意図するところではないでしょうからその前に何かしら向こうから行動を起こしてくると思われます》
「よく分かっているのう・・・今は状況が飲み込めておらず着の身着のまま逃げて来て憔悴しておるが落ち着きを取り戻し冷静になればこの状況に不満を持ち始めるだろう。誰か一人でも不満を言えばそれに乗っかり増え続け不満は爆発する・・・武器を持たぬ者達がほとんどだが数は圧倒的に多い・・・それにこちらは傷付ける事は出来ぬしな。それを悟られたら民は暴れ始めやがて崩壊するだろう・・・果たして秩序が保たれるのはどれくらいか・・・然程時間があるとは思えぬが・・・」
《それは向こうも分かっているはずです。おそらくもう少ししたら・・・どうやら待たずに済みそうです》
ベルフェゴールは何かに気付き街の方向に視線を向けた
すると門の前にモヤがかかり始め、街が映し出された
これは今の街なのか?魔物が我が物顔で這いずり回っている状況が本当に・・・
〘人間共よ見ているか?これが貴様らが築き上げた街の現状だ。あー、最初に忠告しておく。ワシの声はそちらに届くがそちらの声はワシには届かぬ。一方的に話す故黙って聞け〙
突然映し出されていた場面が変わり一人の男が映し出される。その男は冷笑を浮かべながら語り始めた
〘薄々気付いていたかも知れないがこれは全てワシが仕組んだものだ。魔物を操っているのも壁を出現させたのも・・・〙
実際起きてなかったら出来るわけがないと言ってしまいそうだが全て実際に起きている現実・・・本当にこの男がやったかどうかは分からないが実際に起きているから否定しようもない
〘さて・・・特に長話する事もないから早速本題に入ろう。今のこの街は縮図だ・・・やがてこの街の現状が大陸全土となるだろう。ほとんどの地をワシが支配し魔物が蔓延る大陸・・・これまで大陸を支配していた人間は地の果てに追いやられる・・・今の貴様らのようにな〙
「魔王、アバドンに続きまた同じようなものが湧いてきたか・・・この時代は呪われておるな」
陛下が忌々しそうに呟く
確かに魔王は出現したしアバドンとやらは分からないがファミリシア王国で大陸全土を巻き込む大きな戦いがあったと聞いている・・・そして次にコイツか・・・遠い未来でこの時代は暗黒時代とでも言われていそうだな
〘そこで、だ。貴様らには抵抗してもらいたい。追い込まれ抗う人間共を演じて欲しいのだ。ワシは人間を舐めてはおらぬ・・・下手をすれば魔族よりも脅威になると考えておるくらいだ。だからこそどれ程の力を発揮するのか見てみたいのだ。街に蔓延る魔物を倒しワシを討て・・・さすればこの街は元通り人間の手に戻るだろう。ただし貴様らの敵となるのは魔物だけではない・・・これを見よ〙
男がそう言うと場面が切り替わりあるものを映し出す。そこには見知った顔がずらりと並んでいた。その中には・・・テレサの姿も・・・
それにあれは・・・レオ!?それにジットも・・・
どこからか悲鳴が上がる
もしかしたら知り合いがあの中にいたのか?
〘ここに並ぶはワシが作り上げた魔人である。ほとんどが欠陥品・・・失敗作だがようやく成功したものも出来た。これらを倒し見事ワシの前に立てれば褒美をやろう・・・死という褒美を、な。もちろん勝てれば先ほど言ったように街を取り戻すことも可能だ・・・が、万に一つもないだろうがな。ちなみに街の外には魔物は行かせぬようにする・・・戦う者は中に入り戦わぬ者は座してその場で祈るといい・・・戦う者の勝利を。では健闘を祈る〙
一方的に言った後、映像と共に声も消えた
民衆の反応は様々だ。一様に驚き言葉を失っていたがそれから怒号を上げる者や悲観し泣き叫ぶ者、頭を抱えうずくまる者や呆然と立ち尽くす者・・・何も行動を起こさなければすぐにでも暴動が始まってしまうような雰囲気・・・2日など持つはずがない・・・既に限界近い状態だ
《・・・フェンリル・・・》
ふとベルフェゴールが呟く
おそらく名前?どうやら何か知っている様子だが・・・
陛下も気付きベルフェゴールに尋ねようとした時、南門の横にある通用口が開いた
もしかしたら魔物が・・・と皆がその通用口に注目する中、現れたのは魔物ではなく血だらけの冒険者・・・ヒューイであった──────




