754階 行方不明の冒険者達
「あーあ、なんで二ーがアンタらなんかと一緒に・・・」
ギルド長アーノンに言われて行方不明になっていた冒険者を探す為に街に出た。捜索隊の3人と共に
寄りにもよってウェルとナルがギルドに寄り付かなくなった理由の一緒だなんてこっちが『あーあ』だぜ
「本来ならこっちから願い下げだ・・・けどアンタらだけじゃ何するか分からないからな・・・実績もないのにチヤホヤされやがって・・・本当は捜すフリをしていただけじゃないのか?」
「なにぃ?」
まだ数歩しか歩いてないのに早速始まった・・・なんでこんなに仲が悪いんだよったく・・・きっかけはなんだったか・・・確かナルが・・・
「そう言えばレオは何処にいるんだ?最近一緒にいるところを見かけないが」
そう・・・きっかけはナルがレオの奴に一目惚れして近付こうとしたら二ーがそれを邪魔したんだ・・・だからてっきり二ーとレオは恋人同士かと思いきや二ーは他の冒険者と仲良くしててレオもそんな素振りは見せなかった
邪魔するだけ邪魔しといてなんだよそれってよく愚痴ってたな・・・それが拗れて喧嘩に発展して・・・そこからか
「・・・レオは・・・ダンジョンの中だよ」
挑発するウェルを睨みつつ二ーは俺の質問に答えた。ダンジョンの中・・・ダンジョンブレイク中の!?
「お、おい大丈夫なのか?てか、ダンジョンブレイク中のダンジョンってどんなもんか知らねえけどなんだかヤバそうな・・・」
「・・・ダンジョンブレイクはダンジョン内の魔物が外に出ようとするからおそらくは平気だよぉ・・・おそらくは、ねぇ」
「おそらくはって不安じゃないのか!?」
「不安に決まっている!・・・けど今のダンジョンに助けに行くなんて無理なんだよ・・・次々に出て来る魔物が邪魔してダンジョンの入口にすら辿り着けない」
「ま、まあそうか・・・そうだよな・・・けどなんでレオは1人でダンジョンに?」
「・・・1人じゃない・・・レオの事は置いといてさっさと行方不明者を探しに行くよ!」
1人じゃない?誰かとパーティーを組んでいるのか?そんな話聞いたこともないが・・・
レオは色んな意味で目立つ・・・見た目もそうだが捜索隊を率いる強さも・・・噂じゃかなり腕が立つらしいがそんなレオが誰かと組めば噂になりそうなもんだがな
「ハッ、『レオの事は置いといて』?よくそんな事が言えるな・・・所詮アンタらの関係なんてそんな・・・っ!?」
ウェルの首元に2本の剣が交差する
二ーの双剣・・・間合いを詰めるのも速すぎだし剣を出したのも見えなかった・・・
「ベラベラベラベラと・・・何も知らないクセに・・・そんなに死にたいなら殺してあげようかぁ?」
レベルが違う・・・こんなにも違うなんて・・・ギルドで揉めた時はかなり手加減してたって事かよ
「やってみな・・・そうやって行方不明になった冒険者も見つけては殺してたんじゃないのか?ナルは鼻が利くんでね・・・臭うんだとよ・・・アンタらから血の臭いがプンプンとね」
確かにナルは鼻が利く・・・まだ見えていない魔物とか臭いだけで見つける事もあるくらいだ。じゃあコイツらを避けてたのは嫉妬とかじゃなくてそういう事なのか?
「・・・」
「胡散臭いんだよアンタらは・・・突然現れて頭角を現したのは別にいい・・・けどレオ以外は近くに行くとナルが顔を歪めるくらいのレベルで血生臭い・・・どこで何やってたか知らないけどそんな連中がギルドに頼られてチヤホヤされるのを見ているのはうんざりなんだよ!殺るなら殺りな・・・これでギルドも目が覚めるだろ・・・頼るべき相手を間違えたってな」
「遺言はそれだけぇ?じゃあねぇ」
おいおいマジかよ!
殺気を感じ取りナルが動くが間に合わない・・・クソッやるはずがないと油断しちまった!
だが・・・
ウェルと二ー・・・それに動き出していたナルの前で小さな爆発が起こる。本当に小さな爆発だった為に怪我はなさそうだけど一体誰が・・・
「チッ!面倒くせぇ・・・安い挑発に乗ってんじゃねえよ。レオに頼まれてんだろ?二ー」
爆発を起こしたのはオードか・・・てか、どうやったんだ?それに頼まれたって・・・
「・・・フン!分かってるよ・・・」
二ーは2本の剣をしまい不貞腐れたように言い放つ。ウェルはまだ気に入らないのかその二ーを睨みつけていた
「殺らないのか?まだワイの首は繋がってるぞ?」
「執拗いなぁ・・・死にたいなら勝手に魔物の群れに突っ込んで死になよ」
「っ!・・・てんめぇ・・・」
もはや敬遠の仲って言うより敵同士だ・・・なんでウェルはそこまで突っかかるんだ?気に入らないとか嫉妬とかのレベルじゃねえだろ
「オイオイ勘弁してくれ・・・一体俺達が何したって言うんだ?そりゃ真っ当な道を歩いてたかって言われたら答えに困るがお前さんらにゃ迷惑掛けてねえだろ?」
「『まだ』な。迷惑掛ける前にとっとと失せろ!ワイらのホームに悪党は要らねえ!」
・・・そうか・・・嫉妬とかそういうのじゃなくてウェル達はウェル達なりにギルドを守ろうと・・・
前に言ってたもんな・・・『ギルドは家みたいなもんだ』って
ウェルとナルが冒険者になったのはなりたくてなった訳じゃなく稼ぐ為に仕方なくだった・・・けど冒険者になり組合に入って冒険の楽しさを知った・・・生きる為に仕方なくから生き甲斐とまで言えるくらいに
だからギルド自体に恩を感じているのかもしれない・・・『冒険者になってなけりゃ娼婦にでもなってたかもな』って言ってた時はお前みたいな娼婦はこっちから願い下げだって言ったら半殺しにされたが今思えば感謝の言葉だったのかも
なりたくて娼婦になるのとなりたくなくて娼婦になるのじゃ全然違うだろうしな
この街の領主である貴族に逆らった時も自分達の事だけじゃなく他の冒険者を守る意味もあったのかも・・・
でもギルドや冒険者を守る為って言っても臭いだけでそこまで言わなくてもいいのに・・・そんなに臭いのか?俺には臭いなんて全く・・・・・・ん?臭い・・・でもこの臭いは二ー達からじゃなくて俺の後ろからするような・・・
そう思い振り返るとそこには1人の男が立っていた。しかも見覚えのある男・・・コイツは確か・・・
「ワック?お前ワックじゃないか?確かお前・・・」
どれくらい前だったが忘れたけど確かダンジョンで・・・
臭いの正体は行方不明になっていたワックだった。その姿を見てようやく俺達が何をしに街に繰り出したか思い出しワックに近付き話を聞こうとすると突然背後から襟を掴まれ物凄い力で引っ張られる
「グエッ・・・い、痛えじゃねえか!突然何しやがんだ!」
襟が引っ張られた事により首が締まる。苦しさのあまりに振り返りざまに文句を言うと引っ張ったのはブルと分かった
そのブルは俺の事を見ることなく険しい顔でワックを見つめていた
「おい!何か言ったらどうだ?」
「礼なら要らぬ」
「はあ?礼って・・・っ!?」
背後で轟音が鳴り響く
振り返ると地面には大きな穴が空いており土煙の奥でワックの姿が見えた
ワックが地面を?けどなんで・・・
「気を付けよ・・・普通ではないぞ」
「普通じゃないって・・・お、おい!」
二ーが、オードが、そしてブルが構える
行方不明になっていた冒険者、ワックに向かい殺気を放ち構えていた
「・・・二ー達が気に入らないって言うなら出て行ってやるよ・・・レオに頼まれた事が終わった後でねぇ」
一体何が起こってんだ?
ワックは地面に穴を空けられる程の実力はなかったはず・・・ランクは忘れたがそこまで高ランクじゃなかったはずだ
しかも地面を狙ったんじゃなくて俺を?もしブルが引っ張ってくれなかったら今頃俺は・・・
「ガートン大丈夫か!・・・なんなんだ一体・・・ワックに恨まれる事でもしたのか?」
「してねえよ!・・・顔見知り程度だったし・・・ウェル・・・もしかしたら内輪揉めしている場合じゃねえかもしれねえぞ?・・・俺達の敵は二ー達じゃなくて・・・行方不明になっていた元同僚なのかも、な──────」
アケーナ地下牢
その一番奥にある鉄格子の中に捕えられているアケーナ元領主であり侯爵であったヘギオンは途方に暮れていた
先程来たディーンには完全に無視され子飼いのレーストには置いて行かれてしまい逃げるチャンスはもうない・・・後は刑が確定するのを待つのみだった
「・・・平民ごときを何人殺そうがなんだって言うのだ・・・私は侯爵だぞ?命の価値が違うと言うのに・・・」
「命の価値・・・ねえ」
「っ!誰だ!」
薄暗い地下牢の中、突然声がして顔を上げるとそこには見知った顔があった
「貴様は・・・なんだそうか・・・よく来てくれたダストンくん」
途方に暮れていたヘギオンの顔に笑みが零れる
「『よく来てくれた』?」
「そうだ!私を助けに来たのだろう?ベラベラと私の事を喋ったみたいだがそれも許そう!それにここから出してくれたら礼は弾む・・・屋敷は取り押さえられたが私には伝手がある!女王が何を言おうが私を慕う仲間が・・・」
「仲間・・・ねえ。どうせ地位に群がった奴らだろ?光に集まる羽虫のように・・・その羽虫も光が失われれば逃げて行くはずだ・・・お前はもう光を失ったんだ・・・貴族じゃなくなった事によってな」
「貴様っ!『お前』だと?この私に向かって・・・降爵はあるやも知れぬが廃爵など有り得ぬ!たかだか平民を殺したくらいで侯爵である私が貴族でなくなることなど・・・有り得ぬのだ!」
「それが有り得るんだよ・・・俺も罰せられると思って聞いたがお咎めなしと言われた・・・で、その時気になってお前はどうなるか聞いたら『貴族という立場を利用して罪を犯したからには貴族のままにしておくことは出来ない。奴は地位を失い搾取していた平民となる』だとよ。搾取していた側から搾取される側になったって訳だ・・・気分はどうだ?『平民』」
「くっ!・・・では貴様は何しに来たと言うのだダストン!」
「ダステンだ・・・いい加減耳障りなんだよ・・・お前のその呼び方は」
吐き捨てるように言うとダステンはどこで手に入れたか牢の鍵を開けた
「な、何をするつもりだ!仲間など連れて来おって・・・まさか私を・・・」
「・・・仲間?」
疑問に思い振り返るといつの間にかダステンの背後には冒険者が1人立っていた
「お前・・・ゲザーか?ははっ、また捕まってたのかよ・・・しょっちゅう捕まってんな・・・ん?いやお前確かダンジョンで・・・ギャブ!!」
ゲザーと呼ばれた男は近寄って来たダステンに向けて腕を振るった。するとダステンは吹っ飛んで行き鉄格子に激突する
「な、仲間割れか?・・・そ、そうか・・・ゲザーと言ったな?貴様はダストンを見限り私を助けようと・・・そ、そうだよな?か、金ならいくらでも出す・・・そうだ!新たな護衛に・・・待て・・・それ以上近付くな・・・ちかっケピッ!」
ゲザーはヘギオンに近付くと拳を握り締め顔面へと放つ
ヘギオンはその場に崩れ落ち、しばらくピクピクと体を痙攣させていたがやがてその痙攣も収まり地下牢は静まり返る
ゲザーはしばらくヘギオンだったものを見下ろしていると何を思ったかその場に座り込み目を閉じた
まるで囚人であるかのように──────
アケーナ冒険者ギルド
ガートン達がギルドを出て行った後、数名の冒険者がギルドに戻って来たがその数は出て行った明らかに少なかった
アーノンが戻って来ない冒険者達を探しに行くよう依頼しようか迷っていると不意にギルドの扉がけたたましい音を立て開け放たれる
「な、なんだ!?もう少し静かに開け・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・」
「っ!?・・・嘘・・・」
アーノンが、フェリスが扉を開けた人物を見て言葉を失う
悲劇はまだ始まったばかりであった──────




