753階 行方不明者達
人気のない街中で倒れている人間を解体する人間らしき姿・・・そしてその様子を険しい目で見つめる少女
その異様な光景を見て近付くものなど皆無・・・と思いきや1人の青年が涼しい顔をしてその者達に近付いて行った
「・・・陛下・・・何をされているのですか?」
「あっ!」
「『あっ』ではありません。陛下の身に何かあったらどうするのですか?」
陛下と呼ばれた少女、スウは苦言を呈す男、ディーンから目を逸らし吹けない口笛を吹くフリをする
「・・・確かに陛下が動けばベルフェゴール殿も動いて下さるのでこちらとしても非常に助かるのですが先ずは御身の命を優先して頂きたく・・・」
「ええい!小言はそこまでだ!状況が状況なだけに仕方なかろう・・・そう言うお主は何をフラフラしている?住民の避難は終わったのか?ダンジョンはどうなっているのだ?」
「住民の避難はほぼ終わっております。ダンジョンは現在レーストに任せておりますので暫くは問題ないかと」
「・・・レースト?」
「クリナス侯爵様の護衛をしていた兵士です。これまで侯爵様直属の兵を指揮していたので勝手ながら釈放し兵を与え指揮を執らせています」
「お主だって勝手な事をしておるではないか」
「許可を取るべく屋敷へ赴きましたが不在でしたので仕方なく無許可で進めさせて頂きました」
「・・・今日のお主は言葉にトゲがあるのう・・・」
「気の所為です・・・それで何をやられていたのですか?とても一国の王がやらせる内容には見えませんが・・・」
人間を解体していた人間らしき人物・・・ベルフェゴールは立ち上がると血だらけの手を懐から出した布で拭き取る
《この人間が突然襲って来たので対処したまでです》
「対処・・・ですか?」
《ええ。それと気になった事があったので体を少々調べさせてもらってました。とりあえずこの人間は・・・魔人ですね》
「っ!・・・魔人・・・」
「やはりか・・・普通ではないと思うたが・・・」
「・・・陛下・・・詳しくお聞きしても?」
「うむ。妾とベルフェゴールが歩いておったら目の前にそこに倒れておる冒険者が近寄って来た。様子がおかしいので警戒しておったら突然襲って来たのでベルフェゴールが倒したのだが・・・」
《人間にしては硬かった・・・筋肉で覆われていると言うより魔力で覆われているような硬さ・・・かと言ってマナを使っているように見えなかったので疑問に思ったのです。それで調べていたら本来あるはずの核がなかったので・・・》
「しかし魔人とはもっと体が肥大化し肌の色も浅黒くなるのでは?見る限り普通に見えますが・・・」
《その状態は人間の体が魔力に馴染めず起きる状態です。それまで核で魔力をマナに変えていたはずが魔力が漏れだし体が急激に変化してしまう・・・しかし魔力を徐々に馴染ませれば体の変化はほぼ起きません》
「なるほど・・・シーリス殿と話しておりましたが出来るのですね・・・見た目がそのままの魔人を作る事が」
《はい。ただ普通に魔力を馴染ませるのは難しいかと・・・魔力は攻撃性が高く馴染ませようとしても人間の肉体など簡単に破壊してしまいます・・・なのでおそらくは・・・》
「おそらくは?」
《どこぞの魔族が馴染むよう仕向けたのでしょう。時間をかけてゆっくりと・・・》
「魔族・・・しかしなぜそのような事を・・・」
《そこまでは分かりません・・・失敗なのか成功なのかも》
「と言うと?」
《残念ながら自我が崩壊しておりました。ただ本能の赴くままに行動しているように・・・おそらく脳が魔力に耐え切れず破壊されたのでしょう・・・襲いかかって来たのも魔力に侵され攻撃性が増したせいと思われます。そのような人間を作ったとしても役に立つとは思えませんが・・・》
「ならば失敗したのだろう」
《だと良いのですが・・・》
「これが成功だとして言い方は悪いが使い途があるか?」
《使い途は今まさに起きた事かと》
「?」
《無作為に放った魔人・・・見た目が人間でしたら不用意に近付く人間もおりましょう。見た目は人間ですが力は魔人と同等です・・・不意を突かれれば・・・》
「・・・もしそのような者が何体もいたら大変な事になるのう・・・見た目で判断出来ぬし確認しようにも近付けば襲いかかって来る可能性が・・・ベルフェゴールだったから良かったものの妾なら対処出来なかったであろうな・・・なるほど・・・それを狙って・・・」
《大量の魔物に混じれば効果絶大でしょうね。魔物は見た目で分かりますが魔人は見た目では分からない・・・大量の魔物の中に人間の見た目の魔人が混じっていたら・・・》
「下手をすれば助けようとして逆に殺されてしまう・・・なるほど・・・考えた魔族はなかなか人間を知っている・・・」
「・・・ベルフェゴールよ、魔人はどれくらいの強さだった?」
《おそらく個体差はあるものの大した事は・・・そうですね上級魔物程度の強さでしょうか》
「それはそれは大した事ないのう・・・皆がお主と同じくらい強ければ、な。どうするディーン・・・話によると行方不明になった冒険者が多数目撃されておる・・・それらが全て魔人であるのなら・・・」
「逃げていいですか?」
「却下だ。おそらく対処出来るのはお主と冒険者数名程度だろう・・・冒険者に近付くなと言う命令も出せぬし一体どうすれば・・・」
「ギルドと連携する他ないでしょう。ギルドなら行方不明になった冒険者を把握しております・・・行方不明になった冒険者を発見したら上級魔物を相手に出来る冒険者に任せる・・・そうやって数を減らしていくしか・・・」
「そうだのう・・・しかないか・・・おそらくギルドでもここまで把握はしておるまい・・・妾がギルドに向かうからディーンは兵士達に冒険者には近付くなと伝えよ」
「はっ!・・・しかし見分け方は本当にないのでしょうか・・・今冒険者にも協力してもらっております・・・なのに冒険者に近付くな、は些か・・・」
「ベルフェゴール?」
《魔力を発している人間が魔人です》
「・・・ないようだ」
「・・・そうですか」
《・・・この人間だけかもしれませんが他も自我が崩壊している可能性が高いかと・・・話し掛け返答がなければ処理してしまえば良いのでは?》
「おお・・・処理はダメだが判断基準にはなるな・・・ディーン上手いこと出来るか?」
「話し掛け返答が出来ない者は隔離します。抵抗するようなら魔人と判断する他ないでしょう」
「だな。魔物さえ収まれば魔人だけに対処出来るのだが・・・今は願うしかないか・・・」
「願う・・・ですか?」
「ダンジョンブレイクを止めるにはダンジョンコアを破壊するのが手っ取り早い・・・なら願うしかなかろう?たまたまダンジョンの中にいるあの男がどうにかしてくれるのを、な──────」
アケーナ冒険者ギルド
「大丈夫か?だいぶ顔色悪いぜ?」
「大丈夫なものか・・・私がギルド長の時にダンジョンブレイクを起こしたのだぞ?お先真っ暗だ」
「そりゃご愁傷さま・・・まだまだ平気そうだな」
平気なものか・・・出世などに興味はないがまさかこのタイミングで起こるとは・・・まさかヘギオンが逆恨みで起こしたのではあるまいな?・・・あの男ならそれくらいしそうだ・・・出来はしないだろうけど
「んでどうすんだ?ほぼ街の中に散らばった魔物は討伐し終えた・・・ダンジョンは兵士が囲んで対処しているし俺達はどうすりゃいい?」
何体か魔物を討伐して戻って来たガートンから聞かれているが・・・私もどうすれば良いか分からない。先程報告に来た兵士の話では住民はほぼ街の外に避難したらしい・・・一時は門付近は大混乱だったらしいが冒険者やディーン将軍達のお陰で大した被害もなく
だが問題はダンジョンだ
ダンジョン内の魔物が出て来る順番は最下層から始まりどこまで出てくるか分からない。最悪ダンジョン内の全ての魔物が出て来る可能性も・・・そうなると普通の冒険者では太刀打ち出来ない上級魔物が出て来ると言う事になる。となればランクの低い冒険者は退避させるべきか・・・しかし魔物の数が多ければランクが低くても冒険者が多くいた方が・・・
「オッサン!聞いてっか?」
「ギルド長と呼べ・・・今は下手に動かず・・・」
「大変だ!アドリーが・・・」
ギルドの扉が激しく開けられ1人の冒険者が叫びながら入って来た
「落ち着け。アドリーとは?」
「ギ、ギルド長・・・アドリー・・・行方不明になってたアイツが・・・ちょうど魔物と戦ってる最中で・・・魔物を倒した後に追い掛けたけどもう・・・」
行方不明者・・・そうかその問題もあったか
「フェリス!アドリーはいつ行方不明に?」
「2ヶ月前です!アドリーさんとパーティーメンバーも2ヶ月前に行方不明に・・・」
2ヶ月か・・・半年前よりは生きている可能性は高いがしかし・・・
「本当にアドリーだったんだな?」
「見間違える訳ねえ・・・俺はアイツと同時期に冒険者になってずっと競い合ってた仲だ・・・2ヶ月前だってどっちが稼いで来るか晩飯を賭けてたのに・・・」
魔物と共にダンジョンから出て来た冒険者達・・・もしかしたら全員行方不明者なのか?
半年・・・いや2ヶ月すらダンジョンで生き抜くのは難しいはず・・・だがこうして目撃者がいると生きていたのかもと思ってしまう
今やるべき事ではないのかもしれないが行方不明になっていた冒険者を探して聞くのが手っ取り早いか・・・
「捜索隊が見つけられなかっただけでただ単に生きてたんじゃないのか?」
ガートンのパーティーメンバーであるウェルがそう言った時、最悪のタイミングでその捜索隊がギルドに戻って来た
「それは聞き捨てならないねぇ・・・ニー達が見逃すとでも?」
捜索隊を担ってくれている二ー達も街に散らばった魔物達の討伐に協力してくれていた
その二ー達が戻りガートンのパーティーと鉢合わせしてしまった。ちょくちょくパーティー同士のいざこざ・・・特にウェルとナルが二ーを一方的に嫌っており乱闘騒ぎに発展していた
その犬猿の仲である二つのパーティーが鉢合わせし睨み合う・・・今はそれどころではないと言うのに・・・
「余所者がしたり顔で歩いてんじゃねえよドチビ!用がないならさっさと街の連中と共にしっぽ巻いて逃げな!」
「これはこれはその余所者にあっさり抜かれてギルドの顔を奪われたウェルさんではないかぁ・・・まだ逃げてなかったのぉ?弱いクセに」
「てっ、てんめぇ・・・」
「ガルルルル!」
ああ・・・もう・・・なぜこうなる?冒険者同士で争っている場合ではないのに・・・
「ガートン、止めろ」
「無茶言うなよ。まだ死にたくねえ」
「くっ・・・オード!ブル!」
・・・2人してお手上げだと言わんばかりに肩を竦める
コイツらは本当に・・・
「もう勝手にしろ!誰か他に行方不明になっていた冒険者と接触した奴はいないのか!」
ギルド中に聞こえるように叫んだが誰も居ないようで返事はなかった
魔物を探し討伐していたのだ・・・それどころではなかったのだろう。やはり何か指示があるまではダンジョンから出て来たという冒険者の調査をするべきか・・・
「・・・ギルド長・・・」
悩んでいたその時、一番初めに報告に来たギルド職員のフォードが奥の部屋から出て来た
かなり憔悴していたので休ませていたのだが・・・もう平気なのだろうか?そうは見えないが・・・
「まだ休んでていいのだぞ?」
「いえ・・・その・・・伝えたつもりでしたが上手く伝わっているか不安になって・・・」
「大丈夫だ。お前の報告のお陰で被害は最小限に抑える事が出来たと言っても過言ではないだろう。だから安心して休め」
「では行方不明になっていた冒険者がなぜベネスを襲ったかも分かったのですか?」
「・・・なに?」
「・・・やはり伝わっていませんでしたか・・・申し訳ありませんあの時は気が動転していて・・・確かにダンジョンから魔物が出て来るのを見ました・・・けどその前に突然行方不明となっていた冒険者がベネスの背後に現れて彼を・・・ベネスを殺したのです」
「っ!・・・まさかそんな・・・」
いや確かにフォードは言っていた・・・『冒険者に話し掛けたらベネスを』と・・・あの時はその後に続いた魔物という言葉に反応してしまい勝手にベネスは魔物に殺されたと勘違いしてしまったがまさか行方不明になっていた冒険者に殺されていたとは・・・
やはり調べる必要があるな
だが誰に任せるか・・・実力的には二ー達だがギルドに来て日も浅い・・・果たしてどれくらいの冒険者を知っているか分からない。だとしたらガートン達か?実力も申し分ないし行方不明になった冒険者達も知っているはず・・・ふむ・・・
「ガートンのパーティーと二ーのパーティーは協力して行方不明になっていた冒険者を探して接触を試みてくれ。危険と判断したら撤退かもしくは・・・とにかく自分達の身の安全を第一に考えて行動してくれ」
「ちょちょちょ・・・オッサン!じゃなくてギルド長!」
「はあ?なんでワイらがコイツらと・・・」
「最悪・・・ダルい・・・」
予想していた通りの反応だ・・・しかし二ー達は・・・
「いいよぉ別にぃ・・・ちょうどムシャクシャしていたところだしぃ・・・足手まといさん達は来たくないなら来なくていいよぉ・・・どうせ使い物にならないだろうしねぇ」
「~~~!・・・上等だこら・・・どっちが足手まといか白黒つけてやろうじゃないか!」
「ガルルルル!」
「怖い怖い・・・来るなら来なよぉ・・・格の違いってやつを見せてあげるよぉ」
・・・これで良かったのか・・・あわよくば共に行動して仲良くなってくれればと思ったのだが・・・
不安に思う中、二つのパーティーは睨み合いながら共に外に出て行った
今は緊急事態だ・・・アイツらも分かって・・・いるよな?
「ギルド長・・・他の冒険者さん達はどうすれば?皆さん徐々に戻って来ていますが・・・」
フェリスに言われてギルド内を見渡すと確かにかなりの人数が戻って来ていた。彼らを全員行方不明者の調査に向かわせるのは危険かもしれないな・・・
「ダンジョンの方も気になる・・・いつ救援依頼が来るかもしれないしとりあえず待機だな・・・変化がなければ兵士からの報告もないかもしれないから誰かに状況を確認して来てもらえ」
「畏まりました。どなたかに依頼してみます」
ふぅ・・・これでいいだろう・・・後はディーン将軍達が何とかしてくれるはず・・・気になる点は多いがこちらからは派手に動かずに指示を待つとしよう
いつ何があっても対処出来るように──────




