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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
757/856

752階 アケーナを救う為に

「何を訳の分からない事を・・・どうせ私達だけでアナタを倒しマスターを助けようと思っていたのです・・・人間などどうでもいい」


ウロボロス様から聞いていた事をマスターは話してくれた


このダンジョンには『幻影』のフェンリルという魔族がいる、と


何でも素行の悪さでインキュバス様に閉じ込められていたとか・・・魔族の中では下位という話だからそれなら私達でも・・・


《まだ勝てると思っているのか?しかも人間の姿のままで?ワシも舐められたものだ》


「っ!・・・アナタどこまで・・・」


《女がスライム、男がシャドウ・・・貴様らのマスターの実力は認めるが従える配下の趣味はあまり良くないようだな。ワシなら・・・》


フェンリルが言い終わる前に部屋の奥から槍を持つアークデーモンが姿を現す


《ワシならこれくらいの魔物を従えるがな・・・もう貴様らとの戦いは飽きた・・・コヤツと遊んでおれ》


アークデーモン・・・上級魔物の中でもかなりの上位・・・けど


《蹂躙無尽!》


すぐさまシャドウセンジュが飛び掛ると長剣を片手で軽々と振り回す。アークデーモンは初めこそ受け止めていたものの休むことなく続く斬撃に次第に後退りそして最終的には切り刻まれ絶命した


シャドウセンジュがコピーしたセンジュという人間はどれほど強いか分からない・・・けどおそらく今はシャドウセンジュの方が上・・・コピー元を完全に超えているはず


元々シャドウはコピーしてもシャドウ自体の強さを超えられない。だからいくら強い相手をコピーしたとしてもシャドウ自体の強さが限界値となる。でもシャドウセンジュはマスターの眷族・・・その強さの上限は普通の魔物とは比べ物にならない


《・・・役立ずが・・・やはり貴様らはワシが相手するしかない、か》


アークデーモンが出た事により下がっていたフェンリルが再び私達の前に立つ


先程は一方的にやられたけど今度はそうはいかない・・・マスターのお陰で魔力量は引けを取らないはず・・・後はどうにかシャドウセンジュと連携して・・・


《らしくないなスラミ》


「っ!?・・・シャドウセンジュ・・・アナタ何を言って・・・」


《マスターのダンジョンのあらゆる権限を与えられサブマスターとしてダンジョンに君臨する魔物にしてマスターの創造せし最初の魔物・・・それがお前のはずだスラミ》


「そんな事アナタに言われなくても・・・そもそもアナタは無口なはずじゃ・・・」


《喋れば喋るほど『感情』とやらが湧き出て来る・・・俺は人間ではなく魔物・・・マスターの為に尽くしマスターの為に死んでいく物・・・感情など必要ない・・・マスターの横に並び立つ者ではないのだから・・・》


「では私に向かって言った『らしくない』とは?魔物らしくないと言いたいのですか?」


《違う・・・お前は無理をしなくてももうマスターと並び立つ者だ。なのに何を恐れる?お前の姿形が人間のそれでないとマスターはお前を拒絶すると言うのか?》


「違う!マスターは・・・」


《マスターならこう言うはずだ・・・『スラミ!行くぞ!』とな。その時お前はどう応える?今のように自分を偽り共に戦うか?それとも・・・》


「ちょっと待って下さい・・・今のマスターの真似のつもりですか?」


《これでもマスターの身代わりもした事がある・・・似ていただろう?》


「まったく全然これっぽっちも似てません!・・・ですが・・・マスターなら言いそうです・・・『行け』ではなく『行くぞ』と・・・その言葉が魔物にとってどれ程の価値ある言葉か考えもせず・・・」


《だろうな。俺もそうなりたいが叶いそうもない・・・だからせめて役立つ物でありたい・・・あり続けたい》


「・・・マスターに聞いてみたらどうですか?『私は物ですか?仲間ですか?』と」


《・・・聞けるならとうに聞いている・・・怖いのだよ・・・聞くのが》


「・・・答えは分かっているクセに・・・」


《そろそろ無駄話はやめてかかって来ないか?貴様らの後も予定がつかえているのだが・・・》


シャドウセンジュとの会話に割り込んで来たフェンリル


気付くと逸る気持ちが幾分収まり冷静さを取り戻している自分に気付く


「・・・その予定は全てキャンセルした方がよろしいかと・・・」


《ほう?まだ分かっていないらしいな・・・自分とワシの実力差を》


「実力差など分かっています・・・けど・・・なぜだか負ける気はしません》


人間の形が少し崩れ人間に化けた当初のように不安定な状態になる。言わば半人間半スライムのような状態


別に人間に未練がある訳では無い・・・この状態が最も力を発揮出来るからだ


《まるでマスターみたいだな・・・スラミ》


《当然です・・・私はマスターが創られた初めての魔物ですから!──────》





アケーナ南門


「・・・どうなってんだこりゃ・・・」


メインの門が閉められ横に備え付けられている通用口から人々が競うようにして外に出て来ていた


それを目の当たりにし男は頭を掻きながら門番に近付く


「おいなんで門を閉鎖してんだ?それに街から出て来てるのもどう見ても出たくて出てるように見えねえけど・・・」


「・・・街は現在閉鎖中です!お下がり下さい」


「いやだからそれがなんでだって聞いてんだよ」


「・・・お下がり下さい」


「理由は言えねえって訳か・・・この規模だと大体察しがつく・・・起きやがったな・・・ダンジョンブレイクが」


「っ!・・・・・・・・・」


「黙りか・・・まっ、情報統制って言うよりは外部に漏らしていいか判断が付かねえってところだな。そこまで指示が行き渡ってねえ・・・つまりまだ起きたばっかってところか」


「・・・」


「安心しろ。ダンジョンブレイクは外部に漏らすなって言うより積極的に伝えないとならねえ事案だ。じゃねえと被害は拡大する一方だからな。近隣のギルドにも救援依頼はいっているはず・・・にしてもダンジョン都市でダンジョンブレイクか・・・笑えねえな」


「・・・貴方は・・・」


「・・・しがないオッサン冒険者だ・・・元だけどな。中に入れろ・・・俺が片っ端からぶっ飛ばしてやる──────」





アケーナ街中


「・・・なんだか騒がしいな・・・これがアケーナか・・・」


「違うと思うけど?いきなり騒ぎ始めたし何かあったんじゃない?」


5人の冒険者・・・シューティングスターはエモーンズからようやくアケーナに到着していた


金さえあれば馬車でもっと早く来れたのに・・・そう道中は何度も思ったがその度にエモーンズを出る際に起きた事を思い出し『命があっただけでも儲けもの』だったと思い直していた


そんな彼らがアケーナに着き初めて訪れる街に興奮しながらも散策していると街全体が騒がしくなり逃げ惑う人達が彼らを通り過ぎて行く


「・・・これで何もなかったら逆に恐ろしいな・・・これからアケーナでやっていけるか不安になるぜ」


「・・・確かに・・・」


そんな事を仲間内で話していると剣を腰に差した冒険者風の男がシューティングスターを見掛けて声を掛けて来た


「おいお前達!逃げるか戦うか早く決めた方がいいぞ!」


「戦うか・・・逃げる?」


「知らねえのかよ!?ダンジョンブレイクが起きたんだよ!腕に自信のある奴らは魔物の討伐に向かってる・・・俺は悪いが逃げさせてもらう・・・こんな所で死にたくはねえからな」


「ダンジョンブレイクだって!?」


「今は貴族の兵士とか他の冒険者達が必死になって魔物を食い止めてるがおそらくこの街は・・・悪いことは言わねえ・・・お前達も逃げた方がいい・・・じゃあな!俺はもう行くぞ!」


そう言って男は足早に去って行く


それを無言で見送るとシューティングスターの面々は顔を見合せニヤリと笑った


「面白ぇじゃねえか・・・Cランクパーティーシューティングスターのデビュー戦にゃもってこいだ!行くぞてめえ・・・ら?」


盛り上がるシューティングスターの面々に水を差すようにまた冒険者風の男が近付いて来た。さっきの冒険者とは違う男・・・しかもフラフラと足取りが覚束ず怪我をしているように思えた


「どうした?魔物にやられたのか?安心しろ・・・このシューティングスタッ」


「ヒィ!?な、何を・・・」


首が飛ぶ


そして地面に転がる頭部を見ても尚何が起きたか理解出来ずに叫ぶとまた一人・・・また一人と冒険者の無慈悲な攻撃により絶命していく


Cランクパーティーシューティングスター・・・その名の通り流れる星のごとく繰り出される連携攻撃で幾多の魔物を仕留めて来た・・・だが、その自慢の連携攻撃を繰り出す間もなく残りはあっという間に一人となってしまった


「・・・そんな・・・何なのよ・・・こんな事ならエモーンズで・・・」


仲間の血を浴びた冒険者が無表情で近付いて来る


視界の端には動かなくなった仲間達


覚悟を決めた彼女は愛用していた杖を構えた


「くたばれ・・・ファイヤー・・・」


もしかしたら逃げることなら出来たかもしれない。しかし彼女が選んだ道は仲間達と共に戦う道だった


しかし強くイメージし詠唱を省いて出そうとした炎のナイフは形成されることはなかった


軽く振るわれた手が彼女の頭部をもぎ取ると残った体は血を噴き出しゆっくりと倒れる


冒険者はしばらくその場に立ち尽くした後、手に持った彼女の頭部を投げ捨てまた歩き出す


行くあてもなく──────





カツンカツンと石畳を叩く音が聞こえる


鉄格子に囲われた男はその音が近付くとおもむろに顔を上げた


「・・・貴様・・・」


「・・・」


久しぶりに出した声は思った以上に出づらく思いの丈をぶちまけたかったがその先は続かなかった


「・・・何しに・・・来た・・・この姿を笑いにでも・・・来たと言うのか?」


「・・・手短に話すよ。君の力が借りたい」


「っ!・・・天下の将軍様がこの私に力を借りたいと?名も知らぬ私に・・・力を借りたいだと!?ディーン!!」


「名前なら知っている・・・いや、思い出した。あの頃は強くなりたい一心でね・・・必死だったからあまり周りが見えてなかったんだ。けど戦って思い出した」


「思い出した?・・・私は一度も・・・一度たりとも忘れた事がないと言うのに・・・思い出しただと!?」


「弁解の余地もない・・・けど思い出し君の力が必要だと思いここまで来た・・・今街に魔物が溢れている・・・信じられないかもしれないがダンジョンブレイクが起きたんだ。陛下の護衛として数名の部下を連れて来てはいるがそれだけでは対応し切れず君の部下に手伝ってもらっている・・・君にはその部下達を指揮してもらいたい」


「元部下だ。ダンジョンブレイク?私には関係ないな・・・貴様が収めろ・・・至高の騎士!」


「無理だからこうやって頼んでいるんだよ。まだ魔物は低階層の魔物だけ・・・次に中階層、最後は高階層の魔物が出て来るだろう。このままでは街は崩壊・・・下手すれば国中に魔物が溢れ返る事態になりかねない・・・陛下の判断で街は閉鎖し魔物はこの街に閉じ込めることは出来るかもしれないがもしドラゴンなど大型の魔物が出て来たら閉鎖していても意味がない・・・それに・・・」


「・・・それに?」


「陛下は逃げずに戦い続けるはず・・・もし陛下の身に何かあれば・・・この国は滅亡する・・・必ず」


「・・・あの小さな女王陛下にそこまで期待しているのか?この国が背負えると・・・本気で思っているのか?」


「少なくとも君が仕えた主よりは・・・それに陛下の傍には私がいる」


「・・・大した自信だ・・・」


「少し傲慢だったね・・・言い換えよう・・・私達がいる」


「・・・」


「たまには同じ方向を見てみないか?向かい合っている時とは違う景色が見えるかもしれないぞ?レースト・ファース」


「・・・思い出したのは本当らしいな・・・同じ方向か・・・吐き気がする」


「・・・」


「しかし一度だけなら見てみるのも悪くはない・・・どれだけつまらない景色だったか後で感想を言ってやろう」


「っ!・・・酒の席でなら聞いてあげるよ」


「ぬかせ・・・貴様は酒が飲めないだろう・・・すぐ酔い潰れると有名だったのを私が知らないと思ったか?」


「・・・なら飲まずに聞くとしよう・・・いい感想になる事を願っとくよ」


「それはない・・・私の剣と鎧を準備しろ・・・この街は長い間私が守って来たのだ・・・魔物に荒らされる訳にはいかぬ」


「初めっからそう言えば・・・剣と鎧は既に準備している・・・期待しているよレースト・ファース」


「せいぜい背後には気を付けろ・・・ディーン・クジャタ・アンキネス」


2人は見つめ合う


ディーンは笑みを零しレーストはそれを見て眉をひそめた


そしてディーンが鉄格子の扉を開けるとレーストは愛用していた剣と鎧を受け取りディーンの横に並び立つ


「状況は?」


「さっき言った通りだよ」


「違う・・・私の兵の状況だ」


「ダンジョンを包囲している者達と住民を逃がす者達に分けている」


「なら貴様は逃がしている兵をまとめろ。私はダンジョンに向かう」


「・・・功を焦るなよ?」


「今更・・・貴様が考えそうな動きをしてやる。言っただろう?同じ方向を見てやる、と」


「それはそれはありがたい・・・死ぬなよ・・・レースト」


「それはこっちのセリフだ。感想を聞かずに死んだらあの世まで追いかけて聞かせてやる」


2人はそのまま石畳を歩き建物の外に出た


外に出ると街中から悲鳴のような声が聞こえてくる


「ダンジョンの方向は?」


「誰に言っている?貴様こそ迷ってダンジョンの方に来たら魔物と間違えて殺すぞ」


「・・・人選を間違えたか・・・」


「何か言ったか?」


「いや・・・気を付けるよ・・・じゃあよろしく頼む・・・くれぐれも・・・」


「言うな・・・くどい」


「・・・」


2人は背を向け別々の道を歩き出す


しかし見ている方向は同じ・・・アケーナを救う為に歩き出した──────





「あの・・・私の存在を忘れていないか?・・・レースト?・・・ディーン将軍?・・・ダ、ダンジョンブレイクが起きているのだろう?このままだと私は・・・おーい!聞こえてないのか!?誰か・・・誰かいないのか!?おーい!」


アケーナにある留置所の一番奥底から叫び続ける


だが、そこには既に誰もおらずただ虚しくヘギオンの声だけが木霊していた──────

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