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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
753/856

748階 ボス待機部屋

「ふぁぁ・・・っと!」


あまりにも暇過ぎて欠伸をしていたらヒューイに睨まれてしまった。だって仕方ないだろ?これまで出番もなくただ歩いているだけ・・・しかも相変わらずスミとセンの独壇場で緊張感の欠片もありゃしないのだから


「気を引き締めろ・・・と言いたいところだが、まあ無理もないか。俺っちですら自分の存在理由に疑問を抱いていたところだしな。まだ俺っちは『千里眼』を使っているだけマシ・・・お前とジットは何もしてねえしな」


「・・・フン・・・」


俺と同じくジットも活躍の場が全くない状態だ。何せ魔物が出たら攻撃される前に2人で瞬殺してしまうのだから


それもヒューイの『千里眼』があるお陰なのだけどあまりの2人の活躍にその『千里眼』すら霞んで見えてしまう。自重させたところで無駄に時間を食うだけだし仕方ない面もあるがもう少し抑えさせるべきか・・・いや、今更だな


100階以降のダンジョンに出て来るのは上級魔物。ぶっちゃけ冒険者で例えるとAランク相当の魔物だ。対するスミなんかは序盤に出て来る下級魔物のスライム・・・冒険者ならGランク程度だろう。しかしその強さはランク相当ではない・・・俺の眷族であるってのもあるが自ら成長して今や上級魔物以上・・・冒険者で言うとSランク相当に値する


まだ本来の力を使わずにいられるということはおそらく最下層の200階まで俺やジットの出番はないだろう


魔族でも出て来ない限りは



怖いくらい順調に進み三日が経過した時には既に170階を越えていた。このままのペースで行けば200階には二日も掛からないだろう


魔物も代わり映えしなくなり油断しない方が難しくなった時、突如としてダンジョンは急激な変化を見せてきた


「・・・いきなり待機部屋?」


それは180階に降りてすぐだった。『千里眼』を使うまでもなく誰でも見れば分かる構造・・・階段を降りると大きな部屋がありその奥に大きな鉄扉がこれ見よがしに存在していた


明らかにあの扉の奥には何かがあると思わせる・・・通常ならあの扉の奥にはボスがいて倒すまで戻る事も進む事も出来なくなる通称ボス部屋に続いているはずだ


しかし階段を降りてすぐに待機部屋があるのは珍しい・・・と言うか初めてだ。エモーンズのダンジョンには手抜き用にそういった階層はあるもののそれはあくまで仮で作っただけであり本番はもう少し凝った作りにしようと思っていた


まさかこのダンジョンも作りかけ?・・・いやそれなら200階まで作る前に180階を完成させそうなものだけど・・・


「扉の奥に魔物がいやがる・・・って事はやっぱりここは待機部屋で間違いないようだ」


「手抜きもいいとこだのう・・・こっちとしては助かるが」


「そうだな。しかもボス部屋ときたら次の階にゲートがある可能性が高くなる・・・もしゲートがあればかなり攻略が進んだ事になるな」


そうだよな・・・101階からゲートなしだから引き返せばまた101階からになる。最短ルートを通ったとしても日数はそれなりにかかるからまた挑戦って気分にはそうそうならないだろうな


「一旦休憩しよう。万全を期してボスに挑む!まあその先にゲートがあったらラッキーくらいに思っとけ・・・あると思ってなかったらショックがデカイからな」


まあなくてもゲートでここまで戻って来れるしショックはないけど・・・いきなりの変化が気になるな


どうして180階にボス部屋を設けた?ここまで行けば最後まで同じような作りにしそうなものだけど・・・そう言えばウロボロスは何も言ってなかったな・・・もう少しダンジョンの事を聞いとけば良かったか


「おいロウ!何ボサっとしてやがる。ここまで働いてねえんだからこういう時率先して動け」


「あ、はい」


ヒューイに怒られいそいそと休憩の準備を始める。と言ってもレオンから荷物を受け取り飲み物と軽食を配る程度だけど


スミとセンが手伝おうとしたけど座っておけと伝えてゴソゴソと荷物を漁る・・・フリをする。リュックの中は空っぽで中でゲートを開いて倉庫に入れて置いた荷物を取り出していた


「手伝おうか?」


「座っとけ荷物持ち」


「酷い・・・ここまで持ってあげたのに」


「中身のないリュックを、な。それよりレ・・・セシス・・・どう思う?」


「何がかな?」


「いきなりボス部屋が出て来た事に違和感があるんだけど・・・お前はどう思うか気になったんだ」


「うーん・・・未踏のダンジョンだから何があってもおかしくないと思ってたけど・・・ロウは何か異変を感じるのかい?」


「異変って程じゃないけど同じ作り手として唐突だなって思ってね」


「そうかな?ダンジョンなんて結構そんなものかと思うけど・・・いきなり外みたいなフロアだったり一直線だったりそれまでと趣向が変わるのはダンジョンらしいとさえ思えるけどね」


うん?そっか・・・そうだよな。別に特におかしいことではない・・・なのになぜだろう・・・妙な違和感を感じたのは


ウロボロスに聞いてなかったから?まあアイツが率先して教えてくれる訳ないしもし率先して教えてくれたら逆に怪しい・・・聞かれなかったから言わなかっただけって言われるのが目に見えている


ならなぜ・・・そう言えばウロボロスは散歩みたいなものと言ってたけどボス部屋はどうなるんだろ?部屋に入るとボスを倒すまで進む事も戻る事も出来ないのがボス部屋だ・・・道中の魔物がウロボロスに襲って来ないのは分かるけどボス部屋はどうなんだろ?


さすがにウロボロスもボスを倒して進んだのか?それともボスがペコペコしながら扉を開けて通したか・・・まさかボスが自殺・・・はないよな


「おい!何してんだよ!日が暮れちまうぞ!」


ダンジョン内なので日が暮れたのが分かるかどうかはともかく、待ちくたびれたヒューイがレオンと話をしていた俺に向かって叫んだ


ムッとした表情を浮かべたスミがヒューイに文句を言おうとしたのか立ち上がった瞬間・・・奥の扉が突然開き始める


「・・・あ?」


「まさか・・・そんな・・・」


ボス部屋の扉が勝手に開くなんて聞いたことがない。しかも誰かが開けたのならともかく独りでに開き始めるなんて・・・


もしかしてボスがこの待機部屋に入って来るかも知れない・・・普通のダンジョンならありえないがここアケーナダンジョンなら充分ありえる


休憩ムードから一変臨戦態勢に入り既に開き切った扉の先を見つめる


本来いるはずのボスは見当たらない・・・一体どうなってんだ!?


「ジット!先頭につけ!他は武器を構えて待機だ!」


「お、おう!」


ヒューイの指示が飛ぶ


ジットは指示通りに動き先頭に立つと左右に分かれた盾をくっ付け大盾にして地面に刺した


スミとセンは何故か俺を守るように俺の前に立つと各々の武器を構える。何か言おうとしたが今は扉の奥に集中した


その時


《クッカッカッ・・・待ちくたびれたぞ》


1人の男が扉の奥から現れる


若い髪の逆立った青年・・・目つきを鋭く大きな口を広げて笑みを浮かべると俺の方を見て言い放った


「待ちくたびれた?」


《そうだ・・・ずっと待っていたのだ・・・お前を》


俺を?なぜ?


俺とスミとセンだけは気付いていた。コイツは人間でもなければ魔物でもない・・・魔族であると


しかし魔族が俺を待つ理由が分からない・・・配下になりたい・・・って訳でもなさそうだし・・・


「な、なんで人がボス部屋から?」


「ヒューイ!思い出せアーノンの話を!」


「アーノンの話?何の事だよ!」


「アーノンのパーティーがやられた時・・・その魔物は扉など関係ないと言わんばかりに突き破り出て行ったと言っていた!ダンジョンのボスはボス部屋から出られぬはず・・・もし出れるとしたらそれは・・・特別変異の魔物かもしくは・・・」


「バッカありゃ意識が混濁して幻でも見たって話だろ!?それにあの話じゃそいつは人間みたいな見た目じゃなくて黒い巨大な狼だったって・・・」


《ほう?ワシの姿を見て生きている者がいたとは・・・そう言えばあったな・・・ワシの事を外に伝えさせる為にわざと逃した時が・・・あの時の人間か。お望みなら見せてやろうか?ワシの真なる姿を》


そう言うと男は魔力を纏いその姿を変えていく・・・黒い・・・巨大な狼の姿へと


「っ!・・・マジかよ・・・」


「アーノンが見たものは本当だったのだ・・・黒い大狼・・・」


《さて、お遊びはここら辺にして本題に入ろう》


そう言うとまた姿を変え人間の姿に・・・ははっ、なかなかサービス精神旺盛じゃないか・・・


「フェンリル」


《ほう?知っていたかワシの名を・・・いや、聞いていたという方が正確かな?》


「・・・」


《クッカッカッ・・・怖い怖いな・・・さすがインキュバスとアバドンを葬り去った人間よ・・・やはり用意して正解だった》


「えっ!?ちょ・・・話についていけないんだが・・・」


「インキュバスとアバドン?何の話だ・・・ロウ!」


ヒューイとジットがこちらに振り向く


もうここまで来たら黙っている意味もないし別にバラしてもいいのだけど・・・それよりもフェンリルの野郎だ


用意?何の用意だ?


《聞かれているぞ?答えぬのか?・・・お主が答えぬのならワシが答えてやろう。インキュバス・・・いや、人間には魔王と呼ばれていた魔族を倒し、現れたらこの世は滅すると言われていた『破壊』のアバドンを倒せし者・・・そして・・・人間でありながらダンジョンコアを飲み込み魔族となった人間・・・それがお主であろう?ロウニール・ローグ・ハーベスよ》


「え?」「なぬ!?」


待て待て・・・ダンジョンコアを飲み込んだ事まで知ってんのか?って事は・・・


「聞いたのか?・・・ウロボロスに」


《お主もワシの事を聞いたであろう?お互い様だ》


チッ!にゃろう・・・まさか今度はフェンリルと組んで・・・


《話をどこで聞いたとかそんなものはどうでもいい・・・問題はワシとお主・・・ひとつの時代に支配者が2人いる事だ。支配者は1人でいい・・・そうは思わぬか?》


「一体何の話だよ・・・俺は支配者なんかじゃない・・・ただのロウニール・ローグ・ハーベスだ」


《欲がないな。支配出来る力を持つクセに・・・まあいい、ひとつ提案だ。ワシと組む気はないか?お主とならよりスムーズにこの地を支配する事が出来るはず・・・ああ、返事は要らない。どうせ断られるのは知っている》


「なら聞くなアホか」


《万が一というものがあるだろう?だが話している途中で拒絶の意志を感じたからな。さて・・・では敵同士・・・という事でいいかな?》


「当たり前だ・・・それ以外のなにものでもない」


《そうか・・・残念だよロウニール・ローグ・ハーベス・・・解放者よ!》


そう言うとフェンリルは地面に手をついた


魔法?いや・・・まさか・・・


《こういう時はこういうのだろう?ワシのダンジョンへようこそ・・・とな》


突然の浮遊感・・・見ると地面にポッカリと穴が空いていた


俺は吸い込まれるように落ちていき上を見た時には既に穴は閉じられていた


やられた・・・あの野郎・・・



俺と同じダンジョンマスターだ──────


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