747階 積年の願い
聖者ゼガー様の助力によりヘギオンの協力者はすぐに見つける事が出来た
内勤者にはおらずダンジョンの入口を見張っていた職員全員がヘギオンに協力していたらしい。合計6名ものギルド職員が・・・僅かな金を受け取り『行方不明になっている冒険者はダンジョンに入った』と偽った・・・
もちろんその6名は即日懲戒解雇処分とし、その足で女王陛下の元へと連行した
陛下の代わりに職員の身柄を受け取って下さった宮廷魔術師様は罪としてはあまり重いものにはならないと仰っていたな。貴族と平民の立場を利用したと考えられるから情状酌量の余地はある、と
だが冒険者を守る為にギルドはある・・・その職員が冒険者を陥れるような事をしていたのだから無罪放免とはいかないだろう
「お陰で助かりました。聖者様がいらっしゃらなければ捕まえる事はほぼ不可能でしたでしょう・・・証拠など何も残っていなかったようですし・・・」
ギルド長室に今いるのは陛下が派遣して下さった聖者ゼガー様とそのお付の方
なんでもぜガー様はこれまでラズン王国にいらっしゃったとか・・・お付の方は見かけない格好なので聞いたらラズン王国出身の方らしい
ラズン王国でゼガー様を護衛していてフーリシア王国にゼガー様が戻って来られる事になった際、共に来られたのだとか
普通なら聖女聖者様は聖騎士に守られていると思っていたから少々面を食らってしまった
「お気になさらずに。聖者の仕事には法務も含まれております・・・『真実の眼』は治療だけではなく嘘を見抜く事も出来ますしね」
「ありがとうございます。しかしお恥ずかしところをお見せしました・・・本来なら管理責任を問われるところなのですが・・・」
職員達を連れて行った時に宮廷魔術師様に辞表を提出したがその場で破かれてしまった。『これ以上アタシの仕事を増やさないでくれる?』と言われながら
「そんな部下の管理で責任取ってたらゼガーなんてとっくに聖者どころか罪人よぉ」
「・・・ミケさん・・・護衛は会話には入らないものですよ」
「そうなのぉ?」
「それに私が罪人となるのならそれは間違いなくミケさんのせいですよ」
「まじぃ?」
「まじぃです」
ラズン王国に知り合いはいないがみんなこんな感じなのか?護衛にしてはノリが軽いような・・・
「・・・なんかバカにされている気がするぅ」
「そ、そんな事は!・・・そ、それよりも御二方はどうやってここまで早くアケーナまで来れたのですか?まさか既にこちらに向かっておられたのですか?」
「いえ。お話を聞いた時は王都におりました」
「へ?いやしかし・・・」
「世の中にはいるのですよ。何事もこなせる神のような存在が。例えば王都から一瞬で私達をここまで連れて来る・・・など神の奇跡のような事を平然とする方がいるのです」
「以前は化け物呼ばわりしていのに今は神なんだぁ?」
「ミケさん!」
神・・・ハハッ・・・まさにそんな事が出来るなら神様かもな
もしかして話をはぐらかしているのか?それならあまり追求しない方が良さそうだ・・・聖者様の不興を買うなど以ての外だし
「それで聖者様達はいつまでこの街におられるのですか?ギルドとしては聖者様が街におられるだけでかなり心強いので出来れば長く居て頂きたいのですが・・・」
この街にも教会はあるし冒険者の中にはヒーラーもいるから回復にはそこまで困ってないが聖者様となれば話は別だ。魔蝕は聖者様だけが治せる病気ではなくなったがそれでも聖者様が街に居るだけで安心感が違う。怪我をする機会が一般の仕事より高い冒険者は特に
「女王陛下が滞在されている期間中は滞在する事になりました。まああの方が居るならば私など不要かも知れませんけどね」
「あの方?」
「・・・いえ、こちらの話です」
あの方が居るなら聖者様が不要?そんな人が今アケーナにいるのか?・・・この話もあまり深くは聞かない方が良さそだな
「話は変わりますがとうとうアケーナダンジョンの攻略を目指していると聞いておりますが順調なのですか?」
「え、ええ・・・順調のようです」
そう・・・それが女王陛下が私を訪ねてた理由の二つ目だ
『攻略を続けよ』
そう言われた時は一瞬なぜ?と思ったが陛下は行方不明者の増加は組合が無くなった事にあるのではなくやはりダンジョンに異変が起きていると踏んでいるようだ
組合復活を願うフェリスには悪いが私も陛下と同じ考えだ。このダンジョンには何かある・・・きっと──────
「という訳で悪の根源であるヘギオンは失脚・・・攻略もそこまで急がなくていいってお達しがあったが・・・今回は200階まで行くつもりだ」
ヒューイ達の耳にもヘギオンの事は届いていた。と言っても今朝ギルド長から聞いたみたいだけどね
街の混乱を避ける為に暫くヘギオン失脚は公表せずスウ達が街を回すらしい。後任が決まるまでと言っていたがすぐには決まらなさそうだし引き継ぎもあるだろうしかなり日数はかかると予想・・・何だか押し付けたみたいで悪い気がしてきた
「急がなくていいのに200階ですか?」
「『千里眼』を使って余計な戦闘を避けて最短ルートで行けばそこまで時間はかからねえからな。何階まで分からねえってのが一番精神的にくる・・・だからまず最深部がどこか知りてえ」
微妙に返答になってない気がするけど・・・まっいっか
いつものメンバー・・・俺達3人とヒューイ、ジットそして荷物持ちとしてレ・・・セシスと共に200階を目指す
101階へゲートで降りるとそこからひたすら最短ルートで降りて行く・・・来た道をまた戻ると思うとうんざりするので帰りは正体を明かしてゲートで帰ろう・・・うん
「もしかしたら最後までお前の出番はねえかもな。まあヒーラーの出番がねえのはいい事だが・・・暇だろ?」
「そうですね。と言うかこの程度ならなぜ攻略は進まなかったのか不思議なのですが・・・」
ヒーラーである俺の出番がないくらいの難易度なら200階まで既に到達していてもおかしくないはずなのに
「おいおい・・・回復要らずなのは2人がデタラメだからだ。普通なら10階程度でマナが枯渇するかしないかの瀬戸際なのに2人は全然余裕・・・最も減りが遅いスカウトの俺っちが一番マナの心配をしなきゃならねえくらいだ。隠れてマナ回復薬でも飲んでいるかと思えばそんな素振りも見せねえし・・・一体どれだけのマナ量があるんだか・・・」
そっか・・・攻略は食料もそうだけどマナも大事になってくるよな。マナがなければ戦えないから魔物に囲まれたら終わりだ。食料が残っていればマナが回復するまで安全な場所で待機すれば良いけど食料も尽きたとしたらもはや全滅は不可避・・・マナ量が多いから気にしてなかったけど普通は気にするよな
スミとセンの2人は俺の眷族だからマナ量も豊富だ・・・強さもさながらマナ量の多さが攻略を進められる理由か
「昔は10人編成で挑んでマナをなるべく温存したりもしていたけど人数が増えればその分食料も多く必要になる・・・結局攻略は頓挫してダンジョンは金稼ぎの場所って感じで落ち着いちまったのさ。無理して攻略する意味はなかったからな。それでもやっぱり諦めきれねえって気持ちもどこかにあって・・・今回が最後のチャンスかもしれねえ・・・俺っちとジットの年齢を考えるとな」
もしかして急がなくてもいいのに200階を目指しているのはその為か?
スミとセンがいる今なら攻略出来ると踏んで・・・
「柄にもなく組合長なんてやってた時は組合員の事を優先しなきゃならなかったし攻略なんて二の次だった・・・けど組合員が成長するのを見て欲が出てじゃあ攻略すっかってなってもやっぱりダメで・・・その繰り返しでズルズルとここまで来ちまったからな・・・組合が解散になった時は一瞬腑抜けちまったがお前達のお陰で勘が戻って来た・・・今が全盛期と言っても過言じゃねえ・・・だから・・・」
「行けるといいですね・・・最深部まで」
「おお!・・・って、お前も行くんだよ!何他人事みたく言ってんだよ!」
そうだった
最深部・・・このダンジョンの最奥に到達する事は出来るのだろうか・・・それまでに異変の元凶であるフェンリルが出て来る可能性もあるよな・・・邪魔しに出て来るかそれともウロボロスが到達した時みたいに何も起こらないか・・・俺はどっちでもいいけどヒューイ達は行かせてあげたいな・・・最深部に──────
ロウニール達が目指しているダンジョン最深部・・・その最奥にある部屋を1人の女性が訪ねる
「相変わらずむさ苦しい所ね」
《これはこれは・・・そちらは相も変わらず見目麗しいですな・・・ウロボロス殿は》
「どうも。そんなお世辞より・・・まだなの?」
《いえ?とっくに準備は整っていますよ》
「ならなぜ・・・」
《焦りは禁物・・・なにせ相手はインキュバスとアバドンを倒した者・・・慎重にならざるを得ますまい》
「ふふっ・・・相変わらずだこと・・・まあそのお陰で生き残っているのだもの・・・尊重しないとね・・・その臆病な性格。でも・・・来てるわよ?すぐそこまで」
《もちろん知ってますとも。ここをどこだと?》
「そうね・・・アナタのダンジョン・・・だったわね」
《クッカッカッ!どうです?ここで鑑賞して行きますか?面白いものが見れると思いますが・・・》
「やめとくわ。彼に見つかるとややこしい事になりそうだし・・・アナタと彼の戦いはあまり面白そうじゃないもの」
《・・・まあ確かに結果としては面白いかもしれませんが戦い自体はつまらないかもしれませんな》
「でしょ?それよりもこれからアナタがやろうとしている事を見届けるわ・・・派手にやるんでしょ?」
《ええ・・・その為に準備してきましたからね。楽しみです・・・ようやく長年の夢が叶うのですから・・・彼の・・・ロウニールと言う人間のお陰で、ね──────》




